一行がサブリを連れて東門に到着したのは、お昼前のことです。
GM:
タルカンは、アスラン商会の商人や私兵と思われる男たちに囲まれて、東門の前にいました。すでに騎士たちによる積荷の確認はあらかた終わっているようで、大部分の騎士たちは警備網を固めるため持ち場に張り付いています。第2市壁は1メートル程度の石垣が張り巡らされているだけなので、それを補うため十数メートルおきに騎士が配置されています。
タルカン(GM):
あなたたちが近づいてくると、タルカンは「来たみたいね。ちゃんとサブリのことも連れてこれたみたいじゃないの」と言ってサブリへと目を向けました。
サブリ(GM):
タルカンの視線を受けたサブリは、居心地悪そうに目をそらします。
アゼル:
タルカンの前まで来たら、「昨日言ったように、サブリさんの借金は俺が肩代わりする」と言ってクルト・ソードを腰から外した。
タルカン(GM):
「わかったわ。それじゃ、契約書を作りましょう」
タルカンは周りの者たちに書類を作るための環境を整えさせると、その場で契約書を作成しはじめます。そして、手慣れた手つきで書面のうえに筆を走らせ、ものの数分で契約書の内容を完成させました。
GM:
タルカンの作成した契約書には次のような条件が記されています。
サブリは20万金貨の借金をしており、今日から9日後の返済期日までに利息も含めて一括返済する約束でした。今回作成した契約書にサインした段階で、その借金の全額をアゼルが肩代わりすることになります。それに伴い、利率や返済期日に関しても改定され、年3パーセントの複利となるほか、利息のカウントは来年の年明けからの開始となります。
これはサブリが当初結んでいた契約内容に比べると、かなり緩和されています。ただし、年末までにその年の利息分すら支払われなかった場合には、クルト氏族の所持する土地の管理権をアスラン商会に譲渡するという取り決めになっています。
アゼル:
タルカンさんはなんて優しいんだ。やはりいい上司を持ったなこりゃ。
イーサ&エルド:
(苦笑)
GM:
ちなみに、この契約内容にはアゼルがアスラン商会に働くという条件は含まれていません。それはあくまでもこの契約外の話です。
イーサ:
ということは、返済さえできればアスラン商会に入る必要はないわけだ……。
タルカン(GM):
「さあ、内容に問題がないようであれば、サインしてちょうだい。サブリ、アゼル、そしてこちらの担当者のサインがそろえば契約成立よ」
アゼル:
堂々とクルト・ソードをタルカンに渡してサインする。アゼル・クルトと。
サブリ(GM):
サブリもペンを手に取ると、契約書にサインを書こうとします。しかし、サブリはその直前で手を止め、アゼルのほうへと顔を向けてその名前を口にしました。
「アゼル……」
イーサ&エルド:
……。
アゼル:
無言でうなずいた。
サブリ(GM):
一瞬ためらいを見せたサブリでしたが、アゼルに促されると、そのままサインをしたためました。
アゼル:
いま、一瞬ためらったことで、サブリの心境にも変化があったはずだ。それでいい。あと必要なのはアスラン商会担当者のサインだけだな。
タルカン(GM):
では、タルカンは後方へと目を向けると、アスラン商会の商人たちが集まっているところに向けて、「さあ、サイエ。次はアナタの番よ」と声を発しました。
GM:
すると、一団の中から165センチほど上背のある男性が進み出てきます。肌の色は薄褐色。髪は明るい茶色。見たところ、年齢は20代半ばといったところでしょうか(そう言ってキャラクターイメージを提示する)。
サイエ(GM):
サイエと呼ばれた男性は、サブリと目をあわせると軽く会釈して、「ご無沙汰しております。サブリさん」と挨拶を述べました。
アゼル:
へぇ~。なんだか悪徳商会の人間には見えない風貌だな。
GM:
いや、別にアスラン商会は悪徳商会というわけではないですからね(苦笑)?
