GM:
さて、レベルアップ処理が終わったところで第7話の本編をスタートさせていくわけですが、まずは今回の話の発端となる事件をお話ししておきますので、プレイヤーとして聞いておいてください。
GM:
時刻は、あなたたちがオズディル城でバリス教団との戦いを終えてから1時間ほど経過したころのことです。まだ日が昇らぬ薄暗闇の中、クゼ・リマナの目抜き通りを総督府に向かって歩くひとつの人影がありました。その者は他人に顔をみられるのを避けるかのようにフードを目深にかぶっています。
人影が向かう先にある総督府は平定戦争以前に建てられた城を流用したものであり、その周囲には堅固な城壁がぐるりと張り巡らされています。当然、見張りも定期的に巡回しており、城壁を越えようとする者がいたとしても、その途中で容易に発見されてしまうことでしょう。
ところが、城壁の前まで歩いてきた人影は、思いもよらぬ方法でやすやすとその城壁を越えてしまいます。城壁近くまで歩いてきたその人物は、見張りの目の届かぬ場所でおもむろに軽く飛び跳ると、“跳躍”を意味する魔導語を口にしました。次の瞬間、その人物の姿はたちどころに掻き消え、いつの間にか城壁の内側に移動していました。それは、“ブリンク”と呼ばれる短距離瞬間移動の魔法の効果でしたが、この時代にはそのことを理解できる者はまだ数えるほどしかいません。
続いて、1度、2度、その人物は同じような動作を繰り返し、城内へ、そしてある部屋へとその身を転移させていきます。やがて、目的の場所へとたどり着いたその人物は、そこでフードを下ろして小さくため息をつきました(と言いつつ、キャラクターイメージを開示する)。
レヴェント(GM):
「まったくもってつまらない仕事ですね……」冷めた目でそう言葉を漏らしたのは、バリス教団の幹部・レヴェントです。
彼はわずかな足音も立てずに、その部屋の主が横になる豪勢なベッドに近づいて行きました。そして、そのベッドの上で安眠している男の顔を見下ろします。
「できることならば、あなたの息の根は刃を交えたうえで止めたかったのですが……。本当に残念です。あなたが絶望に震えて命乞いする無様な姿を見ることができないなんてね……」
ムバーシェ(GM):
レヴェントの視線の先には、安眠するビューク・リマナ総督ムバーシェの姿があります。
レヴェント(GM):
レヴェントはムバーシェから視線を外すと、腰にさげたポーチの中から2つの瓶を取り出しました。そして、一方の蓋を開けて床に置き、その中にもう一方の瓶に入っていた液体を注ぎ入れ、そのまま空になった瓶を床に転がします。
「計画に必要なこととはいえ、なんともくだらない仕事です……」そう呟いたレヴェントは、しばらくの間ムバーシェの様子を眺め、唐突に彼がもがき苦しみだし、やがてピクリとも動かなくなったことを確認すると、この部屋に現れたときと同じように軽く跳躍してその姿を消してしまいました。
GM:
夜明け前に行われたこの所業はおろか、バリス教団の幹部であるレヴェントがこの辺りに姿をみせたことにすら誰ひとりとして気づく者はおらず、やがてゆっくりとクゼ・リマナの夜が明けていきます……。
GM:
場面は変わって、その日の明け方。オズディル城から戻ってきたアゼルとエルドはクゼ・リマナの第2市壁内へと入ってきました。このあと、2人はどうしますか?
アゼル:
じゃあ、俺はエルドに「いったん宿屋に戻ってしばらく休んでから、宿を引き払ってお前たちの宿屋に向かうことにする」と伝えて、自分の泊まっている宿屋に戻るとしよう。
エルド:
「わかりました」
なら、僕は直接宿屋に戻らず、いったん別の場所によって用事を済ませてから宿屋に戻ることにします(と言ってGMに目くばせする)。
GM:
了解です。ならば、先にエルドのシーンをやっておきましょう。アゼルとイーサはしばらく部屋の外に出ていてください。
この部分はのちほど公開します。
GM:
さて、それでは全員が宿屋に戻り、それぞれしばらく睡眠をとるわけですが、ここでアゼルは夢イベント判定を行ってください。目標値は11です。
アゼル:
お、そうだった。まだ夢イベント判定に成功してなかったんだよな。(コロコロ)……9で失敗(苦笑)。
イーサ:
ここまで成功しないのも凄いな。
GM:
“可能性”を使ってもらってもいいんですよ(笑)?
