LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第4話(18)

GM:
 では、明日の朝にモノケロース狩りに出発するのを控えて、あなたたちが部屋で休もうとしているころ、部屋の扉がノックされます。続いて、扉の奥から「失礼いたします」と年配の女性の声が聞こえてきました。

イーサ:
「どうぞ」

女中(GM):
 イーサの了解を得て部屋に入ってきたのは女中でした。その女中は「旦那様よりこれをお持ちするようにと……」と言って、テーブルの上に紙と封筒と筆記具を置きます。

アゼル:
「これは?」

女中(GM):
「知り合いの方に手紙を残されるようであれば、こちらをお使いになってください。書き終わりましたら封をしてテーブルの上に置いておいていただければ、こちらで責任を持ってお届けいたします」

アゼル:
「な……なるほど……」
 遺書かよ……(汗)。

女中(GM):
「他に何か必要なものがございましたら、お申しつけください。旦那様より、できる限りの便宜を図るようにと、仰せつかっております」

アゼル:
「わかりました……。では、何かあったらお願いします」

女中(GM):
 女中は用事を終えると、すみやかに部屋から出て行きました。

ギズリ(GM):
 寝台の上に寝転がっていたギズリは、「おうおう。至れりつくせりだな。まあ、モノケロースを狩りに行くってことは、自殺しに行くようなもんなんだろうから、当然って言やぁ、当然か。しっかし、オマエたちも見ず知らずの女のために、とんでもないことを引き受けたもんだ」と言って冷やかすように笑いました。

アゼル:
「一度関わってしまった以上、見捨てるわけにもいかないだろ?」

ギズリ(GM):
「まったく、損な性格してんな……。悪いことは言わねぇから、商売の道には入るんじゃねぇぞ。オマエみたいなのが商人になったら、まず間違いなく破産するだろうからな」

アゼル:
「うむ。人には向き不向きというのがあるからな」

GM:
 さて、あなたたちの目の前のテーブルには4通分の封書が置かれています。どうしますか?

イーサ:
「まさか、遺書を書くことになるとはな……」

一同:
「……」

エルド:
「僕は遺書なんて書きませんよ。なにか言葉を残す相手なんていませんし、そういう覚悟は旅に出る前に済ませてきましたからね……」と言って、部屋の灯りとなっている火とかがあれば、それを使って封書を1通燃やしてしまいます。
「それに、死ななければいいんですよ」

アゼル:
 まあ、エルドはそれでいいんだろうけどな……。
 それじゃ、封書を1つとって、俺はジャフェル伯父さんとナターリア伯母さん宛てに、ニルフェルを無事に王都まで連れて行ってやれなかったことを詫びる手紙を書いておこう。一応、俺はニルフェルが嫁入りしたら家督を継ぐであろう人物だからな。こういったことはちゃんとしておかないと。

GM:
 えーと……。アゼルに家督を継がせるなんてこと、ジャフェルは一言も口にしてないんですけど(笑)。

アゼル:
 え? そうだっけか?

イーサ&エルド:
(爆笑)

イーサ:
 俺もエルドと同じで遺書は書かないかな。勝手に村を出てきた身だし、遺書を残す相手がいないからな。

セルダル(GM):
 では、セルダルは自分用に封書と筆記具を手に取ります。しかし、封書と筆記具は手にしたものの、少し困った表情を浮かべています。

アゼル:
 あれ? そういえば、セルダルは文字の読み書きができないんだっけ? だったら助けてやろう。
「代筆してやろうか?」

エルド:
 何気に上から目線の言い方ですね(笑)。

セルダル(GM):
 そのアゼルの申し出に対して、セルダルは「オマエは自分の分があんだろ?」と無感情に返すと、エルドのほうを向きます。
「エルド。悪りぃんだが、オレの分を代筆してくれねぇか?」

エルド:
「それくらいのことであれば、構いませんよ」

セルダル(GM):
「んじゃ、ちょっと外に出るか」そう言うと、セルダルは部屋から出て行きます。

エルド:
 セルダルさんについて部屋から出て行きます。

アゼル:
 う……。うーむ。

GM:
 では、部屋の外にでたセルダルとエルドへとシーンを移します。ここからしばらくの間、アゼルとイーサはセッションルームから退室していてください。

アゼル:
 お? 秘密の会話でもあるのか?

