夜が明け、一行はクゼ・リマナで初めての朝を迎えます。数日ぶりにベッドで休めたこともあり、この時点で全員の生命点・精神点・疲労が全快しました。
GM:
では、クゼ・リマナに到着してから2日目の行動を解決していきます。サブリの行方を探すということで、まずは……アゼルのほうから処理していきますか。
アゼル:
じゃあ、俺は朝起きたら、第1市壁外にあるエルバート寺院に向かうぞ。
GM:
了解です。ならば、アゼルは宿屋から出て行こうとしたところで、宿屋の出入り口付近の壁に、昨日はなかった張り紙が出されていることに気がつきました。
アゼル:
お? まさかサブリさんの出した護衛募集とか?
GM:
いえ、残念ながらそうではありません。そこには次のような内容が書かれています。
不法滞在者に対する貧民街からの立ち退き要求実施に伴う人員の募集。
雇用期間は本日から数日間の予定。立ち退き要求は、毎日正午より日没まで実施。日当は200銀貨。ただし、雇用中に怪我などを被った場合の補償はなし。応募者はアスラン商会クゼ・リマナ支店まで。
GM:
立ち退き要求と書いてありますが、怪我の危険性が伴う人員募集ということで、暗に強制退去を実施すると言ってるようなものですね。
アゼル:
ふーん。まあ、張り紙は見た。で、エルバート寺院に向かう。
GM:
……。
安定のスルースキル発動。この張り紙は、クゼ・リマナの街の状況を伝えるために出しただけだったので、ここで強制退去に立ち会う必要はないのですが、せめて何らかのリアクションくらいはあるかなと思っていました(汗)。
GM:
では、ババク亭を出たアゼルは、8時過ぎにはエルバート寺院に到着しました。
アゼル:
寺院についたなら、サブリさんを探す前にまずエルバート神への祈りをささげよう。俺はエルバート信者だからな。それが終わったら、周りを見渡して、それらしい隊商やらなにやらがやってこないか確認してる。
GM:
そうするとアゼルには、この時間帯にエルバート寺院を訪れる者の大半が、この街から別の街に旅立とうとしている人たちであることがわかりますね。訪れた者の多くが、寺院の記名帳に名前を書いてから神に祈りをささげ、導師と話をして割符を受け取ったのちに寺院を出て行きます。
アゼル:
まあ、街から出ていく奴らに用はないよな……。
これ、導師にサブリさんが来なかったか聞いてみればいいのか? ……いや、さすがに導師も、訪問者1人1人のことまでは覚えてないか……。
思いついたことがあれば、それを実際にやってみれば何らかの結果が得られるところなのですが、自分の案を自ら否定してしまい、結局実行に移さないアゼルでした。
GM:
さて、アゼルは何時までエルバート寺院に張り付いていますか? 午後になれば、街の外からやってくる者も増えてくることが予想されますが……。
アゼル:
ああ、そうか。いまは午前中だから外からくる奴が少ないのか……。それなら、昼になる前に買い物にでも行ってくるかな。前回のセッション以来、ラージ・シールドを買っておきたいと思ってたんだよ。
GM:
わかりました。ラージ・シールドなら、雑貨屋の近くにある防具屋で購入することができます。
アゼル:
ちなみに、いま使ってるスモール・シールドは、そこで買い取ってもらえるのか?
GM:
ええ、買い取りもしていますよ。
アゼル:
(ほかのメンバーに向かって)それとも、誰か欲しい奴いるか?
シーン外のイーサ:
俺はすでに持ってるからいらない。
シーン外のエルド:
僕も常に両手がいっぱいなので、盾はいらないです。“ディフレクト”するくらいなら“回避”しますし。
アゼル:
じゃあ、売る。で、必要筋力13のラージ・シールドを購入。
GM:
了解です。スモール・シールドは44銀貨で買い取ります。ラージ・シールドは530銀貨で購入してください。
LOSTにおける中古アイテムの買い取り価格は、売値の25%を基本としています。そこから、消耗度合に応じて買い取り価格が下がっていくのですが、アゼルは盾を使い込んでいなかったので満額買い取ることにしました。まあ、盾に関する損耗度合というのはフレーバーですが。
GM:
買い物にいったアゼルのほうはいったんストップしておいて、その間にイーサとエルドのほうを進めておきましょう。2人はどんな調査を行いますか?
