LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第5話(11)

 イーサがアゼルを励ましがてらに自分の過去話を披露したところで、クゼ・リマナ潜入開始日がやってきました。朝6時には野営地を引き払って出発となります。

イーサ:
「さあ、出発するぞ。クゼ・リマナまではもう一息だ」

エルド:
「時間差で街に入ることになったんですから、アゼルさんはここでしばらくゆっくりして、疲れを完全に癒してから出発したほうがいいですよ」

アゼル:
「そうだな」

イーサ:
「ならば、俺とエルドは先に行く。20時にヤルダー酒場で落ち合おう」

セルピル(GM):
「了解。それじゃ、またあとでね」そう言うと、セルピルは手を振ってイーサとエルドの背中を見送りました。


 こうして、イーサとエルドは昨晩の野営地を離れると、そのまま街道を西に進み、12時過ぎにクゼ・リマナへと到着しました。その頃になると、上空に厚く張り出していた雲は、雷鳴と共に小粒の雨を落とし始めます。

GM:
 クゼ・リマナの周辺には腰位の高さの石垣が連なっており、その先へ進むと民家がちらほらと見えてきました。ここで、港湾都市クゼ・リマナの見取り図を公開しておきます(と言ってクゼ・リマナ市街地図を広げる)。

クゼ・リマナ市街地図

エルド:
「天気も崩れてきましたし、とりあえず急いで宿屋に向かいませんか?」

イーサ:
「そうだな」

GM:
 では、イーサとエルドは寄り道することなくミルザ亭へと向かいました。ミルザ亭は2階建ての一般的な宿屋であり、宿泊費は1人あたり1泊40銀貨です。

イーサ:
 店の主人に「2人部屋を頼む」と言って部屋をとろう。

ミルザ亭の主人(GM):
 ミルザ亭の主人は部屋の鍵を取り出しながら、「見たところ旅の人らしいが、あんたらどっから来たんだい?」と話しかけてきます。

エルド:
「僕たちはマーキ・アシャス地方から来ました」

ミルザ亭の主人(GM):
「へぇ……。じゃあ、メーメット街道を通ってきたってわけだ」

エルド:
「ええ、そうなんですよ」
 僕、こういう嘘をつくの大好きです(笑)。

イーサ:
 部屋に荷物を置いたらさっそく外に出ることにしよう。ちょうど昼の時間だからどこかで昼飯をとらないとな。それで、昼飯が終わったら第1市壁内に向かう。

エルド:
「イーサさん、お昼はどこで食べるんですか?」

イーサ:
「以前来たときに使った店があるから、そこに行ってみよう」

エルド:
「お、いいですね。ぜひ、美味しいお店を教えてください」

イーサ:
「うむ。じゃあ、さっそく出かけるか」

GM:
 えーと、宿屋で何もせずに出かけちゃうんですか? たしか、あなたたちはサイの部屋の状態を確認するため、この宿屋を使うことにしたんだと記憶していますが……。

イーサ:
 あー。そういえばそうだったな……。すっかり忘れてた(笑)。

GM:
 せっかく段取りあわせしてきたんですから、もう少し計画的に行動しましょうよ(苦笑)。

イーサ:
 しかし、どうやってサイの部屋を確認したらいいんだ?

エルド:
 主人に握らせれば何か教えてもらえるかもしれませんよ。

イーサ:
(苦々しくうめくように)握らせるって、金かよぉ……。

シーン外のアゼル&エルド:
(爆笑)

シーン外のアゼル:
 いまのイーサの言い方(笑)。

エルド:
 何か汚らわしいものを見たみたいな言い方でしたね(笑)。

 GMとしては、ここでミルザ亭の主人に相応の額の賄賂を握らせたのであれば、サイの宿泊状況について情報提供しても構わないだろうと考えていたのですが、イーサがそれを嫌がりました。この後、イーサはお金を握らす以外の方法で、サイの情報を得られないかと長時間考え込みましたが、結局いい案が思いつかず、エルドがその場を引き受けることとなります。

