LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第7話(05)

GM:
 では、もう日も傾こうかというころ、あなたたちはアスラン商会を訪れました。受付でタルカンとの面会を求めると、タルカンはすでに別宅に向かったとの返答を得ます。ただ、タルカンは再びエルドが訪ねてきたら別宅の場所を伝えるようにと言い残していたようで、受付にて別宅の場所について教えてもらえました。別宅の場所は、東海岸沿いに広がる高級住宅地の一角だそうです。

エルド:
 ならば、さっそくタルカン様の別宅に向かいましょう。

GM:
 了解です。あなたたちがタルカンの別宅に足を運ぶと、そこでは執事が出迎えてくれます。エルドが名前を告げると、執事はあなたたちのことをタルカンの執務室へと案内していきました。
 執務室に入ってみると、タルカンは書類が山のように積み上げられた机に座っており、その斜めうしろに護衛を務める2名の奴隷が控えています。

タルカン(GM):
 タルカンは、手に持った書類に目を通しつつ、「いらっしゃい。思っていたよりも早かったわね。それで、今度は何の用なの?」と話しかけてきました。

イーサ:
「本題に入る前にひとつ確認させていただきたいのですが、いまの状況だと、さしものアスラン商会といえども街の出入りは厳しいのですか?」

タルカン(GM):
「そうね。しばらくは街から出ることができなくて困ったことになるでしょうね。商船や隊商の出発が1日遅れるごとに、多額の損失が生じてしまうわ。まったくいい迷惑よ……。アナタたちも街から出られなくて困っているんですって?」
 そこまで言ってからタルカンはフフフと笑みを漏らします。
「そういえば、アナタたちがカルカヴァンにやってきたときにも検問が敷かれることになったわよね。もしかして、そういう巡り合わせなのかしら?」

アゼル:
 俺たちは街に入るたびに閉じ込められているからな(笑)。

GM:
 同一キャンペーン内で既視感のある展開となってしまい、申し訳ない(苦笑)。でもまあ、あのときはそもそもギュリスを捕まえることが目的であったわけですし、今回も街を出ること自体がミッションというわけではないのですけどね。

イーサ:
「タルカンさんも、この厳戒令で身動きが取れずお困りでしょう」

タルカン(GM):
「それはそうよ。……で、それがどうかしたの?」

イーサ:
「実は俺たち、街から出られるようになるかもしれない情報を持っているんですが……」と言って、タルカンさんの反応をうかがうが……。

タルカン(GM):
 ならばタルカンは、相変わらず書類に目を落としながら、「だったら、その情報を使って街の外に出ればいいんじゃなくって? アナタたち、街の外に出たいのでしょう?」と、そっけない態度で返します。

イーサ:
 う……。これは脈なしか……?

エルド:
 イーサさん、相手の上辺だけをみてても仕方ありませんよ。
「ええ。もちろん、それはそうなのですが、なにせ僕たちが握っている情報は総督暗殺に関するものですからね。直接総督府にリークしてもいいのですが、その場合、下手をすると僕たちにあらぬ疑いをかけられてしまう恐れもあります。そこで、社会的信用を得ているタルカン様に、ひとつ口添えをしていただきたいのですよ。うまくすれば、僕たちはもちろん、アスラン商会の皆さんも街の外に出られるようになるかもしれません。お互いにとって悪くない話だと思うんですが、どうですか?」

GM:
 素晴らしい。双方にとってプラスになることをアピールした、お手本のような交渉ですね。これなら交渉判定を免除してもよいでしょう。

タルカン(GM):
 エルドの提案に、タルカンはそれまで書類に落としていた視線をあげて、まんざらでもなさそうな表情をしました。
「それはアスラン商会としてもありがたい申し出ではあるけれど、本当に街から出ることを許されるほどの情報なのかしら?」

イーサ:
 じゃあ、ここでこれまでの経緯を全部タルカンさんに話そう。

GM:
 全部……ですか。そうなると、タルカンはまずこう反応せざるを得ませんね。

タルカン(GM):
「なるほど。つまり、アナタたちはワタシのことをたばかって、ギュリスのことをデミルコルまで連れて行ったというわけね。それで、あのコの本当の目的地はイルヤソールだと……」

