GM:
あなたたちがファジルの姿を探してテントの外にでると、ニルフェルたちがいる隣のテントのすぐそばにファジルの姿が見えました。
アゼル:
「ファジルさん、ちょうどいいところに。実はお願いがあるんですが、馬車を貸していただけませんか?」
ファジル(GM):
「これはまたいきなりじゃな。どういうことじゃ?」
アゼル:
「自分たちは、彼女のことを連れてデミルコルに向かうことにしました」
ファジル(GM):
「ほう。じゃが、なぜデミルコルに?」
アゼル:
「デミルコルの近くにあるウルム樹海の中には、万能解毒薬の素材となる角を生やした一角獣が生息していると聞きました」
ファジル(GM):
「ウルム樹海の一角獣……。それは、モノケロースのことじゃな。ワシも話には聞いたことがあるが、あれは数年に一度目撃される程度の希少な獣だったはず……。たしかにモノケロースの角から精製した薬はどんな毒をもたちどころに浄化してしまうと言われておるが、それにしてもあまりにも分の悪い賭けではないかの?」
アゼル:
「ですが、他に手がありません。たしかに分が悪い賭けではありますが、わずかでも可能性があるのならそれに賭けてみたいのです」
ファジル(GM):
ファジルは難しい顔をして考え込みます。
「うーむ。話はわかったが、残念ながらここにある馬車はワシらの私物というわけではないからの。王宮の馬車をワシの一存で貸し出すわけにもいくまい」
アゼル:
「そうですか……」
ニルフェル(GM):
そのタイミングで、テントの中からニルフェルが姿を現しました。
「兄さん、今の話は本当ですか? 一角獣の角があれば、あの人は助かるんですか?」
アゼル:
「ああ。本当だ」
ニルフェル(GM):
その返答を聞いたニルフェルは、ファジルへと顔を向けました。
「ファジル様。わたしからもお願いいたします。どうか、馬車をお貸しいただけませんか?」
ファジル(GM):
「そうしてやりたいのは山々なんじゃが、いくら頼み込まれたところで、おいそれと貸せるものではないんじゃよ……」
アゼル:
「そこを曲げて、どうかお願いします!」
ファジル(GM):
ファジルは困り果てた顔をして目を瞑りました。
「うーむ。おいそれと貸せるものではないんじゃが……。しかし、未来の妃となるやもしれぬお人からの頼みをむげに断ったとあっては、将来、王に顔向けできなくなるやもしれんからの……」そう言うと、ファジルは再び考え込みます。
アゼル:
おおッ! そうそう。そうだった。ここは未来の妃に免じて馬車を貸してくれ!
ファジル(GM):
「では、こうしよう。ワシらは周辺の測量のために、この野営地にあと7日は滞在する予定じゃ。その間、馬車が一時的にこの場からなくなっていたとしても、ワシらはそれを見なかったことにしよう。じゃが、もし8日目の朝、この野営地を引き払うまでに馬車が戻らなかった場合、ワシらは王宮の馬車を盗まれた失態の責を負い、オヌシらはそれを盗んだ罪人となる。それでもよいか?」
アゼル:
「わかりました! 7日の間に必ずやお返しに上がります!」
ギュリス(GM):
そんな会話を続けるアゼルの少し後ろに立っていたギュリスが、イーサのことを肘で小突きました。そして、イーサにだけ聞こえるようにこう言います。
「皆の了解も得ずにあんなこと言ってるけど、いいの? あいつは他の人の意志なんてお構いなしで、なんでも自分勝手に決めようとしすぎる。あのままにしておくと危険だよ……」
イーサ:
「たしかに……」
ギュリス(GM):
ギュリスの視線はニルフェルとセルダルのほうへと向けられます。
「もう、随分と信頼を失ってるみたいだし……。皆の意見をまとめるのはリーダーの仕事なんだから、あなたがしっかりしなさい!」そう言うと、ギュリスは言葉の最後にあわせてイーサに対して、今度は力を込めた肘打ちを入れました。
イーサ:
「痛ッ……。な、なるほどな……」
アゼル:
そんな会話が行われていたことなどしらない俺は、イーサのほうを振り向くと嬉々として近づいていく。
「よし、イーサ。これで馬車を借りてデミルコルにいけるぞ!」
イーサ:
「……ああ……」
(沈黙)
「急な話になってしまったが、他の皆もその条件でいいか?」そう言って、全員の顔を見渡した。
エルド:
「イーサさんがそれでいいと言うのであれば、今回はそれに従います」
セルダル(GM):
エルドの言葉にセルダルも、「ニルフェルがそーしたいって言ってんなら、オレも反対はしねぇよ」と続きます。
ギズリ(GM):
ギズリはため息交じりに、「ギュリス嬢が反対しないなら、オレも構わない。まあ、国から追われる罪人になるのは勘弁して欲しいけどな……」と答えました。
イーサ:
「たしかにギズリの心配はもっともだ――」
アゼル:
(イーサの言葉をさえぎって)「彼女の容体を考えれば、馬車を使わないでの移動は不可能だ」
ギズリ(GM):
