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宮国紀行イメージ

宮国紀行 第7話(10)

 イーサ、エルドと離別することとなったアゼルは、目付け役として商人サイエをあてがわれ、アスラン商会の隊商と共に、まずはビューク・リマナ地方北部にある宿場町シリンジェを目指してメーメット街道を北上することになりました。

サイエ(GM):
「さて、アゼルさん。旅の準備は整っていますか? 食料や水は十分持っていますか?」

アゼル:
「そういえば、急だったからこれといって用意してなかったな……」

サイエ(GM):
「結構です。では私のほうで用意していたものを使ってください」

アゼル:
「いいのか?」

サイエ(GM):
「ええ。まあ、20万金貨も借りていただいている上客に対する、ちょっとしたサービスのようなものですよ。借りたお金を返していただける分には、大切なお客様です」

アゼル:
 なるほど。そういう考え方もあるのか。ならば、客の俺がサイエの下手にでる必要はないな(笑)。

サイエ(GM):
「――ですが、人として最低限の礼儀というものはございます。アゼルさん、失礼ですがあなたはおいくつですか?」

アゼル:
「19だが、それが?」

サイエ(GM):
「そうすると、私の3つ年下ということになりますね。ならば今のうちに言っておきますが、目上の者に対する言葉遣いには気を付けたほうがよいですよ。アゼルさん」

アゼル:
 ぬはッ(苦笑)。

サイエ(GM):
「では、行きましょうか」

アゼル:
「……そうですね……。えーと……。サイエ……さん……」
 借金をしてる身だからな、仕方ない(苦笑)。
 ところで、サイエさんの武装はどんな感じなんだ?

GM:
 サイエは普通のクロースを着ています。一応、護身用のダガーを携帯していますが、彼はただの商人ですから戦闘力には期待しないほうがいいですよ。

アゼル:
 ってことは、戦闘になったら俺が守らなきゃならないのか? ……いや、まてよ? サイエさんが死んでしまえば、それはそれで俺にとって都合がいいのか?

GM:
 えーと、もし目付け役が死ぬようなことがあったらどうなるのか、それくらい想像できますよね?

アゼル:
 大丈夫だ。もしそうなったら、アスラン商会に目付け役が死んだから次の目付け役を派遣するようにって書いた手紙を送るから。そして、次の目付け役がくるまでのあいだ、俺は自由ってわけだ(笑)。

GM:
 ……まあ、与太話はそれくらいにして、さっそく移動を開始していきましょう。

ビューク・リマナ地方北部地図01

GM:
 現在はお昼を過ぎたころ。天候は晴天で、南西から生温かな湿った空気が流れ込んできています。

アゼル:
 これ、ランダムで強い敵と遭遇してゲームオーバーってこともあるんだよな?

GM:
 もちろん、その可能性はありますよ。

アゼル:
 一緒に行動することになったアスラン商会の隊商って、どれくらいの規模なんだ?

GM:
 これから一緒にメーメット街道を北上する隊商は総勢10人で、うち5人がアスラン商会の私兵です。移動手段は、4頭立ての大きな荷馬車が2台に、私兵の乗る馬が5頭です。あと、サイエは馬2頭で引く荷馬車に乗っています。御者台に空きがあるので、あなたもその隣に乗ることができます。

アゼル:
 そうすると、全員馬か馬車に乗ってるってことか。

GM:
 はい。さすがにアスラン商会の隊商ともなれば装備が充実していますね。ただし、今回は荷馬車に乗せられるだけの物資を限界まで詰め込んでいるため、10キロ移動するのに通常速度で2時間半ほどかかります。

アゼル:
 私兵が5人も護衛としてついてきてるってことは、俺は旅の途中で戦わずに済むのか?