アゼル:
こんなところで使ってたまるか(笑)!
こうして最低限必要な睡眠をとって朝の9時を迎えると、アゼルは自分が泊まっていた宿を引き払って、イーサとエルドの泊まっている宿屋で彼らと合流しました。そして、3人はあらためてこれからのことを相談しはじめます。
エルド:
「とりあえず、セルピルさんからの依頼は無事に達成したわけですが……。イーサさんとアゼルさんは、このあとどうするつもりです?」
アゼル&イーサ:
「……」
(ふたりともそれぞれ思いつめた表情をして、しばらく沈黙を続ける)
エルド:
「黙ってないで、なんとか言ってくださいよ(苦笑)。このあとどうするつもりなんですか?」
アゼル:
「……実は……心残りなことがある……」
エルド:
「心残りというと?」
アゼル:
「サブリさんのことだ……。何とかして彼を助けてやれないだろうか?」
エルド:
「いまさら何を言い出すんです? そのことについては昨晩で決着がついたじゃないですか。これ以上、僕たちがかかわることじゃありません。そもそも、いまとなってはサブリさんがどこにいるかもわからないですし……」
アゼル:
「それはそうなんだが……」
(しばらく考えてから)
「……ひとまず商人ギルド行って、シシュマンさんにサブリさんの行方を尋ねてみようと思う。もしかすると、サブリさんがシシュマンさんのことを訪ねに行ってるかもしれないだろ? ほかに当てがあるとも思えないし……」
エルド:
「うーん……。まあ、それくらいのことであればさして時間もかからないでしょうから構いませんが……。イーサさんはどうします?」
イーサ:
(うわの空といった様子で)「……そうだな……」
アゼル:
「どうした、イーサ? 何か思うところでもあるのか?」(と言ってニヤける)
アゼルは、早くイーサにサーラールとの関係をカミングアウトしてもらいたくて仕方ありません。しかし、まだ考えをまとめられずにいたイーサは、話をサブリの件に戻して煙に巻きました。
イーサ:
「いや……。金を借りて事業に失敗し、路頭に迷う……。そんな目にあうのは、なにもサブリに限った話じゃない。そういった奴らを一人ひとり救っていたらキリがないんじゃないか?」
アゼル:
「……そうかもしれないが……。それでも、俺はサブリさんのことを何とかしてやりたい」
イーサ:
「……」
エルド:
「……まあ、イーサさんもほかに何かアイディアがあるというわけではなさそうですし、とりあえず商人ギルドに行ってみましょう。もし、一緒に行きたくないというのであれば、イーサさんはここに残っててもらっても構いませんけど?」
イーサ:
「いや……。俺も一緒に行こう」
これまで傍観役に回ることが多かったエルドですが、ここでは話が停滞するのを嫌って積極的に場面を進めようとしています。GMとしてはありがたいプレイです。
GM:
では、全員で宿屋を出ることになるわけですが、宿は取ったままにしておきますか? それとも引き払いますか?
