護衛を務める自警団を含めて総勢10人となった一団は、まずファジルたちの待つQU地点を目指して進み始めました。馬の扱いに慣れた護衛たちは、馬を速足で進めていきます。ちなみに、デミルコルを離れてすぐにジャッカルと遭遇したのですが、一行の数に気圧されたジャッカルは襲ってくることなく逃走してしまいました。このように、数の多い一団での移動は、無用な戦闘を遠ざけてくれます。
GM:
では、18時を回った頃、ニメット川に架かる橋があるOV地点で、自警団たちは休憩を入れようとして馬足を止めます。
自警団団長:
自警団の団長が、馬車の窓越しに声をかけてきました。
「ここで馬車を引く馬を入れ替える。その間にいったん馬車から降りて、夕食を済ませてもらえるか? 食事とあわせて1時間ほど休憩したら、ここを出発する予定だ」
イーサ:
「ああ、わかった」
エルド:
「イーサさん、食事休憩するのも構いませんが、今日中にファジルさんたちと合流しないとまずいことになりますよ。時間のほうも気にしてくださいね」
アゼル:
「そうだな。ファジル様のところにつけばゆっくりと休めるんだし、こんなところで休憩なんてしてないで、急いで出発したほうがいいんじゃないか?」
イーサ:
ふむ。QU地点まではあと20キロか……。
「いや、ここはしっかりと休憩をとっておこう。馬車に乗ってるだけの俺たちはいいが、自警団の者たちには疲れがたまっているだろうし、馬の疲労も心配だ。借り物の馬を途中で故障させてもまずいからな……」
GM:
現在、馬の疲労は15点まで溜まっています。ここで1時間の食事休憩をとっておかないと、QU地点へ向かう最後の移動で馬の故障判定が必要となりますね。その場合、わずかではあるものの、馬が死ぬ可能性も出てきます。
イーサ:
馬が死んだりでもしたら、それこそ問題だからな。別にここで休憩したからといって、約束の期限までに間に合わないわけじゃないんだから、無理する必要はないだろ。
「よし、それじゃ食事にしよう」
自警団団長の指示に従い食事休憩をとることに決めた一行は、馬車から降りると、川岸に腰を下ろして食事をとりはじめます。そして、その食事の最中、エルドが何食わぬ顔で話を切り出しました。
エルド:
「ところで、セルピルさんの手助けとは、具体的にどのようなことをすればいいんですか? 僕にも教えておいてくださいよ」
GM:
知ってるくせに(笑)。
一同:
(笑)
セルピル(GM):
「そういえば、アンタにはまだ詳しいことを話してなかったね」そう言うと、セルピルは前回の最後にユセフと共に話した内容をエルドにも説明しました。
「――というわけなんだ」
エルド:
「そうだったんですか……。では、急がないといけませんね。一刻も早くサイさんとハシムさんを救出しないと、彼らの身の安全が危ぶまれます……」
セルピル(GM):
「まあ、ハシムのほうは何とかバリス教団の手を逃れて身を隠してくれているとは思うんだけど……」
エルド:
「仮にハシムさんが無事だったとしても、サイさんのほうはかなり危険ですよね?」
セルピル(GM):
セルピルは無言でうなずいて、エルドの言葉を肯定します。
エルド:
「ちなみに、セルピルさんたちはどのような手を使ってバリス教団に潜入したんですか?」
セルピル(GM):
「ああ、それはね、バリス教団の連中が仲間を集めてたから、それを利用して潜入したんだよ」
イーサ:
「仲間集め? いったい何のために?」
セルピル(GM):
「どうも、戦力になる人材を集めてたみたいなんだ。……っていうのも、仲間になるには2つの条件があったんだけど、その1つが腕っぷしが立つことだったからね。それで、もう1つの条件は、バリス教以外を信仰していないこと。特に、エルバート教に反感を抱いているってことが重要だったみたい。だから、アタシとサイはそれぞれ別行動で不信人者の荒くれ者を装ったんだ。それで1ヶ月ほどクゼ・リマナに滞在してたら、あっちから声をかけてきたよ」
エルド:
「なるほど……。しかし、セルピルさんは、もうその方法では潜入できませんね」
セルピル(GM):
「そうだね。だから、アンタたちが手を貸してくれるって言ってくれて、本当に助かったんだ。ありがとう」そう言って、セルピルはあなたたちに頭を下げました。
「そうだ、今のうちにバリス教団についてアタシが知っていることを教えておくね。さっきも言ったとおり、バリス教団は腕の立つ仲間を集めていたんだけど、そういった奴らを街から少し離れた場所にある古城に定期的に招いては、酒とクスリで満たされた酒池肉林の集会を開いていたんだ」
イーサ:
「酒とクスリか……」
それって、やっぱり身体にいい薬じゃないんだろうな(苦笑)。
「その集会は参加しないとまずいのか?」
セルピル(GM):
