モノケロースとの戦いを終えた後も、一行の道のりは決して楽なものにはなりませんでした。グレイウルフの巣穴に接近してしまい、危うく戦闘になりかけたり、ジャガーの縄張りに足を踏み入れて、恐る恐る逃げ出したり……。しかし、セルピルの生存確率を高めるためには、一刻も早くデミルコルに帰還しなくてはなりません。
一行は、休むことなく森の外を目指し、デミルコルを出発してから3日目の空が薄らと白む頃になって、ようやく森を抜けだすことに成功しました。
GM:
さて、なんとか無事にLY地点へと戻ってこれたわけですが、馬がちゃんとあなたたちのことを待っていてくれたかどうかは、ランダム判定によって決定します。森に入ってから49時間経過していますので……(表を確認してから)《2D》で5以上が出た場合、馬は待ち続けてくれていたことになります。
アゼル:
(コロコロ)成功!
テジー(GM):
では、森の外へでたところで、テジーが指笛を鳴らします。
GM:
すると、どこからともなく、ひづめの音を立てて5頭の馬たちが駆けつけました。
イーサ:
よく訓練された馬だな。
アゼル:
「よし。早く戻ろう」
馬に乗ってデミルコルへ。角が腐る前にな。
イーサ:
角が腐るって、賞味期限でもあるのか?
GM:
およそ1年で解毒の効果を失ってしまいますが、腐りはしませんよ(笑)。
では、残りわずかとなったデミルコルまでの行軍処理を行っていきましょう。
一同:
おー!
こうして、残り10キロを馬で進み、一行は7時半過ぎにはデミルコルへと帰還することができました。
GM:
ここでお待ちかねの、セルピル生存チェックを行っておきましょう。毒判定を4回行ってください。《2D+2》の判定で、目標値は5、6、6、7です。
アゼル:
そうだった。下手すると、もうセルピルは……(笑)。
イーサ:
(コロコロ)全部成功!
アゼル:
おお! よかった、よかった。
GM:
では、デミルコルの屋敷に近づいて来るあなたたちのことを、2階のバルコニーに出ていたニルフェルが発見しました。
ニルフェル(GM):
「あ、あれは! ギュリスさん、ギズリさん、皆が返ってきましたよ!」そう言って、ニルフェルは屋敷の中に入ると、そのまま階下へと向かっていきます。
ギズリ(GM):
「お? もう帰ってきたのか? 思ったよりも早かったな」そう言うと、ギズリはニルフェルと入れ替わりでバルコニーへと出ていきます。
ギュリス(GM):
ギュリスもギズリに続きました。そして、遠目にあなたたちの姿を確認したギュリスは、「へー。全員無事みたいじゃない」と感心したような声を漏らします。
ギズリ(GM):
「ちゃんとモノケロースの角を持ち帰ってきたのかね? まさか、逃げ帰ってきたわけじゃねぇよな?」
ギュリス(GM):
「どうかな? まあ、逃げ帰ってきたような顔には見えないけどね」そう呟いたギュリスの瞳には、あなたたちの表情が映っています。
GM:
ちょうど、あなたたちが屋敷の前まで来たところで、正面の扉が開け放たれ、ニルフェルが姿を現しました。
ニルフェル(GM):
「皆さん、おかえりなさい」
アゼル:
「ああ、ただいま! モノケロースの角を持って帰ってきたぞ」
ニルフェル(GM):
「……」
イーサ:
「彼女の様子はどうだ?」
ニルフェル(GM):
ニルフェルはイーサのほうへ顔を向けると、「あまり良くありません……」と言って、表情を曇らせます。
イーサ:
「急いだほうがよさそうだな」
馬から降りて、屋敷に入って行く。
GM:
では、イーサに続いて全員が屋敷の中へ入って行くのですが――
セルダル(GM):
屋敷に入って行く途中、セルダルがニルフェルに対して、笑顔で「ただいま」と声をかけました。
ニルフェル(GM):
すると、ニルフェルは曇っていた表情を晴れさせて、「おかえりなさい」と言って安堵の混じったほほえみを返します。
エルド:
(ニヤニヤしながら)あれ? アゼルさんに対する反応とちょっと違いません?
