小屋の中に入ってきたファルザードたちに対して、一行はそれぞれが自己紹介をしていきました。
GM:
1人ずつ順番に名乗っていくと、それにあわせてセルピルも否応なく名乗ることとなるわけですが――
セルピル(GM):
「アタシはシルクだ」と、セルピルは偽名を使いました。
イーサ:
シルクか……。メモっておかないと、つい間違えてセルピルって呼んでしまいそうだな。
アゼル:
一通り挨拶が済んだら、ファルザードたちに船の整備がてら昼休憩中であることを伝えておこう。
ブルジュ(GM):
ならば、それを聞いたブルジュが、「そういうことであれば、これをどうぞ。お口にあうかわかりませんが」と言って、背負い袋の中から黒パンとチーズを取り出しました。そして、それを薄く切るとサンドイッチにして配ってくれます。
アゼル:
「では、お言葉に甘えて」
ありがたくそのサンドイッチを食べるとしよう。
ベステ(GM):
ベステもあなたたちに隠れるようにして、まるでリスのようにサンドイッチを頬張っています。
ファルザード(GM):
食事の最中、ファルザードはあなたたちに対して、「皆さんはどちらまで行かれるんですか?」と質問してきました。
アゼル:
「クゼ・リマナだ」
ファルザード(GM):
「なるほど、クゼ・リマナですか。あそこは良い街ですよね。貿易港として発展していて、街には常に活気が溢れている」
アゼル:
「そうなのか? 俺は初めて行くから、クゼ・リマナについては詳しくないんだ……」
ファルザード(GM):
「あ、皆さん初めてなんですか?」
エルド:
「僕はアゼルさんと同じく、初めてです」
イーサ:
……俺はアルと一緒にイスパルタに向かう途中で、クゼ・リマナにも立ち寄ったはずだよな?
GM:
そうですね。よほど無理して道なき道を進んできたのでなければ、クゼ・リマナを経由したはずですが、そこは自由に決めてもらって構いませんよ。
イーサ:
なら、以前にもクゼ・リマナに立ち寄ったことがあることにしておく。
GM:
であれば、クゼ・リマナについての情報を、イーサの知っている範囲でお伝えしておきますね。
港湾都市クゼ・リマナは、イーラ・ユヴァ湾に突き出した岬に栄える貿易港です。温暖な気候と適度な降雨量といった条件が揃っていることから、クゼ・リマナでは綿の栽培と綿織物が盛んです。また、海沿いの街であるため海産物が多くとれることで有名なのですが、近年ではそれ以外にもクゼ・リマナの西に広がる海岸付近の土地をアスラン商会が買い上げて塩田としていることなどが知られています。ちなみに、もともと街の西側には貧民街が広がっていましたのですが、それも次第に排除されつつあります。
イーサ:
アスラン商会は塩作りもしてるのか。なんでもやってるんだな。
GM:
塩は調味料として使えるのはもちろんのこと、保存料としても重宝される交易品の定番ですからね。塩が手に入りにくい内地では、特に高く売れます。きっと、アスラン商会にとっても自社生産するメリットが大きいのでしょう。
それと、クゼ・リマナにも市壁はあるのですが、イスパルタやカルカヴァンと比べるとそこまで強固ではありません。岬部分のみを囲う第1市壁はそこそこのつくりですが、そのさらに外に広がる人々の生活圏の周りに張られた第2市壁は、野生動物の侵入を防ぐことを目的とした、高さ1メートル程度に積まれた石垣に過ぎません。
あわせて、バリス教にかかわる情報にも触れておきましょう。もともとバリス教の総本山であったクゼ・リマナには、宗教的な建物がいくつもありました。しかし、現在それらの建物は、すべてエルバート教の施設として利用されています。その中でも特に有名なのが、ビューク・リマナ地方総督府と同じ敷地内に建てられている大寺院です。その芸術的価値は非常に高く、カルカヴァンの遷都の際にはリマナ建築様式として、様々なところに取り入れられました。
アゼル:
ソード・ワールドRPGでもそうだったが、港町ってのは芸術分野が発展しやすいのか?