「さあ、どうだろう? 強制ではなかったみたいだけど……。でも、アタシたちは少しでも信用を得たかったからね。積極的に集会に参加して、連中に素直に従うフリをしてたんだ」
アゼル:
「なるほど、フリか。では、そのクスリは飲んでいないと……」
セルピル(GM):
セルピルはケロッとした表情で、「いや、飲んだよ」と答えました。
アゼル:
(驚いて)「飲んだのかッ!?」
アゼルは驚きの声をあげましたが、この時代のカーティス王国ではまだ麻薬の使用が法的に禁じられていません。一般的な嗜好品の一種として扱われています。特に蒸留技術を用いて精製された純度の高い麻薬は、宗教やシャーマニズムの儀式などに用いられることが多く、神聖なものと考えられている場合もあります。
セルピル(GM):
「アタシは正気を保つ魔法や解毒の魔法が使えたからね。それでやり過ごしてた。でも、集会に入り浸っていた他の連中の中には、だんだん精神的におかしくなってく奴とかもいたよ。人によっては禁断症状とかも出てたみたいで、バリス教団の集会に参加せずにはいられないって感じだったね」
エルド:
「いけませんね。僕、それにあがなえる自信ありませんよ……」
アゼル:
「そうだな。でもまあ、クスリには手を出さず、酒だけ飲んでれば大丈夫じゃないか?」
イーサ:
「いや、普通に考えれば、酒やメシにも何か入ってるだろ。はなからクスリ漬けにするつもりなら、簡単に避けられるようにする意味がない。それに、クスリを避けてたら、いつまでたっても信用されないだろうしな」
セルピル(GM):
「まあ、そうだろうね」
セルピルはイーサの言葉に同意すると、話を続けました。
「それで、しばらく集会に参加してたら、バリス教への入信を勧められて、それに同意したら集会所として使っていた城のホールの奥にある扉の先にも入れてもらえるようになったんだ。扉の奥には地下に降りる階段があって、その先には、礼拝堂だったり、幹部連中の部屋だったり、いくつかの施設があるんだけど、その中に連中が毒を精製している研究室もあった。アタシが確認できたのはそこまでなんだけど……」
エルド:
「集会所のさらに奥ですか……。ちなみに、首尾よく僕たちがバリス教団に潜入できたとして、そのときセルピルさんはどうするんですか?」
セルピル(GM):
「そうなったら、アタシはアンタたちとコンタクトを取りつつ後方支援に回るよ」
エルド:
「コンタクトを取るって、どんな方法でですか?」
セルピル(GM):
「うーん、それは状況次第だから、そのときになってから考えるけど……」
エルド:
セルピルさんに秘策があるというわけではないんですね(苦笑)。
GM:
まあ、あくまでもNPCはサポート要員ですからね。基本的に立案はPCにお任せしますよ。
エルド:
「……じゃあ、どうにかしてクスリを飲まずに信頼を得る方法はないものですかね?」
セルピル(GM):
「そうだなぁ……。たとえば、幹部連中に貢物を献上するとか? とにかく、幹部に気に入られることが重要なんじゃないかな?」
アゼル:
うーむ。幹部に気に入られるかぁ……。俺、人に気に入られるのは不得意なんだよなぁ……。
イーサ&エルド:
(苦笑)
GM:
そんな自虐的にならなくても(苦笑)。一応、これまでにもシシュマン、ファジル、ユセフの3人はアゼルのことを好意的に見てましたよ。
エルド:
……ということは、アゼルさんはその3人以外からは嫌われてるってことですか?
GM:
……。
一同:
(爆笑)
GM:
いや、他のすべての人が嫌ってるってわけじゃないですよ(汗)。たしかに、はっきりと敵対視してる人が多いのは否めませんが……(苦笑)。
セルピル(GM):
「まあ、アタシとサイの潜入が明るみになったあとも、バリス教団が同じ方法で仲間集めをしているとは考えにくいし、クゼ・リマナについたらまず情報集めから始めないとね」
イーサ:
「そうだな。さすがに警戒を強めているだろうから、慎重に行動するとしよう」
アゼル:
「……そういえば、サイとハシムというのはどんな人物なんだ?」
セルピル(GM):
「サイは“狐の尻尾”のリーダーを務めてる槍使いだよ。身内びいきを抜きにしても、そこらへんの騎士になら対等以上に渡り合える実力の持ち主なんだ。で、ハシムのほうは黒い肌の拳闘士。本人は黒魔法使いを自称してるんだけど、魔法の腕前は正直なところ微妙なんだよね」そう言って、セルピルは苦笑します。
エルド:
「へぇ。拳で戦う魔法使いですか。珍しいですね」
そうすると、レベル3以上のヘヴィ・ウォリアーと、同等レベルのファイター+ブラック・マジシャンですか……。これは難敵ですね。
GM:
ちょっと、ちょっと。なんでサイたちと戦うことを前提に考えてるんですか(笑)。あなたたちは2人を救出しに行くんですよ?
