LOST ウェイトターン制TRPG


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宮国紀行 第5話(10)

 クゼ・リマナから20キロの場所に野営地を設置すると、一行は夕食をとりながらこれからのことについて話し合いました。

セルピル(GM):
「もう、クゼ・リマナまでは目と鼻の先だね」

イーサ:
「街についたら、まずハシム探しか……。直接連絡をとる手段はないんだったよな?」

セルピル(GM):
「ハシムがとった宿屋の名前はわかってるから、そこを当たってもらうことになると思うけど……。それ以外に連絡手段はないよ」

イーサ:
「ハシムの存在はバリス教団の連中に伝わってはないんだよな?」

セルピル(GM):
「さあ、それはどうかな? たしかに、アタシが街にいる間、ハシムはバリス教団に潜入してなかったけど、仮にサイが連中の手に落ちてアタシたちのことを全部話してたとしたら、その保証はないね」

イーサ:
「ふむ……。首尾よくハシムと合流して、現在の状況を教えてもらいたいところなんだが……。そううまくいくとは限らないか……」

セルピル(GM):
「あ、そうだ。クゼ・リマナに入るときのことなんだけどさ、できれば全員一緒に入らずにバラバラに入ったほうがいいと思う。4人で行動してるところをバリス教団の連中にみられると、後々行動しにくくなるからね。かといって一人旅の旅人ってのも目をつけられやすいから、ここは2人1組で入るのがベターじゃないかな?」

イーサ:
「なるほどな……」
 しかし、そうすると“狐の尻尾”はどうやってクゼ・リマナに入って行ったんだ? 3人で一緒に街に入ったのか? それとも1人ずつ入って行ったのか?

GM:
 それは、それぞれが別々の隊商に紛れ込んで街の中に入って行ったんですよ。ここで野営を続けていれば、数日もしないうちにクゼ・リマナへ向かう隊商が街道を通っていくでしょうからね。

イーサ:
 そうか……。カモフラージュするならそっちのほうがいいよな。とはいえ、今回はのんびりとここで野営するわけにいかないか……。
「じゃあ、街の中で落ち合う場所を決めておいて、入るときには2組にわかれることにするか」

アゼル:
「なら、落ち合う場所はハシムの泊まっていた宿屋にしよう。それで、その宿屋に部屋をとれば、あとはそこを拠点として行動できるだろ?」

エルド:
「それはダメですよ。全員同じ宿屋にいたら、もしものときに一網打尽にされてしまいます。少なくとも宿屋くらいは別々に取っておかないと……」

セルピル(GM):
「ちなみに、アタシたちは宿屋は別々にしておいて、外で食事するときとかに示し合わせて情報交換をしてたよ。入手した情報を紙に書いておいて交換するとかしてね」

イーサ:
「なるほどな……」
(独り言をつぶやきながら悩み続ける)

アゼル:
 ん? イーサは何を悩んでるんだ? “狐の尻尾”と同じ方法をとるんじゃダメなのか?

イーサ:
 いや、それはそれでいいんだが……。もっと根本的な今後の方針について考えてた。ハシムと合流できればいいが、もしハシムが見つからなかったら、とにかく街に入って街の人に何らかの情報を聞くことになるのか? そもそも、いったい何を聞けばいいんだ? この街にバリス信徒が潜んでいるだろって聞けばいいのか?

アゼル:
 いや、それはまずいだろ(失笑)。バリス教団の集会所はわかってるんだから、ハシムと出会えなかったときにはそこに行ってみればいいんじゃないか?

イーサ:
 そこに乗り込んで行って、その後はどうするんだ?

アゼル:
 遠巻きに監視して、出入りする人間を調べる……とか? とにかく状況確認が必要だな。

イーサ:
 監視して、サイとハシムがそこにいることがわかったとしたら、それからどうする?

アゼル:
 どうするって、俺たちの目的は2人の救出なんだから、どうにかして助けだすに決まってるだろ。

イーサ:
 その救出の過程とかがまったく想像できないんだよな……。

アゼル:
 そりゃ、まだ下調べもしてない段階なんだから、わからないことがあるのは当たり前なんじゃないか?