GM:
 たしかに、アゼルが戦闘に参加せずとも特に問題ない構成ではあります。ですが、もしアゼルが希望するのであれば、戦闘に参加しても構いませんよ。
 では、RK地点からQJ地点への移動の遭遇判定をどうぞ。

アゼル:
 うりゃッ! (コロコロ)敵とは遭遇せず。

GM:
 ならば、その移動中に1時間の昼食休憩をとったうえで、隊商は15時半ごろにQJ地点に到着しました。

サイエ(GM):
 アゼルの隣では、サイエが馬の手綱を握っています。たまに、サイエがチラリとアゼルのほうを見ることもありますが、なにか会話しておきますか?

アゼル:
 いまは特に話したいとも思わない。なにせ、イーサとエルドとの別れがあったばかりで、気が重い状態だからな(苦笑)。あいつら、別れ際にたいした話をすることもなくいなくなっちまった……。まったく薄情な奴らだ。

GM:
(苦笑)

サイエ(GM):
 では、サイエは無言で視線を進行方向へと戻します。

GM:
 次はPJ地点への移動です。

アゼル:
(コロコロ)またしても遭遇せず。

GM:
 なら、なんの問題もなくPJ地点に到着しました。そのころには日が西の地平線近くまで傾いています。
 アスラン商会の隊商は、適当な場所に荷馬車を止めると、馬を荷馬車から外しはじめました。

アゼル:
 じゃあ、そこで周りを見回してみる。なにか目につくものはあるだろうか?

GM:
 薄暗くなってきた中で整備された街道以外に目につくものといえば、まばらに生えている背の低い木くらいですかね。それ以外は草原が広がっています。

アゼル:
「ここで野営するのか?」

サイエ(GM):
「ええ。ご覧のとおりですよ。アゼルさん」

アゼル:
「そうか。じゃあ、俺たちも準備しないとな」

サイエ(GM):
「そうですね。いつまでも、下を向いてだんまりされていたのでは、私としても困ります。旅の同行者として、しっかり働いていただかないと」

アゼル:
「そうだな……。すまない」

サイエ(GM):
「では早速、私たちもテントを張るとしましょう。手伝ってください」そう言うと、サイエは荷馬車の中から2人用のテントの部品を取り出してきました。

アゼル:
 じゃあ、積極的に手伝うとしよう。

GM:
 ならば、19時までには設営を終えることができました。

アゼル:
 よし、今回は護衛もいっぱいいるし、休む前に訓練しておくことにする。

GM:
 それは構いませんが、一応アスラン商会の私兵から、アゼルも夜間の見張りに協力するように言われますよ。そうすれば、戦える人間が6人になるので、2人1組の3交代制で見張り番を回せるようになりますからね。

アゼル:
 なるほど。それじゃ、自分が見張り番のときに、黙々と剣を振ることにしよう。がむしゃらに訓練するぞ。

GM:
 了解です。訓練をするのであれば、アゼルは見張り番の1番最初を務めることにしますね。

アゼル:
 ん? なんでだ?

GM:
 もし先に睡眠をとってから訓練してしまうと、訓練でたまった疲労が翌日の出発時点で回復しきらない可能性があるからですよ。

アゼル:
 あ……そうか……。じゃあ、そうする。

GM:
 では、アゼルが見張り番を務めている時間帯にはこれといったことはありませんでした。
 アゼルが見張り番を終えてテントの中に入るころになると、強風が吹きはじめます。その風の音を聞きながらアゼルは眠りにつくわけですが、ここで恒例の夢イベント判定を行っておきましょう。

アゼル:
 おッ。今日こそ夢イベントを見られるか? (コロコロ)おおおッ! 12だ! ついに成功したぞ!

