LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第5話(24)

GM:
 さて、時刻は午前1時頃。あなたたちはダットのあとについて、貧民街のとある酒場へとやってきました。どうやらそこは、ダットの仲間たちがたまり場にしているお店のようです。お店の中には十数名の人の姿が確認できます。

ダット(GM):
 ダットはお店にいた者たちを集めると、彼らにメフメトが妖精石を集め終えたらしいということと、そのメフメトと交戦したうえで取り逃がしてしまったことを手短に報告します。
「――というわけだ。こうなったからには、もはや一刻の猶予も許されん」そう言い放つと、ダットはアゼルたちへと目を向けました。
「こいつらの話によれば、ファルザードとシーラの2人は、5日ほど前にニメット川の河口からグネ・リマナへと向かったそうだ。日数的に、まだアジトに戻っていない公算が高い。攻めるなら今をおいてほかにないだろう。異論がなければ、午前2時にここを出て、サーラール一派のアジトを目指す。それまでに、いまここに集まっていない者を集められるだけかき集め、戦闘の準備を整えておいてくれ!」

GM:
 酒場に集まっていた男たちは、ダットの言葉に同調すると、ある者は仲間に召集をかけるために店の外へと駆け出し、またある者は戦闘準備に取り掛かりました。

ダット(GM):
 指示を出し終えたダットは、あなたたちのもとへと歩み寄ってきます。
「さてと……。お前たちも先ほどのメフメトとの戦いで消耗しているだろう? うちの連中に回復させよう」

イーサ:
「助かる」

GM:
 ――とは言っても、すでに生命点は全快しているので、ダットの仲間が回復してくれるのは疲労だけですけどね。

エルド:
 僕、精神点が残り4点しかないんですけど、精神点を回復してもらうことはできないんですか? それが無理なら、せめて3時間睡眠したいんですけど……。

GM:
 残念ながら、ダットたちの中に“トランスファー・メンタルパワー”を唱えられる白魔法使いはいません。それに、2時にはここを出発する予定ですので、睡眠による精神点の回復も行えません。なんとか、“瞑想”をうまく使って、4回の魔法でしのいでもらうしかありませんね。

アゼル:
「なあ、そのサーラール一派のアジトはどれくらい離れた場所にあるんだ? ひと眠りしたいところなんだが、出発を遅らせるわけにいかないのか?」

ダット(GM):
「悪いが、出発を遅らせるわけにはいかん。ここから奴らのアジトまでは、馬を走らせたとしてだいたい1時間というところだが、ひと眠りしてから出発しているようでは、夜が明けてしまう」

アゼル:
「そうか……」

エルド:
「シルクさん――いや、もう偽名を使う必要もありませんね。セルピルさんは“トランスファー・メンタルパワー”を唱えらないんですか?」

セルピル(GM):
「残念だけど、その魔法は覚えてないね。それに、アタシ自身も結構消耗してて、そこまでの余力はないんだ」
 現在、セルピルの精神点は半減しています。

アゼル:
 これは厳しいな……。こんな真夜中じゃ、雑貨屋にポーションを買いに行くってわけにもいかないだろうし……。

 これぞLOST名物、リソース不足による窮地です(笑)。

 今回はメフメトを取り逃がしてしまったことへのペナルティとして、この状況での作戦決行を強いることにしました。しかし、“瞑想”を利用すれば、精神点が残り4点しか残されていないエルドですら4回も魔法を唱えることができるのですから、ソード・ワールドRPGの魔法使いにも引けを取らない働きが可能なはずです。そして、本来想定されていたLOSTのゲームバランスとはそういうものです。皆、後先考えずに生撃ちし過ぎ(苦笑)。

エルド:
「そうですか……。まあ、回復する術がない以上、限られた力でなんとかするしかないでしょう……。それじゃ、今のうちにサーラール一派のアジトを襲撃するにあたっての具体的な作戦を確認したいんですが、ダットさんたちが正面からアジトを攻めるとして、僕たちはどこから潜入すればいいんですか?」

ダット(GM):
「それには、まず奴らのアジトについて説明しなければな。そのアジトというのは、神々の消失以前にオズディルの氏族長が使っていた古城だ。ここから西に20キロほど進んだところにある海沿いの断崖の上に建てられている。俺のわかる範囲で見取り図を描いてやろう」そう言って、大きな用紙を持ち出してくると、ダットは城の見取り図を描き始めます。
 ダットの描いた見取り図はこんな感じです(と言って、オズディル城の見取り図を提示する)。