エルド:
 では、外に出かける前に、僕から主人に話かけておきます。
「ご主人、ちょっとお話いいですか? 実はですね、しばらく前にイルヤソールで盗みが横行したんですが、どうもその犯人が南のほうに逃げたようなんですよ。それで、僕たちはイルヤソールで被害にあった宿屋の主人から、犯人を捕まえるように依頼を受けてここまで来たんです」

 出ました、エルドの嘘八百(笑)! はたしてうまくミルザ亭の主人を言いくるめられるでしょうか?

ミルザ亭の主人(GM):
「へぇ……。イルヤソールでそんな事件がねぇ……。で、その犯人ってのはどんな奴なんだ?」

エルド:
「僕が直接見たわけではないのですが、見たことがある人によると、短髪でよく日に焼けた肌の色をした槍使いだそうです」

ミルザ亭の主人(GM):
「はぁ……。それはまた、どこにでもいそうな輩だなぁ。それだけの情報じゃ、警戒しようにもしきれないよ。もう少し、何か具体的なことはわからないのかい?」

エルド:
「まあ、僕たちが得ている情報も少ないものですから……。とりあえず、イルヤソールで被害がでなくなった時期から計算して、ここ2ヶ月の間にこの街の宿屋を使った人のことをしらみつぶしに調べてみようと思ってるのですが……。あっ! そういえば、その犯人の男、イルヤソールで宿屋に泊まった時は、サイという名前を使っていたそうですよ」

ミルザ亭の主人(GM):
「サイ?」その名前を聞くと、主人は宿帳を開いてページをめくり始めます。

エルド:
「おや? なにか心当たりでも?」

ミルザ亭の主人(GM):
「あった、あった。サイって名前の奴なら、うちにもしばらく前から泊まってるのがいるな」

エルド:
「泊まってるということは、まだいるんですか?」

ミルザ亭の主人(GM):
「部屋は取ったままだね。ここ3週間くらいは姿を見かけないから、いい加減に部屋を整理しちまおうかと考えてたところなんだ。格好からして探索者っぽかったから、どっかに出かけてってそのままくたばっちまったんじゃないかと思ってたんだが……。まさか、そのイルヤソールを騒がせたっていう盗人だったのか?」

エルド:
「うーん、どうでしょうね。もちろんその可能性はありますが、本人だったとしたらサイという名前を変えずに使っているというのも不思議な話です。いずれにしても、確証が得られないうちに決めつけるのはよくないと思います。とりあえず、今のところは警戒だけしておいていただけますか? それで、部屋に戻ってきたようなら僕たちに教えてほしいんですが……」

ミルザ亭の主人(GM):
「うーん……。しかし、そういうことなら、あんたたちだけに任せておかずに官憲にも届けておいたほうがよさそうだな。そうだ、さっそく官憲に連絡してあの部屋にある荷物を預かってもらうことしよう。荷物の中から盗品がでてくれば盗人であることは確定するし、調べたのが官憲ならば客もそこまで文句は言わないだろうしな」

イーサ&エルド:
「……」

 まっとうな市民は、どこの誰かもわからない者よりも公的組織を頼ります。とくに犯罪にかかわることであればなおさらです。今回エルドがとった、救出すべき身内に犯罪の容疑をかけるといった行動は、リスキーな選択だったと言わざるを得ません。まあ、面白いハッタリではありましたが(笑)。

エルド:
 ……よし、これで無責任交渉人の出番は終わりました。作戦を終了します。

イーサ:
 んー。まあ、サイが3週間不在なことは確認できたわけだし、これはこれでいいか。

シーン外のアゼル:
 いや……これ、絶対あとで問題になるだろ(苦笑)。ただでさえ、遺跡探索っておおやけには禁止されてるんだろ? サイをバリス教団から救い出せたとしても、そのあと官憲とひと悶着起きるんじゃないか(笑)? 

