GM:
では、イーサとエルドに遅れること十数分。アゼルとセルピルがヤルダー酒場の個室に通されてきました。
イーサ:
「おお、来たか」
アゼル:
「ああ、待たせたな」そう言って席に着くと、調べたことを報告する。
「こっちはババク亭でハシムに関する話を聞いてきた。どうやら、ハシムはここ数日、部屋に戻ってきてないらしい。めぼしい情報はそれだけだな」
イーサ:
「そうか……」
セルピル(GM):
「そっちの首尾はどんな感じ?」
イーサ:
「サイも3週間近く部屋に戻ってないそうだ」
セルピル(GM):
「そっか……。じゃあ、アタシと一緒にバリス教団から逃げだしたっきり、一度も戻ってきてないってことだね……」
アゼル:
「2人とも、うまく身を隠して逃げているならいいが……」
イーサ:
「最悪の場合、サイが教団につかまり、ハシムのことを話してしまって、ハシムも教団に捕えられたって線も考えられるな……」
セルピル(GM):
「そうは思いたくないけど、考慮して動かないとね……。それで、他に何か役に立ちそうな情報はあった?」
イーサ:
「ああ。俺たちのほうは商人ギルドに足を運んでみたんだが、そこでシシュマンにあった」そう切り出して、シシュマンとの会話の内容と、その後にバスカン一座で聞いた、サブリが新たに護衛を雇おうとしてるって話を報告しておく。
アゼル:
「……ってことは、サブリさんが運んでいた荷物が本当に妖精石だったとしたら、すでにバリス教団は妖精石を手に入れたってことか?」
エルド:
「いえ、それはまだわかりません。たしかなことは、サブリさんがこの街に到着済みだってことだけです」
イーサ:
「サブリは護衛を探していたらしいからな。もし、まだ護衛を見つけられずにいるとすれば、取引が終わってない可能性もある」
エルド:
「なんとかサブリさんを見つけ出して接触してみたいところですが、どうやってサブリさんの居場所を特定すればいいでしょうかね? たとえば、この街で護衛を雇おうとしたらどこに行くものなんでしょうか?」
イーサ:
普通に考えると、酒場とかか?
GM:
そうですね。酒場もなくはないのですが、それよりも宿屋に護衛依頼の張り紙を掲示してもらうことのほうが多いです。宿屋は酒場と違って基本的に外から来た旅人が利用するものですし、しらふで見てもらえますからね。あとは、総督府などの公的機関を通すと、身元のたしかな人材を紹介してもらえたりもします。
アゼル:
「バリス教団と取引するんじゃ、総督府がらみの人間を使うわけにはいかないだろ……。とすれば、宿屋か酒場だな」
エルド:
「じゃあ、護衛の仕事を請け負いそうな人たちが集まる場所をあたって、サブリさんにつながりそうな手がかりを探してみましょうか?」
アゼル:
「ならば、ここの店員にその手の店を教えてもらうとするか」
さっそく店員を呼ぼう。
GM:
では、ヤルダー酒場の店員は、このお店ではそういった仕事のあっ旋はしていないことと、仕事をあっ旋しているお店は有象無象にあるということを教えてくれました。
イーサ:
この街に宿屋と酒場はいくつくらいあるんだ?
GM:
クゼ・リマナはビューク・リマナ地方の中枢都市で、貿易ルートの要ですからね……。宿屋は大小あわせて約50軒、酒場は約100軒ってところです。
イーサ:
そんなにあるのか……。総当たりしてたら、数日がかりになるかもなぁ……。こういうときは、やっぱり盗賊ギルドで情報収集するべきか?
アゼル:
この世界に盗賊ギルドは無いだろ(笑)。……って、否定したが、実際ソード・ワールドRPGみたいな盗賊ギルドなんて存在しないんだよな?
GM:
絶対存在しないとまでは断言しませんよ。ですが、仮にそんな組織があったとして、堂々と看板掲げて営業していると思います? もし、いわゆる盗賊ギルドなどで入手できそうな裏情報のたぐいを得たいというのであれば、貧民街の酒場に行って情報屋を探してみたほうがいいでしょうね。
エルド:
「うーん……。もし、サブリさんが護衛をつけるとしたら、どういった人を選ぶと思いますか?」
アゼル&イーサ:
「……」
一同:
(互いに無言で悩み込んでしまう)
ここでプレイヤーが押し黙ってしまったので、さりげなく助け船を出すことにしました。まだ、完全に詰まったわけではないので、できる限りささやかに。
セルピル(GM):
「あの……。悩んでるところ悪いんだけど、もう一度確認させてもらっていいかな? そのサブリって人はなんで護衛を雇おうとしてるの?」
エルド:
「それはおそらく、商品の取引に身の危険を感じるからだと思いますよ。なにせ、取引相手はあのバリス教団でしょうから、取引が無事に成立する保証はありません。……そうなると、実力のある人を雇おうとするでしょうか?」
アゼル:
「そうだな……。それと、できるだけ信用できる者を雇おうとするだろう。信用できて、かつ腕の立つ護衛となると……」
エルド:
「遺跡探索者ですかね?」
GM:
ブッ(失笑)!
