LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第5話(21)

 夜も更け、もうすぐ日付が変わろうかという頃、一行はサブリの護衛として商品の受け渡し場所へと向かっていました。

アゼル:
 ……ところでさ、取引の場で俺たちがバリス教団への参加を希望したり、場合によってはバリス教団の連中と戦うつもりでいることを、事前にサブリさんに伝えておかなくてもいいんだろうか? プレイヤーとしては、敵を欺くにはまず味方からってことで隠しておいたほうがいいと思うんだが、PCとしては自分からそんなこと言いだすわけにもいかないからなぁ……。

イーサ:
 まあ、別に伝えておかなくてもいいだろ。サブリに話しても、面倒なことになるだけだろうしな。

エルド:
 きっとサブリさんは、お金さえ手に入れば僕たちが何をしようと気にしないと思いますよ。

アゼル:
 じゃあ、サブリさんには話をとおしておかないってことで。

サブリ(GM):
 では、サブリはあなたたちの思惑など露知らず、荷馬車の手綱を握りながら、「この取引がうまく行けば、故郷で俺の帰りを待ってる妻と娘にようやく楽をさせてやることができる」などと口にし、幸せな未来を思い浮かべては目じりを下げています。

GM:
 サブリが座っている御者台の左右部分には、それぞれランタンが1つずつ取り付けられています。その明かりを頼りに、あなたたちは真っ暗な貧民街の道を進んで行きました。
 目的地に到着するまでの間、あなたたちは路上に寝転がる人の姿をいくつも目にすることになります。なぜならば、昼間にアスラン商会による強制退去活動があったため、行き場を失った者たちがあぶれているからです。春も深まり、徐々に温かくなりつつあるものの、まだ夜の風は肌寒く、寝転がる人々は互いに身を寄せ合ったり、集められるだけの布きれを身にまとい、小さくうずくまったりしています。そのような光景を横目にしつつ、あなたたちは指定された場所のすぐそばまでやってきました。
 指定された場所は、もともと大きな屋敷が建てられていた跡地のようで、周囲を2メートルほどの石造りの塀が覆っています。塀をたどって進めば、取引場所まであとほんの少しといったところでしょう。

アゼル:
 跡地ってことは、いまは屋敷はないのか?

GM:
 少なくとも、塀の外側から眺めるぶんには、大きな建物の影は確認できません。

サブリ(GM):
「ほー。ずいぶんと立派な塀だな。昔は立派なお屋敷だったんだろうぜ。この塀の中で取引するってわけだ……」そう言うと、サブリは緊張のためか、ゴクリと音を立てて唾をのみ込みました。

GM:
 さて、この段階で何か準備しておくことはありますか?

一同:
 ……。

セルピル(GM):
 それでは、セルピルはここで“プレアー”を唱えました。(コロコロ)発動。

イーサ:
 お、そうか。なら、俺も“プレアー”を唱えておこう。(コロコロ)発動。

GM:
 ほかに何か準備しておくことはありますか?

イーサ:
 効果時間が10分以下の魔法は交渉中に切れるだろうから、とりあえずはこれだけでいいだろ。

GM:
 ……了解です。
 では、さらに塀沿いに進むと、すぐに正門入り口が見えてきます。昔はそこに鉄の門などがあったのでしょうが、今は取り外されており、正門の位置まで来たところで塀の中が確認できました。塀の内部の敷地面積は予想以上に広いです。やはり、屋敷は住居として使われていたころの形をとどめておらず、広い空間の奥のほうに残骸らしきものが山積みとなっているのが見えました。

アゼル:
 メフメトはすでに来てるんだろうか?

GM:
 瓦礫の山の手前には、取引相手のものらしき人影がいくつか確認できます。
 では、ここで各人の配置を確認しておきましょう(と言って戦闘マップを広げる)。

妖精石の取引場所

GM:
 正面の左右に、松明を持つ男が2人立っています。その後方にさらに男が2人。そして、松明を持つ男たちの前方に、フード付きのローブを羽織った人物の姿がありました。ただし、ローブの人物は松明の明かりを後方からうけているため、シルエットしか確認できません。

イーサ:
 ローブってマジック・ローブだよな。ってことは、倒せばまたエルドのコレクションが増えるわけだ(笑)。

エルド:
 戦闘になってしまったときには、ローブを破ってしまわないように気を付けましょう(笑)。

アゼル:
 取引相手は見たところどんな装備をしてるんだ?

