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宮国紀行 第5話(32)

 バリス教団過激派の指導者であるサーラールは自分の父親かもしれない。イーサはそんな疑念にかられつつも、アゼルとエルドの追及に対して固く口を閉ざしました。

GM:
 では、しばらくすると、ダットが礼拝堂に戻ってきます。

ダット(GM):
「ダメだ。サーラールたちを取り逃がしてしまった。アジトの中は、すでにもぬけの殻だ。これといった物は何一つ残されていなかった。あとは、捕えたメフメトからどこまで情報を聞き出せるかだな……」

アゼル:
「サーラールたちは、メフメトがすでに役割を果たし終えたと話していた。だから、たいした情報は聞き出せないかもしれない」

ダット(GM):
「それは毒ガスの精製を終えたということか?」

アゼル:
「そうかもしれない。それと、レヴェントには別の役割があるとも話していた」

ダット(GM):
「……別の役割? あいつらはいったい何をたくらんでいるというのだ……」

ハシム(GM):
 そこで、それまで沈黙していたハシムがボソリと言葉を発しました。
「アイツラ、オレノ昔ノアルジノ話、聞キタガッテタ。ソシテ、国、壊ス。ソウ、言ッテタ。ダガ、ソノトキ、オレ、変ナ薬、飲マサレテタカラ、記憶、曖昧。アイツラニ聞カレタコト話シタカモ、ヨク覚エテナイ」

アゼル:
「昔のあるじというのは誰のことなんだ?」

ハシム(GM):
 ハシムは自分の左肩を突き出して、焼印のあとを指さします。

アゼル:
「それは、王家の紋章?」

ハシム(GM):
「オレ、5年前マデ、王宮イタ。オレノ昔ノアルジ、ヤウズ様。幼イ頃カラ、ズット仕エテイタ」

アゼル:
「そうだったのか……」

エルド:
「精製した毒を使って国を転覆させるというのであれば、王都で使うつもりなんじゃありませんか? そうであれば、ヤウズ王子の情報を聞きたがっていたというのも納得ですし」

ダット(GM):
「馬鹿なッ!?」と、ダットが声を張り上げます。しかし、そうは言いつつも、ダットはその考えを否定できません。
「まさか……。そんな馬鹿げたことを……? くそッ! サーラールが戻ってきてからというもの、教団は何もかも変わってしまった。あの男さえ戻ってこなければ、こんなことには……」

エルド:
「いまさらの確認なんですが、サーラールはいつ頃、バリス教団に戻ってきたんですか?」

ダット(GM):
「……あれは、今から13年前のことだ。その年の夏、自治・独立を主張したバリス教団は、ヤウズ王子率いる鎮圧隊に蹂躙された。サーラールがあらわれたのはその戦いの少し前のことだった」

エルド:
「サーラール・オズディルは本人だったんですか? 別人が成りすましているという可能性は?」

ダット(GM):
「それについては間違いない。当時のバリス教団の指導者が、サーラールとは旧知の仲だったからな。そして、その後、彼が鎮圧隊との戦いで戦死したため、サーラールが跡を継いで次の指導者になったというわけだ」

エルド:
「そうでしたか……」

一同:
 ……。

ダット(GM):
「もし、奴らが本気で国家転覆をたくらんでいるのだとしたら、何としてもその計画を止めねばならん。俺たちは、これからサーラール一派の行方を追う」

エルド:
「うーん……。じゃあ、僕たちも僕たちで、サーラールの行方を追いつつ、王都を目指しますか」

ダット(GM):
「お前たちも、サーラールを追ってくれるのか?」

エルド:
「まあ、もともとの目的は王都に行くことでしたからね」

アゼル:
 そうだな。じゃあ、そうするか。

GM:
 ここでアゼルに確認しておきますが、サーラールの行方を追うということでいいんですか?

アゼル:
 え? ダメなのか?

GM:
 いえ……ダメというわけではありませんが、ギュリスからの手紙のことを忘れていませんか? あの手紙は、果たすべきことをすべて終えてから読むように言われていましたよね? 現状、セルピルから依頼されていた、サイとハシムを救出するというミッションは達成されたわけですが、続けて、サーラールの行方を追うというミッションを開始しますか? その場合、ギュリスからの手紙を読むタイミングは、サーラールを見つけたあとでということになりますよね? ここはキャンペーンの分岐点ですので、よく考えてから決定してください。

アゼル:
 う……。そういえばそうだったな……。ちょっと考えさせてくれ。

イーサ:
 おそらく、ギュリスの手紙を読めばニルフェルと合流する流れになるんだろうが、お前はまたほかのことにかまけてニルフェルから遠ざかるつもりなのか?