ギズリは恐る恐るといった感じでファジルに尋ねました。
「あのぅ……。ファジル様? 仮に王宮の馬車を盗んだ罪人に科せられる罰というのは、いったいどういうものになるんですかねぇ?」
ファジル(GM):
その質問に、ファジルは神妙な顔つきをしながら、自分の首に手刀を当ててみせます。
ギズリ(GM):
その動きをみたギズリは首をすくめました。
「ですよねぇ……」
アゼル:
「大丈夫だ。もし、馬車を返せなかったときには、馬車を盗んだのは俺1人の仕業だったことにすればいい」
イーサ:
「おいおい、そんな話がまかり通るとでも思ってるのか? お前が俺たちと旅をしていたことを知ってる人間は1人や2人じゃないんだぞ? この先の道中でも誰の目に触れるともわからない。やるからには一蓮托生だ。だから、もしどうしてもこの条件をのめないという者がいれば、今のうちに名乗り出てくれ。場合によってはここからは別行動を取ることも検討する」
一同:
……。
GM:
どうやら、イーサの言葉に離脱を申し出る者はいないようです。
ギュリス(GM):
全員の意志が確認されたところでギュリスはイーサに対してうなずいてみせました。
イーサ:
「皆、ありがとう」(ファジルに対して)「では、先ほどの条件で馬車をお借りします」
ファジル(GM):
「うむ。じゃが、いますぐに出発するのか? これから出ても、すぐに夜が更ける。オヌシらも疲れておるようじゃし、今晩は休んで、翌朝出発したほうが良いのではないかの?」
イーサ:
言われてみれば、それもそうか。皆軒並み疲労が10点以上溜まってるもんな。
エルド:
ジャッカル戦で精神点も使ってますしね。デミルコルに向かう途中で戦闘が発生しないとは限りませんので、ここでできるだけ回復しておきたいところです。
イーサ:
「それじゃ、出発は明日の早朝ってことでいいか?」と皆に確認しておこう。
アゼル:
「ああ。夜間の移動はできるだけ避けておきたいし、そうしよう」
GM:
他の面々も翌朝の出発に同意しました。こうして、赤毛の女性を看病する者以外は、隣のテントで休むこととなります。看病はニルフェルとギュリスが交互に担当することになりました。
エルド:
そうと決まれば、さっそく休みましょう。うまくすれば精神点を全快させられます。
ニルフェル(GM):
では、皆が隣のテントに移ろうとしたところで、「イーサさん、ちょっといいですか?」と、ニルフェルがイーサのことを呼び止めました。
イーサ:
「ん? どうかしたのか?」
ニルフェル(GM):
ニルフェルは声を潜めると、イーサにだけ聞こえるように小さな声で話しはじめます。
「あの……。赤毛の人のことなんですけど……。先ほど、汚れた衣服を着替えさせていたときに気がついたんですが、彼女は首から聖印を提げていました」
イーサ:
「なんだ。俺に渡したものだけじゃなく、自分でもバリス教の聖印を身に着けていたのか」
ニルフェル(GM):
「いえ、それが……。彼女が首から提げていた聖印はハルヴァ教のものだったんです……」
イーサ:
「ハルヴァ教だって?」
シーン外のアゼル:
ハルヴァってイーサの信仰してる神様だよな? カーティス王国ではハルヴァ信仰も許されてないんだっけ?
GM:
はい。カーティス王国はエルバート教を国教と定めており、他の一切の神に対する信仰を禁じています。
ニルフェル(GM):
「一応、イーサさんにはお伝えしておいたほうがいいかと思って……」
イーサ:
「そのことを知っているのは?」
ニルフェル(GM):
「今のところわたしだけです」
イーサ:
「そうか。わかった。ありがとう」
ニルフェル(GM):
「では、わたしはあの方の看護をしながらこちらのテントで休みますので」そう言って、ニルフェルはテントの中に姿を消しました。
イーサ:
「ああ。よろしく頼む」
GM:
一方その頃。
ギュリス(GM):
テントに戻ろうとしたアゼルの尻をギュリスが蹴飛ばしました。
「おい、アゼル!」
アゼル:
「ぐほっ! いきなり何をする!?」
振り向いてギュリス嬢を睨み付けよう。
ギュリス(GM):
「バタバタしてて聞きそびれてたんだけど、川岸でリカオンと戦った時のあの格好はいったいなんのつもりなの?」
アゼル:
「あの格好?」
ギュリス(GM):
「右手と左手にそれぞれ長剣を構えてたでしょ。たしか、あなたこれまでにも何度かおんなじ格好して戦ってたよね?」
アゼル:
「ああ、あれか。あれは俺のスタイルだ」
ギュリス(GM):
「スタイルぅ? まったく使いこなせてなかったじゃない」そう言って、ギュリスは眉をひそめます。
アゼル:
「まあ、まだ使い慣れてないからな。これから慣らしていくところだ」
ギュリス(GM):
「……あたしもね、長年イスパルタ私兵団の連中を見てきたけど、長剣の二刀流なんて前代未聞だよ?」
アゼル:
「だったら、俺が元祖ってことだな。フッ(笑)」
ギュリス(GM):