GM:
 視認した限りでは、ローブの人物が杖らしきものを手にしていることはわかりますね。あと、それ以外の者たちは革鎧を身につけているようで、腰には片手剣を提げています。なお、松明を持っていない者たちは、いまのところ両手とも無手です。

アゼル:
 ふむ。金属鎧を装備してる奴は見当たらないか。

年老いた男の声(GM):
 サブリが荷馬車を停めたところで、ローブを羽織った人物のほうから、「時間通りに来たようじゃな……。感心、感心」と、年老いた男の声が響きました。

エルド:
 その声が聞こえたのであれば、小声でサブリさんに、「あの人がメフメトで間違いありませんか?」と確認しておきます。

サブリ(GM):
 すると、サブリは小さくうなずいて、「ああ、あの声は間違いない」と答えました。そして、荷馬車の御者台から降りると、「約束どおり荷物は持ってきた。こいつを10万金貨で買い取ってくれるって話で間違いなかったよな?」と念を押すようにたずねます。

メフメトの声(GM):
 それに対してメフメトは、「たしかに……。たしかに、そういう話をしたことがあったかもしれんな……。まあ、あったんじゃろう」とはぐらかすような言葉を返しました。

サブリ(GM):
「……は? おい、何をもったいぶったようなことを言ってるんだ?」
 サブリは自分の耳を疑い、再度繰り返します。
「もう一度確認するぞ。俺が運んできた妖精石を、10万金貨で引き取ってくれるんだよな? なッ?」

メフメトの声(GM):
 すると、メフメトは嘲笑混じりの声で、こう答えます。
「仮にそのような約束があったとしよう。じゃが、残念ながら時間切れじゃよ……。オヌシは少しばかり来るのが遅かったんじゃ。すでに妖精石は必要なだけ集まっておる」

アゼル:
 なぬっ!?

メフメトの声(GM):
「……まあ、要らぬ……とまでは言わんよ。ただ、大枚をはたいてまで手に入れる必要はないということじゃ」

サブリ(GM):
 メフメトの言葉に、サブリの顔色がみるみるうちに青ざめていきます。

メフメトの声(GM):
 言葉を失ったサブリに対して、メフメトはさらにこう続けます。
「もともと、妖精石は二束三文の石くずじゃからのう。そんなもんにこれ以上金をつぎ込むのも馬鹿らしいわい。……じゃが、はるばる運んできた妖精石を無駄にするというのも、それはそれでちと惜しい。そこでじゃ……。タダでなら、もらってやらんこともない。ここで命を失いたくないのであれば、大人しく積荷を置いて帰るがいい。……どうじゃ? これで、ただ同然の石くずに過ぎなかった妖精石が、あっという間にオヌシらの命と同等の価値を持つことになったわけじゃ。ヒャーッヒャッヒャッ!」

GM:
 メフメトの笑い声を合図に、革鎧を身につけた男たちが、腰に提げた片手剣を引き抜きました。

アゼル:
 それに反応して、俺も武器を構えた。で、イーサに目くばせする。

イーサ:
 アゼルにうなずいてみせてから、短剣を手にエルドを見た。

エルド:
 もちろん、僕はすでにやる気です。

メフメトの声(GM):
「ほう、やると言うのか? 命知らずな奴らじゃのう。ならば、望みどおり、ワシの最大魔法で爆砕してくれよう!」

アゼル:
 最大魔法で爆砕? 爆砕って……おそらく、“エクスプロージョン”のことだよなぁ……。もしかして、こいつってかなりヤバい奴なのか?

“エクスプロージョン”
 指定空間に爆発を発生させ、範囲内の対象に物理ダメージを与える、レベル4黒魔法です。その威力は、一般人なら一撃で無力化できるほど。ソード・ワールドRPGでいうところのファイア・ボールに相当します。この魔法を使えるようになるレベルから、黒魔法使いは強力無比な範囲アタッカーとして開花していきます。

GM:
 では、ここから戦闘開始です。イニシアチブ判定をどうぞ。

アゼル&エルド:
(コロコロ……2人とも出目は1)ぎゃーッ!

イーサ:
 2人ともやる気満々だったわりに、出足が遅いな(苦笑)。

メフメトの声(GM):
 では、最初に行動を起こしたのはメフメトでした。
「マナよ、我がもとへ集え!」という言葉と共に、正面の人影が杖を手に精神を集中させるようなポーズをとります。メフメトは5ウェイトの“瞑想”に入りました。

メフメト陣営の軽戦士たち(GM):
 メフメトを取り巻く革鎧の戦士たちは、ニヤニヤと笑みを浮かべて、あなたたちの動きをうかがっています。

イーサ:
 5ウェイト“瞑想”か。そうなると、やっぱり“エクスプロージョン”だろうな……。ここは魔法を撃たれる前に止めるしかないッ! “通常移動”でメフメトの側面に隣接。

 イーサが動いたのを皮切りに、アゼルとエルドもメフメトに向かって走りはじめました。

アゼル:
 俺は、メフメトを挟んでイーサと対角線上に位置するところに移動しておこう。これなら範囲魔法でまとめて攻撃されることはないはずだ。

エルド:
 じゃあ、僕はアゼルさんとは反対に東側から回り込む感じで接近します。“ファイア・ボルト”が届く距離で、かつ範囲魔法に巻き込まれないようなポジションに。

GM:
 なるほど、そう動きますか……。ならば、エルドは《スカウト技能+知力ボーナス+2D》の判定を目標値12でどうぞ。

エルド:
 ん? (コロコロ)12でジャスト成功です。何かありましたか?