GM:
まあ、貿易港として様々な人や文化が入ってきますし、穏やかな入り江から安定して海産物を得られるので日々の生活にもゆとりが生まれ、他の環境に比べると直接生命維持に関係しない分野も発展しやすくなるのでしょうね。
イーサ:
なるほどな。
「俺は1度だけクゼ・リマナに立ち寄ったことがある。ずいぶんと凝った建物が多くあって、街並みがとてもきれいだった。それに、いろいろな土地の物であふれていて、なかなか暮らしやすそうな街だったな」
ファルザード(GM):
「イーサさんのおっしゃるとおりです。クゼ・リマナは、この国でもっとも進んだ文化の根付く街だと言っても過言ではないと思いますよ」
アゼル:
「そうか。行くのが楽しみになってきたな」
ファルザード(GM):
さらに、ファルザードは質問してきます。
「ところで、皆さんはどちらから来られたのですか?」
イーサ:
「俺はマーキ・アシャスにあるカダッシュという小さな村からだ」
ファルザード(GM):
「マーキ・アシャスのカダッシュ村ですか」
ファルザードは興味深げな視線をイーサへと向けます。
アゼル:
「俺はイスパルタからだ」
ファルザード(GM):
ついで発せられたアゼルの言葉に、ファルザードは今度はアゼルのほうへと顔を向けます。
「イスパルタ……。それはまた、ずいぶんと遠いところからいらっしゃったのですね」
アゼル:
「ああ。見聞を広げるためにな」
ファルザード(GM):
「見聞を広げるため? そのような理由で、氏族長所有の小型船を使う許可がおりたのですか?」
アゼル:
「う……。ま、まあ、いろいろ事情があってな……」
ファルザード(GM):
「あ、これは失礼。詮索してはいけないことでしたか。なにぶん私は人の話を聞くのが好きなものですから、つい踏み入ったことを聞いてしまいました」そう言って、ファルザードは自嘲気味に笑いながら頭をかきました。
イーサ:
「ところで、ファルザード――」
ファルザード(GM):
「ファルサでいいですよ」
イーサ:
「ならば、ファルサ。こちらからも質問なんだが、お前たちはどういった集まりなんだ? 男1人で残りは全員女。それも母娘連れとは、ずいぶんと変わっている」
ブルジュ(GM):
イーサがそう質問すると、ブルジュが会話に加わってきました。
「わたしはこの周辺の土地を管轄なさっている氏族長のお宅にご厄介になっていた奉公人なんです。先日、任期の満了を迎えたために娘を連れて故郷に戻ろうとしていましたところ、ちょうど奉公先にいらしていたファルザードさんとシーラさんが、わたしと娘の2人だけでは道中危険だろうからと、グネ・リマナまでの同行を申し出てくださったんです」
アゼル:
そう聞いたなら、ファルザードとシーラの格好を確認してみるが、2人は武装してるのか?
GM:
どちらもクロース相当の服を着ています。武器らしきものは、シーラが腰に護身用の短剣を下げているのが目につくくらいですね。ファルザードに関しては、完全に非武装です。
アゼル:
チラリと、2人の指を見てみるが。
GM:
スペル・リングを装備しているかどうかを確認してみるわけですね。ならば、ファルザードはどちらの手にも指輪をはめていません。シーラは薄手の手袋をつけているためわかりませんでした。
アゼル:
なるほど……。
「見たところ武装していないようだが、グネ・リマナまではどうやって行くつもりなんだ? 街道を通るにしても、道中何かに襲われでもしたら危険じゃないか?」
ファルザード(GM):
ファルザードは穏やかな顔をしながら、「なにもそこまで危険な旅をするつもりはありませんよ。川を下って街道の分岐点まで行けば、そこは宿場町です。そこまで行ったら、今度はグネ・リマナへ向かう隊商を探して、それに同行させてもらうつもりです」と答えました。
アゼル:
「そうか。それならいいんだ。街道の旅であっても危険だからな。隊商と共に行ったほうが間違いないだろう」
ファルザード(GM):
「お心遣い感謝します。いや、おっしゃるとおりです。街の外は危険ですからね。こうやって、皆さんと出会い、船に乗せてもらえることとなったのは本当に幸運でしたよ。これも神のお導きですかね」そう言って、ファルザードはほほえみます。
GM:
そんなところで、桟橋側の扉が開きました。
船頭(GM):
桟橋側の扉を開いて小屋に入ってきた船頭が、「船の準備ができました。皆さんのほうはどうですか?」と声を掛けてきます。
イーサ:
「よし。それじゃ、行くとするか」
船頭(GM):
「乗員が4名ほど増えたと聞きましたが……」
アゼル:
「ああ。すまないがそういうことになった」
船頭(GM):
「わかりました。まあ、それくらいであればどうということもありません。それよりも、ここから河口までは休憩することなく川を下ることになります。途中で体調が悪くなったとしても船は止められませんので、覚悟しておいてくださいね」
イーサ:
「ああ、わかった」
じゃあ、船に乗るとしよう。
ここで、乗船者数が増えたために座る位置を決め直すことになりました。そして、相談の結果、次のように座ることになりました。
こうして、一行を乗せた小型船は11時にRS地点を出発すると順調に川を下り、13時にTR地点を通過しました。そこで左支流と合流したニメット川は、その流量を一気に増していきます。その頃になると、朝から張り出していた曇り雲は北東に流れていき、上空には青い空が広がりはじめました。
アゼル:
ちなみに、一度河口まで下った船はどうやって上流まで運ぶんだ?