 自分のことでは優柔不断になり思ったように話せなくなるイーサですが、他人のことになった途端、流ちょうに語り始めます。まあ、それに関してはアゼルも同様ですが(笑)。

アゼル:
(しばらく悩んでから)
 ……そうだな……。もう脇道にそれることはやめよう。
「ダット。悪いが、俺たちにはほかにやらなければならないことがある。それを差し置いて、サーラールの行方を追うことを優先するわけにはいかない。ただ、もし何か情報を得ることがあったり、道中でサーラールたちを見かけることがあったら、そのときはできる範囲でお前たちに協力しよう」

ダット(GM):
「そうか……」
 ダットは少しだけ残念そうな顔をしました。そして、致し方ないと納得すると、今回のあなたたちの協力に感謝の意を述べます。
「今回は世話になったな。協力に感謝する」

アゼル:
「いや、こっちこそ助かった。おかげで仲間を救い出すことができた」

ダット(GM):
「うむ。いずれ再び会うこともあるだろう……。そのときにはまた力を貸してくれ」
 ダットはそれだけ言うと、部下たちを引き連れてその場を去っていきます。

アゼル:
 さて、俺たちはどうするかな……。

セルピル(GM):
 そうすると、ダットたちがいなくなったところで、セルピルが「アタシたちも、すぐに街に戻って宿屋に置いた荷物を回収したら、そのままクゼ・リマナを離れるね。それで、そのあとはユセフ様のところまでことの顛末を報告しに行くことにするよ」と言ってきます。

アゼル:
「そうか……。ずいぶんと急ぐんだな」

セルピル(GM):
「まあ、このあたりでグズグズしてるとバリス教団の奴らが襲ってくるかもしれないし、なにより今回の件で総督府が動き出してそれに巻き込まれると面倒だからね。ほら、ダットたちと街を出るとき大人数で動いちゃったでしょ? あれだけ目立ったことしちゃうと、総督府も何かしら動いてくると思うんだよね。アタシたち、以前にも総督府の連中ともめたことがあるから、あまり関わりあいになりたくないんだ」

アゼル:
「なるほど……」

セルピル(GM):
「で、アンタたちはどうするの?」

アゼル:
「そうだなぁ……」

エルド:
「僕は、もう少しこの城の内部を調べてみたいんですが」

イーサ:
「そうか……。なら、俺はセルピルたちと一緒に街に戻っている……」

GM:
 さすがにイーサは、心ここにあらずといった感じですね。

アゼル:
「うーん、エルド1人を残していくのは心配だからな。じゃあ、俺もエルドと一緒に城を調べてから戻ることにする。イーサは先に宿屋に戻って休んでいてくれ」

イーサ:
「……ああ、そうさせてもらう……」

ハシム(GM):
 では、別れ際に、ハシムがあなたたちに近づいてきました。ハシムは意識を失っているサイを肩に担いでいるのですが、その重さをさほど苦にしていない様子です。
「オマエタチノオカゲデ、助カッタ。ナニカ礼ヲシタイ。デモ、オレ、イマ荷物ナイ」

アゼル:
「まあ、気にするな。別に報酬が欲しくてお前たちを助けたわけじゃない」

セルピル(GM):
 すると、セルピルもハシムの隣によってきて、「そうは言われても、それじゃこっちの気持ちがおさまらないよ」と言って、自分のつけていたマントを外すと、それをイーサに手渡しました。
「たいしたお礼もできないけど、代わりにこれをあげる。これは、耐魔の外套(レジスト・マント)っていう神々の遺産のひとつで、魔法に対する耐性が強くなるマントなんだ」

イーサ:
「……そんな大切なものをもらってもいいのか?」

セルピル(GM):
「さほど高価なものでもないから、気にしないで。ほんの気持ち程度だから」

アゼル:
 それって、また壊れるんじゃないのか?

イーサ&エルド:
(爆笑)

GM:
 壊れませんよ(笑)。そこまで強力な魔法が付与されている代物ではないですからね。装備している人は、常時、魔法抵抗力に+1のボーナスを得られます。鎧の上から羽織れますよ。

アゼル:
 おお、それは使えそうだな!

セルピル(GM):
「じゃあ、アゼルとエルドとはここでお別れだね。もし、また会うようなことがあって、そのとき困ってることでもあったら、アタシたちのことを頼っていいからね。そのときには、きっと力になるから」

アゼル:
「うむ。そのときはよろしく頼む」

セルピル(GM):
「それじゃ、ハシム、行こうか」

ハシム(GM):
「ワカッタ」
 ハシムはサイを担いでその場を去っていきます。

イーサ:
 俺も一緒に街に戻る。


GM:
 こうして、オズディル城には、アゼルとエルドの2人だけが残されることとなりました。そして、2人は城の中を調べまわることになるわけですが、もぬけの殻となった城にはめぼしい物など何も残されていませんでした。

エルド:
 監獄の拷問部屋の奥にあった壺は残っていませんでしたか?

GM:
(少し考えてから)
 そうですね。あれだったら残ってますね。

エルド:
 やったッ! それでは、その壺を持ちかえります。

GM:
 了解しました。では、アゼルとエルドはオズディル城の探索を終えると、クゼ・リマナの街へと戻っていきました。2人が街に戻ってくる頃には、もうすっかり夜も明け、街が活動を開始する時刻となっていました。
 ――といったところで、宮国紀行の第5話を終了します。お疲れさまでした。

一同:
 お疲れさまでした。




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