GM:
 ようやく成功しましたか(苦笑)。では、強風によってテントのばたつく音が騒々しく響く中、訓練による疲労がたまっていたアゼルは、深い夢の中へと落ちていったのでした……。

 本来であれば、第5話目で発生するはずだった夢イベントがついに始まります。はたして、アゼルはどのような夢をみるのか……。そして、その夢がもたらすものとは……。


GM:
 眠りに落ちたはずのアゼルの耳に、相変わらず強い風の音が聞こえてきます。その強い風はなにかに吹き付け、ガタガタ、ガタガタと音を立てています。

アゼル:
 バタバタ、じゃなくて、ガタガタ? じゃあ、起き上がってその音がするほうを見てみようとするかな。

GM:
 そうすると、アゼルはまず目を開けることになるわけですが、目を開けたアゼルの視界には、とても見慣れた天井が映りました。

アゼル:
 見知った、天井……か(笑)。さっきまでテントの中で眠っていたはずなのに……と不思議に感じて周りを見渡す。

GM:
 部屋を見渡すと、どうやらそこはクルト家のあなたの部屋のようです。吹きすさぶ強風が窓を小刻みに揺らし、ガタガタという音を立てていました。その窓からは月明かりが差し込んでいます。

アゼル:
 じゃあ、次は起き上がるかな。それで、父親の形見であるバスタード・ソードが置いてあるほうへと目を向けた。

GM:
 え? アゼルが装備していたバスタード・ソードって、父親の形見だったんですか?

アゼル:
 うむ。そのつもりだった……。俺の父親は傭兵だったんだが、母親が俺のことを産んですぐにどこかに出て行ってしまって、その後、母親が亡くなったあとになって、父親の仕事仲間だって名乗る人物が父親の遺品だってことでこの剣を届けに来たっていう設定。

GM:
 なるほど……。わかりました。では、その父親の形見である大きなバスタード・ソードは、部屋の壁に立てかけられています。

アゼル:
 その剣を見て、物思いにふける……。

GM:
 ……。

アゼル:
 ……こういうときって、あとはなにをしたらいいんだ?

GM:
 とりあえず、なんでもいいので自由に行動してみてください。そのうち適当なタイミングでイベントを進めていきますので……。ちなみに、この段階であなたはこれが夢の中だということを漠然と認識できていて構いません。

アゼル:
 じゃあ、形見の剣を手に取って、構えてみたりするかな。

GM:
 では、アゼルはその剣を手に取るのですが、思った以上にずっしりとした重さを両腕に感じます。いまのあなたの体格に対して、その剣は大きすぎますね。

アゼル:
 え? あれ? ……もしかして? 思わず自分の手を見てみるが……。

GM:
 昨日までの自分の手と比べると、とても小さな手がそこにあります。

アゼル:
 なるほど。つまり、いまの俺は子供のころの俺ってことか。それじゃ、剣を構えるのは諦めて撫でることにしよう。それで、あらためて、俺はいま子供なんだなってことを認識した。しかし、いまの俺は何歳くらいなんだ? それが判断できるものとかないのかな?

GM:
 うーん……。では、先ほど聞いた設定を踏まえて、こういうことにしましょう。その剣があなたのもとに届けられたのは、あなたがもうすぐ十歳になろうかというころのことです。ちょうどそのころ、ジャナンという名の傭兵とその息子セルダルがクルト氏族の土地を訪れ、定住することになりました。それからしばらくすると、アゼルはジャナンに師事して剣の修行をはじめることになるわけですが、先ほど見たやわな手の様子からすると、まだ剣の修行ははじめていないようです。
 参考として子供のころのアゼルの能力値を教えておきますね。知力16、器用度11、敏捷度5、筋力6、生命力6、精神力14です。

アゼル:
 おお! 知力と精神力がずいぶん高いな。

GM:
 ええ。子供にしては突出した才能の持ち主でしたよ。周囲の人たちはアゼルのことを神童と噂して、その将来にかなりの期待を寄せていました。

アゼル:
 ちなみに、筋力6ってのは平均的な値なのか?