一同:
(爆笑)

アゼル:
 そうだな。全部話すってことはそこまで伝わるってことだよな(笑)。

イーサ:
 ……まあ、これは仕方ないだろ。セルピルとの関係を話さないことには、バリス教団と対立してる状況について説明できないわけだし……。これまでの経緯を隠したまま筋道立てて説明するのは無理だ。

GM:
 では、あなたたちのこれまでの経緯をすべてタルカンに伝えたということで話を進めるとして、ここで《スカウト技能+知力ボーナス+2D》の判定を目標値14でどうぞ。

アゼル:
 目標値14ってめちゃくちゃ高いな。俺は判定の余地なしだ。

イーサ:
 俺も届かないな……。

エルド:
 (コロコロ)15で成功です。

アゼル&イーサ:
 スゲーッ!

GM:
 さすがです(笑)。ならばエルドは、あなたたちの話を聞いている途中、サーラールの名前が出たところでタルカンが一瞬だけその表情をこわ張らせたことに気がつきました。

エルド:
 おや? ならば、タルカン様のことを揺さぶってみましょう。
「もしかして、サーラールという名前に聞き覚えでも? いま一瞬反応があったようなので、ちょっと気になったのですが」

タルカン(GM):
「あら、そうだったかしら?」

イーサ:
(身を乗り出して)「タルカンさんは、サーラール・オズディルという人物について何か知っているんですか?」

タルカン(GM):
「いえね、どこかで聞いたことがある名前だと思っただけよ……。たしか、平定戦争で取り潰しとなったオズディル氏族長の次男の名前でしょう? その名前くらいなら聞いたことがあるわ」

GM:
 エルドが目に留めたタルカンの反応は、ただサーラールという名前を知っていただけのものとは思えませんでしたが、どうやらタルカンはしらを切ろうとしているようです。

イーサ:
 せっかく取っ掛かりが見えてきたんだ。ここは踏み込んだほうがいいよな……。
「ならば、ベルカントという名前に心当たりは?」

タルカン(GM):
 イーサがそう問いかけると、タルカンは真顔でイーサのことをじっと見つめました。そして、「アナタ、どこかで彼と会ったの?」と口にします。

イーサ:
 その発言で俺は確信した。
「タルカンさん。もし知っているなら教えてください。ベルカントとサーラールは同一人物なんですか?」

アゼル:
「おい、イーサ。お前、いったい何の話をしているんだ?」

エルド:
「そのベルカントととかいう名前は、いったいどこから出てきたんです?」

イーサ:
「……ベルカントというのは……俺のオヤジの名前だ……。アゼルには少し前に話したことだが、実は俺の父親は――」と、以前アゼルに語った話をここでエルドにも伝えておく。

エルド:
「なるほど……」

イーサ:
「あのとき、バリス教団のアジト内で見たサーラールの姿は、俺の記憶に残っているオヤジの姿と瓜二つだったんだ」

アゼル:
「たしかに、あのサーラールとかいう人物、どこかイーサと似た面影ではあったが……。間違いないのか?」

イーサ:
「他人の空似だっていうならそれでいい……。だが……もし本人だとしたなら……」

アゼル:
 あれ? その言い方からすると、イーサとしては他人であって欲しいわけ?

イーサ:
 だって、俺はオヤジに死んでいて欲しくて、それを確認するために旅してたんだぞ。村を救うために街を目指したオヤジは、その途中で志半ばに倒れていた――っていうのが理想だったんだ。

アゼル:
 なるほど。死んでいて欲しいか……。つまり、俺にとってのサブリさんみたいなもんなんだな。

イーサ&エルド:
(爆笑)

