LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第5話(04)

GM:
 日が西の地平線に沈んでから1時間ほど経過します。天候は晴天で、藍色に変わりゆく空には満天の星たちがその姿を見せ始めました。そんな頃合いに、前方警戒のため先行していた自警団員が、手にもったランタンを後方に向けて大きく回しました。どうやら、ファジルたちの野営陣を発見したようです。しばらくすると、あなたたちの目にもいくつかの灯りが見えてきました。

エルド:
「どうやら着いたみたいですね」

イーサ:
「ああ。間に合ったようでよかった」

GM:
 あなたたちがファジルたちの野営陣へと近づいて行くと、あちらからも幾人かの騎士が出てきました。最初、騎士たちは警戒するような姿勢を見せていましたが、しばらくすると王宮御用達の馬車に気づき、あなたたちが戻ってきたことを理解したようです。そして、その知らせを受けたファジルも、テントから姿を現しました。

ファジル(GM):
 ファジルは白い口髭をなでながらあなたたちのそばまで歩み寄ってくると、「おやおや。出て行ったときとは違い、またずいぶんと大人数で戻ってきたもんじゃな。それに、あのお嬢ちゃん方の姿が見えんようだが……」と話しかけてきます。

アゼル:
「はあ。その……いろいろありまして……」

ファジル(GM):
「ん? そのいろいろというのは聞かんでおったほうがよいのかのう?」

アゼル:
「そこはお察しいただけると――」

エルド:
(すかさず)「いやぁ、アゼルさんがまた面白い厄介ごとを引き受けてしまったので、少々、人の入れ替えがあったんですよ」

イーサ:
(咳払いでエルドをけん制してから)
「ですが、ファジルさんから馬車を貸してもらえたおかげで、無事にセルピルの命を救うことができました」

ファジル(GM):
「そうか。あの毒に侵されたお嬢ちゃんは助かったんじゃな。それはよかった」

イーサ:
 っていうか、セルピルもこの場にいるんだろ?

GM:
 はい、もちろんいますよ。しかし、セルピルが覆面をしているため、ファジルはそのことに気づいていないようです。

セルピル(GM):
 自分の話題になると、セルピルは覆面を口元まで下して、「気を失っていたので、そのときのことはよく覚えてないんですが……。いろいろとお世話になったようで、ありがとうございました」とファジルに礼を述べました。

ファジル(GM):
「おー。お主があのときのお嬢ちゃんだったか。いやぁ、無事でよかったのう。お嬢ちゃんの命が救われたんじゃったら、馬車を貸したかいがあったというもんじゃ」

アゼル:
「本当にありがとうございました」

ファジル(GM):
「いやいや、礼には及ばんよ。しかし、こうやってちゃんと約束を守るとは、見上げたもんじゃな」

アゼル:
 逆に約束破ってたら重罪人だもんな(笑)。間に合ったよかった……。

エルド:
 数少ない友好的なNPCから不評を買わずにすんでよかったですね(笑)。

ファジル(GM):
「さあ、今日はもう遅い。この闇の中、これからどこかへ行くということもないんじゃろ? またワシらのテントで休んでいくといい。夕食はもうとったのか? 湯を沸かすこともできる。湯浴みがしたければ用意させよう」

GM:
 ファジルはあなたたちに対してとても好意的に接し、人数の多いあなたたちのために、テントを丸ごと1つ空けてくれました。

ファジル(GM):
「では、ワシは隣のテントで休んでおるから、何かあれば声をかけるのじゃぞ」そう言って、ファジルは自分のテントに戻って行きました。

イーサ:
 テントを1つ貸してくれるのはありがたいんだが、セルピルも俺たちと同じテントで休むのか? 大勢の男が寝るテントの中で女1人になるが……。

GM:
 まあ、探索者としての経験浅からぬセルピルとしては、同じテントで寝ること自体に抵抗はないのでしょうが――

セルピル(GM):
セルピルは、「この野営陣の中でなら、覆面を外してても大丈夫だよね」と言って顔を覆っていた布を取り去ると、テントの中から毛布を1枚取り出してきました。
「アタシはテントの外で休むよ。こんなに星が綺麗なのに、屋根があるところで休むなんてもったいないからさ!」

エルド:
 せっかくですから、アゼルさんも天気予報士として外で一晩過ごしてみてはどうですか?

