LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第5話(19)

GM:
 では、時間を少し進めて20時頃。場所はヤルダー酒場の個室内になります。そこに、セルピルを含むあなたたち4人が集合しました。

イーサ:
 ひとまず、今日あったことを全部セルピルにも伝えておこう。
「――ってのが今日あった出来事なんだが……」

セルピル(GM):
「なるほどね……」そう言って、セルピルはうなずきました。
「で、そのサブリっていう商人の護衛の件はどうするつもり?」

イーサ:
「そうだな。あらためて、サブリから聞いた感じからすると、サブリの取引相手はバリス教団と考えてほぼ間違いないだろう」

エルド:
「この街に根付いている無法者って話ですから、間違いありませんね」

イーサ:
「とりあえず、バリス教団と接触するためにも、護衛の仕事は引き受けようと思う。問題は、バリス教団と接触したところでどうするかなんだが……。この際、仲間に加えて欲しいと持ち掛けるのはどうだ?」

アゼル:
「いや、それだと、俺たちは取引相手がバリス教団だと知っていたってことになる。そうなったら、相手に怪しまれるんじゃないか?」

イーサ:
「そうか? 少なくとも、サブリは相手のことをバリス教団として認識してると思うが……」

セルピル(GM):
「アタシも、そのサブリって人は取引相手がバリス教団だって認識してると思うな。わざわざ第1市壁内の港で護衛を雇おうとしてたってところも、間違ってバリス教団関係者を護衛に雇うことがないようにした結果って感じだしね」

イーサ:
「だとすれば、俺たちがサブリから取引相手がバリス教団だって知らされていたとしても、おかしい話じゃないだろ?」

エルド:
「じゃあ、次にサブリさんにあったら、そのことを聞き出しておいたほうがいいわけですね」

イーサ:
「そうだな」

エルド:
「ただ、仲間になりたいと持ち掛けるのはいいんですが、もしそのときに向こうから、仲間として受け入れる条件として、とんでもないことが要求されたらどうします?」

イーサ:
「とんでもないこと?」

エルド:
「たとえば、サブリさんを殺して荷物をただで引き渡せとか……」

アゼル:
「……そうか。そういう展開も考えられなくはないのか……。なら、バリス教団に仲間として入り込むんじゃなく、相手を捕えて情報を聞き出す方向で考えるか?」

セルピル(GM):
「ちなみに、情報を聞き出すって、いったい何を聞き出すつもりでいるの?」

アゼル:
「それは、サイやハシムがどうなっているかとか、どこに捕えられているのかとか……」

セルピル(GM):
「もし、それを聞き出せたとしても、一度バリス教団の連中に手を出したら、今以上に警戒されることになると思うけど……。まさか、正面から教団とことを構えるつもりじゃないよね? バリス信者は数百人単位でいるんだよ? いくら、アンタたちがモノケロースを狩るだけの腕前があるといっても、それだけの相手を敵に回すのはまずいんじゃない?」

アゼル:
「うーん……。ならば、聞き出した情報を総督府に密告してやればいい。総督府付きの騎士たちなら、バリス教団のアジトを制圧できるだろ?」

セルピル(GM):
 セルピルは目眩を覚えたかのように頭を押さえました。
「アタシが、サイとハシムを救うために、アンタたちの協力を仰いだんだってことは覚えてるよね? おおごとになって総督府とかが動くと、サイとハシムの命が危険にさらされることになるから、そうなる前に2人の無事を確保したいって、アタシ言ったよね?」

