LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第4話(21)

モノケロースの鳴き声(GM):
 相変わらず、北の方角から「ムォーッ! ムォーッ!」と、モノケロースのものとおぼしき鳴き声が聞こえてきています。

テジー(GM):
 その鳴き声を耳にしたテジーは、何か考え込むような様子で、「……この声は……。いや、まさか……」ともらしました。

イーサ:
「どうかしたのか?」

テジー(GM):
「何か苦しんでいるような声に聞こえる。昨日見つけたモノケロースの足跡の深さといい、もしかすると……」

アゼル:
「もしかすると……?」

エルド:
「……もしかすると、身ごもっているんじゃありませんか?」

テジー(GM):
 エルドの言葉にテジーはうなずきます。
「それも、出産が近いのかもしれない」

アゼル:
「なら、千載一遇のチャンスじゃないか!」

イーサ:
「だが、そうなるとかなり気が立っているんじゃないか?」

テジー(GM):
「そうだな。しかし、タイミングを間違わなければ、一方的に狩れるかもしれない……。あとはオマエたち次第だ」

 降って湧いたような幸運に、アゼルとイーサはにわかに盛り上がります。しかし、それとは対照的に、エルドが普段の態度とは似つかわしくないことを言い始めました。

エルド:
「うーん。たとえばなんですが、出産中に身動きが取れなくなったところで、角だけへし折るってわけにはいきませんかね?」

アゼル:
「角だけへし折る? いや、それは難しいんじゃないか?」

イーサ:
「モノケロースは並みの馬とはわけが違うからな。たとえ、身ごもっているといっても、甘く見ないほうがいいと思うが……」

エルド:
「だから、正面から戦うんじゃなくて、イーサさんの白魔法で出産の痛みを和らげてあげて、安心させたところで角だけ折るとかしましょうよ」

GM:
 なかなか面白いアイディアですね。出産の痛みを和らげてあげたときに、モノケロースが安心して警戒を解くかはさておき、もし角を折るために部位狙い攻撃を行うというのであれば、命中値-4で判定してください。

イーサ:
 ってことは、ルール的には角を折れるのか?

GM:
 まあ、一定量のダメージを与えることができれば折れますよ。それを認められるのが、TRPGのいいところじゃないですか。とりあえず、今回は他の複数部位を持つモンスターと同様の扱いとすることにします。ただし、普段から武器として使用されている角のダメージ減少値は、重金属鎧と同等レベルで高めに設定しますからね。

イーサ:
 ふむ。しかし、それでもやっぱり普通に倒すほうが簡単そうに思えるが……。

GM:
 もちろんそうです。ですが、一応、角だけを折るのも不可能ではないと言っておきます。

エルド:
 アゼルさん、チャレンジしてみましょうよ。見事に角を折ったら、格好いいですよ。

アゼル:
 いやいや、無理だろ。
「角を折るよりも倒した方が手っ取り早い。下手なことをせずに、普通に狩るぞ!」

エルド:
 ならば、意地悪く「それじゃ、アゼルさんはモノケロースの母馬もろとも、仔馬の命まで奪う気ですか?」と言います。

アゼル:
 うぐっ……。なかなか厳しいことを言うな……。だが、相手は人間じゃないんだから、倒すしかないだろ。
「こちらには人の命が懸かっている。モノケロースを犠牲にするのは致し方ないだろ」
 優先順位としては人間のほうが上にくるに決まってる。……そうだよ。アゼルはそういう奴なんだよ。だって、動物を殺すことをためらいはじめたら、何もできなくなっちゃうからな。

エルド:
「……アゼルさん。やっぱり、あなたは面白い人ですよ。わかりました。それじゃ、行きましょうか……」

 モノケロースを殺すことに難色を示したエルドでしたが、ここでは結局アゼルたちの意見に従い、正攻法で戦うことを了承しました。

 しかし、どうにもエルドの言う「面白い」の基準がわかりません。何か言葉どおりではないニュアンスが含まれているような気がするのですが……。

テジー(GM):
「ならば、ワタシの案内はここまでだ。戦いになれば足手まといになってしまう。あとは隠れて戦いが終わるのを待っている」そう言うと、テジーは羊皮紙と筆記具をイーサに手渡します。
「念のため、モノケロースを見つけたことの証明に、この紙に一筆書いてくれ」

イーサ:
「ああ。わかった」
 それじゃ、羊皮紙にモノケロースを発見できたことを書いて、テジーに返す。

テジー(GM):
「では、頑張ってくれ。幸運を祈っている」そう言って、テジーは胸元で小さくエルバート教の聖印を切ってから、手近な草むらの中に身を潜めました。

イーサ:
 それじゃ、泉のある方向に向かっていくか。ここは“忍び足”で進んだほうがいいのか?