遺跡探索者は国の定めた法律に従わない無法者です。よほど付き合いの深い相手でないかぎり、信用できるはずがありません。このあたりは、ソード・ワールドRPGなどの「冒険者=善意のヒーロー」という認識でいると誤解してしまいがちです。まあ、だからといって正義の遺跡探索者がまったくいないというわけでもないですけれど……。
セルピル(GM):
「あのさぁ……。遺跡探索者には悪人なんていないとでも思ってる? 中にはバリス信者だっているよ?」
アゼル:
「それはそうだよな……。とくに、バリス信者を護衛として雇うのはまずいだろ……」
(そこで何かに気がついて)
「……ってことは、エルバート寺院で護衛を探せばいいのか? そうすれば、少なくとも誤ってバリス信者を護衛として雇ってしまうことを避ける効果はありそうだが……」
エルド:
「エルバート寺院で護衛の募集をしようだなんて考えますかねぇ?」
アゼル:
GM、ちょっと確認したいんだが、シシュマンさんたちがやってたみたいに、旅に出発するときと街についたときにエルバート寺院に立ち寄るって行為は一般的なものなのか?
GM:
ええ、一般的な行為ですよ。エルバート教の援助を必要とする旅人であれば、当然、出発前と到着後にエルバート寺院に立ち寄ります。
アゼル:
うん。これ、あたりじゃないか?
「隊商とかの護衛としてこの街に到着した者は、エルバート神以外の神を信仰しているとかの理由がない限り、エルバート寺院に立ち寄るだろ。それで、その中にはきっとこの街で護衛の任務を終える奴もいるだろうから、そういった奴なら護衛として雇えるんじゃないか?」
エルド:
そうすると、サブリさんは……(クゼ・リマナの地図を指さして)第1市壁外にあるエルバート寺院にいるってことですか?
GM:
ちなみに、第1市壁内にもエルバート寺院はありますよ。まあ、ただの寺院ではなく、大寺院なわけですが。
アゼル:
(地図を確認して)本当だ(笑)! じゃあ、第1市壁外の寺院は派出所みたいなもんか。
「よし、それじゃ俺は明日、第1市壁外にあるエルバート寺院を見張る!」
エルド:
ほうほう……。つまり、アゼルさんは一番楽なところを選びやがったわけですね?
アゼル:
い、いや、一応、俺は敬虔なエルバート信者だし……(汗)。
イーサ:
まあ、それが妥当な配役だろうな。
「じゃあ、俺とエルドで宿屋と酒場をまわるとしよう」
セルピル(GM):
「アタシはしばらく宿屋で大人しくしてようと思う。今日の調査でもそうしたんだけど、どうもハシムまで宿屋に戻ってこれないような状況みたいだからね。もし、アタシの協力が必要になることがあったら、宿屋まで来てくれる?」
アゼル:
「ああ、了解だ」
セルピル(GM):
「それと、これからの調査にこれは必要?」そう言うと、セルピルは自分の荷物袋の中からバリスの聖印を取り出してみせました。
「もし必要なようだったら、渡しておくけど……」
イーサ:
「うーん……。まあ、いまのところは必要ないだろ。不用意にそれを持ちだすと、厄介なことになりかねないからな……。サブリのことを見つけられず、直接バリス教団と接触する必要がでてきたときに、あらためて貸してくれ」
セルピル(GM):
「わかった。もし必要になったら言ってね。それまではアタシが持ってるから」
イーサ:
「それじゃ、今日はこれで解散しよう。明日も今日と同じ時間にここで落ち合うってことで」
こうして、酒場での情報交換と今後の方針決定を終えると、一行は明日の調査に備えて、早々に解散しました。
そして、アゼルたちと別れたイーサとエルドは、自分たちが泊まっている宿屋への道を歩き始めたのですが――
エルド:
「あ、イーサさん、先に宿屋に戻っていてもらえますか? 僕、もう少し夜の街をまわってみようと思います」
イーサ:
「ん? あ、ああ……。それはいいが、あまり無理はするなよ」
エルド:
「ええ。わかってますって」
――エルドだけは直接宿屋に戻らず、夜の街へと消えて行ったのでした。
キャンペーン進行の都合上、次回は1シーン飛ばします。