GM:
さて、今回の移動のために、ユセフは乗馬用の馬を2頭用意してくれました。デミルコルを出発する前に、どういう割り振りで馬に乗るのかを決めておきたいのですが、どうしましょうか? メルトとテジーはライダー技能を取得しているので、馬を走らせることができます。一応、通常速度で馬を進める分には、セルダルでも馬を操れますけど……。
セルダル:
のんびり進むわけにもいかねぇし、ここはメルトとテジーに任せるとする。んで、重量のことを考えれば、オレがテジーの後ろに乗るべきなんだろーが……。
「メルト、オレはどっちに乗ればいい?」
メルト(GM):
「それは、もちろん……」
メルトは自分の馬の後ろへと目を向けます。その様子から、彼があなたに自分の後ろに乗って欲しそうにしていることはわかりますが、それを口にはしません。
セルダル:
そんな反応するのかよ……(笑)。
GM:
メルトは、モノケロース狩りを成し得たあなたのことを気に入っていますからね。
セルダル:
「あー、わかった。オレたち2人が乗ったんじゃ、馬もかわいそーだしな。テジー、いーか?」
テジー(GM):
「ああ。構わない」
セルダル:
「すまねぇな」そー言って、テジーのほーの馬の背に乗った。
メルト(GM):
そうすると、メルトはギヴを自分の馬の背に乗せました。
「……では、行きます!」
GM:
こうして、2頭の馬がデミルコルの村から出発したのは、16時を回った頃です(と言ってフィールドマップを公開する)。
ちなみに、ほかの話と比べてフィールドマップが小さくなっているのは、セッション環境の影響です。
GM:
村から出て、道が森沿いを走るところまで進んだあたりから、テジーは定期的に鳥の骨で作った笛を鳴らし始めます。そして、甲高い笛の音があたりに響き渡ると、たまに森の中からも同様の音が返ってくることがありました。テジーが駆る馬の背に乗っていたセルダルは、森の中から何度目かの反応があったところで、テジーが小さく安堵の息をついたことに気づきました。
セルダル:
「オヤジさんと連絡取れたのか?」
テジー(GM):
「……ああ……」
テジーはそっけなく返事をすると、セルダルに対して、「ベアトラップは必要か?」と聞いてきます。
セルダル:
「あればちったぁ有利に戦えたかも……って思ったんだがな。まぁ、無ぇもんはしょうがねぇさ」
テジー(GM):
「……ここでしばらく待てば、父が森から出てくる。そうすればベアトラップを受け取ることができるかもしれない」
セルダル:
「本当か!?」
テジー(GM):
「さっきの反応からすると、おそらく30分程度で出てくるだろう」
GM:
現在、時速10キロで東に向かっている途中ですので、30分というのは結構なタイムロスになります。
セルダル:
「30分か……。こっちから迎えに行くってわけにはいかねぇのか?」
テジー(GM):
「残念だが、馬はウルム樹海の中では走れない。徒歩で向かっても、待つのと時間は変わらない」
セルダル:
「わかった、ならばここで待とう。ついでに食事も済ませておくか?」
テジー(GM):
「了解した」そう言うと、テジーは手綱を引いて馬を止めました。
メルト(GM):
「お、おい? どうした? 故障か?」
突然テジーが馬を止めたのを見て、メルトも慌てて馬の速度を落とします。
GM:
どうやら、セルダルとテジーの馬上での会話は、メルトたちには聞こえていなかったようです。
セルダル:
「いや、笛でテジーが連絡を取っている相手と合流しよーかと思ってな。ついでに、ここで30分ほど休憩にしねぇか?」
メルト(GM):
「そ……それは……」
メルトは東のほうへと目を向けて、戸惑っている様子です。
「一刻も早く逃げてる連中のところに駆けつけないと、取り返しのつかないことになるんじゃ……?」
セルダル:
「……」
(少し考えはじめる)
物事の選択には、常にメリットとデメリットが付きまといます。テジーの提示したベアトラップの受け取りと、メルトの提示した現場への急行という二者択一問題。今回、セルダルが選択したのは――
セルダル:
「わかった。テジー、すまない。ワナは無しだ。先を急ぐことにする。連絡先のほーには大丈夫だと伝えてくれ」
テジー(GM):
「ん、そうか。了解した」
テジーは鳥笛を咥えると、それを何度か吹きました。
GM:
それに呼応するように、森からも笛の音が聞こえます。
セルダル:
これは、我慢が足りねぇってわけじゃねぇよな……と自問自答してから、「行こう」と言った。
GM:
では、さらに馬を進めますが、ここでLY地点での遭遇判定を行ってもらいましょう。《2D》で4以上を出せば遭遇せずに済みます。
今回はPCがセルダルひとりしかいないソロプレイですし、ランダム遭遇を撤廃してしまう案もあったのですが、もう一方とのレギュレーションをあわせるため、すべてルールどおりに解決することにしました。そのため、ダイス目次第では、突然戦闘レベル5のモンスターが襲ってくるといったシチュエーションもありえます。ゲームバランスとしては罵声を浴びせられても仕方ないレベルですね(笑)。