アゼル:
「そうか、そうだったな……。ならばどうする?」

エルド:
「たとえば、こういうのはどうです? 相手を捕えたら、彼らに“変装”して、僕たちがバリス教団のアジトに入り込むんです」

アゼル:
「さすがにそれは難しいんじゃないか? 俺とイーサは“変装”できないし……」

 “変装”の処理はソード・ワールドRPGのルールに準ずるので、他人に対しても“変装”を施せます。ただし、達成値が-4されて感づかれやすくはなりますが……。

エルド:
「“変装”するのは僕だけで、あとは仲間になりたいと言ってきたとか、セルピルさんについては捕まえたってことにすればいいんじゃないですかね?」

イーサ:
「そんな方法で誤魔化せるとは思えないがなぁ……」

アゼル:
「だいたい、それって取引相手を1人でも逃がしてしまったら使えない方法だよな……」

エルド:
「まあ、作戦案の1つですよ」

イーサ:
「やっぱり、バリス教団に入りたいって持ちかけるのが一番なんじゃないか? もし、サブリのことを犠牲にしなくちゃならなくなったら、そのときは仕方ないだろ」

アゼル:
 うはッ! 言い切りやがったッ(笑)!
「おいッ! サブリさんを見捨てるって言うのかッ!?」

エルド:
「僕はそれでも構いませんが……」

アゼル:
 エルドまで(笑)。
「2人を助けるために1人を見捨てるだって? ……お前たち、本当にそれでいいのか?」

エルド:
「お言葉ですが、だったらアゼルさんは、サブリさん1人のためにサイさんとハシムさんを見捨ててもいいと言うんですか?」

アゼル:
「そ、それは……」
 ……ダメだ、俺には選択できん。

イーサ:
 今回の話って、バリス教団を壊滅すればいいって話じゃないんだよな……。妖精石の取引を阻止するって話でもないし……。いまさらだが、サイとハシムを救い出すって、難易度高すぎじゃないか? もうこの際、たかが2人の命くらい目を瞑ってもいいだろ。

GM:
 そんな話を根底から覆すような、身も蓋もないことを言われましても……(苦笑)。

イーサ:
 いやさ、バリス教団を放っておけば大量に被害者がでそうだし、サブリの商談を成立させなければサブリの家族が全員亡くなりそうだし、この際、サイとハシムの2人を切り捨てるのがベターかなって……。

GM:
 いま、犠牲者の数で比べましたね?

アゼル:
 あー、なるほど。イーサってそういう思考の持ち主なのね(笑)。お前にとって重要なのは数か!

イーサ:
 ああ、そうだよ。俺は2人の犠牲でより多くの人間が救われるならそうする。もちろん、犠牲者を出さずに済むならそれが一番だろうが、それができないのであれば数で選ぶ。それのどこが悪い。

GM:
 えー、話が脱線気味なので、本線に戻しましょう。そもそも、取引相手がサブリを殺せと言ってきたらどうするかという話はエルドが言い出した仮定の話であって、必ずしも相手がそんなことを要求してくるとは限らないんですからね……。

アゼル:
 そうか! そうか! エルドが言っただけか(笑)。俺の中では確定路線だったわ(笑)。

エルド:
「まあ、あくまでも仮定の話ですけどね……」

イーサ:
「いや、だが、いざという時にサブリを犠牲にできるかということは重要――」

セルピル(GM):
「その話はもういいよ!」と、セルピルがイーサの言葉をさえぎりました。
「結局、全員一致でサブリって人のこと犠牲にすることなんてできないでしょ? アタシだって、そんなことまでして、サイとハシムを救い出してだなんて言えないよ。だったら、無茶な要求を出された時点で、取引相手全員を捕まえるって方向で考えるしかないじゃない」

イーサ:
 うーん……。あのさ、取引相手を捕まえる方向で話が進んだとして、捕まえるところまではいいんだが、そのあとの潜入段階でエルドの“変装”がばれる可能性ってかなり高いんじゃないのか? それで、“変装”がばれたら、もう取り返しつかないんじゃないか?

GM:
 まあ、バリス教団のアジトに乗り込んだうえで“変装”がばれたら、かなり危険なことになることは間違いないでしょうね。ただ、少なくともモノケロースと戦うリスクに比べたら、命の危険性は少ないと思います。むしろ、時間の許す限り客観的にうまく“変装”できたかそうでないかを判断してやり直せる“変装”のほうが、勝算は高いかもしれませんよ。

イーサ:
 そうなのか……。俺はまた、たった1回の判定で失敗したら、それで終わりなのかと思ってたが……。

エルド:
 もしものときは、“可能性”で判定し直せばいいじゃないですか。

イーサ:
 あ、なるほど! それはそうだな。じゃあ、その方向で進めてみるか。
「わかった。ならばそうしよう。明日の朝、中央門が開いたら、さっそくサブリに護衛を引き受けると伝えに行くとする」