アゼル:
 いや、いまのところ“天候予測”するつもりはないが……。そうだな、俺もテントの中には入らず外に出ていよう。


GM:
 それでは、宣言のない人はテントの中に入っているということにして、テントの外のシーンを進めてみましょう。テントの外には、草の上に敷いた毛布の上で仰向けに寝転がるセルピルの姿があります。

アゼル:
 じゃあ、俺はその場所から少し離れたところで剣を抜いて素振りを始める。

シーン外のエルド:
 セルピルさんに話しかけるわけじゃないんですね……。しかし、寝てる人の近くで剣の稽古をするのって迷惑じゃありません(笑)?

GM:
 まあ、少し距離をとったみたいですし、セルピルもまだ就寝するつもりはないらしく、寝転がって星を見ているだけなので大丈夫でしょう(笑)。

セルピル(GM):
 では、そんなアゼルに対してセルピルが、「星が綺麗だねー!」と声を掛けてきました。

アゼル:
「そうだな」と言いながら剣を振る。ちなみに、この素振りは戦闘疲労がたまるくらいの訓練として行うからな。(コロコロ)この訓練で5点分の疲労がたまる。ここまでの行軍疲労とあわせて13点だ。

シーン外のイーサ:
 あれ? 訓練って3時間以上続けることになるんだろ? それだと、残り時間で休んでも、明日までに疲労が完全回復しないんじゃ……。

シーン外のエルド:
 ですね……。

アゼル:
 大丈夫だ。ちゃんと意図してやってるから。

 ニルフェルに離別を告げられたことで自暴自棄になっている様子を意図して演出するのはよいのですが、団体行動としてこの行為は大丈夫ではありません。ギュリスがこの場にいたら、間違いなく説教されています(笑)。

イーサ:
 じゃあ、俺もテントから外に出て行くか。

セルピル(GM):
 では、イーサがテントから出てくる物音を耳にしたセルピルが、「お、アンタも出てきたんだ?」と声を掛けます。

イーサ:
「ああ。しかし、おまえは本当にそんなところで寝るつもりなのか?」

セルピル(GM):
「まあね。探索者をやってると野宿も珍しくないから、こういうのは慣れてるんだ。それに、空を見上げてみなよ。ほら、すごく星が綺麗だよ」

イーサ:
 言われたとおり、星空を見上げてみる。
「ふむ……。たしかにな」

セルピル(GM):
「この様子なら、きっと明日も晴れるよね」

アゼル:
 むッ……。ギズリさんに続いて、ここにも俺のランド・ウォーカー技能を脅かす存在が?

GM:
 いえ、セルピルは素人意見を口にしただけです(笑)。

セルピル(GM):
「明日は川下りになるから、雨が降ったら困るもんね」そう口にすると、セルピルは両手を胸の前にあわせ、「ハルヴァ様、どうか明日は晴天にしてください」と言って、満天の星空に向けてハルヴァ神への祈りを捧げました。

GM:
 繰り返しになりますが、ハルヴァとはかつてマーキ・アシャス地方で信仰されていた神の名前です。そして、カーティス王国ではエルバート神以外の神を信仰することは禁じられています。

イーサ:
「ハルヴァを信仰しているってことは、おまえもマーキ・アシャス出身なんだな」

セルピル(GM):
「あれ? 言ってなかったっけ? アタシはマーキ・アシャス地方のバジェオウル生まれだよ」

イーサ:
(地図を確認してから)
 バジェオウルっていったら、俺が住んでた村のすぐ近くじゃないか。でも、村に比べたら大きい街なんだよな。

GM:
 そうですね。地方小都市であるバジェオウルは人口1,000人ほどの街です。

セルピル(GM):
「アンタもマーキ・アシャス生まれなの? どこ?」

イーサ:
「小さい村だから知らないかもしれないが、カダッシュという村だ」

セルピル(GM):
「あー! カダッシュ村ね! 知ってるよ。何度か行ったこともあるし。たしか、近くに遺跡があったよね」

イーサ:
 近くに遺跡なんてあったんだ? ハルヴァの遺跡か?

GM:
 カダッシュ村の近くにある遺跡は、ハルヴァ神の配下として吸収された別の神のものです。探索者のアルがカダッシュ村を訪れたのは、その遺跡があったからですよ。それが切っ掛けになって、イーサは村から旅立つことになったんですよね。

イーサ:
 なるほど。そういえば、そんな設定だったっけ。
「もしかすると、村で顔を見かけたこともあったのかもな。ところで、おまえはいったいいくつなんだ?」

セルピル(GM):
「アタシは19だよ」

イーサ:
 外見的にはもう少し幼いのかと思ってたが、見た目よりも大人なんだな。
「ずいぶんと旅慣れてるみたいだが、探索者としての活動は長いのか?」

セルピル(GM):
「んー。そろそろ、丸3年ってところかな」

イーサ:
「結構、長いんだな」

アゼル:
 たしか、この世界だと成人は16歳だったよな。独り立ちしてすぐに探索者になったってわけか。

シーン外のエルド:
 ついでに確認しておきたいんですが、セルピルさんの魅力値っていくつなんです?