ちなみに、この遭遇判定によってムーンベアが出現する可能性もあり、万が一ムーンベアと遭遇して退治した場合、それで今回の事件は解決となる予定です(笑)。すべてはダイスの神様の望むままに。
セルダル:
(コロコロ)何とも遭遇しなかった。
GM:
了解です。まあ、まだ村から10キロの地点で普段から獣は少ない場所ですからね。では、そうやって、LY地点のちょうど中心を抜けたところで――
メルト(GM):
「おかしい……。逃げている鉱夫たちと鉢合わせてもおかしくないところまで来たというのに、一行にその気配がない……。嫌な予感がする……」と、メルトが疑念の言葉を漏らします。
セルダル:
「もっと先のほーにいるのか? それともどこかで身を潜めているのか……」と言って、辺りを見回す。
GM:
周囲に人影は見当たりません。
メルト(GM):
メルトは心なしか馬足を速めました。
テジー(GM):
「セルダル殿、周囲の警戒に集中してくれ」そう言って、テジーもそれに続きます。
セルダル:
「おう!」
GM:
ちなみに、離れた場所にある人影の発見は“索敵”で行います。宣言するだけで索敵距離が延びますので、必要であれば宣言をどうぞ。
セルダル:
それじゃ、“索敵”する。
GM:
了解しました。では、テジーの駆る馬の背の上で“索敵”を続けるセルダルでしたが、人影を見つけることができないままLZ地点へと入っていくことになります。さて、ここでも遭遇判定が必要です。《2D》で5以上なら遭遇しません。
セルダル:
(コロコロ)出目はギリギリ5で、ここでも遭遇は発生せず。
GM:
その出目だと、遭遇はしなかったものの近くに何か潜んでいた感じですね(笑)。
セルダル:
だな(笑)。
GM:
そうして、馬がLZ地点に入ったのはもうすぐ18時になろうかという頃のことでした。その頃になると、空に陰りが見え始め、上空からは小さな雨粒がパラパラと落ちてきます。
セルダル:
「まじぃな……。ここいらに、鉱夫連中が身を休ませられるよーな場所はねぇのか?」
テジー(GM):
「この周辺に休憩できるような場所はないな」
セルダル:
「クソッ! いったい、どこにいるんだ。このままじゃ……」
GM:
では、皆が次第に焦燥感をつのらせてきたところで、目標値8の捜索判定をどうぞ。
セルダル:
(コロコロ)13で成功!
GM:
出目が冴えてますね。ならば、小雨のために判別しにくくはあったのですが、少し前方のほうに、道を横切って1本の黒い線らしきものが引かれているのがセルダルの目に入りました。
セルダル:
「テジー! あそこに何か見える、向かってくれ!」
線の近くまで来たら馬から飛び降りて、それが何なのか調べてみる。
GM:
セルダルが近くに行ってよく見てみると、その黒く地面を湿らせるものの正体が大量の血液であることがわかりました。その線は、森の北側に広がる草原から、道を横断して森のほうへと続いています。
セルダル:
「こ、こいつは……」
GM:
メルトとテジーも、馬から降りてあなたの近くに寄ってきました。
セルダル:
「森の中に続いてるな……」そー言って、森の中を指さした。
テジー(GM):
「ああ……。そして、どうやらこの血の線は草原のほうから来ているらしい……」そう言って、テジーは森とは反対の方向へと目を向けます。テジーが生唾をゴクリと飲み込んだのがわかりました。
セルダル:
「森の中に連れてかれたのがひとり。で、おそらくは逆側に他の奴らがいるんだろーな……」
メルト(GM):
大量の血を目にしたメルトは、明らかに困惑した様子です。
「……生きて……いるんでしょうか?」
メルトは、あえてどちらがとは口にしません。
セルダル:
「森の中に連れてかれたほーが生存してる可能性は、まず無いな……。なんせ、あの大量の出血だ……」
テジー(GM):
「……」
テジーは同じことを言おうとしていたのか、口をつぐみました。
セルダル:
「だが、草原のほーには、まだ生きてる奴がいるかもな……。そっちに行ってみるか?」
メルト(GM):
「セ、セルダルさんはどうするべきだと思いますか?」
セルダル:
「オレが決めちまってもいーのか?」
メルト(GM):
メルトは一も二もなくうなずきました。
セルダル:
「わかった。なら、ムーンベアの追跡は後回しだ。奴は夜目がある程度利くから、できれば夜に戦うのは避けたいしな」そー言って、草原の中に入って行く。
GM:
では、セルダルは赤黒い線をたどって、森の北側に広がる草原へと足を踏み入れました。そして、その薄暗い草原の中で、セルダルは筆舌しがたい光景を目にしてしまいます。
それはまるで、無邪気な少年が使い古した人形を最後の楽しみとして解体し、散々もてあそんだあとのようなありさまでした。
人の姿を形作っていた肢体はいくつかにわかれ、それぞれが別のモノとして方々に散らばっています。そして、それらの接合部分であったはずの赤く濡れた断面は、無理やり千切られ、裂かれ、潰され、砕かれていました。
また、もっとも大きな塊からは、人形の綿のかわりに臓物が引きずり出されており、そのありさまは、それが獣の腹を満たす糧となったことを如実に物語っていました……。
――では、ここで正気度判定をどうぞ!