エルド:
嫌ですねぇ、GM。捕らわれた仲間と戦う展開はお約束じゃないですか(笑)。それくらいは予想しておかないと、この世界では生きていけませんよ。
アゼル:
「しかし、一見してその2人だと見分けるのに、なにか特徴はないのか?」
セルピル(GM):
「うーん、特徴ねぇ……。まあ、ハシムはとにかく目立つからすぐにわかると思う。顔の左頬に獣の爪の痕のような2本の大きな傷があるし、縮れた長髪を後ろでまとめてるんだ。ただ、サイのほうはなぁ……。普段だったら短い黒髪をツンツン立ててるのがトレードマークなんだけど、髪型は何かあればすぐに崩れるからなぁ……。2人ともアタシより少し年上で、どっちも体格はいいほうだよ」
GM:
えー。念のためここで確認しておくんですが、あなたたちはサイの名前に聞き覚えありませんか?
イーサ:
ん? プレイヤーとしてなら知ってるが、そうじゃなくてPCが?
GM:
ええ、PCが。特にアゼルはメモ書きまでしてたはずなんですが……。
アゼル:
おや?
(以前書いたメモを確認してから)
これか? サイ・カルカヴァンって書いてある。なんだっけこれ?
エルド:
それって、貧民街で情報収集するときに使った名前ですよね。たしか、ミマールって老人にカルカヴァンの地下水道を案内してもらおうとしたときに、アルさんに教えてもらったんですよ。
アゼル:
あー、あー。あったな、そんなこと。じゃあ、セルピルに確認してみるか。
「ところで、お前の仲間のサイって奴は、もしかするとサイ・カルカヴァンって名前なんじゃないか?」
セルピル(GM):
「ああ、そうだよ。よく知ってたね。もしかして知り合いだったりする?」
アゼル:
「いや、たまたま知り合いからその名前を聞いただけなんだが……」って、サイの名前から何か情報が得られるのか?
GM:
いいえ。ただの小ネタですよ(笑)。ですが、カルカヴァン姓をもつサイに、ミマールとの関係とかカルカヴァンの地下水道の話を聞くことがあれば、そのあたりの裏設定にも光が当たるので、この機会に思い出しておいてもらおうかと。
GMとしては、用意した情報を可能な限り開示したいと願うものなのですよ。特に、この宮国紀行はカーティス王国周辺のワールドガイドを兼ねてのキャンペーンなので。
エルド:
「たとえばですが、“狐の尻尾”には仲間内の合言葉とかはないんですか?」
セルピル(GM):
「別にないよ。でも、直接話せる状況になったなら、“狐の尻尾”に関する話をすれば通じると思う」
アゼル:
ふむ、そうすると外見で判断できるのはハシムだけか……。
「ハシムはバリス教団には潜入せずに、街にいるんだろ?」
セルピル(GM):
「教団の手がまわってなければそのはずだよ。だから、まずはハシムの使ってた宿に行ってみるつもり」
アゼル:
「お前が街に入って行っても大丈夫なのか? バリス教団の奴らに見つかるんじゃないか?」
セルピル(GM):
「だからこうして顔を隠してるんじゃない。バリス教団の連中だって、大手を振ってクゼ・リマナの街を歩けるわけじゃないんだから、これで何とかなると思いたいけど。それでも、あまり目立つことは避けたいかな……」そう言って、セルピルは首をすくめてみせます。
「さてと、他にいまのうちに聞いておきたいことはある?」
イーサ:
「じゃあ、聞いておこう。あんたは結構腕が立つようだが、バリス教団の連中ってのはさらに強かったのか?」
セルピル(GM):
「ああ。アタシのことを追跡してきた奴は凄く腕の立つ男だった。明らかに格が違ったね。これっぽっちも攻撃をかわせる気がしなかった。……ハッキリ言って、あれはサイよりも強いね」
イーサ:
うーん。そうなると、少なくともレベル4以上か……。
エルド:
「僕も1つ確認しておきます。バリス教団は、自分たちが作っている毒に対する解毒薬とかも手に入れてるんでしょうか?」
セルピル(GM):
セルピルは小さく首を振って、「それはわからない」と答えました。
GM:
ちなみに、バリス教団が解毒薬を準備しているかどうかは不明ですが、毒の精製方法がわかれば解毒薬を作る大きなヒントになるだろうことはあなたたちにも予想が付きます。セルピルの解毒を試みたときに薬師とかも似たようなことを言ってましたしね。
イーサ:
ふむ。いまの段階で聞きたいことはそれくらいかな。まだクゼ・リマナまでは距離もあるし、途中で気がついたことがあれば、街に入る前に確認することにしよう。
こうしてセルピルからバリス教団に関する情報を聞きつつ食事休憩を終えると、一行は行軍を再開し、20時頃にQU地点へとたどり着いたのでした。