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宮国紀行 第7話(12)

 ゴロツキたちを蹴散らしたアゼルは、安宿の中に戻ると怪我の手当てを済ませ、再び食事の席につきました。

GM:
 さて、アゼルとサイエが食事を再開すると、そこにあの給仕の娘が近づいてきました。

給仕の娘(GM):
「先ほどはどうもありがとうございました! これ、召し上がってください!」そう言って、給仕の娘は酒とつまみをサービスで出してくれます。

アゼル:
 それくらいだったら、ありがたくいただくとしよう。

サイエ(GM):
 サイエは、サービスで出された酒を飲むアゼルのことを横目に見て、「本当にあなたは面倒事に首を突っ込むのが大好きなようですね……」と呆れたように口にします。

アゼル:
 まあ、なんだかんだで、今回もまたやっちまったな(苦笑)。

サイエ(GM):
「20万金貨もの借金を肩代わりしてしまうような人にとっては、さきほどのようないざこざに首を突っ込むことなど、どうということもないというわけですか?」

アゼル:
「いや……。まあ、そこらへんは徐々にあらためていかないとな……」と言って苦笑いした。

サイエ(GM):
「いえいえ、別に構いませんよ。あなたのそのような行いによって救われる人もいることですしね……」そう言ってから、サイエはチラリと給仕の娘のほうへと目を向けました。
「ほら、見てごらんなさい。あの給仕の娘があなたに向けている視線」

アゼル:
「なんだ?」
 給仕の娘のほうを見てみる。

給仕の娘(GM):
 すると、その娘は給仕の仕事もおざなりにじっとアゼルのことを見つめていたのですが、アゼルから視線を向けられるとあわてて目をそらしました。

サイエ(GM):
「あれは恋する乙女の目……というやつでしょうね。あのような場面でさっそうと助けに入ってくれた年ごろの青年。それも、めっぽう腕が立つときてる。このような刺激の少ない宿場町に暮らす娘の目には、あなたのことがさぞかし魅力的な男性として映っていることでしょう」

アゼル:
「……あまりそういうのには興味ないな」

サイエ(GM):
「まあ、あなたの興味のあるなしはどちらでも構いませんが……。ともかく、あの娘はあなたの行いに対してそれほど好意的な感情を抱いたということです。あの娘だけでなく、先ほど集まっていた野次馬たちも、いい余興が見れたと喜んでいることでしょう。ただ、ゴロツキたちだけは、あなたに対してよくない感情を抱いたことでしょうがね」

アゼル:
「そりゃそうだ(苦笑)」

サイエ(GM):
「もし、あなたのそのなんにでも首を突っ込んでしまう性格が災いすることがあるとすれば、それはあなた自身の力だけでは解決しきれないことにまで首を突っ込んでしまった場合のことですよ。何においても身の丈というものがありますからね」

アゼル:
「耳の痛い話だな……」

GM:
 アゼルとサイエがそんなことを話していると、3人の男たちがあなたたちのほうに歩いてきます。

アゼル:
 また、さっきのゴロツキどもか? 剣の柄に手を当てて立ち上がる。

GM:
 いえ、近づいてきたのはさっきゴロツキたちではなく、野次馬として集まってきた中にいた男たちですね。ボロボロになった衣服を着ており、その恰好は農夫のようにみえます。年のころは皆40歳前後といったところでしょうか。

アゼル:
 じゃあ、剣の柄から手を放した。
「何か用か?」

農夫A(GM):
 そうすると、一番手前にいた農夫が頭をぺこぺこ下げながら、たどたどしく口を開きました。
「あのぅ、騎士様。お食事中のとこ、すんません。オラたち、チルキンジュの村からやってきたもんですがぁ、ちょっとばかしお話聞いてもらえねぇでしょうか?」

アゼル:
「なんだ?」

農夫A(GM):
「さっき、騎士様がならず者たちを成敗してんのをお見かけしました。そのお力を見込んで、ひとつ化け物退治をお願いできねぇでしょうか?」

アゼル:
(少し考えてから)
「俺たちは先を急いでいる。そんなことをしている暇はない。悪いが頼みは聞いてやれないな」

農夫A(GM):
 そう言われると、農夫は慌てふためきます。
「そ、そこをなんとかおねげぇします。実はオラたち、クゼ・リマナにある総督府に助けぇ求めに行こうとしてたんだども、ここさ来たところで、なんかいまクゼ・リマナがたいへんなことになっとるとかで、街の中に入ることもできねぇって話を聞いたんだ」

アゼル:
「まあ、それはそうだろうな……」

農夫A(GM):
「んで、助けを求めるようにもあてをなくしちまって、困り果ててたところで騎士様のことをお見かけしたんだ。きっとこれは神様のお導きだべ。オラたちに出せる限りの報酬さ用意すっから、なんとかお力をお貸しいただけねぇでしょうか?」