エルド:
 あの……。僕にはイーサさんがなんで悩んでいるのか、サッパリわからないんですが……。

イーサ:
 いや、毎回情報なしで突っ込んで行ってろくな目にあってないから、今回は事前に何か考えておきたかったんだが、やっぱり作戦なしで乗り込んで行くしかないのか?

アゼル&エルド:
 ……。

一同:
(しばらく沈黙)

GM:
 無言になってしまいましたね……。では、GMからひとつ意見を。
 2人1組になるとして誰と誰がペアを組むのかとか、それぞれがどこの宿屋に部屋をとるのかとか、どのような方法で情報集めをするのかとか、互いの情報を交換するのにいつどこで接触することにするのかとか……そういったことは事前に決めてから街の中に入ったほうがいいと思います。しかし、どんな情報が得られるかはわからないのですから、今の時点でその不確定な部分の先を考えようとしても、それは難しいです。その部分は、情報が集まったあとであらためて考える必要があるでしょう。
 イーサは、これまで情報なしで行動してろくな目にあわなかったと言っていましたが、それは情報収集そのものや、情報を整理して分析するといった行程を怠ってきたからですよ。情報を収集して、整理・分析して、活用する。情報を収集して、整理・分析して、活用する。これを繰り返すのがプレイの基本です。

一同:
 ……。

イーサ:
「じゃあ、まずはどういった組み分けで街に入って行くかを決めるか」

アゼル:
「怪我したときのことも考えて、白魔法使いであるイーサとセルピルは別の組になって欲しいが……」

イーサ:
「ふむ。そうだな」

アゼル:
「そうなると、あとは俺とエルドがどちらについていくことになるかだが……」

イーサ:
 たしか、セルピルはホワイト・マジシャン技能以外にアーチャー技能も取得してるんだよな?

GM:
 そうですね。セルピルはそれ以外にもヒーラー技能とライダー技能を取得しています。

イーサ:
「エルドとセルピルがペアを組むと、2人とも飛び道具が使えて行動しやすそうじゃないか? それで、接近戦闘を得意とする俺とアゼルが組むってことでどうだ?」

アゼル:
「それを言うなら、遠距離攻撃を持ってる奴と持ってない奴がペアになったほうがいいだろ。俺とセルピル、イーサとエルドでわかれるべきだ」

イーサ:
「ふむ……。なら、組み分けはそれで。エルドもそれでいいか?」

エルド:
「ええ。僕は構いません」

イーサ:
「次は街への入り方だな。クゼ・リマナへは東側からアルダ街道、北側からメーメット街道が伸びてるが……」

セルピル(GM):
「メーメット街道側から街に入るのは遠回りになるけどね」

アゼル:
「遠回りするくらいなら、時間差で街に入ればいいんじゃないか? メーメット街道まで回り込むとなると、途中で獣に遭遇する危険性も高くなるからな」

イーサ:
「そうだな。よし、それじゃ時間をずらして街に入ることにしよう。それと、泊まる宿屋については……」
 そういえば、“狐の尻尾”が利用していた宿屋の名前ってなんていうんだ?

GM:
 サイが泊まっていた宿屋がミルザ亭、ハシムが泊まっていた宿屋がババク亭、セルピルが泊まっていた宿屋がダーラー亭といいます。これらは、すべてクゼ・リマナの第1市壁の外にある宿屋です。

アゼル:
「じゃあ、俺とセルピルでババク亭に向かう。セルピルと一緒のほうがハシムと接触しやすいだろうからな」

イーサ:
「なら、そっちはアゼルたちに任せるとして、俺とエルドはミルザ亭に部屋をとるとしよう。念のため、サイがとっていた部屋がどうなってるかも確認しておいたほうがいいからな。あとは落ち合い方なんだが……」

アゼル:
 イーサはクゼ・リマナに立ち寄ったことがあるんだろ? 個室があるような店とか知ってたりしないのか?