アゼル:
 いや、金属鎧を着こんだ俺が一緒にいるかぎり、“忍び足”で進んでも効果ないだろ。それとも、俺は皆と距離をとって行動しておくか?

 ここで、どうやってモノケロースに接近していくかについて長い相談があったのですが、たいした案はでてきませんでしたのでバッサリ割愛します。ただ、結論だけを抜き出せば――

アゼル:
 うん。考えても何が最善の手なのかわからん。もう、いっそ皆でまとまって泉に向かって直進しよう!

 はい。アゼルお決まりの脳筋発言で、相談は打ち切られました(笑)。

イーサ:
 じゃあ、こんな感じの陣形で(と言って、戦闘マップ上にユニットを並べて進める)。

GM:
 では、あなたたちが少し隆起した場所まで足を進めると、40メートルほど前方に小高い丘が見えてきました。丘は南側が欠けた三日月状になっており、その欠けた部分にある泉のほとりには、巨大な身体を横たえる動物の姿がありました。

イーサ:
 遠目に見て、それがモノケロースであることはわかるのか?

GM:
 あなたたちの目に映るのは、非常に大きな4本足の動物です。胴体は馬のようですが、頭の形は鹿のようにも見えます。足は象。イノシシのような尻尾。そして、頭部には天に向かって真っ直ぐ伸びる、黒くて長い角が1本だけ生えています。このような姿の動物は、モノケロース以外に考えられません。

雌モノケロース(GM):
 モノケロースは、身体を左右上下にゆっくりとよじらせながら、「ムォーンッ! ムォーンッ!」といななき声をあげています。

GM:
 これまでに馬などの家畜の出産を見たことがある人は、このモノケロースの動作が、家畜の出産時の動きに類似していると感じ取れます。

アゼル:
「どうやら、出産で間違いないみたいだな」
 モノケロースにこちらの接近が気取られたかどうかわからないか?

GM:
 それはわかりませんね。少なくとも、いまのところあなたたちのことを気にするそぶりは見受けられませんが……。

イーサ:
「よし、行くぞ。準備はいいか?」

セルダル(GM):
「仔馬もろともやっちまっていいんだよな? 出産を待つ必要はないか?」と、セルダルは再度イーサの判断を仰ぎました。

イーサ:
「人を助けるために犠牲はつきものだ。それに、仔馬を生かしておいても、母馬がいなければ育ちはしないだろ」

アゼル:
 そうだ。そのとおりだ。

GM:
 では、ここから戦闘処理を開始します。

 意を決した一行が、出産を間近に控える身重のモノケロースに襲いかかります。出産中、あるいは出産後に襲いかかったほうが楽に倒せるだろうということも含めてのセルダルの確認だったのですが、それをしないのはせめてもの情けなのか、それとも……。

雌モノケロース(GM):
 あなたたちが距離を詰めていくと、モノケロースはゆっくりと立ち上がり、あなたたちを威嚇するように前足で空蹴りしてみせます。そして、(立ち去りなさい、汚れた人間よ! さもなくば――)

アゼル:
 え? モノケロースってしゃべれるのか?

雌モノケロース(GM):
 いえ。言葉はしゃべれませんが、雌のモノケロースは、まるでそう言っているかのような瞳で、あなたたちのことを見ています。

アゼル:
 なんだ、だったら気にする必要はないな(笑)。

 思わずGMが心苦しくなるほど、無情な反応です(苦笑)。

アゼル:
 それじゃ、俺はモノケロースの正面に移動する。これで、セルダルが背後を取れるようになる。

イーサ:
 おいおい、セルダルのことを死なせる気か?