エルド:
「ちなみに、セルピルさんは護衛に加わるんですか? 戦力的には、ぜひ参加して欲しいところですが……」

GM:
 まあ、セルピルがいると、“リプレニッシュ・ヘルス”や“ブレス”をかけてもらえますからね。

アゼル:
 セルピルがいるのといないのとじゃ、戦力は大違いだな。

イーサ:
「そうだな。セルピル、頼めるか?」

セルピル(GM):
「わかったよ。ただし、アタシの顔が割れたら、そのときは戦うほかなくなるだろうから、それだけは覚悟しておいてね」

 こうして、サブリの護衛の件は何とかまとまりをみせました。

エルド:
「ところで、話は変わるんですが……。公開処刑の会場でダットのことを見かけたとき、彼は下唇を噛みしめていたんですが、もしかして、あの人もバリス信者なんでしょうか?」

アゼル:
「だとすると、俺たちがバリス教団内に潜入したときに鉢合わせる可能性もあるな……。あいつは俺たちの顔を知ってる……」

イーサ:
「そうだな。イスタス砦の件で、ダットは俺たちのことを恨んでるだろうし、見つかったらただじゃ済まないだろう。だが、いまさらどうしようもない。せいぜい、鉢合わせにならないことを祈るだけだ……」

エルド:
「やっぱり、中央門前広場で見かけたときに、何とかしておくべきでしたかね……」

アゼル:
「……ん? そういえば、もともとダットの奴はサブリさんの行商の妨害をしてたんだよな?」

エルド:
「まあ、結果的にはそうなりますかね。個人的に狙ったわけではないんでしょうが……」

アゼル:
「そうなのか? ダットとつるんでいたカダは、サブリさんの荷物の中身を知ってたみたいだが……」

イーサ:
「仮に、ダットがサブリの商売の妨害をしようとしてたとして、だからといって何か気になることでもあるのか?」

エルド:
「……あッ! もしかして、ダットはバリス教団のやり方に賛同できなかったために、妖精石の取引を失敗させようとしていたとか?」

イーサ:
「あー、なるほど……。たしかに、それはありそうな話だな。バリス信者のすべてが、毒を用いた過激な活動に賛同してるとは考えにくい。案外、教団内部でも対立関係があるのかもしれない」

セルピル(GM):
 あなたたちがそのようなことを話していると、セルピルが何かを思い出したように口を開きました。
「そういえば、たしかにバリス教団には、イーサが言ったような派閥みたいなものがあったよ。いわゆる、過激派と穏健派ってところかな。アタシが潜入している間の調査だけじゃ、組織構成の詳しいところまでは掴めなかったけれど……」

アゼル:
「じゃあ、ダットは穏健派のバリス信者なのか?」

エルド:
「もしそうだとすれば、バリス教団内でダットと鉢合わせになったとしても、うまくやり過ごすことができるかもしれませんね」

セルピル(GM):
「そうだね。過激派の活動が活発化すれば、それだけバリス信者に対する弾圧は強まっていくだろうから、穏健派としてはそれを押しとどめようとするんじゃないかな。それこそ、毒薬や毒ガスの精製なんてことが表沙汰にでもなったりしたら、バリス教団は今度こそ根こそぎ壊滅に追いやられるだろうからね」

アゼル:
「そうか……。ダットはそれを止めたかったのか……」
 ダットの背中から斬りかかったことがある俺としては、ちょっと複雑な気持ちだな……(苦笑)。

イーサ&エルド:
(笑)

エルド:
「それと、もう1つ別の話なんですが……。例の不審船っていったいなんだったんでしょうね?」

 どうにも不審船のことが気になって仕方ないエルドは、ここで再び不審船の話題を振ってきました。しかし、不審船に関する情報集めはまったく進んでいないので、憶測だけの話となってしまいます。

アゼル&イーサ:
「うーん……」

セルピル(GM):
「その不審船って本当に海賊団の船だったの? ふつう、軍船が近づいてきたら逃げるでしょ?」

エルド:
「まあ、噂話を耳にしただけなので、本当に海賊船だったかまではちょっと……。ただ、やはり気になるのは、総督府が不審船に関する一切の情報を開示しなかったってことです」

イーサ:
「まるでわざと拿捕させたみたいだよな。もしかすると、何かを総督府に運ぶために用意されたものだったんじゃないか?」

エルド:
「海賊船でですか? それに、総督府は情報を隠ぺいしたんですよ? そんなことをしたら、普通に運ぶよりかえって目立ってしまうと思いますが……」

イーサ:
「じゃあ、公表できないようなものが乗っていたとか?」

一同:
(それぞれが長時間悩み込む)