GM:
 そうですね……。では、以前アルとクゼ・リマナに立ち寄ったときに、遺跡探索者御用達のヤルダー酒場というお店を紹介してもらったことをイーサは思い出しました。第1市壁外にあるお店で、多少値段は張りますが、個室を用意しています。

イーサ:
「クゼ・リマナの第1市壁外に、ヤルダーという酒場がある。その店には個室もあるから、そこで落ち合うことにしよう。アルが好んで使っていた店だから、それなりに信用できる店のはずだ」そう言って、詳しい場所を紙に――書こうかと思ったが、紙がなかった(苦笑)。

エルド:
「イーサさん、もしなにか書くものを探しているであれば、僕の持っている紙を1枚あげますよ」

イーサ:
「ああ、すまない」
 おかしいな……。ペンを持ってるのに紙は持ってなかったのか……。

エルド:
 ところがですね、僕のほうは紙を持ってるのにペンは持ってないんですよ。

一同:
(爆笑)

アゼル:
 なんで分担して持ってるんだよ(笑)。

イーサ:
 とりあえず、ヤルダー酒場の場所を書いた紙をアゼルに渡しておく。
「店に落ち合う時間は20時にしておこう」

セルピル(GM):
「20時に集合なら、それまでに情報収取する余裕も結構ありそうだね」

イーサ:
「あと、エルド。“サウンド・キャリー”は使えるか? それで一方の状況を知ることはできるだろ?」

エルド:
「いまは記憶させていませんが、必要であれば今晩のうちに記憶させておきますよ」

イーサ:
「よろしく頼む」

GM:
 念のために補足しておきますが、“サウンド・キャリー”の持続時間は2時間、有効距離は1キロです。補助石エクステンションの効果で持続時間を4時間まで延長できますが、有効距離は変わらないので、そこは忘れないでおいてくださいね。

イーサ:
 了解。それじゃ、“サウンド・キャリー”は一度合流したあとで使ってもらうことにしよう。
「それで、街に入ってからの行動だが、俺たちは商人ギルドに行ってサブリの行方について確認してみるつもりだ」

GM:
 ビューク・リマナ地方の商人ギルドは第1市壁内にあります。市門は20時に閉まると翌日の朝6時まで開きませんので注意してください。ちなみに、第1市壁内の商業区にはアスラン商会の支部もありますよ。

アゼル:
 俺たち、まだタルカンカードを持ってるんだよな。それを使って、アスラン商会から情報を得たりできないか? まあ、俺は行きたくないが(笑)。

エルド:
 カルカヴァンであんなことしたのに、どの面さげてアスラン商会に行けると思ってるんです?

アゼル:
 いや、1人だけ無関係の人間がいるじゃないか。

GM:
 まさか、セルピルに行けと(苦笑)? そもそも、セルピルは第1市壁内に入らないと宣言しているわけですが……。

エルド:
 まあ、アスラン商会は今回の件とは関係ありませんから、接触しないでおきましょう。
「僕とイーサさんは商人ギルドに行くとして、アゼルさんたちはどうやって情報収集するつもりですか?」

アゼル:
「そうだな……。最初はババク亭にいって、ハシムのことを探してみる。その後は……」

エルド:
「貧民街に行ってみたらどうです?」

セルピル(GM):
「貧民街にはバリス信者も結構いるから、顔が割れてるアタシは遠慮しておくよ。行くならアゼル1人で――」

アゼル:
「1人で行動するのは危険だ。行かなくていいだろ」

イーサ&エルド:
(苦笑)

エルド:
 まったく、このところのアゼルさんは自分の保身ばかりですね(笑)。

 こうして、ある程度の段取りを確認し終えると、一行は明日に備えて休みをとりました。


 そして、深夜2時過ぎからはアゼルとイーサが見張り番に立つことになります。

イーサ:
 これが最後のチャンスになるかもしれないからな。見張り番をしている間にアゼルに話しかけることにする。

GM:
 では、そのシーンをやっておきましょう。
 厚い雲が空を覆い、星ひとつ見えない闇夜の中に、たき火を囲むイーサとアゼルの姿があります。エルドとセルピルは、明日に備えるためスヤスヤと寝息を立てて休んでいます。周囲に獣の気配は感じられません。

アゼル:
 今晩はさすがに剣を振ってられないからな。俺はたき火をじっと眺めてる。

イーサ:
「アゼル。少し話をしてもいいか?」

アゼル:
「ん? いったい何の話だ?」

イーサ:
「まあ、ちょっとした昔話だ……」そう前置きしてからぽつぽつと語りだした。
「とある地方の小さな村で暮らしていた娘が、村の近くで行き倒れていた遺跡探索者を自称する男を介抱した。娘に助けられた男は回復したあとも村に住み着き、やがて娘と夫婦になった。そして、その2人の間にできた子供が俺だ」