イーサ:
ここは引き払っておこう。どうせ、アゼルも一緒に泊まるなら、つぎは3人部屋を取らないといけないしな。
GM:
了解です。ならば、あなたたちは宿を引き払い、荷物をすべて持った状態で、第1市壁内にある商人ギルドを目指しました。
GM:
では、あなたたちが商人ギルドを目指して第1市壁の中央門前まで来てみると、そこには大量の人だかりができていました。見てみれば、中央門は閉ざされており、門の前には甲冑を身につけた騎士たちが立ち並んで、物々しい雰囲気を醸し出しています。
エルド:
人だかりができているのであれば、そこらへんの人を適当につかまえて、「何かあったんですか?」と聞いてみます。
クゼ・リマナ市民(GM):
そうすると、ある男性がエルドの質問に答えてくれました。
「なんでも今朝早くにムバーシェ総督が亡くなっているのが発見されたそうです。それも、どうやら何者かの手によって暗殺されたらしく、その犯人を捕らえるために第1市壁と第2市壁に厳重な警備網が敷かれたみたいなんですよ。そのため、中央門も昨晩から閉められたままなんです。一応、厳重な身分確認を受けたうえで、脇戸から市壁の内側に入ることは認められているようですが、いまのところ外に出ることは完全に禁止されているようですね」
アゼル:
「総督が暗殺されただって……?」
エルド:
「なんだかたいへんなことになっているようですね……」
市壁の外に出ることが禁止されてるのでは、商人ギルドを訪ねようにもうかつに中に入れませんよ……。
アゼル:
うーん……。どうしたもんかな。
一同:
……。
GM:
そのような感じであなたたちが中央門の前で途方に暮れていると、そこに向かって東のほうから大規模な隊商が近づいてきます。そして、隊商の中でもひときわ大きく豪勢な屋根付き馬車が中央門の前で動きを止めると、その中からひとりの人物が姿を現しました。
タルカン(GM):
「まったくとんだ災難だわ。こっちは早く腰を落ちつけて旅の疲れを癒したいところなのに、街についてみればこのありさまだなんて……」
姿をみせたのは、アスラン商会ナンバー3のタルカンです。
一同:
(失笑)
タルカン(GM):
周囲を見渡したタルカンはあなたたちの姿を視界に入れると、そこで目を止めました。
「あら? アナタたちは……。どこに姿を消したのかと思っていたら、こんなところに来ていたのね」
アゼル:
変なところで嫌な相手に会ってしまったな……(苦笑)。
エルド:
「これはこれは、タルカン様。タルカン様こそどうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」
タルカン(GM):
「そんなの、どこからどう見ても仕事のために決まっているじゃない。流通業はアスラン商会の柱となる事業のひとつなのよ? 貿易拠点となるクゼ・リマナにワタシが来るのがそんなにおかしくて?」
エルド:
「い、いえ……(汗)」
相変わらず、口調はアレですが、筋の通った物言いをしますねぇ……。アゼルさんとイーサさんも何か発言してくださいよ。カルカヴァンであんなゴタゴタがあったあとですし、僕ひとりでタルカン様と対等に話せる自信がありません……(苦笑)。
アゼル&イーサ:
……(無言の回答)。
GM:
(苦笑)
タルカン(GM):
では、タルカンは黙り込んでしまったあなたたちを鼻で笑い捨てると、中央門へと歩いて行き、そこを固める騎士たちと何やら話し始めました。
GM:
しばらく言葉を交わしていたタルカンと騎士でしたが、それが終わると、騎士たちはタルカンの率いる隊商の荷物検査を行い、続けて中央門を開いて、タルカンの率いる隊商だけを第1市壁内へと誘導していきました。当然、隊商が通り終えると中央門は再び閉じられてしまいます。
エルド:
「……思いがけず、すごい人と再会してしまいましたね……」
アゼル:
「そうだな……」
一同:
……。
アゼル:
「それはそうと、困ったことになったぞ……。身分確認を受ければ第1市壁内には入れるようだが、中に入ることができたとしても外に出ることができないんじゃ、もしサブリさんが第1市壁の外にいた場合、打つ手がなくなってしまう……」
エルド:
まあ、タルカン様の伝手を頼れば何とかなりそうな気はしますけどね。
アゼル:
うーん……。そうだとしても、それはちょっと遠慮したいなぁ……(苦笑)。
エルド:
だったら、市壁内には入らず、外をしらみつぶしに探してみますか?
アゼル:
うーん……。
(腕組みして長考しはじめる)
一同:
……。
GM:
……。
エルド:
(アゼルからの返答を待ちきれなくなり、ため息をついてから)
「僕は市壁内に入りますよ。そして、タルカン様にお願いして街の外に出られるようにしてもらいます。いつまでもここにいたって仕方ないですからね。サブリさんを何とかしたいと言ったのはアゼルさんなんですから、そっちはそっちで何とかしてください」
アゼル:
「うッ……。それなら、俺も中に入って商人ギルドに行くことにする」
エルド:
「イーサさんはどうします?」
イーサ:
「そうだな……。どのみち街の外には当分でられそうにないし、俺もアゼルと一緒に商人ギルドに行ってみるか……」
エルド:
「では、僕はアスラン商会、アゼルさんとイーサさんは商人ギルドに向かうということで」
アゼル:
「それが終わったらどこで合流する? サブリさんが使ってたラマザ亭でいいか?」
エルド:
「ええ、それで構いません。日が落ちるまでには合流します」
こうして第1市壁内に入ることを決めた一行は、中央門から伸びる身分確認の列に並び、数時間かけてようやく第1市壁内に入ることを許されたのでした。