イーサ:
昨晩決めたとおり、宿屋と酒場をまわって、サブリが護衛の求人を出してないかを確認だな。まずは、第1市壁外をまわるとしよう。エルドもそれでいいよな?
エルド:
ええ、それは構いませんが、それくらいのことであれば、二手に分かれて行動したほうが効率よくないですか?
イーサ:
そうだな。じゃあ、メーメット街道の東側と西側で分かれるか。俺は東側を担当しよう。
エルド:
そうすると、僕は西側担当ですね。貧民街のほうですか……。
GM:
では、イーサとエルドは手分けして宿屋や酒場をめぐることにしました。
エルド:
調査に出る前に1つ確認しておきたいんですが、僕たちの泊まっていた宿屋には、アスラン商会から出されていた立ち退き要求の人員募集に関する張り紙はなかったんですか?
GM:
あ、それはありましたよ。内容はアゼルが見たものとまったく同じです。
エルド:
じゃあ、宿屋を出る前に、「イーサさん、何か張り紙が出てますよ」と2人でその内容を確認しておきます。
イーサ:
「ほう……アスラン商会からの募集か……。これに参加して、バリス教団の連中に実力をアピールするってのもありかもしれないな」
エルド:
「そうですね。貧民街での活動となるでしょうから、きっとバリス信者の目にも触れますよ。それに、アスラン商会の後ろ盾があれば、何かいざこざがおこったとしても安心です」
イーサ:
「なら、サブリのことを見つけられなかったときには、これに応募してみるか……」
エルド:
「ここに書かれた内容によれば、今日の正午から立ち退き要求が始まるようですが……すぐにアスラン商会に行ってみるべきでしょうか?」
イーサ:
「いや、1日限りの仕事というわけでもないようだし、今日のところはサブリを探すことに専念しよう」
GM:
一応確認しておきますが、すでに説明したとおり貧民街にはひそかにバリス神を信仰する者も多く暮らしているわけで、そんな彼らに対する立ち退き要求に参加するということは、立場的に敵対するってことですからね。何か妙案が思いついているのであれば構いませんが、普通に考えたら、恨まれることはあったとしても、実力を認めて接触してくるってことはまずあり得ませんよ。
イーサ:
そうか、逆効果か(笑)。
GM:
たとえば、あからさまに喧嘩を売っておいて、相手が攻めてきたところで返り討ちにするとか、逆にアスラン商会の立ち退き要求に立ち向かうとかして信頼を得ようというのであればわかりますが……。
エルド:
まあ、どちらにしても、この立ち退き要求をつかって、バリス教団に潜入する切っ掛けがつくれそうだってことはたしかですね。
「それで、イーサさん。二手にわかれてサブリさんのことを探すのは構いませんが、合流する時間と場所はどうしますか?」
イーサ:
「じゃあ、昼メシ頃になったら一度この宿屋に戻ってくることにしよう」
エルド:
「わかりました。では、行ってきます」
こうして、イーサとエルドは二手にわかれ、それぞれ宿屋と酒場を巡ってサブリの痕跡を探すこととなりました。
GM:
では、ここで全員《2D》を振ってみてください。もっとも高い人にイベントが発生します。
アゼル:
(コロコロ)おおっ! 久々にいい目が出た。11で俺だな。
GM:
ならば、アゼルは《ランド・ウォーカー、もしくはハンター技能レベル+知力ボーナス+2D》での索敵判定を行ってみてください。
アゼル:
(コロコロ)15。
GM:
(コロコロ)ふむ……。そうすると、アゼルのほうが先に気がついたようですね。アゼルがラージ・シールドを購入し終えて防具屋を出たところで、目の前の大通りを見覚えのある人物が横切っていくのが見えました。その人物はフードを被っているので、横顔がチラリと見えただけなのですが、まず間違いないでしょう。
アゼル:
サブリさん発見か?