GM:
 イーサを苦しめる原因となった父親のほうはまだしも、サブリは別にアゼルに対して直接害を加えたわけでもないのに(苦笑)。

 思わず露呈したアゼルの本音。まあ、これはプレイヤーとしての発言ですが、アゼルの場合、これがPCの行動にもにじみ出してくるんですよね(苦笑)。

エルド:
「何かの間違いではないんですか?」

イーサ:
「信じたくはないが、あの面影は……」

エルド:
「……それで、タルカン様はベルカントという人とお知り合いなのですか?」

タルカン(GM):
 タルカンは若干ため息交じりに口を開きました。
「まあ、ベルカントとは知らない間柄ではないわ……。何せ、彼はワタシの命の恩人なのだから」

アゼル:
「命の恩人……?」

タルカン(GM):
「もうずいぶんと昔の話だけれど、ワタシは彼に命を助けられたことがあるの……」そう言ってから、タルカンはイーサの顔を見つめます。
「カルカヴァンの街ではじめてアナタのことを見かけたとき、どこか似た面影があると思ったのよ。それで、気になって話を聞いてみたら出身地も同じだった。だから、そうじゃないかとは思っていたのだけれど……やっぱりアナタはベルカントの息子なのね?」

イーサ:
「……俺は……とうの昔にオヤジは死んだとばかり思っていたのに……。オヤジは村を救おうとして、その志半ばで力尽きたんだと……そう信じていたのに……」

タルカン(GM):
「まるで、彼に死んでいて欲しかったような口ぶりね」

エルド:
「実の父親ですよ。生きていてよかったじゃありませんか」

イーサ:
「……生きていてよかった? あの男が戻ってこなかったせいで、多くの村人が命を落としたんだぞッ! それに――」

アゼル:
(イーサの言葉をさえぎって)「イーサから聞いた話では、ベルカントという人がタルカンさんの命を救うようなことをする人物だとは思えないのだが、差支えなければタルカンさんの話を聞かせてもらえないだろうか?」

タルカン(GM):
「話をするのは構わないけれど、その話をする前に、アナタたちは根本的なことをひとつ誤解しているようだから、まずはその誤解を解いておくわね」

イーサ:
「誤解……?」

タルカン(GM):
「イーサ。アナタはベルカントが流行り病の特効薬を買うために街に向かったと話していたけれど、そもそもその病に効く薬なんてワタシの知る限りこの世のどこにも存在しないわよ」

イーサ:
「えッ!?」

タルカン(GM):
「十数年前にカダッシュ村を襲った病は“悪魔の審判”と呼ばれるものだけれど、いまでも効果的な治療法が見つかっていない、感染した者の半数を死に至らしめる恐ろしい病なの。“悪魔の審判”を治す薬なんてどの街に行ったって買えるはずないわ。だから、ベルカントが薬を村に持ち帰らなかったせいで多くの村人たちの命が失われたと責めるのはお門違いよ」

GM:
 ここでいう“悪魔の審判”とは天然痘のことです。致死率は40%前後。現実世界においては根絶されましたが、発病後の特効薬は現在もなお存在しません。イーサからもらった設定を満たす流行り病がなんであるかを考えてみたところ、該当するのがこれくらいだったんですよね……。

イーサ:
「だ、だが、それならなぜ村に戻ってこなかったんだ! たとえ薬が存在しなかったとしても、村人たちの金を持ち逃げしたことには変わりないじゃないか!」

タルカン(GM):
「そう、彼は村には戻れなかった……」

イーサ:
「戻れ……なかった?」

タルカン(GM):
「実はワタシ、いまから十数年前にカダッシュ村まで行ったことがあるの。大量の物資を運んでね。当時のワタシにとっては大きな商売だったわ。……さっきワタシは、“悪魔の審判”を治す薬は存在しないと話したけれど、生存率を多少あげる方法だったらあるの。それは、滋養のあるものを食べて、病に耐えうるだけの体力を維持すること……。ワタシはベルカントから彼のかわりにそうするように頼まれたのよ」

イーサ:
「なぜだッ!? なぜ、オヤジは自ら村に戻らず、あなたに託したッ!? もし、自分でそうしていれば、金を持ち逃げしただなんて思われることもなかったはずなのにッ! せめてあなたが本当のことを村の者に伝えていればッ!」

エルド:
「……タルカン様はさきほど『彼は村には戻れなかった』と仰っていました。つまり、そこには村への物資の輸送をタルカン様に託さなければならなかった理由があったということですね?」