アゼル:
いや、ただ単に俺のときには描写がなかっただけだ。
GM:
いえ、描写を省いたわけではありません。ニルフェルは明らかにアゼル個人に対しては、何の反応も返しませんでした。
イーサ&エルド:
(失笑)
アゼル:
……なるほど……。まあ、別に構わないが……。
エルド:
アゼルさん、悲しいですね(笑)。
GM:
こうして、一行が持ち帰ったモノケロースの角を薬師が数時間かけて調薬し、出来上がった解毒薬をセルピルに服用させました。薬師の説明によれば、モノケロースの角の効果が正しく発揮されれば、半日ほどで毒は浄化されるだろうとのことです。
ユセフ(GM):
一連の処置が済むと、ユセフは「君たちには、なんと礼を言ったものか……。本当にありがとう。これで、きっとセルピルの容体も回復に向かうことだろう」と言って、あなたたちに対して深く頭を下げました。
「モノケロースとの戦いで、疲れもたまっていることだろう。いま、湯浴みの準備をさせている。それが済んだら、思う存分飲み食いして、そのあとでゆっくり休むといい」
イーサ:
「ああ。ありがたく休ませてもらうとしよう」
GM:
命懸けでモノケロースの角をとってきてくれたあなたたちに対して、ユセフはできるかぎりのもてなしをしてくれます。かくして、あなたたちは温かい湯で汚れを落とし、豪華な料理に舌鼓を打ち、ゆっくりと英気を養うことができたのでした。
アゼル:
そういえば、テジーさんも同じ食事の席にいるんだろうか?
GM:
はい。彼女も功労者の1人ですからね。食事は皆が一堂に会して行われました。
アゼル:
じゃあ、テジーさんに話しかけよう。
「そういえば、テジーさんは王都へ向かうことを希望していたようだが、差支えなければ、自分たちと共に行くというのはどうだ? ちょうど、自分たちも王都への旅をしているところだ」
テジー(GM):
アゼルからそう話しかけられると、テジーはまずユセフのほうへと顔を向けました。
「ユセフ様。約束どおり、王都へ旅立つ許可はいただけますか?」
ユセフ(GM):
その問いにユセフはコクリとうなづき、「良いだろう。王都へ行くことを許可する」と答えます。
テジー(GM):
ユセフの言葉にテジーは胸をなでおろします。そして、アゼルのほうを向き、「アゼル殿。アナタたちはいつ頃、ここを出発するのだ?」と尋ねてきます。
アゼル:
「自分たちは、借りた馬車を返しに行くため、明日の朝にはここを立つつもりだ。もし、それまでに旅立てるようであれば……」
テジー(GM):
「そうか……」
テジーは少し残念そうな顔をして、首を横に振ります。
「明日出発では、ワタシの旅の準備は間に合いそうにない。心遣いだけ、ありがたくいただいておくことにしよう」
アゼル:
「そうか……。それでは仕方ないな。まあ、またどこかで会うこともあるだろう」
テジー(GM):
「そうだな。縁があったら、また会おう。アナタたちの旅の無事を祈っている」
アゼル:
「テジーさんもな」
エルド:
どうやら、テジーさんはアゼルさんに対して、あまり興味を持ってなかったみたいですね(笑)。
GM:
いやいや、別に興味の有無で、アゼルの誘いを断ったわけじゃないですよ(笑)。日程があまりにも急すぎるんです。テジーにも日々の生活がありますから、そう簡単に出発できません。もし、あなたたちが馬車を返した後で再びデミルコルを訪れるというのであれば、話はまた変わりますが……。
エルド:
でも、これ以上イルヤソールへの到着が遅れようものなら、ギュリスさんが暴れだしますよ(笑)。
アゼル:
そうだな。明日、馬車を返すために出発して、そのままイルヤソールを目指すことにしよう。
エルド:
それじゃ、「疲れたのでお先に失礼します」と気だるそうな声を出して、早々に部屋に戻ります。
イーサ:
俺も早めに部屋に戻るとしよう。
アゼル:
じゃあ、俺も部屋に戻ることにする。
GM:
今回の立役者が、いっきにいなくなってしまいましたね(笑)。
ギュリス(GM):
では、3人が退室しようと席を立つと、ギュリスがユセフに対して「ユセフ様。少しお話が……」と声をかけました。そして、ユセフのもとに歩み寄り、何やら会話を始めました。
アゼル:
あら……。何を話してるのか聞けないのか……。
GM:
もちろん、部屋から出て行こうとしているあなたたちには、ギュリスが何を話しているのかわかりません。
こうして部屋に帰ったあなたたちは、そのままゆっくりと休みを取ることになりました。
GM:
翌日、時刻は朝の7時を過ぎた頃、屋敷の廊下からなにやら慌ただしい音が聞こえてきます。
女中の声(GM):
「お待ちくださいッ! ユセフ様より、お部屋でお休みいただくよう仰せつかっております!」という女中の声と――
女性の声(GM):