GM:
 たいした話ではありませんよ。でも、まだ聞かないでおいたほうが良いと思いますので……。


 さて、ここからはシークレットシーンです。リプレイとして書き起こしたものを目にするまで、アゼルとイーサのプレイヤーはここからの内容を知りません。

セルダル(GM):
 セルダルは燭台の灯りを頼りに暗い廊下を歩いて行き、出窓のある一角まで進むと、そこで足を止めました。
「悪りぃな、エルド。こんなことにつき合わせちまって」

エルド:
「いえ。別に構いませんよ」

セルダル(GM):
「んじゃ、さっそくだが、オレがゆーことをそのまんま書いてくれ」そう言って、セルダルは窓台に封書と筆記具を置きます。

エルド:
 それじゃ、置かれた筆を手に持ちました。
「わかりました。いつでもいいですよ」

セルダル(GM):
 では、まず最初にセルダルは、これまでの旅の報告として、イスパルタを出てから今まであったことを、彼の視点で語っていきます。そして、それに加えて次のようなことを口にしました。
「今までオレは自分の剣を振ってなかった。もともと王直属兵になるためにイスパルタを離れたわけだが、その動機は何となく漠然としたもんだったし、そんときはオレ1人だけで志願するつもりでもなかった。何とかして、アイツを日の当たるところに押し上げたいと思ってた……。そーすれば、きっとアイツが何かを変えてくれる。やるべきことを指し示してくれると思ってた……」そこまで口にすると、セルダルは一度言葉を切って、ゆっくりと大きな呼吸をしました。

エルド:
 言われたことを、そのまま手紙に書いていきます。

セルダル(GM):
「だが、旅の中でそれじゃいけねぇんだって気づいた。剣は自分自身の意志で振るもんだってことに気づかされた。そんで、あらためてオレが何よりも優先してやりてぇことは何なんだって考えてみたら、それはニルフェルのことを守ってやりてぇってことだった。王都に送り届けるまでの短けぇ期間の話じゃなくて、その先もずっとな。とは言え、ニルフェルが後宮入りしちまえば、下層民のオレには、守るどころか近づくことすら出来なくなっちまう。そんでもまだニルフェルのことをそばで守ろーとすんなら、王直属兵になる他に道はねぇ。ってことで、オレはあらためて王直属兵になることを決心した。前みてぇな中途半端な気持ちじゃねぇ。どんなことがあろーとも、オレは王直属兵になってみせる。オレ自身の望みを叶えるためにな。……実は、遺書を書くよーに勧められたんだが、オレは死ぬ気なんてさらさらねぇから、決意表明としてこれを送っておく。王直属兵になったらまた手紙を書くから、そんときまで楽しみに待っててくれ」

エルド:
「……書くべきことはそれで終わりですか?」

セルダル(GM):
「ああ。いまので終わりだ。宛先はオレのオヤジにしといてくれ」そう口にしたセルダルは、少しすっきりとした表情をしています。

エルド:
「人の手紙に対してこんなことを言うのもなんなんですが、なかなか良い内容ですね」

セルダル(GM):
 セルダルは少し照れた様子で、「まあ、こんな手紙出しといて、ここでくたばっちまったら笑い話にもならねぇがな」と言って笑いました。

エルド:
「人が生き死にの瀬戸際に追い詰められたとき、最後の最後に生死を分かつのは、生きるための覚悟です。何が何でも生き延びてみせるという強い覚悟があれば、大抵の窮地は乗り越えられますよ」

セルダル(GM):
「そーか……。そーだな。その手紙に書いたことを必ず実現させるためにも、何としても生き延びてやるよ」そう言うと、セルダルはこぶしを硬く握りしめます。
「しかし、手間を掛けさせちまって悪かったな……。あんな内容じゃ、他の奴には頼めねぇからよ……」

エルド:
「でしょうね。まあ、僕は口外しませんから、その点は安心してください」

セルダル(GM):
「これでオマエには借り1つだな。何かのときには返すから、遠慮なく言ってくれよな。オレの目的に反することでなけりゃ、協力すっからよ」

エルド:
「その気持ちだけで十分ですよ。……それじゃ、そろそろ部屋に戻りましょうか」そう言って、セルダルさんに背を向けてから含み笑いを浮かべます。

GM:
 こうして部屋に戻ろうとするセルダルとエルドでしたが、その途中の廊下でギュリスとすれ違うことになりました。ギュリスの向かう先は、セルピルの休んでいる部屋の方向です。

エルド:
「あれ? ギュリスさんじゃないですか。こんな夜更けにどうしたんですか?」

ギュリス(GM):
 エルドに声をかけられたギュリスは足を止め、「あの人の様子がちょっと気になってね」と口にします。そんなギュリスの現在の装いは、これまでの男装ではなく、上等な布地で仕立てられた女物の服です。
「あなたたちこそ、こんな時間に何してんの? 明日は朝早いんだから、早めに休んどきなよ」