イーサ&エルド:
 ……。
(無言で視線をそらす)

エルド:
 さて、それじゃ商人ギルドに行きましょうか……。

イーサ:
 そうだな。だがその前に昼飯に行くとしよう……。

シーン外のアゼル:
 なんで何もなかったような空気を醸し出してるんだよ(笑)!

 こうして、何食わぬ顔でミルザ亭を後にしたイーサとエルドは、飲食店で昼飯を済ますと、市門を抜けてビューク・リマナ地方の商人ギルド本部を訪れました。

 なお、商人ギルドは地方ごとに組織されており、シシュマンたちが所属するヤナダーグ・プラト地方の商人ギルドと、ビューク・リマナ地方の商人ギルドは別組織ではありますが、提携関係にあります。

GM:
 では、イーサとエルドの2人は、見事な建物の並ぶクゼ・リマナ第1市壁内の街中を歩いて、商人ギルド本部の前までたどり着きました。商人ギルドには巨大な馬車倉庫が併設されているのですが、あなたたちはその倉庫の中に、見覚えのある荷馬車を目にすることになります。“記憶術”の判定を目標値10でどうぞ。

エルド:
(コロコロ)成功です。

GM:
 ならば、エルドにはその荷馬車がシシュマンの使っていたものであることがわかりました。

エルド:
「イーサさん、あの荷馬車はシシュマンさんのものじゃありませんか?」

イーサ:
「ん? そうなのか? ってことは、やはりシシュマンたちはすでにこの街に着いてるわけだ。なら、まずはシシュマンのことを訪ねてみるとしよう」そう言って、ギルド本部に入って行く。

GM:
 商人ギルド本部の建物内に入って行くと、入口のすぐ近くに受付があり、そこに2人の受付嬢が座っています。

商人ギルドの受付嬢(GM):
 イーサのことを見て、身内ではないと素早く判断した受付嬢の1人が、笑顔を浮かべて声を掛けてきました。
「いらっしゃいませ。当商人ギルドにどのようなご用件でしょうか?」

イーサ:
「俺たちはヤナダーグ・プラト地方の商人ギルドに所属するシシュマンという名の商人の知り合いなんだが、彼はここにいるだろうか?」

エルド:
「いやぁ、表からシシュマンさんの荷馬車が見えたものですから、こちらにいらっしゃるようであれば、ご挨拶しておこうかと思いまして」

商人ギルドの受付嬢(GM):
「シシュマン様ですね。ただいま確認してまいりますので、そちらの席にお座りになって少々お待ちください」そう言うと、応対した受付嬢は建物の奥へと姿を消します。そして、しばらくするとあなたたちの座っている席まで戻ってきて、「シシュマン様はこちらにお見えになるとのことですので、もうしばらくお待ちください」と告げました。

GM:
 それから10分もたたないうちに、肉づきのいい身体を揺らしながらシシュマンが姿を現します。

シシュマン(GM):
「おお! 久しぶりだな2人とも」

エルド:
「お久しぶりです」
 なんだか、ずいぶんと懐かしい感じがしますね。

シシュマン(GM):
「まさか、こんなところでお前さんらと再会することになるとはな。いったい、どうしたんだ? 見たところニルフェルたちの姿がないようだが……」

イーサ:
「色々あって、クゼ・リマナに来ることになってしまって……。わけあって、ニルフェルたちとは別行動を取ることになったんだ。一応、アゼルはこの街に来てるんだが……」

エルド:
「アゼルさんは旅の疲れが溜まっているので、しばらく宿屋で休んでるって言ってました」

シシュマン(GM):
「ほう……。しかし、あのアゼルがニルフェルと別行動をとってるっていうんじゃ、何か大きな問題でもあったのか?」そう言うと、シシュマンは少し心配そうな顔をしました。

イーサ:
(ボソリと)「……ホント、なんでこんなことになっちまったんだろう……」

シーン外のアゼル&エルド:
(爆笑)

シーン外のアゼル:
 重いッ! イーサの漏らす一言が重すぎるよッ(笑)!