アゼル:
 え? いや、モノケロースの攻撃は俺が引き付けて、セルダルには背後に回ってもらうつもりなんだが……。

イーサ:
 だから、その背後が危険なんだろ。背後に回ると、“突撃”並みに危険な“後蹴り”があるんだよ。

アゼル:
 あ、そうだ、そうだった(笑)。でもまあ、だとしても、セルダルが背後に回り込まなければいいだけの話だ。やっぱり、俺はモノケロースの正面に移動しておく。

 もしかすると、アゼルのプレイヤーは本気でセルダルの死を願っているのではないでしょうか(笑)?

雌モノケロース(GM):
 それでは、接近してきたアゼルに対して、モノケロースは前足を高く上げると、そのままアゼルめがけて振り下ろしました。前蹴りの命中値は(コロコロ)11です。

アゼル:
 盾でディフレクト。(コロコロ)ジャスト11でディフレクト成功!

雌モノケロース(GM):
 では、前蹴りは盾によってそらされてしまいましたが、アゼルの身体の横をかすめて地面に叩きつけられたモノケロースの丸太のような前足は、ズドーンッ!と音を響かせて、地面に深々と丸い穴を作りました。

アゼル:
 危ない、危ない。避けられなかったら、一撃で戦意喪失してるんじゃないか?

 本来、モノケロースの前蹴りによる物理ダメージは期待値が16点もあるので、アゼルの予想は当たらずとも遠からずと言ったところです。GMとしては、PCたちが油断してモノケロースの攻撃を食らってしまうことがないように、この戦闘における攻撃の描写はいつもより過剰に行いました。なにせ、この局面において、PCたちは全員“可能性”を使い切っているため、事故死があり得るのです(苦笑)。

エルド:
 モノケロースに“ファイア・ボルト”を撃ちこみます。行使値は(コロコロ)10です。

雌モノケロース(GM):
 モノケロースの魔法抵抗値は(コロコロ)16。抵抗成功です。

エルド:
 16ッ!? 今までにないほど高い魔法抵抗値ですね。

GM:
 モノケロースは、モンスターの分類で言うと魔獣・幻獣のたぐいですからね。普通の獣と比べると、精神力はかなり高いですよ。

アゼル:
 そうだったのか。今回のキャンペーンで魔獣と戦うのは初めてだな。

GM:
 まあ、その手のモンスターは、基本的に聖域に入らないと出てこないですからね。

エルド:
(コロコロ)うーん。ダメージは物理が0点で、魔法が3点です。

雌モノケロース(GM):
 ならば、モノケロースの身体に当たった魔炎の矢は、その表面でパッと弾けて消えてしまいました。

アゼル:
 あらら……。こりゃ、今回はエルドの魔法を当てにできそうもないな……。

セルダル(GM):
 続いてセルダルが“通常移動”で……。

イーサ:
「セルダルッ! 背後につくんじゃないッ! “後蹴り”が来るぞッ! 横から近づけッ!」

セルダル(GM):
「おおっとッ! 了解だッ!」
 危うくモノケロースの背後に走り込もうとしていたセルダルでしたが、イーサの指示を受けて、直前で踏み止まります。

 こうして、前衛が戦闘位置を定めると、本格的な攻撃が始まりました。

ウルム樹海A-3地点

アゼル:
 それじゃ、俺もモノケロースに攻撃。(コロコロ)命中! ダメージは物理で8点。

雌モノケロース(GM):
 8点ですか。では、初ダメージいただきました。そして、モノケロースは……。(コロコロ)士気判定に成功しました。戦闘続行です。

アゼル:
 え……? もう、士気判定……?