GM:
 それは平均以下です。成人後のアゼルの筋力は努力によって得たものであって、持って生まれたものではないですからね。

アゼル:
 そうか。それじゃ、このころの俺は、きっと剣の腕前ではなく頭の良さでクルト氏族を再興させるつもりだったんだろうな。本もよく読んでたはずだ。

GM:
 そうですね。この時代のクルト本家は、徐々に衰退しつつあったもののまだ経済的に余裕があり、家庭教師も雇っていましたので、アゼルは高いレベルの教育を受けることができていました。そのほかにも屋敷には数名の使用人がいましたし、周囲の土地にも田畑を耕して暮らす人々が住んでいました。アゼルのもっているファーマー技能は、その手伝いをするなどして取得したものと思われます。

アゼル:
 なるほど……。そうすると、オヤジの剣が手元に届いたことで、アゼルはこれから剣の道に目覚めていくわけだ。剣を撫でつつ、面影も知らない父親のことを想像してみる。
「父さん……」

GM:
 では、そうやって物思いにふけるアゼルの耳に、風の音に紛れてなにやら悲しげな泣き声が聞こえてきました。

アゼル:
 ん? それはどこから聞こえてくるんだ?

GM:
 泣き声は廊下のほうから聞こえてくるようです。

アゼル:
 じゃあ、部屋の扉を開けて廊下に出てみる。

GM:
 そうすると、静かな屋敷の中にあなたが扉を押し開ける音が響き渡りました。部屋の外には、暗く長い廊下がのびています。

アゼル:
 ビクビクしながら、その泣き声のするほうに向かってみる。

GM:
 鳴き声のするほうへと進んでみたところ、どうやらその泣き声は、あなたの部屋の3つ隣にある部屋の中から聞こえてきていることがわかりました。そこは、あなたの従妹であるニルフェルの部屋です。

アゼル:
 じゃあ、ニルフェルの部屋の前まで行って、扉をコンコンとノックした。
「ニルフェル?」

GM:
 扉がノックされると、その瞬間、泣き声はおさまったかのように思えました。しかし、よく耳をすませば、扉の隙間からヒック、ヒックとしゃくり泣く声が微かに漏れているのが聞こえます。

アゼル:
「入ってもいいか?」と優しい声色で尋ねよう。

GM:
 返事は帰ってきませんが、しゃくり上げる声はまだおさまっていません。

アゼル:
 じゃあ、「入るよ」と言って、扉を開けて中に入った。

GM:
 アゼルがノブを回すと軽い音をたてて扉が開きました。部屋の中に入ってみると、ベッドの隣に膝を抱えた格好で泣いているニルフェルの姿があります。この当時、ニルフェルはまだ6歳です。

アゼル:
 それを見つけたなら、無言で歩み寄って行って隣りに座る。で、ニルフェルの頭の上に手を置いて、「どうかしたのか?」と優しく声をかける。

ニルフェル(GM):
 そうすると、ニルフェルは顔を上げてあなたのことを見るのですが、その目を真っ赤に泣き腫らしています。続けて、ニルフェルはなにか言葉を発しようとするのですが、しゃっくりがおさまらずなかなか言葉を口にできませんでした。

アゼル:
 落ち着くまでしばらくそのままでいよう。

ニルフェル(GM):
 では、しばらくして落ち着きを取り戻したニルフェルは、かすれた声でこう口にしました。
「お兄ちゃん……いなくなっちゃうの?」

アゼル:
「え? どうして?」

ニルフェル(GM):
「……だって……ジーネットがひどいことを言うんだもん」

GM:
 ジーネットというのはクルト家に仕えている女家庭教師の名前です。教育熱心な人で、決して悪い人というわけではありません。

アゼル:
「なんて言われたんだい?」

ニルフェル(GM):
「お兄ちゃんはうちの子じゃないから、いつかはいなくなっちゃうんだって……。ねえ、お兄ちゃんは本当にいなくなっちゃうの?」

アゼル:
 うッ……(苦笑)。……じゃあ、ちょっと苦笑いをしながら、「いなくなったりなんかしないよ。ずっとお前のそばにいるさ」と答えよう。

ニルフェル(GM):
「本当に?」
 不安そうな顔をして、ニルフェルが聞き返してきます。

アゼル:
「ああ、本当だとも!」……と答えた(苦笑)。

ニルフェル(GM):
 その答えを聞いたニルフェルは、それまでの緊張をゆっくりと解いていきました。しかし、まだその瞳に影を落とす不安の芽は完全には払しょくされていないようです。
「でもね……。ジーネットは、おうちをツグのは私の役目だから、歌ばかりうたってちゃいけませんって……。もっと勉強しなくちゃいけませんって言うの」