タルカン(GM):
「そうね……。それを説明するためには、あのときのことを詳しく話す必要があるわ……」

GM:
 ここからのタルカンの話は少し長いものになるので、端的にまとめたかたちでお伝えします。

 いまから十数年前、まだアスラン商会に所属していなかったころのタルカンは、クゼ・リマナ周辺の小規模な行商で生計を立てていました。タルカンは、商売仲間から近々バリス教団が蜂起するらしいという噂を伝え聞いたため、一時的にクゼ・リマナを離れて中原に向かうことにしたのですが、その旅の途中、運悪く野盗の襲撃を受けてしまいます。このとき、絶体絶命の窮地に陥ったタルカンを救ったのが、ベルカントと彼と行動を共にしていたカダッシュ村の村人2人でした。
 野盗を退けたその晩、タルカンはベルカントたちと同じたき火を囲みました。そして、互いに言葉を交わす中で、彼らが村に蔓延した流行り病の特効薬を求めて、カーティス王国内で最も多種多様な物資が集まる貿易都市であるクゼ・リマナを目指している旅の途中であることを知ります。そのようにして話をしていると、突然、村人のひとりが体調の不良を訴え始めました。あろうことか、その村人はすでに病に感染していたのです。村人の症状をみたタルカンは、それが“悪魔の審判”であることを確信しました。なぜなら、タルカン自身も幼いころに“悪魔の審判”を患ったことがあったからです。その後、もうひとりの村人も“悪魔の審判”を発症させていたことが判明し、タルカンはベルカントと共に彼らの看病をすることにしました。
 看病している途中、村人たちの死期が近いことを悟ったタルカンは、ベルカントに対してこれからどうするつもりなのか聞いてみました。すると、彼から帰ってきた答えは、たとえ自分ひとりだけになろうと、クゼ・リマナまで向かい薬を買い求めるつもりでいるというものでした。その答えを聞いたタルカンは、2つのことを彼に教えました。ひとつは“悪魔の審判”を治療する薬はクゼ・リマナにも存在せず、できることと言えば滋養をつけて自力での回復を待つしかないということ。そしてもうひとつは、クゼ・リマナで近々バリス教団が蜂起するという噂があるので、しばらく近づかないほうがよいということ。タルカンとしては、ベルカントに村に戻ることをすすめたつもりでした。ところが、その話を聞いたベルカントは、タルカンが予想していたよりも深く悩みはじめます。その様子にただならぬものを感じたタルカンでしたが、その段階では深く追求しませんでした。
 数日後、看病の甲斐なく2人の村人が相次いで息を引き取ると、ベルカントはタルカンに対してあることを依頼してきました。それこそが、自分にかわってカダッシュ村に大量の食糧を運んで欲しいというものです。それも、自分の名前を伏せたままで……。ベルカント自身は、ほかにやらなくてはならないことができたため、村に戻ることはできないと言います。ベルカントに必死に頼み込まれたこともあり、タルカンはこの依頼を引受けました。そして、その対価はカダッシュ村で集められた薬代によって支払われました。
 商談がまとまると、タルカンとベルカントは互いに別の場所を目指して歩み始めました。ただ、その別れ際、タルカンはベルカントがこう漏らすのを耳にしています。「なんとしても戦いを止めなければ……」と。

タルカン(GM):
「――それが、十数年前にワタシがベルカントと出会ったときの話よ。それ以来、彼と再会したことはないのだけれど……。ただ、その後、風のうわさでこんなことを耳にしたわ。バリス教団の蜂起が失敗に終わって、そのときの指導者が戦死したということ。サーラールという人物が新たな指導者になったということ。そして、どうもそのサーラールという人物が、平定戦争時に亡くなったと思われていたオズディル氏族長の次男で、ワタシの知っているベルカントと似たような年恰好だってこともね……」

 タルカンの口から語られたこの内容は、イーサから提示された情報をベースに矛盾点が発生しないようにGM側でまとめたものです。顕微鏡も存在しないこの世界のこの時代において、大量の死者が出るほどの流行り病を治せる特効薬なんてそうそうありはしないのです。




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