GM:
 では、エルドは東側の闇の中に人の気配を感じました。

アゼル:
 おっと、伏兵がいたか。

GM:
 そして、イーサの手番です。

イーサ:
 よし、思った通り、メフメトより先に動けた! ダガーでメフメトに攻撃!

GM:
 その攻撃は1ゾロ以外で命中します。

イーサ:
 さすがに“瞑想”を解除しないか。だったらダメージを与えて強制的に“瞑想”を止めてやる。(コロコロ)命中して、威力ロールは……。(コロコロ)よしッ! 出目10でクリティカルだッ!

アゼル&エルド:
 おおッ!

GM:
 あー、残念ながら、その攻撃はクリティカルしません。追加の威力ロールを行わずに、そのままダメージを算出してください。

アゼル:
 え? クリティカルしないの?

イーサ:
 とりあえず、ダメージは8点。

GM:
 では、イーサの振るった短剣は相手の身体に深々と突き刺さりました。ダメージ減少値で1点止められて、7点のダメージを与えることに成功します――

イーサ:
 よし、ダメージは十分だ。これで“瞑想”を中断させられたんじゃないか?

GM:
 ――しかし、その手ごたえは、これまでに感じたことのないものでした。少なくとも、人間の身体を傷つけた感触とは異なり、まるでバターにナイフを突き立てたかのように、ずぶずぶと短剣の刃先が沈み込んでいきます。

イーサ:
 え……? なんだ、これ?

 当のイーサだけでなく、アゼルとエルドも何が起きているのか理解できないようでした。しかし、その答えはさほど間をおかずに明らかになります。不用意な行動の代償と共に……。

メフメトの声(GM):
 さて、お待ちかねのメフメトの番です。
「ヒャーッヒャッヒャッ! 馬鹿めッ、まんまと引っかかりおったなッ!」その言葉に続けて、メフメトは魔導語で「弾けろッ!」と叫びました。
 ここで発動させるのは、もちろん“エクスプロ―ジョン”です。そして、その範囲はここです!

エクスプロ―ジョンの範囲

 GMが示した範囲には、イーサとアゼルに加えてメフメトと思しきローブの人物も含まれていました。

アゼル:
 え? そこって、メフメト自身も食らうんじゃ……?

GM:
 メフメトの唱えた“エクスプロ―ジョン”の行使値は(コロコロ)17です。

アゼル:
 うおーッ!? そんなに高いのかよ! それって、6ゾロ振らないと抵抗できないんだけど(苦笑)。(コロコロ)もちろん、抵抗失敗。

イーサ:
(コロコロ)ダメだ、俺も抵抗失敗。

GM:
 では、ダメージを……。(コロコロ)物理ダメージで15点です。

アゼル:
 ぐおッ! 8点食らった。危うく生命点が半減するところだ。

イーサ:
 俺は12点ダメージ受けて、士気判定突入。(コロコロ)士気判定はなんとか成功。

GM:
 激しい爆発がイーサとアゼルを襲うと同時に、同じく爆発の効果範囲にあった、メフメトらしきものがまとっていたローブが吹き飛びます。そして、その下からは泥の人形が姿を現しました。まあ、その姿を確認できた次の瞬間、泥人形は爆発の衝撃に耐えられずに消し飛んでしまいましたが……。

エルド:
 ああ、なるほど……。今まで僕たちがメフメトだと思い込んでいたのはマッド・サーバントだったんですね……。

GM:
 はい。“クリエイト・マッド・サーバント”と“リプレイス・サウンド”とのコンボです。取引場所を指定したからには、罠の1つくらい仕掛けておきますよ。

“クリエイト・マッド・サーバント”
 以前、ギュリスが使役していたウッド・サーバントの下位版、マッド・サーバントを使役することができるレベル1黒魔法です。マッド・サーバントはサーバント系では最弱なのですが、泥で構成されているため、物理攻撃によるクリティカルを受けつけないという特殊能力があります。
“リプレイス・サウンド”
 術者を中心とした半径1メートル以内で発生した音を、30メートル以内の別の場所に移して発生させることができるレベル1黒魔法です。単体で用いるのではなく、今回のようにほかの何かと組み合わせて使うと効果的です。

イーサ:
 くそッ! まんまと一杯食わされた……。ゆるせんッ! こいつら、ぶっ殺してやるッ! 目の前にいる軽戦士Cに“急所狙い”で攻撃する。
「死ねッ!」

エルド:
 いつになく、イーサさんが荒々しいですね(笑)。

メフメト陣営の軽戦士C(GM):
 軽戦士Cは“全力回避”を選択します。(コロコロ)回避値は13です。

イーサ:
(コロコロ)あーッ、マジかよ……。こっちの命中値は11で当たらず……。

アゼル:
 イーサ、やばいって。とりあえず、いったん安全なところに逃げて、生命力を回復しておいてくれよ……。

エルド:
 まったくです。冷静さを失うと、ここで死ぬことになりますよ。

 まんまとメフメトの罠にはまってしまった一行は、戦闘開始早々、窮地に立たされることとなりました。はたしてここから形勢を逆転させることはできるのでしょうか?




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