エルド:
「いやぁ、今回は相手が相手なだけに、ちょっと緊張しちゃいましてね。少し気を紛らわせるために、セルダルさんと話をしてたところだったんですよ」

セルダル(GM):
「そーそー。明日に備えて、士気を高めてたんだよな」そう言いながら、セルダルはエルドと肩を組みます。

エルド:
「それはそうと、ギュリスさん」そう言って、ギュリスさんの姿を上から下までじっと見ます。
「ギュリスさんもそういう格好をすると可愛いですね」

ギュリス(GM):
 そのエルドの発言に対して、ギュリスはこれまで以上に鋭い目つきでエルドを睨み付けました。
(威圧感のある声で)「ハァッ?」

エルド:
「あ、いえ……。他意はありませんから、気にしないでください(汗)。……それじゃ、セルダルさん、部屋に戻りましょうか」と言って、その場を立ち去ろうとします。

セルダル(GM):
 エルドに促されたセルダルは、自分たちの部屋に戻ろうと数歩足を進めるのですが、途中でその歩みを止め、ギュリスのことを振り返りました。
「そーだ、ギュリス。オレたちがモノケロースを狩りに行くこと……。いや、それ以前に、あのセルピルって娘をここまで連れてくることに関しても、アンタは反対せずにオレたちの好きにさせてくれたよな。それに対して礼をゆーよ。ありがとな。アンタ結構いい人だな」

ギュリス(GM):
 セルダルの言葉にギュリスは一瞬言葉を詰まらせるのですが、すぐに呆れたような溜息をついて、いつもの口調で話し始めます。
「あなたたちって、本当に救いようのない馬鹿だよね。あたしが単なる善意だけで、何の文句も言わずにここまでついて来たとでも思ってるの?」

エルド:
 ん……? 何か真意があったんでしょうか?

ギュリス(GM):
「あたしはね、あのセルピルって人がユセフ様の名前を口にしたからここまで来たんだよ。ユセフ様の知人を救って恩を売っておけば、いろいろ融通を利かせてもらえると思ったからね。おまけに、あなたたちは命懸けでモノケロースを狩りに行くとまで言い出した。きっと、その成否に関わらず、ユセフ様は大きな借りをつくってしまったと感じるでしょうね。そうなれば、デミルコルの兵士たちに命じて、あたしのことをイルヤソールまで送り届けさせるくらいのことはしてくれるでしょ? あたしは、カルカヴァンで色々とやらかしたあなたたちと一緒にイルヤソールを目指すよりは、そっちのほうが断然安全だって判断したの。つまり、打算以外の何物でもないんだから、そこのところ勘違いしないで」

エルド:
「いいですね。そういうしたたかな人、大好きですよ」そう言ってギュリスさんにほほえんでみせます。

ギュリス(GM):
「ぷッ」
 エルドの反応に、ギュリスは思わず吹き出しました。
「まあ、わかってもらえたならいいんだけど、あたしに対してあまり見当違いな印象を抱くのはやめてね。そういうの、迷惑だから」

エルド:
「その点はご心配なく。僕はそこまで幸せな人間ではありませんから」

ギュリス(GM):
「だったらいいんだけど……。あなたたちの言動を見てると、いちいち不安になってくるんだよね」

エルド:
「ご心配ありがとうございます。でも、士気に影響するとなんなので、今のギュリスさんの話は皆には黙っておきますね」

ギュリス(GM):
「そう? この際、はっきりと言っちゃったほうがいいんじゃない? その幸せなおつむのせいで大火傷を負う前にさ……。あ、でも、もう手遅れかもね。まあ、せいぜい頑張りなさい。あたしのほうは、あなたたちがどうなろうと、もう大丈夫だから」そう言うと、ギュリスは手をヒラヒラさせて、エルドたちの前から立ち去って行きました。

セルダル(GM):
 ギュリスの背中が見えなくなったところで、途中から呆気にとられていたセルダルが我に返ります。
「なんだありゃ。こっちが素直に礼を言ってんのに、いくらなんでも捻くれ過ぎだろ。まさか、いまのが本心なのか? ただの照れ隠しだよな?」

エルド:
「……おそらく本心なんだと思いますよ。でも、本人が本心だと思って口にしていたとしても、いざという時、本当に打算だけで何かを切り捨てて行動するなんてことは、案外できないものです。まあ、ギュリスさんもなんだかんだ言って地方豪族のお嬢様ですからね。現実を目の当たりにしたときにどう心が動くかなんて、まだ自分自身でもわかっていないんでしょう」

セルダル(GM):
「ふーん。そんなもんかね……」

GM:
 そんな話をしながから、2人は部屋に戻っていきました。




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