GM:
いえ、その人物はサブリではありません。
フードを被った人物(GM):
こんな人です(と言ってキャラクターイメージを提示する)。
アゼル:
ぬおおおおぉぉぉッ! この顔は見覚えあるぞッ!
「あ、あいつはッ! たしか、ダットとかいう奴じゃ……」
じゃあ、慌てて身を隠す。
ダット(GM):
アゼルが身を隠すのであれば、ダットはあなたの存在には気がつかず、そのまま遠ざかって行きます。
アゼル:
ここは“尾行”するべきか? ……いや、俺はスカウト技能もってないし、やめておこう。
ダット(GM):
追いかけないのであれば、ダットは街中に姿を消してしまいました。以上です。
アゼル:
あ……あれ? それでおしまい?
GM:
ええ、“尾行”しないのであれば、これでおしまいです。ダットがアゼルを発見する前に身を隠されてしまいましたからね。もし隠れていなければ、あちらも気がついていたかもしれませんが……。
アゼル:
なーんだ。むしろ、向こうが先に気がついてくれればよかったのになぁ(笑)。
GM:
選択権を得ていつつ、自らスルーしたのに、言うに事欠いてそれですか(苦笑)。まあ、ダットがこの街に来ていることを確認できただけでも、得るものはあったと思ってください。
GM:
さて、そのような感じで、午前中いっぱい第1市壁外で情報収集を行っていた3人でしたが、残念ながらサブリにつながる情報を得ることはできませんでした。
エルド:
では、お昼になったら僕はミルザ亭に戻って、イーサさんと情報交換しておきます。
エルドがここから話す情報をどのようにして得たのかについては、現在進行形で進められているキャンペーンの都合上、もう少し話が進んでから公開します。とにかく、エルドはほかの誰もあずかり知らないところで、独自の情報収集をしていました。
エルド:
「イーサさん、サブリさんについての情報は得られませんでしたが、その代わりに興味深い話を聞くことができましたよ」
イーサ:
「興味深い話?」
エルド:
「今日の15時頃から中央門前の広場で、バリス信者の公開処刑があるそうなんです。それには、ビューク・リマナ地方総督のムバーシェも立ち会うって話でした」
イーサ:
「ほう……。シバールか……」
シーン外のアゼル&エルド:
……?
GM:
……いったいぜんたい、そのシバールという単語はどこから出てきたんですか?
エルド:
(イーサが何を勘違いしているのかに気がついて)
「あ……。いえ、シバールではなく、ムバーシェです」
GM:
え? そこ? ムバーシェとシバールって、全然違いますよね(笑)?
エルド:
あまりにも結び付かない名前だったので、僕もビックリしました(笑)。
イーサ:
「そうか……。なるほど、ムバールだな……」
GM:
はッ? いま、なんて?
シーン外のアゼル&エルド:
(爆笑)
ボケて言ってるならまだしも、イーサが真面目な顔をして言っていたため、皆お腹を抱えて笑い出してしまいました。
エルド:
「ム・バー・シェ・です(笑)!」
イーサ:
「ム、ムバーシェか……」
エルド:
「もしかして、その名前に聞き覚えありませんか?」
イーサ:
「んー、ムバーシェ……ムバーシェねぇ……」
GM:
一応、目標値8の名声知識判定を成功させれば、知っていたことにしてもいいですが……さっきの反応からすると、きっと知らないと思います(笑)。
イーサ:
(コロコロ)11で成功!
「あー、ムバーシェか! 聞いたことがあるな!」
GM:
ぶはッ(失笑)! 何か釈然としないものがありますが……まあ、いいでしょう。
一同:
(爆笑)
イーサ:
知ってる。知ってる。つまり、そいつはビューク・リマナの総督で、裏でバリス教団とつながってるんだろ?