エルド:
 相変わらず察しが悪いですね。出産間近で体力が低下してるんですよ。

アゼル:
 あー、そういうことか。なるほどね。

 エルドの指摘どおり、出産間近のモノケロースは戦闘開始時点ですでに生命点が半減していました。さらに、筋力・敏捷度・精神点などの能力値も軒並み低下しています。しかし、そんな状態であっても、モノケロースは必死に戦い続けます。

雌モノケロース(GM):
 モノケロースは、角でアゼルを攻撃します。(コロコロ)命中値は13です。

アゼル:
 盾ディフレクトは……。(コロコロ)あーッ! 7で食らった。

雌モノケロース(GM):
(コロコロ)角は突武器扱いなので、金属鎧でもクリティカルして……。物理ダメージ15点です。

アゼル:
 ノーッ! 8点も食らった。

セルダル(GM):
 そのタイミングで、モノケロースの側面からセルダルが“渾身の一撃”を放ちます。

エルド:
 ムーンベア戦に続いて、今回もセルダルさんに美味しいところを持っていかれそうですね(笑)。

雌モノケロース(GM):
 さすがに、その攻撃は食らいたくないので、モノケロースは“小移動”で方向転換して、セルダルに正面を向けようとします。

アゼル:
 それは“範囲支配”で阻止する。(コロコロ)あー、失敗。

セルダル(GM):
 では、正面を向いたモノケロースに対して、セルダルの“渾身の一撃”は……(コロコロ)命中! クリティカルして、物理ダメージ18点!

アゼル:
 むぅ……。セルダルの奴、凄いな……。それに比べて俺は良いところなしだ……。

 そんな感じで、セルダルとの活躍具合の差に少し落ち込むアゼルでしたが――

アゼル:
 それじゃ、モノケロースがセルダルのほうを向いたところで、側面から攻撃! せめてトドメくらいは……。(コロコロ)命中して、ダメージは物理で10点!

雌モノケロース(GM):
 うん! それでモノケロースの生命点はピッタリ0です。生死判定は(コロコロ)成功して、昏倒しました。モノケロースは身体をぐらつかせると、そのまま片側の膝を折り、身体を横にして倒れます。

 美味しいところはしっかりゲットできたのでした(笑)。

 こうして一行は、多くの人々がその恐ろしさを語ってきた魔獣モノケロースを意外なほどあっけなく撃破しました。

セルダル(GM):
「なーんだ。案外大したことなかったな」そう言うと、セルダルは両手剣をクルリと回して地面に突き立てました。

アゼル:
「いや、大したことあったぞ。何せ、一撃でかなりの深手を負わされたからな」

イーサ:
「やっぱり、身重のモノケロースと戦えたのがラッキーだったな」

エルド:
「そうですね……。このモノケロースは、戦う前からかなり体力を消耗していたようです」

アゼル:
 念のため確認しておきたいんだが、昏倒したモノケロースが角を折ってる間に起きるってことはないよな?

GM:
 生命点が回復しないかぎりは起きませんね。ルール的には、他者からの治療を受けるか、1時間経過するごとに行う自然治癒判定で6ゾロを出さないかぎり、生命点が回復することはありません。

アゼル:
 なら、1時間以内に角を折れば、目覚める心配はないわけだ。
「よし。それじゃ今のうちに角を――」

モノケロースの鳴き声(GM):
(突然大声で)「ヴオオオオオーッ!」

一同:
!?

GM:
 唐突に、馬鹿でかい鳴き声があたり一帯に響き渡りました。

セルダル(GM):
 そのけたたましい鳴き声に、セルダルはビクリと身体を反応させると、地面に突き立てていた両手剣を構え直します。

アゼル:
 え? もう起きたの!?

エルド:
 これは……まさかのお父さん登場じゃありませんか?

イーサ:
 なるほどッ!

アゼル:
 うえーッ? マジっすかーッ!?

GM:
 ピンポンピンポーン♪ エルドは察しがいいですね。今度の馬鹿でかい鳴き声は、南東のほうから聞こえました。それは、雌のモノケロースよりもさらに野太い、大気を揺らすようないななき声です。

イーサ:
 なんてこったい。こっちが本命だったってわけだ……。

アゼル:
 さすがに、雌の角だけ折って逃げるわけにも……いかないよな……(苦笑)。ってことは、怒りモードの雄モノケロースと戦えってことか?

エルド:
 ええ。それも、この傷ついた状態で……です。

 ついにその姿を見せた本命、雄モノケロース。家族を傷つけられた怒りに燃えるモノケロースが、一行に襲いかかります。この状況だけでみると、もはや、どちらがヒーローサイドなのかわかりません(笑)。




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