オズディル城1階
オズディル城2階
オズディル城3階

ダット(GM):
(1階の正面入り口を指さして)
「俺たちはオズディル城の正面から攻め入る。お前たちは、俺たちが攻撃を開始するまでに城の裏手にとりついておき、機を見計らって城内に潜入してくれ。城内の奥通路を東に進めば螺旋階段がある。もし、お前たちの仲間が捕らわれているのだとしたら、その螺旋階段を下った先にある地下牢に閉じ込められているはずだ。残念ながら、地下の詳細な構造については俺たちもわからないのだが、地下には牢屋だけでなく幹部連中の部屋や、おそらく毒薬の研究施設もあるだろう」

エルド:
「地下から城の外につながる、隠し通路のようなものがある可能性は?」

ダット(GM):
「城の機能として、その手の通路がある可能性は十分にあるだろう」

エルド:
「では、そこから逃げられないように注意しなくてはなりませんね……」

ダット(GM):
「ほかに、いまのうちに確認しておくことはあるか?」

アゼル:
「城の裏手にはどうやって行けばいい?」

ダット(GM):
「闇夜の中だ。物音を立てないように気を付けさえすれば、崖のふちを回り込んで行くこともできるだろう。だが、もし崖の下から登って行くことができるのであれば、それがもっとも人目につきにくい」

アゼル:
 物音か……。チェイン・メイルの隙間に綿でも詰めておけば、音を立てずに動けるか?

GM:
 さすがに、それは認められませんね(苦笑)。ですが、チェイン・メイルであれば、脱いだ状態で布に包んで持ち運べば、金属鎧を装備しているときの隠密行動へのペナルティを発生させずにすむことにしても構いません。その場合、着脱にそれぞれ10分かかるものとしてください。

アゼル:
 なるほど……。
「わかった。それじゃ、城の裏手に回ったとして、そのあとはどこから潜入すればいいんだ?」

ダット(GM):
「城の南西にある調理場には、貯蔵庫に向かうための勝手口がある。それ以外にも、南側にならぶ使用人用の部屋や浴場には、人が潜り抜けられるほどの大きさの窓がある。そのときの状況にもよるだろうから、どこから潜入するかはお前たちに任せる。お前たちがいいと思うところから潜入しろ」

エルド:
「調理場の勝手口に鍵はかけられているんですか?」

ダット(GM):
「中から鍵をかけられるようになっているが、常にかけられているというわけではないだろう」

エルド:
「地下に降りられる階段は、南東の螺旋階段だけですか?」

ダット(GM):
「俺たちが把握している限りではそうだ」

エルド:
「あと、潜入のタイミングですが、それはこちらで判断して構わないんですよね?」

ダット(GM):
「もちろんだ。俺たちのほうからは、お前たちの状況はわからないからな。お前たちはできる限り無用な戦闘を避け、サーラールを倒すことに集中してくれ。……それと、もう1つ教えておこう。普段、連中は正面入り口に2人の見張りを立て、それ以外にも2人1組の歩哨にアジト周囲を巡回させている。メフメトが逃げ帰った後で、警戒はさらに厳しくなっているだろうから、十分注意してくれ」

 ここぞとばかりにダットを質問攻めにするエルドとアゼル。オズディル城への潜入方法については、自分たちで楽しみながら考えて欲しかったところですが、現場を知っているダットに最善手を教えてもらおうとするのは道理です。ただ、ダットは特別賢くもなければ、隠密行動に優れているわけでもないので、理想的な潜入手順を示してもらうことはできませんでしたが(苦笑)。

エルド:
 歩哨をやり過ごして、調理場から潜入するべきでしょうかね? しかし、この見取り図を見たところ、隠れられるところがほとんどないので、歩哨をやり過ごすのは難しそうなんですが……。

GM:
 潜入するのは夜間ですからね。松明の明かりは12メートル先までしか照らすことができません。12メートル以上離れた場所で隠れていればやり過ごせる可能性も高くなるでしょう。