セルダル:
……正気度判定って、どーやって判定すんだ?
GM:
いや、軽い冗談のつもりだったんですが(笑)。
そうですね。せっかくですから士気判定してみましょうか? 失敗したら激しい動揺を覚えるということで。
セルダル:
(コロコロ)……失敗。胃の中のものを勢いよく吐き出した。
「うぼぉおおぅぇぇぇ」
メルト(GM):
「うぷッ……」
その光景を目の当たりにしたメルトも、口元を押さえると、少し離れたところまで駆けていき、嘔吐します。
テジー(GM):
テジーも嘔吐まではしないものの顔をしかめました。
「間に合わなかったか……」
ギヴ(GM):
遅れて馬から降りてきたギヴは、「なんとむごいことを……」 と言って目を伏せると、静かに聖印を切り神に祈りをささげます。
GM:
しばらくすると、セルダルは正気(?)を取り戻しました。
セルダル:
「ガッ……。ハァ……ハァ……。こいつらを埋葬してやりたいのは山々だが、ここに長居すんのは危険だ。せめて、急いで拾ってける分だけの遺品を持ち帰ってやろーぜ……」
メルト(GM):
「わかりました。そうしましょう」そう言うと、メルトは周囲に散らばる物品を拾い始めました。
セルダル:
オレも遺品を拾い集める。
「クソッたれの熊公め……」
GM:
では、遺品を拾う途中で散らばる肉片を目にしたセルダルは、遺体の状況からその襲撃がどれくらい前の時刻であったか予想できるかもしれません。《ランド・ウォーカー、もしくはヒーラー技能レベル+知力ボーナス+2D》で目標値7・9・11の判定をどうぞ。
セルダル:
(コロコロ)11で完全成功!
GM:
ならばセルダルは、だいたい17~18時の間にこの襲撃があったことを予測しました。血が凝固しておらず、肉片にもすこし温かみが残っていたのでしょう。現在の時刻は18時を少しまわったところなので、惨劇の発生からまだ1時間も経っていないということです。
セルダル:
「まさか……な」
周囲を警戒して“捜索”しておく。(コロコロ)9。
GM:
周囲を警戒したセルダルが発見できたのは、小雨の降る上空を旋回している鳥たちの姿だけでした。どうやら、餌の匂いを嗅ぎつけてきたようです。
セルダル:
周囲にムーンベアの気配がないことに安堵してから、「もーいーか? 急いでここから離れるぞ」と言って、メルトたちを急かした。
ギヴ(GM):
あなたたちがその場を離れようとすると、「せめて、この者たちの魂を神のもとへ送ってやりたい。もう少しだけ時間をもらえんかのう?」と、ギヴが願い出てきました。
セルダル:
……雨のおかげで血の臭いは抑えられてるだろーし、少しだけなら大丈夫か……。じゃあ、「わかった。だが、老子。ここが危険な場所であるってことは理解しといてくれよな」と言って周囲の警戒を始めた。
GM:
では、ギヴが祈りの言葉を詠唱し、メルトとテジーも黙とうをささげました。
ギヴ(GM):
「――どうか、安らかに眠らんことを……」その言葉でギヴは祈りを終えます。
セルダル:
「……すまねぇな、お前ら。つれて帰ってやれなくてよ……」
メルト(GM):
「きっと彼らは、熊から逃げて草原のほうを進んでいたんでしょうね……。まさか、森を離れてまで人を襲ってくるなんて……」
惨劇の現場を離れつつ、メルトがそう漏らしました。
セルダル:
「ああ、そーだな……」
メルト(GM):
「……それで、このあとはどうしますか? もう少し東に行けば、彼らが運んでいたという荷馬車もあるでしょうが……」
セルダル:
「荷馬車か……」
少し考えた後で、「たしかに、もしかすっと荷馬車のそばに誰か残ってるかもしれねぇな……。よし、行ってみるか」と答えた。
GM:
こうして、再び馬に乗った一行がさらに東へと足を進めると、馬の脚で15分――5キロほど山あいに向かったところで、車輪が壊れて放置された荷馬車と、その周辺に散らばる臓器を食われた人と馬の遺体を発見しました。
メルト(GM):
そのありさまを目にしたメルトは、目に涙をためて怒りで身を震わせます。
「くそッ! くそッ! 人食い熊の奴めッ! よくもこんなことをッ!」
セルダル:
「誰かいねぇかッ!? 生きてる奴はいねぇかッ!?」
GM:
セルダルの呼びかけは辺りに虚しく響き渡り、それに言葉を返す者は誰一人として存在しませんでした。
セルダル:
「ここもだめか……」
こうして、セルダルたちは熊の襲撃を受けた鉱夫一行のうち、この出来事をデミルコルに知らせに来たひとりを除いたすべての鉱夫の死を確信しました。失意に暮れるセルダルたちに、夜の小雨が降り注ぎます。