GM:
 魅力値ですか? そういえば、まだ決めてませんでしたね。せっかくなのでここで振っておきますか。(コロコロ)16です。

アゼル&イーサ:
 高いッ!

 ここで、アゼルとイーサの2人が驚いていますが、魅力値は《4D》で決定しているので、16というのは平均より少し高いだけです。もしかすると、女性らしさを感じさせないセルピルは、ルックス的に残念なキャラクターなのではないかというプレイヤー心理からこの発言がでたのでしょうか?

アゼル:
 ニルフェルよりも美形じゃないか!

イーサ:
 セルピルはボーイッシュだし、きっと美人っていうよりも美少年って感じなんだな。

シーン外のエルド:
 待ってください! まあ、たしかにセルピルさんの魅力値は高いかもしれませんが、それでも僕の魅力値のほうが高いですよ。だから、僕が女装したほうがきっと可愛いです!

アゼル&イーサ:
(爆笑)

GM:
 なにもそんなところで張り合わなくても(苦笑)。
 ちなみに、魅力値というのは外見だけでなく、立ち振る舞いや人間性などを含めた総合的な魅力を示したものですから、それが高いからといって必ずしも美形であるとは限りませんからね。セルピルは他人との垣根を作らないタイプなので、そこらへんが魅力値にも影響しているのでしょう。
 さて、話を本筋に戻しますが、イーサは外に出てきて何をするつもりだったんですか?

イーサ:
 ああ。セルピルとの話が終わったら、寝るまでの間、木を削っている。

GM:
 出ましたね、イーサの木彫り。あとでそれがどう話に影響してくるのか楽しみです。では、他に何もなければ時間を進めてしまいましょう。

エルド:
 あ、その前にちょっとやることが……。イーサさんが外に出て行ってしばらくしてから、僕も外に出ます。そして、アゼルさんのところに歩いて行きます。

アゼル:
 む、俺のところに来たか。だが、俺は一心不乱に剣を振ってるぞ。

エルド:
「アゼルさん。稽古相手が欲しいのであれば、僕が相手しましょうか?」

アゼル:
「ふッ。お前じゃ稽古の相手にならんだろ(笑)」

GM:
 いやいや、エルドはライト・ウォリアー技能をレベル2に上げてきましたからね。もしアゼルが鎧を装備していないとなると、エルドが勝つ可能性も十分にありますよ。

イーサ&エルド:
(笑)

アゼル:
 う、うむ……。まあ、ここでは稽古の相手は遠慮しておこう。

エルド:
「そうですか。たしかに、セルダルさんもアゼルさんのことをずいぶんと高く評価していましたし、僕じゃ役者不足かもしれませんね」

アゼル:
 セルダルの名前が出たところで、一瞬ピクッと反応する。でもまあ、素振りはそのまま続けてるけどな。

エルド:
「ちなみに、アゼルさんはセルダルさんのことをどう見てるんですか?」

アゼル:
(しばらく沈黙してから)
「……いいやつだ」

エルド:
「それだけですか?」

アゼル:
「あいつならば、ニルフェルのことを無事に王都まで連れて行ってくれるはずだ。俺なんかよりも上手くやってくれる」

エルド:
「王都まで……ですか。セルダルさんは、その先のことも考えていたみたいですがね……。アゼルさんはどこまで先のことを考えているんですか?」

アゼル:
「さあな……」

エルド:
 つれないですね。もう少し何とか言ったらどうですか?

アゼル:
 意図して会話を膨らませようとはしない。何かを振り払うように、剣を振り続けている。

エルド:
 そうですか。まあ、アゼルさんの反応を確認できただけでもよしとしておきます。
「そのうち、またセルダルさんと会うこともありますよね」と言い残して、テントに戻って行きます。


GM:
 こうしてそれぞれの夜が更けていくわけですが……。回復判定の前に、アゼルは《精神力ボーナス+2D》で目標値11の判定をしてください。どうやら、アゼルは何か大切な夢を見たようです。

アゼル:
 夢?(コロコロ)8で失敗。

GM:
 うーん、それでは朝起きた時には、その夢の内容を忘れていました。しかし、詳しい内容は忘れてしまったものの、起きたときに何か大切な夢をみたような感覚だけは残されていました。というわけで、今後睡眠をとるたびに、今の判定を行ってください。成功したところでイベントが発生します。

