LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第7話(04)

アゼル:
 さて、どうしたものか……。20万金貨かぁ……。

イーサ:
 まあ、普通の方法で返済するのは難しいだろうな。いま考え付くことといえば、ほかの金貸しから借りて、返済期日の迫ったアスラン商会に返して――

エルド:
 それって、多重債務で雪だるまコースじゃないですか(笑)。最悪だ。

アゼル:
 いや、まてよ……。アスラン商会より規模の小さな闇金だったら、金を借りるだけ借りて力押しで踏み倒せるんじゃないか(笑)?

GM:
 ……20万金貨をポンと貸せる貸金業者なんて、このあたりの地域にはアスラン商会以外に存在しませんよ……。だいたい、それだけ財力のある企業なら、あなたたちよりも腕の立つ私兵を抱えてますって。

アゼル:
 じゃあ、少額ずつたくさんの金貸しから借りればいいんだ! それなら、俺たちでも踏み倒せる!

GM:
 ……犯罪者としての生活がお望みであればどうぞご自由に……。

エルド:
 うーん、それならいっそ総督暗殺もアゼルさんの仕業ってことにして、アゼルさんを総督府につきだせば、それで街からも出られるようになるんじゃないですかね? まさに一石二鳥。

イーサ:
 おお! 万事解決だな(笑)。

アゼル:
 いや、さすがにそれはちょっと(苦笑)。
 ……これはもう、黒アゼルの登場かな。20万金貨なんて無理だ。諦めよう……。

エルド:
 なんだ、まさか本気でサブリさんのことを助けようなんて考えていたんですか?

アゼル:
 いや、まあ何とかしようとは思ってたが……。

エルド:
 そんなことしたって、なんの見返りもないのに……。
(少し考えてから)
「とりあえず、これからのことが決まってないのであれば、僕は宿屋で寝ててもいいですか? まだ昨晩の戦いの疲れが抜けていないんで……」

アゼル:
「そうだな。いったんラマザ亭に戻って、これからの方針について考え直してみるとするか」

GM:
 では、あなたたちは全員そろってラマザ亭に戻ってきました。そのあとはどうしますか?

エルド:
 昼間は街に出て情報収集、夜になったら酒場に行って情報収集ってところですかね? 僕は精神点が全快するまで宿屋で休んでることにしますが……。

アゼル:
 うーん。いまって、おそらくムバーシェを暗殺した犯人を捜して、衛兵が街中を巡回しまくってるんだよな?

GM:
 そうですね。そういった兵士は宿屋にも訪れますよ。そして、宿泊客の確認などをしていきます。

エルド:
 なんでアゼルさんが衛兵を気にしてるんですか? まさか何か犯罪でも企んでるんじゃないでしょうね?

アゼル:
 そりゃ、20万金貨を集めるには、略奪くらいしか思いつかないからな(笑)。

イーサ&エルド:
(苦笑)

アゼル:
 まあ、普通に考えれば、サブリが金を借りている相手を潰すのが正攻法なんだろうが――

GM:
 ブッ(失笑)! それのどこが正攻法なんですか? おかしいですよね? お金を借りたときに、返済できないからといって借りた先を潰そうとする人がどこにいるんです? よしんばいたとして、まっとうな人間の考えることじゃないですよね?

イーサ&エルド:
(爆笑)

イーサ:
 まあ、そんなことするくらいなら、妖精石の取引相手だったバリス教団から金を奪い取るのが筋ってもんだろ。商材をここまで運ばせておいて一方的に交渉決裂なんて、許されていいはずがないからな。

アゼル:
 なるほど……。バリス教団を潰して金を巻き上げるのか……。つまり、イーサとしては、自分の父親かもしれない人物を倒して金を巻き上げることもいとわないと(笑)。

イーサ:
 金を巻き上げるのと、本来得られるはずだった金を取り戻すのとではずいぶんと趣旨が異なると思うが……。まあ、どちらにしても、俺としては問題ない。たとえ本物のオヤジだったとしても、俺や村を捨てた男に遠慮する必要なんてこれっぽっちもないからな。

 イーサのことを茶化すつもりだったアゼルでしたが、イーサからは決意の言葉を返されてしまいました。

エルド:
「あのですね……。アゼルさんがサブリさんの借金返済に協力するのは構いませんが、その前に街の外に出る方法を考えてくださいよ。第1市壁の外にでないと、サブリさんを見つけることもできないんですからね……」

アゼル:
「街の外に出る方法ねぇ……」

イーサ:
「たしかタルカンさんに価値ある見返りを提示できれば、協力してもらえるって話なんだよな?」

エルド:
「ええ。ただ、その価値ある見返りというのが思いつかないので困っているんですが……」

一同:
 ……。

アゼル:
 たとえば、ムバーシェを殺した犯人がレヴェントだってことをリークすればいいんじゃないか?