GM:
 当時、ニルフェルは歌をうたうことがなによりも好きで、暇さえあれば庭にでて歌ばかりうたっているような女の子でした。カルカヴァンに到着してからというもの、ニルフェルのバード技能が日の目をみる機会はありませんでしたけどね(苦笑)。

アゼル:
 そうだな……。どう答えようかな。俺は勉強できる子供だったんだろうから、それっぽく答えないとな。

GM:
 そうですね。ジーネットもあなたの学力の高さには一目置いているようです。だからこそ、歌にばかりかまけていて勉強に熱心でないニルフェルが際立ってしまっているということもあるでしょう。

アゼル:
「……歌いたければ歌えばいいよ。お前の歌、俺は好きだ。いまは好きなことをすればいい」

ニルフェル(GM):
「……でも、ジーネットは勉強しなくちゃ駄目だって……。おうちをツグひとは勉強できなくちゃいけないんだって……。私が頑張ってお家を立て直さなくちゃいけないんだって……」
 不安を完全に取り払うことができずにいるニルフェルは、さきほどと同じような言葉を繰り返します。

アゼル:
「じゃあ、俺がニルフェルのかわりに、この家を立て直してあげるよ。だから、お前は好きなことをすればいいんだ」

ニルフェル(GM):
 その言葉を聞いたニルフェルは、両目を見開いて、曇りひとつない尊敬のまなざしをアゼルに向けました。

GM:
 プレイヤー本人がやってることなので別に構いませんが、ずいぶんとハードルをあげてきますね(笑)。

アゼル:
 子供のころのアゼルはいい奴だったんだよ(笑)。

ニルフェル(GM):
「本当? 本当に!?」

アゼル:
「ああ! お兄ちゃんに任せておけ!」

ニルフェル(GM):
「約束、してくれる?」

アゼル:
「もちろんさ! それじゃ、約束の指切りをしよう」そう言って、ニルフェルに向けて小指を出した。

ニルフェル(GM):
 では、それに対してニルフェルは、とっさに自分の両手をあなたから隠すように背中に回して、頭を横に振りました。

アゼル:
「ん? どうかしたのか?」

ニルフェル(GM):
「指切りはダメ。だって、指切りはショーコにならないんでしょう? 約束ごとをするときには、ショーコになるものが必要なんだって。ジーネットが言ってたよ」

アゼル:
 ショーコって証拠かよ(笑)。……うーん、しかしこの場で証拠になるようなものなんてあるかな? 証拠……。

ニルフェル(GM):
「大切な約束だから、ずっと、ずっと、消えないようなショーコにして欲しいな」

アゼル:
 うーん……。小刀で聖印の裏側に掘り込んでおくとか?

GM:
 ……ここまでお膳立てして誘導したんですから、しっかり伏線を回収してくださいよ(笑)。

アゼル:
 え……?

GM:
 第2話の冒頭を思い出してください。

アゼル:
 第2話?
(しばらく考えてから)
 ……あ~ッ! あれか! 壁か! じゃあ、壁に約束を掘りこもう。小刀的なものはあるんだろうか?