エルド:
いや、イーサさん……。いくらなんでも、その理解はまずいですよね……? ムバーシェはこれからバリス信者を公開処刑しようとしてる人物なんですよ? バリス、ダメ、絶対って言ってる人です。
シーン外のアゼル:
総督がバリス教団とつながってたら、大問題だろ(笑)! さすがにそれくらいは俺にでも理解できてたぞ。
GM:
ここで、ムバーシェの人物像について簡単に説明しておくと、彼は自分の出世のためならば、弱きを挫き、強きに媚びる、ビューク・リマナ地方の総督です。目先の利益ばかりを優先するので、長期的に見ると評価は低いのですが、日々の生活に追われて長期的な視野を持てないでいる一般人からは、案外人気があったりします。バリス教団と真っ向から対立している人物ですね。
イーサ:
なるほど、理解した。
「……そうか。バリス信者の公開処刑があるのか……」
エルド:
「あと、もう1つ面白い話を耳にしました。……イーサさんは、街で不審船の噂を聞きませんでしたか?」
イーサ:
「いや、初耳だな」
エルド:
「なら、かいつまんでお話します。昨日の朝方、港から見える場所に不審船が現れ、海賊船の疑いもあるということで、港に停泊していた商船は出航を見合わせたそうなんですよ。不審船自体は、しばらくしてから出動した総督府の軍船によってあっさり拿捕され、商船も通常どおり出航できるようになったらしいんですが、その後、総督府は不審船に関する情報を一切開示しなかったそうです。このような場合、出航を見合わせていた商船のオーナーたちに対して、何らかの説明があってしかるべきだと思うのですが……。それで、何かおおやけにできないようなことでもあったんじゃないかって、街の人たちの間ではちょっとした話題になっていて、その不審船は幽霊船だったんじゃないかなんて噂をしている人もいるんだそうです」
イーサ:
「ほう……。それで、拿捕された船はどうなったんだ?」
エルド:
「港の総督府用区域に運び込まれたあとのことはわからないそうです」
イーサ:
「じゃあ、いまも港にあるのか?」
エルド:
「そこまではわかりませんが、まるで総督府が不審船に関する情報を隠ぺいしようとしているみたいで、興味深くありませんか? それと、これも人づてに聞いた話ではあるんですが、不審船の目撃者によると、どうやらその不審船はバッツという男が率いる海賊団が所有していた海賊船だったみたいですよ」
イーサ:
「海賊船ねぇ……。普通、海賊船がこんなところまで来るもんなのか? 港から船影が見えるところまで近づいて来たら、わざわざ捕まえてくださいと言ってるようなもんじゃないか……」
エルド:
「そうなんですよね。僕もちょっと気になった話だったので、イーサさんにお伝えしておこうかと思いまして……」
イーサ:
うーん……。で、その話に俺はどう反応すればいいんだ?
エルド:
いや、一応伝えておこうと思っただけで……。それ以上のことは……。
話の展開を無視して情報だけ開示しようとすると、こうなりがちです(苦笑)。やるべきことが見えている間は、関係のない情報の開示を控え、関連性が見えたり、ほかの手がなくなったタイミングで開示するようにすれば、流れを崩さずにすむでしょう。まあ、このタイミングで話しておいたほうがリアリティはあると思いますが……。自然な流れと現実味、どちらを優先すべきか悩ましいところです。
エルド:
「それで、話は戻りますが、午後からはどうしますか?」
イーサ:
「うーん。公開処刑はこれからか……」
エルド:
「バリス信者の処刑ですからね。教団の関係者が見に来るかもしれませんよ」
イーサ:
「そうだな。第1市壁外の宿屋と酒場はあらかた回り終えたし、昼飯を済ませたら公開処刑を見に行ってみるか」
こうして、イーサとエルドは昼食を終えると、第1市壁の中央門前広場へと足を運んだのでした。