GM:
 ちょっと待ってください。さきほどから、あなたたちはレヴェントを捕まえるだとか、レヴェントが犯人であることをリークするだとか言ってますが、導入シーンで知ったことはあくまでもプレイヤーの情報であって、PCたちがそのことを知っているわけではありませんからね。

アゼル:
 あ、そっか……。
(少し考えてから)
 でも、ムバーシェ暗殺がバリス教団の仕業だとは思わないもんなのか?

GM:
 PCとして現時点で確信はなかったとしても、その可能性は高いと判断して構わないと思いますよ。その線で考えるのであれば、PC同士で相談してください。

アゼル:
 じゃあ、「思ったんだが、ムバーシェ暗殺というのはやはり……」と切り出す。

エルド:
「何か思い当たることでも?」

アゼル:
「バリス教団の仕業じゃないのか?」

イーサ:
「それは、国家転覆のために総督を暗殺したということか?」

アゼル:
「ああ」

エルド:
「あの……。素朴な疑問なんですが、ビューク・リマナ総督を亡き者にしたからといって、バリス教団にとってプラスになるようなことがあるんでしょうか?」

イーサ:
「最終的に王都を陥落させることが目的なら、自分たちの敵になりそうな奴らを少しでも減らしておこうと考えても不思議じゃないだろ」

アゼル:
「なるほど……。それに、ムバーシェが殺されたってことは、これからまたあらたな総督が派遣されてくることになるわけで、その新総督が着任するまでのあいだ攻め入る隙ができるってことでもあるよな」

イーサ:
「その可能性も考えられると思ったんだが……。どうだろうな?」
 ちなみに、新しい総督ってどれくらいで着任するもんなんだ?

GM:
 総督の選出にはさまざまな手続きが必要となるので、しばらくのあいだ新総督が着任することはないと思いますよ。ただし、すでにビューク・リマナ副総督が総督代理として執政を取り仕切り始めているので、組織として長期間機能不全に陥るようなことはありません。これが、国王暗殺とかならまだしも、所詮ムバーシェは官人のひとりに過ぎませんからね。

エルド:
「僕には、今回のムバーシェ暗殺はバリス教団への弾圧に対する単なる報復なんじゃないかと思えるんですが……」

アゼル:
「ふむ……。そういえば、ムバーシェは嬉々としてバリス信者の公開処刑とかしてたっけな……。あれだけのことをしておいて、総督府は今回の暗殺がバリス教団の手によるものだとは思ってないのか?」

エルド:
「今の段階で特別な動きがないということは、特定できてないんじゃないですかね? もしかすると、総督府は僕たちよりもバリス教団の内情について詳しくないのではないでしょうか?」

イーサ:
「総督府が知らないことで俺たちが知ってることって、バリス教団が毒を精製していることとか、教団内に短距離転移できる奴がいるってこととかか……?」

エルド:
「もしかすると、ムバーシェは“死神の吐息”で毒殺されたのかもしれませんね……」

アゼル:
「だとしたら、俺たちの知ってることは有力な情報になるかもな!」

 はい、そういう考えにいたるための道しるべとして、導入シーンをみせたわけです。できればPC間での推測だけで決めつけず、ここからその裏付け捜査を行って欲しいところではありますが……。
 ちなみに、途中でエルドが総督府は特別な動きをしていないと断言していますが、これはエルドの憶測にすぎず、実際のところ総督府はバリス教団に強い嫌疑をかけて捜査しています。動機は十分なうえに、昨晩からバリス教団関係者が姿をくらましているのですから、疑うなというほうが無理ですよね。

アゼル:
 しかし、情報をリークするにしても、そのときに怖いのは、下手を打つと俺たち自身が疑われる可能性もあるってことだよな。俺たちってその手の交渉ごとは苦手だし……。

一同:
 ……。

エルド:
「どうします? 情報をリークしに行きますか? うまく交渉すれば、特別に街の外に出る許可をもらえるかもしれませんよ」

イーサ:
「情報をリークするのはいいが、それは総督府にか? それとも、タルカンさんにか?」

アゼル:
「もしくは両方。その場合、どちらに先に情報を流すのかが問題だ」

 ここから約1時間、総督府に情報をリークすべきかタルカンに情報をリークすべきかという話が延々と続いたのですが、そのやり取りについては割愛します。結論としては――

イーサ:
「タルカンさんに情報を提供して、タルカンさん経由で総督府に情報を流してもらったほうが、俺たちが総督府に直接リークするよりも話を信じてもらいやすくなるんじゃないかと思う。アスラン商会にとっても、街の外に出られない状態が長く続くのは好ましくないはずだ。きっと協力してもらえると思うが……」
 正直、俺たちが直接総督府に垂れ込んだとしても、俺たちみたいな一般市民の話をそうそう信じてもらえるとは思えないんだよな。

GM:
 どうやら、イーサは大きな勘違いをしているようですね。このクゼ・リマナにおいて、あなたたちは一般市民ですらありません。旅行者です!

一同:
(笑)

アゼル:
 それじゃ、総督府に垂れこんだところで信憑性皆無だな(苦笑)。

エルド:
 ということは、タルカン様にリークするということで決定ですね。




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