アゼルのその態度に、ギュリスのこめかみがピクピクと震えだしました。
「まさかとは思うけど、あなたの師匠がその長剣二刀流を教えてくれたわけ?」
アゼル:
「いや、そういうわけじゃないが……」
ギュリス(GM):
「はー。なるほど。それじゃ、あなたは無能な師匠の教えに愛想尽かして自己流の二刀流を始めたんだ?」
セルダル(GM):
徐々にボリュームの大きくなる2人の会話を耳に入れたセルダルが、師匠という言葉に反応してアゼルとギュリスのほうへと目を向けました。
一同:
(笑)
ギュリス(GM):
「さすが、アゼル様は一味違うね。師匠の教えなんて、クソ食らえってわけだ」ギュリスはアゼルのことを小馬鹿にしたように、そう言い放ちます。
アゼル:
くぅ……。この小娘め。ああ言えばこう言う……。
「い、いや、師匠は偉大な人だ。だが、師匠のことと俺のスタイルのことはまた別の話だろ? まあ、たしかに今はまだ使い慣れてないスタイルだが、すぐに使いこなしてみせるさ」
ギュリス(GM):
そこで、ギュリスの顔が一気に真剣な表情へと変貌しました。
「ふざけんなッ! あたしは、いまあなたたちに命を預けてんのッ! そのことちゃんと理解してるッ?」
アゼル:
「お、おう……」
ギュリス(GM):
「それを理解していながら、それでもなお、周りの人間の安全よりあなたの言うスタイルの練習を優先していくつもりッ? あたしはね、実力を出し惜しみするような馬鹿野郎のせいで被害を被るのなんて絶対にゴメンなのッ! あなたが背負ってるその盾はお飾りじゃないんでしょッ!?」
アゼル:
「うッ……(絶句)」
シーン外のエルド:
完全に言い負かされましたね(笑)。
GM:
GMから補足しておきますが、データ的に判断すると長剣二刀流は特殊なケースを除けばとても効率の悪いスタイルです。訓練や遊びで長剣二刀流を行うことを止めるつもりはありませんが、命のかかった実戦でそれを使うことにギュリスはとても腹を立てています。
シーン外のイーサ:
へぇ、長剣二刀流は非効率なんだな。それじゃ、LOSTでは風の谷のナウシカのユパみたいな装備はよくないのか……。
GM:
えーと、たしか彼の得物はショートソードとダガーだったはずです。非効率だと言ったのは、あくまでも長剣を二刀流で装備した場合と、長剣と盾を装備した場合を比べたときの話で、小型武器や特殊効果のある武器を装備する場合には二刀流にするメリットもあります。あと、もしアゼルが“左右連続攻撃”を習得していたのであれば、ギュリスもここまで手厳しいことは言ってませんよ。彼女は本来アゼルがやれるはずのことをやっていないことに怒ってるんです。
シーン外のエルド:
まあ、アゼルさんはビジュアル先行型の中二病をこじらせちゃった人ですから(笑)。
GM:
元はと言えば、ジャフェルがアゼルにクルト・ソードを渡したことが切っ掛けで、アゼルは二刀流を始めたんですよね。でも、あれはアゼルがニルフェルを守るために盾を装備していると、バスタード・ソードの本領が発揮されないので、その代わりに片手でも同等の性能を発揮できるクルト・ソードを渡したという経緯があるんですよ。下手に盾を捨ててバスタード・ソードを両手持ちとかにされると、その分ニルフェルが危険にさらされることになりますからね。それなのに、その思惑に反して長剣二刀流を選択されてしまったわけで(苦笑)。
アゼル:
うッ……(苦笑)。そうだな……。他人に言われて初めて気がつけることもある。
「たしかにお前の指摘は正しい。その通りだ……。わかった。それじゃ、今後、戦闘中の二刀流は控えることにしよう」
ギュリス(GM):
その言葉を聞いて、ギュリスは少し溜飲を下げたのか、フンッと鼻息をつきました。
「そうしてもらえると、少しは安心できるけどね。それと、これからは戦いの最中、もっとあたしの指示に耳を傾けること。それぞれが自分勝手に動き回ってるから、あんな野犬程度に不覚を取るんだからね」
アゼル:
「耳が痛いところだな……。だが、了解した。指示にもできる限り従うようにしよう」
よほど、ギュリスの言葉が効いたのか、素直に言うことを聞くアゼルでした。
なお、アゼルとギュリスの会話において、ギュリスが戦闘中は自分の指示に従うようにと言っていますが、これはフレーバーであり、このあとも実際にギュリスが戦闘指揮をとることはありません。
GM:
そのような感じで、それぞれの話を終えると、皆テントの中へ入っていきます。そして、翌日の早朝まで十分に身体を休めることができました。
こうして翌朝まで休憩を取ると、イーサたちはファジルから2頭立ての幌馬車を1台借り、朝早くに野営地を出発して一路デミルコルを目指すことにしました。出発前にファジルがデミルコルまでの道中、ニメット川右支流のOV地点に馬車が通れる橋が架けられていることを教えてくれたため、一行は一直線にデミルコルを目指します。