サイエ(GM):
サイエは契約書を手に取るとその内容に目を通していきます。そして、その内容に目を丸くしました。
「これはこれは……。20万金貨もの借金を全額肩代わりですか……。返済主は……アゼル・クルトさん?」
アゼル:
「ああ。アゼル・クルトは俺だ」
サイエ(GM):
「あなたがアゼルさんですか。まだお若く見えるのに……。年の利息だけでもいくらになるかおわかりですか?」
アゼル:
「理解している!」
エルド:
絶対理解していないですよね(笑)。
サイエ(GM):
声を張り上げたアゼルを見て、サイエは小さく笑いました。
「奇特な方だ」そう口にすると、サイエはペンを手に取ります。そして、契約書にサインを描きつつ、「ところで、返済のあては?」と尋ねてきました。
アゼル:
「……それは……」
(しばらく考えてから)
「……王直属兵に志願するつもりだ」
ついさきほどまでアスラン商会に入ると言っていたアゼルでしたが、またしても舌の根の乾かぬうちに方針を変更したのでした。物語として成り立たせるためにも、できればその心変わりの経緯を丁寧に描写して欲しいところなのですが……(苦笑)。
サイエ(GM):
その答えを聞いたサイエは、少し意外そうな顔をしてこう言います。
「おや? タルカン様から伺っていた話とは少々異なるようですね?」
アゼル:
「仲間に諭されて、考えを変えた」
タルカン(GM):
2人の会話を聞いていたタルカンは、「まあ、どのような方法であっても、貸したお金が戻ってくるなら、うちとしてはかまわないわ」と言って、アゼルの選択を了承しました。
アゼル:
よし、今に見てろよ。俺はそのうちこの国の王座についてみせるからな。いずれ俺の命令ひとつでなんでもできるようにしてやる。
エルド:
え? アゼルさん、この国の王になるつもりなんですか? どっちに転んでも、嫌な未来しか想像できないんですけど……(苦笑)。
タルカン(GM):
では、タルカンは完成した2通の契約書のうち、1通をアゼルに渡し、もう1通を自分の懐に収めました。
アゼル:
契約書を受け取るとき、代わりに1通の手紙をタルカンに渡しておく。
「ひとつお願いがあります。これを、ジャフェル・クルトに届けてください。今回の件について、ことの経緯を書いておきました」
そこにはこれまでの経緯だけでなく、俺の惜別の言葉が書いてある。どうかアゼル・クルトという人間がいたことは、もう忘れてください。自分がクルトの地に戻ることは二度とありません。ですが、借金は必ず自分で返してみせます。クルト氏族に迷惑はかけません。
GM:
いや、迷惑はかけないって……。すでにとんでもないレベルで迷惑かけてますよね(笑)?
エルド:
(笑)
アゼル:
だから、これ以上の迷惑はかけませんってことだよ(笑)! とにかく、手紙にはそういったことが書いてある。何も連絡せずに、契約書だけ見せられても困るだろうからな。
タルカン(GM):
タルカンは手紙を受け取ると、それも契約書とともに懐に収めました。
「たしかに預かったわ。これはワタシが責任をもって、アナタの伯父上のもとまで届けるわね」
アゼル:
「よろしくお願いします」
イーサ:
なんかさぁ……。ニルフェルのことを王都に送るために、家財道具まで売って金を工面してくれたジャフェルさんとナターリアさんがその手紙を目にしたときのことを思うと胸が苦しいな……。涙がでてくるよ……。
エルド:
まあ、そうですね……。クルト氏族の復権のため、ニルフェルさんが自分を捨ててまで後宮入りを志したはずなのに、朗報が届くどころか莫大な借金を作ったアゼルさんからの手紙が届くわけですからね。
GM:
そして、王都まで送り届けると約束したはずのニルフェルとは離別しているという……。
エルド:
驚愕の事実ですよね。いったい娘はいまどこに? これ、ジャフェルさんが絶望して命を絶ったとしても不思議じゃありませんよ(苦笑)。
アゼル:
……まあ、それも物語のひとつだ。大丈夫。俺、王様になるから。この国の王になれば、そんなこと些細な問題だ。
エルド:
なんですか、その「海賊王におれはなるっ!」みたいなノリは。
GM:
まあたしかに、借金王にはなれたみたいですけどね。
一同:
(爆笑)
GM:
団体としてならまだしも、さすがに個人で20万金貨以上もの借金を背負っている人間は、カーティス王国の中にもそうはいないと思いますよ。さっきまで、タルカンにアゼルに対して辛辣な台詞を言わせようかと思っていたんですが、ここまで落ちるともはや叱責するのもはばかられますね。
タルカン(GM):
タルカンはアゼルに対して「これから何かとたいへんでしょうが、頑張りなさい」とだけ声を掛けました。
アゼル:
おお、優しい人だ。やっぱりアスラン商会に入ってもよかったかもな。
GM:
将来有望な才気あふれる者に対しては叱咤激励できますが、もはやアゼルに対しては、あのタルカンですら生暖かく見守るしかないですからね(苦笑)。
イーサ&エルド:
(爆笑)
タルカン(GM):
「それで、アゼル。このあとアナタはどうするつもり?」
アゼル:
「このまま街を出て、イルヤソールを目指します」
タルカン(GM):
「そこでニルフェルちゃんと合流するというわけね。なら、アナタのお目付け役としてサイエをつけるわ」そう言うと、タルカンはサイエに視線を送りました。
サイエ(GM):
タルカンに促されたサイエは、丁寧に頭を下げます。
「あらためて自己紹介させていただきます。私はサイエと申します。今回の件、もともとは私がサブリさんに20万金貨ご融資したのが発端だったのですが、アゼルさんがその返済を肩代わりなさるということで、今後は私が目付け役としてアゼルさんに同行させていただきます。以後お見知りおきを」
アゼル:
「うむ。よろしく頼む」
タルカン(GM):
続けてタルカンはイーサのほうを見ました。
「イーサ。アナタはどうするの?」
イーサ:
うーん……。
(しばらく考えてから)
「……俺は……ここを出たらバリス教団の行方を追ってみるつもりです。どうも、バリス教団は王都を目指しているらしいですから」
タルカン(GM):
「ふーん。でも、王都を目指すつもりなら海路を使ったほうが良いんじゃなくって? そちらのほうが陸路を行くよりも何倍も速いわよ。それに、当てもなくバリス教団の行方を追うより、もう少し彼らの計画について調査してから行動したほうが良いと思うけれど」
イーサ:
「なるほど……。それはそうですね……」
アゼル:
え? まさかイーサ、ここで離脱するつもりなのか?