GM:
 各部屋には筆記具が置かれています。その中には小刀も含まれていますよ。

アゼル:
 なら、それを手に取って、壁に小さくアゼル・クルトの名前を刻んだ。
「どうだ! これが証拠だ!」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは壁に掘り込まれた文字を手でなぞり、それをひとつずつ口にだして読み上げていきます。
「ア、ゼ、ル、ク、ル、ト」

アゼル:
「これだったら、なくならないから安心だろ」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは壁の文字とアゼルの顔を交互にみて満面の笑みを浮かべると、「うん!」とうなずきました。

アゼル:
「だから大丈夫だ。俺に任せろ。約束だ!」

ニルフェル(GM):
「ありがとう、アゼルお兄ちゃん! 約束ね! ずーっと、ずーっとの約束ね!」

GM:
 2人がそのような約束を交わしたところで、アゼルの意識がスーッと遠ざかっていきます。

アゼル:
 うおー。こんな夢イベントが用意されてたのかよ! 俺、ニルフェルとそんな約束してたのに、こんな状態になっちまったのか……。

GM:
 まあ、約束の中身はあなたがいま決めたわけですが(笑)。もし、もっと早い段階で夢イベントが発生していたのであれば、その後の展開も少しは変わっていたのでしょうが、どうやらダイスの神様はこうなることを望んでいたようですね。

アゼル:
 そうかもな(苦笑)。
 しかし、本当だったらこれを皆が居るところでやる予定だったのか……。まあ、そうならなくてよかったのかな。だって、イーサの奴、この話聞いてたらまた泣いてたぞ(笑)。

GM:
 たしかに(笑)。

アゼル:
 これはもう、ニルフェルには平謝りするしかないな……。とは言っても、20万金貨もの借金を背負っての再会になるんだよなぁ……。あーあ、こんなことなら借金を肩代わりするんじゃなかった……。


GM:
 さて、シーンを現実へと戻します。

サイエ(GM):
「アゼルさん……。アゼルさん……」そう呼びかけるサイエの声であなたは目を覚ましました。

アゼル:
「う、うーん」
 目を開けて周りを見渡した。
「夢……だったのか……」

サイエ(GM):
「ええ、ずいぶんぐっすりと眠っていたようですね。もう朝ですよ。ほかの人たちは、すでに出発の準備を始めています。置いていかれるわけにはいきませんので、アゼルさんも急いで出発の準備を整えてくださいね」

アゼル:
「お、それはまずいな。急ごう」
 慌てて起きだして出発の準備を済ませる。

GM:
 では、野営地の片付けを行い、軽い食事を済ませたところで、午前8時には出発の準備が整いました。雨が降ってくる気配はありませんが、上空には雲が張っています。
 隊商はそのままOI地点に向かうことになりますが、途中でなにかやっておきたいことはありますか?

アゼル:
 そうだなぁ……。なんか遠くのほうを見てるかな(笑)。

GM:
 ならば、そんなアゼルの視線の先には、豊かな自然が広がっています。ちょうど色とりどりの花が咲き誇っている時季ですね。アネモネやイベリスなどの花が色鮮やかに咲いているのが目に入りますよ。

アゼル:
 せっかくだからなにか独り言でも呟いておくか。
「……そうだったのか……。あの壁の傷は、あのときの……」

サイエ(GM):
 では、御者台の隣の席に座るサイエがアゼルの独り言を耳に入れて、「ん? 壁がどうかしましたか?」と聞き返してきました。

アゼル:
「いや……なんでもない。ただの独り言だ……」

サイエ(GM):
 そのアゼルの返答に、サイエは不思議そうに首をかしげてから小さく手綱を打ちました。

 こうして、アゼルはもやもやした気持ちを抱えたままメーメット街道を北上し続け、MI地点にある宿場町シリンジェへとたどり着きます。途中、何度か野生動物と遭遇することはありましたが、隊商に同行しているアスラン商会の私兵が難なく追い払い、被害を被ることはありませんでした。

ビューク・リマナ地方北部地図02

 ちなみに細かなところではありますが、この段階ですでにアゼルのサイエに対する口調は、タメ口を通り越してやや上からのものになっていました(苦笑)。面識の薄い目上の相手に対してこのような態度を取っていると、好感度が下がっていくのですが……。




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