エルド:
 なるほど。そう考えると、結構簡単なんですかね? まあ、仮に歩哨をやり過ごせたとしても、調理場内の入り口付近にはバリス信者が張り付いていると思いますので、そこでの戦闘は避けられないでしょうが……。

 こうして、相談の結果、次のようなことが確認されました。

  • 城の裏手までは、崖の縁沿いに西側から回り込む。
  • 城の裏手に回り込むまでの間、アゼルはチェイン・メイルを脱いで音を立てないようにしておく。
  • 調理場の勝手口から潜入する。
  • 南廊下を走り抜け、螺旋階段へ向かう。
  • そのあとは、地下の様子を確認してからあらためて検討する。

イーサ:
「そうだ。レヴェントと戦うときのことも考えて、いまのうちに“死神の鮮血”の効果も確認しておきたいんだが……」

セルピル(GM):
 イーサのその言葉に、セルピルが実体験に基づく説明をしてくれます。
「“死神の鮮血”か……。アタシのときは、あれを食らった瞬間、激しい目眩に襲われた。それで、時間の経過と共に、自分の身体が思い通りに動かせなくなっていったんだ。やがて、嘔吐感と熱が襲ってきて、最後には意識も保てなくなった……」

GM:
 ここで、“死神の鮮血”のシステム上の扱いについても説明しておきます。
 “死神の鮮血”は血中に混入すると効果を発揮します。刃物などに塗られていた場合、それでダメージを受けたときにのみ効果を発揮するということです。ダメージを受けたら毒性値を目標値とした生命力判定を行い、それに失敗すると、威力ロールを除くすべての判定のダイス目に-2のペナルティを負うこととなります。そして、12時間経過するか追加で毒をうける毎にペナルティが1ずつ増えていき、その都度発生する生死判定に失敗したところで絶命してしまいます。

エルド:
「では、レヴェントと対峙したときには、かすり傷1つ受けないようにしないといけませんね」

アゼル:
「“死神の鮮血”に関しては、攻撃を食らわなければいいかもしれないが、それ以前に、“死神の吐息”を散布されたらどうしようもないんじゃないか?」

エルド:
「いえ、“死神の吐息”はガスですから、あちらの準備がよほど整っていない限り、それを使えるような状況にはならないと思いますよ。下手に使えば、自分たちにも被害が及ぶでしょうしね」

イーサ:
「そうだな。それに、万が一、毒に侵されたとしても、モノケロースの角から作った万能解毒薬を使えば解毒できる。……そうだ、いまのうちに万能解毒薬を皆に渡しておこう」
 万能解毒薬は5つあるから、1人1つずつ配って、余ったのは俺が持っておく。ところで、万能解毒薬って服用したときに解毒できたかどうかの判定をするんだよな? ってことは、ヒーラー技能を持った奴が飲んだほうがよく利くのか?

GM:
 いやいやいや(笑)。冷静になって考えれば、それがどれほど不自然なことなのかわかりますよね? 薬品服用時の判定は、薬を調合してくれた薬師のヒーラー技能レベルと知力ボーナスを基準値として判定することになります。ただし、いまあなたたちが所持している万能解毒薬に関しては、判定の必要はありません。モノケロースの角を原料としたその薬は魔法的なものであり、どんな毒でも必ず解毒できます。

イーサ:
 なるほど……。あと、事前に服用しておくと、毒にかからないとかあるのか? 実際、事前服用の薬とかもあるだろ?

GM:
 うーん。万能解毒薬については事後服用のみ有効とします。
 さて、事前に確認しておくことはこれくらいですかね。では、作戦を確認しているうちに1時間が経過し、ダット以下穏健派の面々が酒場の前に集合しました。集った者たちは、相乗りするなどして、全員が馬に乗っています。あなたたちはライダー技能をとっていないので、ダットの配下の者たちが馬の背に乗せてくれました。

ダット(GM):
 ダットは、馬の背にまたがると、「お前たち、準備はいいなッ! 目指すはサーラール一派のアジトだッ! 行くぞッ!」と掛け声をかけます。

穏健派の戦士たち(GM):
 そうすると、穏健派の戦士たちはそれぞれ手に持った武器を掲げ、「おうッ!」と応じました。

GM:
 こうして、貧民街を出発した一団は、一路西を目指して休むことなく馬を走らせたのでした。




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