「アタシたちが請け負った仕事はもう終わったはずだッ。あとはアタシの好きにさせてくれッ!」という聞きなれないハスキーな女性の声が聞こえました。
イーサ:
「ん? なんだか、騒がしいな」
アゼル:
じゃあ、ドアを開けて廊下にでよう。
イーサ:
アゼルの後を追って、俺も廊下にでた。
「いったいどうしたんだ?」
GM:
廊下には、ニメット川の縁で倒れていたときに装備していた革鎧を身につけたセルピルと、そのセルピルを押しとどめようとしている女中の姿がありました。
女中(GM):
「どうしたもこうしたもありませんッ! 意識を取り戻したばかりで、まだ安静にしていなくてはならないというのに、セルピル様が屋敷を出ていくと言われるのですッ!」
セルピル(GM):
「こんなときに安静になんてしてられるかッ! もう時間がないんだッ!」そう言うと、セルピルは女中の腕を振りほどき、そのまま外へ出て行こうとします。
ユセフ(GM):
すると、セルピルの進もうとする先の廊下の角から、ユセフが姿を見せました。
「ずいぶんと騒がしいな……」
セルピル(GM):
ユセフを前にしたセルピルはいったん足を止めると、「ユセフ様。アタシは今すぐにでもアイツらのところに戻らなくちゃならない。だから、どうか止めないでくれ!」と訴えます。
ユセフ(GM):
「……気持ちはわかるが、少し冷静になりたまえ。君ひとり戻ったところで、どうにかできる状況でもあるまい」
セルピル(GM):
「でも……アタシが行かなきゃ、サイとハシムは……」
アゼル:
「いったい、何がどうしたというんだ?」
ユセフ(GM):
ユセフはアゼルに対して、「騒がしくしてすまない。君たちは部屋で休んでいてくれ」と返します。
アゼル:
ん、そう言われてしまうのか……。
エルド:
アゼルさん、そこで引き下がってちゃ駄目ですよ。ここは僕も廊下に出ていって、ユセフ様に話しかけます。
「いやぁ、ここまで騒がしくされてしまったら、気になってしかたありませんよ。もし良かったら、なにがあったのか話を聞かせてもらえませんか?」
ユセフ(GM):
「……いや、さすがにこれ以上君たちを巻き込むわけには……」そう言ってユセフは言葉を濁すと、「さあ、セルピル。部屋に戻るんだ」と、セルピルの腕をつかみます。
アゼル:
うーん。これは迷うなぁ……。アゼル的にはここまで関わってしまった以上、最後まで付き合おうとするんだろうが……。
セルピル(GM):
ユセフに腕をつかまれたセルピルでしたが、なおもあがなおうとしています。
「ユセフ様から請けた仕事はすでに果たしただろッ? ここから先はアタシたち“狐の尻尾”の問題で、ユセフ様とは関係ないッ!」
ユセフ(GM):
「いや、君たちに危険な仕事を押し付けてしまったのは私だ。決して無関係ではない。それに、君の命は多くの者が身を賭して救った貴重なものだ。それをみすみす捨てようなどと、そんな勝手を認められるはずがないだろう」
セルピル(GM):
「アタシは、そんなことまでしてくれなんて頼んだ覚えはないッ! 拾った命をどう使ったって、アタシの勝手だろッ!?」セルピルは必死の形相でそう叫びました。
アゼル:
そこで、もう一度割って入ろう。
「……たしかにそのとおりだ。だが、困っていることがあるなら話を聞かせてくれないか?」
セルピル(GM):
そうアゼルから声をかけられたことで、セルピルは初めてあなたたちのほうへと目を向けました。
「……さっきから、いちいち口を挟んでくるけど、アンタたちいったい何なの?」
一同:
(爆笑)
エルド:
たしかに、セルピルさんにとってみれば、僕たちとは初対面のようなものですよね(笑)。
アゼル:
まあ、そうだな(笑)。
「俺はアゼルだ」
ユセフ(GM):
アゼルが名乗ったところで、ユセフがあらためて紹介してくれます。
「彼らが、君の身体に巡っていた毒を癒すため、命懸けでモノケロースの角を手に入れてきてくれた者たちだ」
セルピル(GM):
セルピルは、イーサのほうへと目を向けて、「そういえば……。アンタの顔には、薄らと覚えがある……」と口にすると、少しばつが悪そうにしました。
「さっきはつい勢いで変なこと口にしちゃったけど、アンタたちがしてくれたことには感謝してるんだ。ちゃんと聖印は届けてくれたみたいだし、アタシの命まで救ってもらった。ありがとう。いくら感謝してもしきれないくらいだよ。でも――」そう言って、セルピルは再びアゼルへと視線を戻します。
「アンタは話を聞かせてくれと言ったけれど……。それでも、この話は聞かないでおいたほうがいいよ……」
ユセフ(GM):
セルピルのその言葉に対して、ユセフも複雑な表情をみせました。
アゼル:
