GM:
では、皆で野盗たちの遺体を埋める穴を掘り始めようとしたところに、アゼルが戻ってきました。
アゼル:
それじゃ、でかい身体を小さくして、うつむきながらトボトボと戻ってくる。
エルド:
アゼルさんが戻ってきたことに気がついたのであれば、「アゼルさん、帰ってきたんですね。そんなに落ち込んだ様子で、どうかしたんですか?」と声をかけます。
アゼル:
「ああ……。気にしないでくれ」
エルド:
「気にしないでくれって言ったって……。セルダルさんはみつかったんですか?」
アゼル:
「あいつは、落ち着いたら戻ってくると言っていた」
エルド:
「ってことはセルダルさんは無事だったんですね? それで、セルダルさんを1人にして置いて来たんですか? 1人だけ残してきちゃって、危険だとは思わなかったんですか?」
アゼル:
「……さあ、どうだろうな……」
エルド:
表情は変えずに、心の中で(まったく、この兄妹は揃いも揃って……)と思っています。
アゼル:
あたりを見て、遺体を埋葬するための穴を掘っていることがわかったら、何も言わずにそれを手伝おう。
イーサ:
「まあ、この遺体を埋葬し終えるまでには、セルダルも戻ってくるだろうさ。全員揃ったら、今後のことを話し合うとしよう」
GM:
ならば、埋葬が終わったところまで時間を進めてしまいますので、回収したアイテムについて申告してください。
アゼル:
俺としては回収するわけにいかないからなぁ(苦笑)。
エルド:
僕は魔法使いの装備していたマジック・ローブと補助石付きのスタッフ、それとスペル・リングをもらっておきます。イーサさんは何か回収しないんですか?
イーサ:
んー。どうやら、ライト・ウォリアー向きの装備はなさそうだからな。魔法が付与されてるようなものがあれば役に立つかもしれないが……。
GM:
それを調べたければ、“センス・マジック”を使うなりして確認してください。
イーサ:
うーん。まあ、精神点もないし確認しなくてもいいかな。そのまま土葬完了ってことで。
GM:
了解しました。では、そのまま埋葬してしまいます。埋葬が終わった頃、ようやくセルダルがその姿をあらわしました。
セルダル(GM):
「……」
イーサ:
「お、戻ってきたか。無事で何よりだ」
アゼル:
俺はセルダルの顔を見て、安堵の息をついた。
セルダル(GM):
セルダルは少し戸惑った様子を見せた後で腹をくくり、「すまなかった」と言って深々と頭を下げます。
イーサ:
「いや、謝るのはこっちのほうだ。俺が不甲斐ないばかりに皆を危険にさらしてしまった。すまない」
ギュリス(GM):
イーサの言葉を聞いたギュリスは、呆れたような口調で、「まーた、同じようなこと言ってる。そんなこと言ってるうちは、今後も同じ失敗を繰り返すかもねー」と言い放ちました。
イーサ:
「ん?」
ギュリス(GM):
「なんのことだかわからないって顔してるね。だったら教えてあげるから、あなたたち全員そこに並びなさい」
アゼル:
なんだ? とりあえず、言われた通り並ぶが……。
イーサ&エルド:
……。
ギュリス(GM):
「さっさと並ぶ!」
イーサ:
仕方ない。並ぶか……。
エルド:
じゃあ、僕も並びます(苦笑)。
ギュリス(GM):
全員並んだことを確認すると、ギュリスは腰に手を当てて話し始めます。
「それじゃ、まず確認しておくけど、あなたたちが午前中に戦ったジャッカルとさっきの野盗、戦力だけで比べればどっちもさして変わらないってこと、わかってる?」
イーサ:
「うむ……」
アゼル&エルド:
(無言のままうなずく)
LOSTでは、パーティーの戦力を数値化しています。その値を参考に敵の戦力バランスを調整したりするのですが、その値を比べると、実は今回の野盗の一団より10匹のジャッカルの群れのほうが強いことになります。実際に野盗とジャッカルを戦わせた場合、互いに最善の手を指していったとしたら、おそらく10回に6回以上はジャッカルが勝利することでしょう。
ギュリス(GM):
「じゃあ、なぜあなたたちは野盗に対してこんなにも苦戦させられたのか、その理由については理解している?」
一同:
「……」
セルダル(GM):
しんと静まり返ったところで、セルダルが口を開きました。
「……オレが1人で前に出過ぎたからだ……」
アゼル:
そんなことはないって言おうとするんだが、口にだせずにいる。
エルド:
えー? そこでセルダルさんのことをかばわないんですか?