シシュマン(GM):
「やっぱり、よくないことがあったのか?」

エルド:
「いやぁ、そんなに深刻な話というわけでもないんですよ。アゼルさんがあまりに寄り道するものだから、ニルフェルさんが業を煮やして先に行ってしまったってだけのことです」

シシュマン(GM):
「先に行ってしまっただけのことって……。そりゃ、大したことだろ? 王都までの旅っていうのは、ワシら商人にとってもそんなに簡単なことじゃないんだぞ」

エルド:
「まあ、その点はセルダルさんがニルフェルさんについて行ってるので大丈夫だと思いますよ」

シシュマン(GM):
 エルドの言葉に、シシュマンは煮え切らないといった風に頭をかきました。
「それじゃあ、アゼルの奴、ショック受けてるんじゃないか?」

エルド:
「そうですね。いまだに立ち直れてはいないようです。あそこの従兄妹はこれまでベッタリでしたからね」

シシュマン(GM):
「だったら、今晩あたりアゼルの奴も誘って、景気づけにうまい飯と酒でもやりに行くとするか? ワシのほうは商売に一段落ついたところだ。少しは懐も暖かくなっとるから、それくらいだったら奢ってやろう」

エルド:
「イーサさん、どうしますか?」

イーサ:
「そうだな。それじゃ、アゼルにも声を掛けてみるとするか」

GM:
 いいんですか? あなたたちは情報交換のために20時からヤルダー酒場で落ち合う予定でしたよね?

イーサ:
 うおッ! また忘れてた。どうすりゃいいんだッ!?

GM:
 いや、普通に断ればいいじゃないですか(苦笑)。

イーサ:
 なんかダメだ。俺はダメダメだ……。
「あ、そういえば今晩は別の用事が入ってるんだった。食事はまた別の機会に……」

シシュマン(GM):
「そうか。じゃあ、また都合のいいときにするか」

エルド:
「ところで、サブリさんもここまで無事に到着したんですか?」

シシュマン(GM):
「ああ。ワシとサブリがこの街についたのは3日前だ。ワシはそのままここで厄介になってるが、サブリの奴は別口で取引があるからと言って、街に入ったところで別れてった」

エルド:
「そうなんですか……。しかし、僕たちが突然護衛を降りる羽目になったから、お2人の到着はもっと遅れるものかと思ったんですが、よく3日前にここまで来られましたね」

シシュマン(GM):
「それが、運がいいことに、バスカン一座がカルカヴァンを離れてこの街に向かうってところにちょうど便乗させてもらえてな。まさに渡りに船ってやつだった。おかげでここまでは楽をさせてもらった。なにせ数十人での旅だからな。道中、襲われる心配をせずにすんだ。たしか、バスカン一座は劇場近くに座を構えるって言ってたから、時間が空いたら行ってみたらどうだ?」

エルド:
「そうですね。余裕があったら行ってみます。せっかくだから、サブリさんの元気な顔も見ておきたかったんですけどね……」

シシュマン(GM):
「サブリの奴は借金のこともあって、ずいぶんと急いでたからな。もしかすると、すでにこの街を離れてカルカヴァンに戻っちまったかもしれんぞ」

イーサ:
「なるほど。それじゃ、この街で会うのは難しいかもしれないな。まあ、こうやって思いがけずあなたに会えただけでもよかった。それじゃ、俺たちは次の用事があるのでこれで」

シシュマン(GM):
「なんだ? もう行っちまうのか?」

イーサ:
「俺たちもいろいろとやらなくちゃならないことがあるんで」

シシュマン(GM):
 では、シシュマンは、「アゼルの奴によろしくな!」と声を掛けて、去って行くあなたたちを見送りました。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。