アゼル:
 なるほど……。

 この夢イベントは、いまだキャラクターの進むべき方向性を定めきれないアゼルに向けてGMが用意したプレゼントであり、爆弾でもあります。この時点で強制的にイベントを発生させてもよかったのですが、アゼルの精神状態に連動させたかったため、アゼルの行動によって目標値が変動することにして、あとはダイスの神様に委ねることにしました。さて、この夢イベントが発生するのはいつになることやら。こうご期待。


GM:
 翌朝6時になり、一行は目を覚まします。昨日のセルピルの祈りもむなしく、空は雲で覆われていました。

アゼル:
 じゃあ、テントから出て“天候予測”しておく。(コロコロ)12。

GM:
 なら、お昼くらいにはまた晴れ間がのぞくのではないかと感じました。さらに夕方には霧が出てくる予感がします。

アゼル:
「ふむ。昼には晴れるな。そのあとは霧が出てきそうだが……」

エルド:
 嘘です! アゼルさんの予報が当たるわけがありません。

アゼル:
 嘘じゃないって(笑)。

イーサ:
「なるほど。そうなると、霧が出る前にできるだけ進んでおきたいところだな」

エルド:
「では、ファジル様に挨拶して、早めに出発しましょう」

イーサ:
 それじゃ、出発の準備を済ませたら、ファジルさんのところに行くとしよう。

GM:
 あなたたちがファジルのテントの前まで行くと、その前には騎士の1人が立っています。彼は、セルピルの症状を毒によるものだろうと教えてくれた人物ですね。どうやら、ファジルはまだ休んでいるみたいです。

騎士(GM):
「やあ、おはよう。ぐっすり休めたか?」

イーサ:
「おかげさまで、よく休めました」

騎士(GM):
「それはよかった。しかし、よく約束の期日までに戻ってくることができたな」

イーサ:
「命懸けでしたが、運も味方してくれたのでなんとか」

騎士(GM):
「そうか。ファジル様もずいぶんとお戯れになったことだと心配していたのだが、無事でなによりだった。まあ、君たちも薄々気づいていたかもしれないが、もし君たちが期日どおりに戻ってこなかったら死刑に処されるなんて話は、ファジル様のでまかせだ」

イーサ:
「でまかせ?」

騎士(GM):
「ファジル様は、君たちがどれほどの覚悟をもって人命を救おうとしているのかをお試しになられたのだ。君たちにその覚悟がなければ、我々があの娘をカルカヴァンまで連れて行くことになっていただろうな。だが、君たちは自分たちが責を負う状況となっても人命を尊び、人ひとりの命を救い、そして約束の期日までに馬車を返してみせた。そのことに、ファジル様はこの上なく感心なさっていたよ」

アゼル:
 そうだったのか……。

イーサ:
「ところで、そろそろ出発しようと思うのですが、ファジルさんはまだお休みのようですね」

騎士(GM):
「ほう、もう出発するのか? ならば、ファジル様を起こしてこよう。少し待っていたまえ」そう言って、騎士はテントの中に入って行きました。

ファジル(GM):
 ほどなくして、ファジルがテントの中から姿を見せます。しかし、まだ眠たそうな顔をしており、その頬に乾いたインクをこびりつかせています。どうやら、昨晩は書類仕事の途中で、そのまま寝てしまったようです。

イーサ:
「朝早くにすみません」

ファジル(GM):
「いやいや。ワシが起きるのが遅いだけじゃよ。それより、もう行くのじゃな?」

イーサ:
「ええ。夕方から天気が崩れそうなので、早めに出発しておこうかと……」

ファジル(GM):
「たしか、王都を目指すんじゃったか?」

イーサ:
「まあ……。とりあえずはニメット川を下って、クゼ・リマナを目指します」

ファジル(GM):
「そうか。では、クゼ・リマナからは海路で王都を目指すつもりなのかのう? この季節、北上するなら陸路よりもそちらのほうが何倍も速かろう」

エルド:
「そうですね。ただ、この面子で旅をしていると、何かと寄り道してばかりなので、実際にどうなるかはわかりませんが」

ファジル(GM):
「ふむ。もし、おぬしらが王都に長く滞在するのであれば、またいずれ顔をあわせることもあるじゃろう。ワシもあと2ヶ月ほどで王都に戻ることになるじゃろうからな。では、道中の無事を祈っておる。達者でな」

イーサ:
「何から何までありがとうございました」
 それじゃ、ファジルさんとの別れを済ませたら、ニメット川の船着場に向けて出発する。

GM:
 了解です。こうして、ファジルたちの野営陣を後にすると、あなたたちはデミルコル自警団の駆る馬の背に乗せてもらい、船着場があるというQT地点を目指して出発しました。




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