アゼル:
 黙ってその話を聞いてる。

イーサ:
「俺がまだ幼い頃――もうほとんど覚えてないくらい幼い頃のことだが、村に伝染病が蔓延したことがあった。なんでも村人の半数が倒れるほどの悪病だったそうだ。困り果てた村人たちは、病に効く薬を購入するために体力のある男を数人選出し、村中からかき集めた金を男たちに託すと、大きな街へ向けて送り出した。そのとき、村人たちの金を託されて街へ向かった男たちの中に、俺の父親もいた……」

アゼル:
「……それで、どうなったんだ?」

イーサ:
「……村人たちがいくら待ち続けても、オヤジたちが村に戻ってくることはなかった。そして、何の治療も受けられなかった病人たちは、体力のない者から順に死んでいったんだ。俺の母親も含めてな……。それでも、村の連中が表立ってオヤジを非難するようなことはなかった。それどころか、村の老婆は身寄りをなくした俺のことを引き取って、この歳になるまで育ててくれもした。……だが……だがな、村の連中はきっとどこかでオヤジのことを、そして、その息子である俺のことを恨んでるに違いない――俺はずっとそんな負い目を感じながら暮らしていたんだ」

アゼル:
「……イーサも苦労して生きてきたんだな……」

イーサ:
「そんなある日、村にアルたちがやってきた。それを切っ掛けに、俺は村を出ることにしたんだ。居心地の悪かった村から出て行きたかったってのもあるが、それともう1つ、俺には心に決めていたことがあった。それは、俺のオヤジを探しだすってことだ。……いや、違うな……。正確には、俺のオヤジが死んでいることを確認するために旅に出たんだ。もし、最後までオヤジが村を救おうとしていて、その志半ばに倒れたってことが確認できれば、俺のこの負い目もきっと消えてなくなる。少なくとも、オヤジが生きていたことを証明するものがなければ、俺はそう信じて生きていける」

アゼル:
「……うむ……」

イーサ:
「そんな後ろ向きな旅の途中で、俺はお前と出会ったんだ。自分の信じたことを疑いもせず進み続けることができるお前みたいな奴とな……。お前がサブリのために命を懸けるって言ったときのことを覚えてるか? あのときのお前の姿こそ、俺が信じたかったオヤジの姿だ。そして、それは俺自身がなりたかった者の姿だ」

アゼル:
「……」

イーサ:
「お前、デミルコルを出てからというもの、ずっと無理してるだろ? 意地を張ってるというか、なんというか……。そんなのお前らしくないぞ。お前はお前らしくしてればいい。自分が感じたことを疑わずに、思ったようにやればいい。そんなお前の姿を見て、勇気づけられる奴もいるんだからな」

アゼル:
(しばらく沈黙してから)
「……本当にそうだろうか? ……俺の選択は間違っていたんじゃないか?」

イーサ:
「結果的にどっちがよかったかなんて、後になってみなけりゃわからないだろ。それに、本当に自分が正しいと思ってやったことなら、たとえどんな結果になったとしても間違ったことをしたってわけじゃない。……そう俺は思う」

アゼル:
「……ニルフェルと別れて以来、俺は自分の行動に自信が持てなくなったんだ……。選択することが怖くなった……。ふとした拍子に、また同じことを繰り返すことになるんじゃないかって思いが込み上げてきて、何かをしていないと落ち着かないんだ……」

イーサ:
「そりゃ、俺だって何かを選択することは怖い。選んだ道が正しいかなんてこともわからない。だがな、最初から結果がわかる選択なんてありはしないんだ。それが正しいと信じて進むしかないんだ。それに、万が一選択した道が間違っていたなら、それに気づいたときに選び直せばいいだろ?」

アゼル:
「……そうだな……」そう呟くと、何か思うところがあるような表情をして、立ち上がって空を見上げた。

GM:
 ……えーと、いまアゼルが見上げた夜空は、どんよりとした厚い雲で覆われている状態で、ただ真っ暗く見えるだけなんですが……。

一同:
(爆笑)

シーン外のエルド:
 まるでアゼルさんの行く末を暗示しているかのようですね(笑)。

アゼル:
 ……じゃあ、視線をクルト・ソードに向けた(苦笑)。




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