GM:
その場合、小型船にロープを括り付けて、それを岸から引っ張って上流まで運びます。馬や牛などの動物に引かせたり、ときには人が引くこともあります。
アゼル:
おー。それはたいへんだな。
GM:
さて、川が合流したTR地点からは川幅が広くなってきています。また、勾配もゆるくなってきており、その分、川の流れが少し穏やかになってきました。ここからは、10キロ移動するのに1時間半かかるようになります。小型船の揺れも小さくなってきたので、10キロ移動するごとに疲労を1点ずつ回復させていいです。
アゼル:
おお、ありがたい! これでようやく疲労によるペナルティを受けずに済む。
GM:
では、小型船はTQ地点まで進みます。
ベステ(GM):
川の流れが穏やかになって来ると、それまで表情をこわばらせていたベステもキャッキャッとはしゃぎ始めます。
「ママ。川がキラキラしててキレイだね! ほら、あれ! あっちもキレイだよ!」
シーラ(GM):
シーラも右手の手袋を外し、水面に指先をつけるなどして、その感触を楽しんでいるようです。
ファルザード(GM):
そんな、午後の穏やかな日差しの下、ファルザードはのんびりとした様子で、「とても穏やかな船旅ですね」と呟きました。
アゼル:
「そうだな。これくらいの流れで下って行くのがちょうどいい」
これまで俺は慣れぬ船旅でずっと緊張していたが、これでようやく落ち着けそうだ。
ファルザード(GM):
「あ、アゼルさん、岸のほうを見てください。ずいぶんとたくさんの花が咲いていますよ」
GM:
ファルザードの言うように、川岸には見渡す先まで小さな黄色い花が咲き乱れています。そして、その花々の間には、川の水を飲みに来た動物たちの姿も見えます。中には肉食動物の姿も見えますが、川岸から離れた船上にいるあなたたちに危害を加えようとするものはいません。
ファルザード(GM):
「いやあ、やっぱり船旅はいいですね。陸路を進んでいたら、こうのんびりとはいきませんからね」
アゼル:
「ああ。初めての船旅だったが、こんなに快適なものだとは思ってもいなかった」
前方の船頭(GM):
船首で長い棒をついていた船頭が、「どうやら、気に入ってもらえたみたいですね。晴れた日の船旅は最高でしょう」と声を掛けてきます。続けて船頭は、「ただ、雨が降った日には最悪なんですよ」と付け加えました。
アゼル:
じゃあ、そこで空を見上げて“天候予測”する。(コロコロ)お! 高いぞ。13だ。
GM:
ならば、アゼルは18時から小雨が降るだろうと予測しました。遠く南西の空に、どんよりとした雲が小さく見えました。あと、翌日0時からは晴天だと思いました。
エルド:
あれ? 今朝方アゼルさんは、18時以降は霧だと予測してたのに結果が変わったんですか。やっぱり、あのときの予測は嘘だったわけですね(笑)。
アゼル:
いや、嘘をついたわけじゃない。あとから判定したほうが正確な予測になるのは、当然の結果だろ。
「これは、夕方から少し雨が降るかもしれないな。だが、本降りにはならないだろうから大丈夫だろう」
前方の船頭(GM):
「よくわかりましたね。たしかに、この先一雨くるでしょう」と、船頭はアゼルを賞賛しつつも、あなたたちに背を向けて西の空を見つめたまま少し表情を厳しくしました。
アゼル:
「ちなみに、大雨が降ったときはどうするんだ?」
前方の船頭(GM):
「そのときには、乗り合わせた方全員で、船底にたまった水を掻きだしてもらうことになります」
アゼル:
「なるほど……。たしかに、放っておいたら沈んでしまうものな……」
前方の船頭(GM):
「しかし、何よりも雨が降って困るのは、視界が妨げられてしまうことです。皆さんは先ほど船旅は穏やかで快適だと話されていましたが、一見そのようにみえて、案外そうでもないんです」そう言いながら、船頭は棒で川底をつくと、小型船の進路を小刻みに変えていきます。
アゼル:
「たしかに、俺たちは楽させてもらっているが、船頭の仕事はたいへんそうだ」
前方の船頭(GM):
「ツイと出てる小岩に船底を当てようものなら、それで船が沈んでしまうこともありますからね。まあ、そうは言いましたが、自分たちに任せてもらえば大丈夫です。自分たちはもうこの川を何百、何千と上り下りしてますから、よっぽどのヘマをしなけりゃ船を沈めるなんてことはありませんよ。万が一のために、重い鎧は脱いでもらいますがね」
エルド:
なんか、嫌なフラグ立ててませんか(笑)?