アゼル:
って言うか、アゼルは思うところがあって、周りの話があまり頭の中に入ってこないでいる。
エルド:
ギュリス先生ー! アゼル君が話を聞いていませーん!
一同:
(爆笑)
セルダル(GM):
「すまなかった!」そう言ってセルダルは深々と頭を下げました。
ギュリス(GM):
そんなセルダルに対し、ギュリスはにべもなくこう言います。
「自惚れるな馬鹿。さっきの戦闘は、あなた1人が居なくたって残りの戦力で十分勝ててた戦いなんだよ」
アゼル:
うお、辛辣だな……。
エルド:
ギュリスさん、怖い……。
ギュリス(GM):
「ひいき目抜きにして、あなたたち一人ひとりは、イスパルタ私兵に並ぶ実力があるんだからね……」そこまで言うと、ギュリスはイーサへと目を向けます。
「イーサ。あなたジャッカルと戦ったときは、1人で飛び出していこうとしたセルダルのことをいさめたよね? でもさっきはそうしなかった。それはなぜ?」
イーサ:
う……。名指しで俺かよ……。
「……たかが野盗だと思って、奴らのことを甘くみていた……。本当に面目ない……」
ギュリス(GM):
ギュリスは呆れたように溜息をつきます。
「仮にあなたがこの国一番の剣の使い手だったとして、ずぶの素人相手に戦うことになったとしても、相手を甘くみて得することなんて何一つないからね」
イーサ:
「あ、ああ……。たしかにそうだ……。以後気を付ける……」
アゼル:
正論過ぎて何も言い返せないな(笑)。
ギュリス(GM):
「アゼル!」
ギュリスは次にアゼルの名を呼ぶと、そちらへと目を向けます。
「あなたも、なんだって自分よりも前に出てったセルダルのことをそのまま放っておいたの? あなた、今日から盾を使うようにはなったけど、盾は前に立つ者こそが使うものなんだよ?」
アゼル:
「……そうだな。俺が悪かった……」
ギュリス(GM):
「だーかーらー! 『俺が』じゃないの! あたしは、誰か1人が悪いだなんて話をしてるんじゃないの!」
アゼル:
「……ああ。次はもっとうまくやる……」
ギュリス(GM):
「……もう。本当にわかってんの?」
アゼルの気のない返事にギュリスは肩をすくめました。
「それと、エルド……」
エルド:
「ふゎい」
アゼル&イーサ:
(笑)
ギュリス(GM):
「あなた、黒魔法使いなんだから、相手の魔法使いがどれほど危険な存在なのかわかってたはずだよね? だったら、なんでイーサと協力して真っ先にあいつを倒そうとしなかったの? あの魔法使い、あなたの魔法にひるんで距離をとったけど、イーサに対しては無警戒だったから、イーサが魔法で追い打ちすればもっと早く倒せてたはずだよ」
エルド:
そういえばそうでしたね。
GM:
まあ、エルドは戦闘開始直後から魔法使いを真っ先に倒そうとしてたんですが、イーサと連携しておけばもっと簡単に魔法使いを倒せていたという話です。
エルド:
それは納得です。戦闘中は気がつきませんでしたけど……。
ところで、ギュリスさんのコマンダーっぷりが怖いんですけど(苦笑)。
イーサ:
まあ、コマンダーってのはそういうもんだ(笑)。
アゼル:
俺たちのリーダーはイーサだが、ギュリス嬢はその上に立つ鬼教官だな(笑)。
ギュリス(GM):
「……ジャッカルとさして変わらない戦力のはずの野盗があんなにも手ごわかった理由――それは、あいつらが曲がりなりにも組織として行動してたからだよ。金属鎧と盾で身を固めた者が前線を形成し、相手の足が止まったところを魔法で弱らせる。そこに威力の高い武器を持った者が、相手の側面や背後から一気に攻撃を仕掛ける……。単純な戦術ではあるけれど、集団が一糸乱れずそれを実行できるなら驚異的な効果を発揮するっていうのは、あなたたちも身をもって体験してみてよくわかったでしょ?」