イーサ:
……。
(無言で考え込む)
GM:
えー、念のため言っておきますが、PC個人の目的を完遂するためにどのような選択をするべきなのか、よく考えて行動したほうがいいですよ。なれあいを優先して行動していると、目的を果たせなくなってしまうこともありますからね。もちろん、それでPCが後悔しないというのであれば、GMとしては一向に構いませんが。
イーサ:
そうだよな……。だったら、ここでアゼルと別れるのもありか……。だが、仮にここで陸路と海路に別れるとして、GM側のシナリオの準備は大丈夫なのか?
GM:
メタな部分を心配していただきありがとうございます(笑)。ですが、もとより陸路側と海路側の両方の展開を用意してあるので、その点では問題ありませんよ。
イーサ:
そうか。たしかに、俺もいったんここでバリス教団の情報を調べておくべきだとは思ってたんだ。だが、アゼルの話に流されちまって、いつの間にかこのタイミングで街からでなきゃならないのかと思い込んでた。
さて、どうしたもんかな……。
(腕組みしてさらに悩み続ける)
アゼル:
悩むな、悩むな。悩んで遠回りするんじゃない。
タルカン(GM):
では、タルカンは考え込むイーサに対してこのような言葉をかけてきます。
「もし、この街でバリス教団のことについて調べるつもりなら、少しくらい協力してあげてもよくってよ?」
イーサ:
おお! タルカンさんに協力してもらえるのか。だったら……。
「俺は、何としてもベルカント……いや、サーラールがことを起こす前にそれをやめさせたい。もし、それに協力してもらえるのであれば、ぜひタルカンさんの力を貸して欲しい!」
タルカン(GM):
「いいわよ。もし、いま国家転覆なんてことになったら、アスラン商会としても大打撃を被りかねないものね」そう言うと、タルカンはイーサに対してほほえんでみせました。
イーサ:
「いろいろと迷惑をかけてしまいますが、よろしくお願いします」
タルカンさんに頭を下げたあとで、アゼルとエルドのほうへと顔を向けた。
「そういうわけだ。すまないが、ここからは別行動を取らせてもらう。俺はどうしてもバリス教団のやろうとしてることを止めたいんだ」
アゼル:
「……そうか。そういうことなら、ここでお別れだ。いろいろとたいへんだとは思うが頑張れ」
イーサ:
「ああ、お前もな。健闘を祈っている」
アゼル:
「よし、それじゃエルド、そろそろ出発するとしよう」(と言って、エルドへと顔を向ける)
エルド:
「いえ、アゼルさんには悪いんですが、僕もイーサさんと一緒にここに残ることにします」
アゼル:
「……え?」
エルド:
「王都に向かうなら海路を進んだほうが早いようですし、僕としてもバリス教団のことが気になりますからね。そういうわけなので、イルヤソールにはアゼルさんひとりで向かってください」
アゼルの投げかけた言葉に対し、エルドから返ってきたのは意外な言葉でした。その予想外の反応にアゼルの表情が凍りつきます。
アゼル:
「……あ……ああ、そうか……。わかった」
エルド:
「それじゃ、これまでありがとうございました。もし、王都で会うことがあれば、そのときはまたよろしくお願いします」
イーサ:
「そうだな。次にあうことがあるとすれば、きっと王都だな。ニルフェルのこと、無事に送り届けろよ」
アゼル:
「……ああ……」
てっきりイーサひとりが離脱するもんだとばかり思ってたのに、まさか俺のほうがひとりになるとは……。
GM:
まあ、一応サイエが同行するので、アゼルもひとりになるわけではないですけどね。
さて、そんなところで、あなたたちの耳に正午を知らせる鐘の音が聞こえてきます。
サイエ(GM):
「では、アゼルさん、そろそろ行きましょうか」そう言うと、サイエは荷馬車のほうへと歩いて行きました。
アゼル:
……それじゃ、サイエのあとについて行く。
イーサ&エルド:
……。
サブリ(GM):
去り行こうとするアゼルに対して、サブリが大きく手を振ります。
「アゼル、ありがとよ! この恩は一生忘れねぇからな! イスパルタに戻ってくることがあったら、うちを訪ねてきてくれよな! かみさんの手料理をご馳走してやるからよ!」
アゼル:
「ああ……。元気で暮らせ……」
感謝してるなら、10万金貨くらい用意してくれてもいいんだぞ?
イーサ:
だったら、最初からそう持ち掛けておけばよかったものを……。
こうして、これまで共に旅を続けていた一行は、ここで二手に分かれることとなりました。はからずともギュリスが手紙で予見していた未来がこんなところで具現化してしまいます。そして、ここでイーサとエルドがいったん退場し、アゼルのソロプレイが始まったのでした。