「いいか悪いかを判断するのは俺たちだ。まだ詳しい話は知らないが、助けたい仲間がいるんだろ? それも、1人ではどうしようもないような状況らしいな。だが、1人でできないことでも――」
イーサ:
(アゼルの言葉をさえぎって)「待てアゼル。あまり首を突っ込むのはよせ。俺たちは俺たちで、他にもやらなくちゃならないことがあるだろ」
アゼル:
イーサのほうへと目を向けた。
「いや、しかし――」
イーサ:
「アゼルッ!」
(一呼吸おいてから)
「お前は、ニルフェルのことを王都に送り届けるために、この旅を始めたんじゃなかったのか? それとも、人助けの旅にでも出たつもりだったのか? もしこれ以上ニルフェルに無駄足を踏ませるつもりでいるなら、あとは勝手にしろッ!」そう言って、俺は部屋の中に戻る。
アゼル:
「イーサ……」
イーサ:
ぶっちゃけ、これ以上脇道に逸れたりしてたら収集つかなくなるだろ。俺としては、サブリのことをほったらかしにしたこともスッキリしてなくて、あまりいい気はしてなかったんだ。もう、中途半端なことはよして、旅に集中しよう。
アゼル:
うーん。まあ、それはそうなんだが……。どうしようかな……。
イーサ&エルド:
……。
アゼル:
(しばらく考えてから)
何とも言えない表情でユセフ様とセルピルの顔を見ると、俺も部屋に戻って行った。
エルド:
アゼルさんが折れたッ(失笑)! それじゃ、僕も部屋に戻るしかありませんね(笑)。
中途半端なところでアゼルに折れられてしまったため、ユセフとセルピルの視点で見てみると、シュール過ぎる展開です。でも、これが現実……(苦笑)。
GM:
では、あなたたち全員が部屋に入ってしまうと、しばらくの間、廊下の外からは喧々諤々やりあう声が響き続けました。どうやら、最終的にセルピルはユセフに説得されて、しぶしぶながらも1人で仲間を助けに行くことをあきらめたようです。
アゼル:
……いやぁ、人間関係って難しい……。
GM:
一方、屋敷の廊下でそんなやり取りがあったなか、その喧噪が聞こえる、すぐ近くの部屋では……。
ここからしばらくGMの一人芝居となりますので、聞いていてください。
ニルフェル(GM):
思いがけず、廊下でのやり取りを耳にすることとなったニルフェルは、その内容を聞いて、うつむき、苦悶の表情を浮かべていました。
ギュリス(GM):
そんなニルフェルの様子に気がついたギュリスは、「ニルフェル。どうかした? 大丈夫?」と声をかけます。
ニルフェル(GM):
「大丈夫です。なんでもないですから……」ニルフェルは無理に笑顔を浮かべると、そう答えました。
ギュリス(GM):
しかし、その返答を聞いたギュリスは首を横に振ります。
「嘘が下手だね……。あなた、アゼルのことで悩んでるんでしょ? 見てればわかるよ。あたしにも出来の悪い兄貴がいるからね」そう言って、ギュリスはニルフェルに歩み寄ると、その瞳を覗き込みました。
ニルフェル(GM):
ニルフェルは少しうろたえて目をそむけます。
ギュリス(GM):
そんなニルフェルを見て、ギュリスはいたずらっぽい笑みを浮かべると、「あなたもカルカヴァンで、うちのイスメトってバカ兄貴とあったでしょう? あいつはさ、自分だけ大人ぶって、なんでもわかってるようなつもりになって、こっちに勝手なイメージを押し付けてきたりするんだよね。ホント、うっとうしいったらありゃしない」とイスメトの悪口を飛ばし始めました。
GM:
ギュリスのイスメトに対する悪口はとどまることを知らず、延々と続きます。その少しユーモアの混じったギュリスの軽快な悪口に、やがてニルフェルの表情も穏やかさを取り戻してきました。そして、ギュリスが思いのたけをすべて吐き出し、すっきりとした表情を見せたところで――
ニルフェル(GM):
その行為に共振したのか、ニルフェルも耳を澄ませてやっと聞き取れるほどの小さな声で、「わたしは……。わたしがいることで、兄さんの自由を奪っているような気がするんです……」とその気持ちを吐露しました。
ギュリス(GM):
「ふーん。なるほどね。たしかに、はたから見てても、そんなところは感じるかな……。でも、それって逆のことも言えるんじゃない?」
ニルフェル(GM):
ギュリスにそう指摘されると、ニルフェルははっとしたような表情を浮かべました。
ギュリス(GM):
「あたしが思うに、あなたたち、長い時間そばにいすぎたんじゃない? だから、互いに依存しあってるくせに、近すぎて相手のことが見えなくなってる。そんなんじゃ、互いに不幸になるだけだよ」
ニルフェル(GM):
ニルフェルは、ギュリスの言葉の意味をしばらく考えたあとで、「でも、それなら、いったいどうすれば?」と問いかけます。
ギュリス(GM):
「そうだな……。それじゃ、こういうのはどう?」そう言って、ギュリスはニルフェルにひとつのアイディアを聞かせるのでした。