イーサ:
「たしかに、あの連携は脅威だったな……」
ギュリス(GM):
「まあ、実際のところは一糸乱れずってわけじゃなかったし、本当なら戦闘中状況に応じていくつもの戦術を使い分けられるくらいまで練度を高めるのが理想なんだけどね……。で、そんな相手に打ち勝つためには、あなたたちも個々の力を磨く以上に組織力を高める必要があるってわけ。わかった?」
イーサ:
「ああ……。俺たちがしっかり連携できていないのは、リーダーを任されている俺が皆をまとめられてないからだ。本当に面目ない……」
ギュリス(GM):
ギュリスが大きく息を吸い込みました。
「だーッ! かーッ! らーッ! 『俺が』じゃないって言ってるでしょッ! あなたたち全員の問題なんだってッ! 全員が膝を突き合わせて高めていくものなのッ! 最終的には阿吽の呼吸で動けるようにならないとダメなんだから」
一同:
(苦笑)
エルド:
「そうですね。イーサさん、これからは戦い方について一緒に考えてみましょうか」
イーサ:
「……そうだな。お互いのことについても、もう少し知っておいたほうがいいかもしれない。それぞれがいったい何をできるのか。それを理解していれば、行動の幅も広がるはずだ」
アゼル:
いまさらだけどな(苦笑)。
ギュリス(GM):
「よーく覚えておいてね。個人の力量なんて、組織力の前では取るに足らないものなんだから。……アルなんかはそこらへんをよく理解してたみたいで、どの戦いでも組織全体としての戦力が高まることを優先して行動してたよ」
イーサ:
「そういえばそうだったな……」
アルが戦闘中フォローに回る動きを心掛けていたのは、NPCがPCの活躍の機会を奪わないようにという部分も大きかったのですが……(笑)。
ギュリス(GM):
「それに、アルは誰かが失態をさらしても、それを責めて士気をさげるようなことはしなかった……。でも、あたしは違うよ。少なくとも、あたしが無事にイルヤソールにつけるように、あなたたちには強くなってもらわなくちゃ」
イーサ:
「ああ。そうしてくれ。同じことを繰り返さないためにも、ギュリス嬢の言葉を心に刻んでおく」
ギュリス(GM):
ギュリスは大きくうなずくと、両手を叩いて鳴らしました。
「はい、それじゃ反省会終了!」
一同:
(苦笑)
ギュリス(GM):
「で、これからのことだけど、今日はこのあとどうするつもり?」
イーサ:
「そうだな。皆ずいぶんと消耗してしまったからな……」
生命点も精神点もかなり減ってる。戦闘で疲労もたまったし、今日はこれ以上進むのは無理かな……。
エルド:
出発してから20キロしか進めませんでしたね。デミルコルまでは残り30キロあります。
GM:
現在の時刻は15時過ぎです。まだ陽はありますが……。
エルド:
僕は精神点が底をついているので、すぐにでも寝たくてしかたないです。
イーサ:
俺もだ。そういうことだから、今日のところはここで休むことにしよう。
少しでも先を急ぎたかった一行でしたが、さすがに全員の消耗が激し過ぎたため、翌日の朝までその場で野営することにしました。小雨が降り続けるなか、各自が眠りにつきます。こうして、一行は野盗たちのと戦いに勝ちはしたものの、それぞれが後悔や自責の念にかられる夜を過ごしました。