イーサ:
「まあ、少なくとも、サイとハシムをバリス教団から救出する件とは関係のない話だ。ひとまず、不審船の話はおいておこう」

 その判断、いいと思います。ところが、エルドは引き下がりませんでした。

エルド:
「ちょっと待ってください。もし、不審船にバリス教団と関係のあるものが積まれていて、それを総督府が公表できなかったのだとしたらどうです? たとえば、毒ガスとか……」

アゼル:
 あのさ……プレイヤーとしてエルドに聞きたいんだけど、不審船が毒ガスを積んでたとして、総督府がそれを公表しない理由って何だと思うわけ? 俺としては、もしバリス教団がそんな危険なものを作ってるって情報を総督府がつかんだなら、むしろそのことを進んで公表するんじゃないかと思うんだが……。

エルド:
 それは、パニックになることを避けるためじゃないですか? それに、バリス教団の戦力が把握できていないうちは、下手に教団を刺激しないためにも公表しないほうが賢明じゃないですか?

アゼル:
 うーん、そんなもんかなぁ……。
(しばらく悩んでから)
 いや……そもそも、毒ガスが船の中にあったとして、総督府はどうやってそれがバリス教団が作ったものだってわかったんだ? まさか、わざわざ毒ガスの容器にバリス教団のマークを付けてたってこともないよな?

エルド:
 あ、そうですね……。バリス教団が毒ガスを作っていることが判明していることを前提として話してましたね……。そのことを知ってるのは、まだ僕たちしかいないんでしたっけ……。

GM:
 えー、ここで追加の補足を入れておきます。先ほどから毒ガスを積むとか、毒ガスの容器とか言っていますが、圧縮密封可能な容器が簡単には用意できないこの世界で、毒ガスの状態で輸送することなんて考えにくいですからね。不可能だとは言いませんが、とても非効率です。持ち運びの利便性や安全性を考えれば、ガスを発生する前の素材の状態で運んで、使用したいときにあらためてそれらを反応させることにしたほうが合理的です。
 それと、あなたたちがこれまでに聞いた話では、バリス教団は毒ガスの精製を試みているというだけで、それが完成したという話は聞いたことありませんからね。

アゼル:
 あ……そうだった……。まだ、毒ガスについては研究中だったんだ……。

イーサ:
(さらに考え込んでから)
 ……ってことは、毒ガスを船で運んでたんじゃなくて、バリス教団が毒ガスの効力を確認するために海賊船の上で毒ガスを発生させて乗組員を全滅させたって考えたほうが自然なのか? それで、操船する者がいなくなった海賊船が港まで流れ着いたって感じで……。

エルド:
 あー。話としてはそれでつながりそうですね。

GM:
 それじゃ、考えがまとまったら、あらためてPCとして発言してくださいね。

エルド:
「どうも、僕は軍船が接近してきても不審船が逃げなかったというのが引っかかるんですよ……」

アゼル:
「そうだな。海賊船だというなら、軍船が近づいてきたら逃げるはずだ。それでも逃げなかったのには、何か理由があるんだ。たとえば、誰も乗っていなかったとか……」

イーサ:
「もしくは、乗組員が全員死んでいたか……」

アゼル:
「まさか、バリス教団が毒ガスの実験をするために海賊船を利用したんじゃ? だとしたら、毒ガスはすでに完成したってことかッ!?」

イーサ:
「そうかもしれないな……。不審船を拿捕した総督府は、乗組員が全員死んでいるのを発見したのかもしれない。その死因が判明してないから、公表できてないんじゃないか?」

セルピル(GM):
「ちょっと話が飛躍しすぎな気もするけど、まあ完全に否定できる話でもないか……。で、アタシたちにとって重要なのは、もし本当に毒ガスが完成している場合、もう一刻の猶予もないってことだね」

イーサ:
「そうだな。できるだけ早く、サイとハシムを救出しないと……」

 最後はなんとか無理やりそれらしい形に持って行きましたが、裏を取らずに憶測だけを重ねて話を進めていった場合、ドツボにはまる危険性が高いので、このやり取りはあまり褒められたものではありません。リプレイとして書き起こすにあたりかなりの部分を端折ったので結構テンポよく話が進んだように思えるかもしれませんが、実際のセッションではこの不審船の話だけで2時間近くも使っています(苦笑)。




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