GM:
いやいや、そんなことありませんって(笑)。
さて、そうやって小型船がTP地点まで来たころには、日も西に傾き、前方の空がオレンジ色に染まっていきます。南西からは雨雲も近づきつつありますが、まだ太陽を覆うほどのところまでは来ていません。ちょうど、川の水面にオレンジ色の光が反射し、まるで宝石のようにきらめいています。
ベステ(GM):
そんな幻想的な景色に、ベステがはしゃいでいます。
「うわぁ、まるで宝石みたい! そうだ、あたしがママのためにキラキラを取ってあげるね」そう言うと、ベステは川の水を両手ですくって、それをブルジュの目の前に差し出しました。
ブルジュ(GM):
ブルジュは、ベステの小さな手から徐々に零れ落ちてしまう水を、彼女の手のひらごと自分の両手で受け止めると、「ありがとう、ベステ」と言ってほほえみます。
アゼル:
微笑ましい光景だ。だがしかし、この後、目を覆うような惨劇がおこるのであった(笑)。
GM:
……。
このとき、GMはいろんな意味で吹き出しそうになるのをこらえるのに必死でした(笑)。
ベステ(GM):
両手からすべての水をこぼしてしまったベステは、再度川の水をすくおうとするのですが、その途中で手を止めて、「川の中のお魚さんもキラキラしてて、すごいキレイだね。あれはなんていうお魚さん?」と口にします。
アゼル:
ベステの言葉につられて川のほうへと目を向けた。どんな魚が泳いでいるかわかるだろうか?
GM:
川を覗き込んだアゼルの目には、たしかに鱗を日の光に輝かせて泳ぐ魚の姿が映ります。しかし、直接手に取って見てみないことには、何の魚かまではわかりませんでした。
アゼル:
「そう言えば、この川ってどれくらいの深さがあるんだ?」と船頭に聞いてみるが。
前方の船頭(GM):
「ここらへんだと、深いところで3メートルってところですかね」と船頭は答えます。
イーサ:
もし落ちたりしたら、足が川底につかないな。
アゼル:
やっぱり、結構深いんだな……。川底が見えないものかと川の底を眺めている。
GM:
では、そうやって川底を眺めていたアゼルの視界から、魚の鱗のきらめきが突然消えてなくなりました。
アゼル:
消えた? 魚が? ……まあ、あまり気にしなくていいだろう。
GM:
……(苦笑)。ならば、次の瞬間、船の後方からバシャンッと水の跳ねる音が聞こえました。
イーサ:
なんだ?
GM:
続けて、ドボンッと、今度は水に何かが落ちた音が聞こえます。
アゼル:
とっさに船の後ろを振り返る。
ブルジュ(GM):
それと同時に、「キャーッ!」というブルジュの悲鳴が響き渡ります。
アゼル:
お、ヤバイ。まさか、本当に惨劇が起こってしまったのか?
エルド:
アゼルさんが変なこと口にするから(苦笑)。
GM:
アゼルが船の後方に目をやると、そこにはベステの姿が見当たりません。
ブルジュ(GM):
ブルジェは本来ベステがいた側の船べりに身体を乗り出し、水面に向かって、「ベステ―ッ!」と大声で娘の名を叫びました。
アゼル:
じゃあ、俺は「ベステが落ちたッ!」と叫ぼう。
事前に「船べりに近づくな」と警告を受けていたのですから、冗談を言ってる暇があったらもっと警戒しておくべきでした。まあ、それとわかっていたからこそ放置したのかもしれませんが、それこそ、まさに堕天使アザゼルの所業ですよね(苦笑)。