アゼル:
「さっきゴロツキどもを追い払えたのはたまたまだ」

農夫A(GM):
「いんや、それはご謙遜だべ。騎士様の腕前は本物だぁ。オラ、あんな荒くれども3人も相手にまわして、あそこまで見事に戦える人をほかに見たことがねぇ。お名前は存じあげてねぇですけど、きっとご高名な騎士様なんだべ?」

アゼル:
「いや、本当に運がよかっただけだ。俺には化け物退治なんかできない。どう頼まれようとも、力になってやることはできないな」
 そもそも、その化け物が何なのかもわかってないけどな。

農夫A(GM):
「そこを曲げてどうかお願げぇします! ほんに、このとおり! お願げぇします!」そう言って、農夫は深々と頭を下げました。農夫の顔は悲痛に歪み、今にも泣きだしてしまいそうです。

アゼル:
 うーん。そうやって頭下げられても、俺のいまの目的はイルヤソールに向かうことなんだ。そう何度も同じ失敗を繰り返すわけにいかないしなぁ……。
(しばらく悩んでから)
「やらないと言ってるだろッ!」と強い口調で言い放った。

農夫A(GM):
「う……。ううう……」
 頭を下げていた男の足元に水滴が落ちます。

農夫B(GM):
 すると、一緒にいた農夫Bが、「仕方がねぇ……。騎士様も先を急いでるってことだし、ほかの人をあたってみんべ……」と言って涙を流す農夫Aを抱きかかえます。

農夫A(GM):
「うう……。すまねぇ、母ちゃん。もう、ダメかもしんねぇ……。すまねぇ……」農夫Aはそう漏らすと、故郷の惨状を思ってか、むせび泣き始めました。

農夫B(GM):
「心配すんな! ほかにも、隊商の護衛とかでこの宿場町にくる人はいるはずだ。諦めんのはまだはえぇぞ! 村で助けを待ってる連中のためにも、オラたちが諦めちゃダメだべ!」

農夫A(GM):
「だども、さっき頼みにいった隊商の護衛の人たちは、仕事が忙しくてオラたちの頼みは引き受けらんねぇって言ってたじゃねぇか!」

農夫B(GM):
「だったら明日だ。また、明日来る人たちに手当たり次第頼み込んでみんべ!」

GM:
 ……そんな感じで農夫たちは互いに励ましあっていますが、どうしますか?

アゼル:
 うーん……。ここは……無視だな。とっとと俺の前からいなくなれ(笑)。

 心底困り果てて助けを求めるチルキンジュ村の村人たちに対して、アゼルのこの対応。アゼルは、チルキンジュ村を襲った化け物が何であるかの確認も、またチルキンジュ村がどこにあるかの確認もしようとしませんでした。

 ちなみに、チルキンジュ村は現在地である宿場町シリンジェとアゼルの目的地であるイルヤソールを結んだちょうど中間地点に位置しています。隊商が使うような街道沿いの安全なルートではありませんが、チルキンジュ村を経由すれば最短距離でイルヤソールを目指せることになります。

GM:
 ……では、農夫たちは意気消沈しつつ、アゼルのもとから離れていきました。しかし、どうやら彼らもこの安宿に泊まっているらしく、外に出て行くのではなく端の席に座り、なにやら話し合いをしています。

サイエ(GM):
 そんなやり取りを隣りで傍観していたサイエが、「あなたでも助けを求める人の頼みを断ることがあるのですね」と、意外そうな声を漏らしました。
「やはりあれですか? 相手が女性でないと食指が動かないとか……」

アゼル:
 それに対しては、うわの空で「そうだな……」と返した。サイエが何を言ったのか頭に入ってこないって感じで。

サイエ(GM):
 その返答にサイエはアゼルの顔をまじまじと見ると、続けて「では、ここの支払いはアゼルさんのおごりということでよろしいですね?」と言います。

アゼル:
 ん? なんだ? それはどういう意味だ?

GM:
 ……うわの空のアゼルに対しては、なにを言っても相槌が返ってくるのではないかと考えての発言ですよ。

アゼル:
 ああ、そういうことか(苦笑)。じゃあ、せっかくだしそれにのっておくか。
 サイエの言葉に「そうだな……」と答えた。

サイエ(GM):
 それを聞いたサイエはほとほと呆れたような顔をしました。
「アゼルさん! ア・ゼ・ル・さ・ん! ちゃんと話を聞いていますか?」

アゼル:
「ん? ああ、ちゃんと聞いているぞ」

サイエ(GM):
「だったらよいのですが、ここの支払いはアゼルさんが出すということでよいのですね? さきほど、私がアゼルさんに支払はお任せしてよろしいですねと尋ねたら、あなた『そうだな』って答えましたよ?」

アゼル:
「うぐッ……。あ、ああ! 払ってみせるとも!」

サイエ(GM):
 サイエは眉間を指で押さえると、めまいを振り払うように軽く頭を振ります。
「いや、それは結構ですよ。アゼルさんは金欠なんですし……。ですが、うわの空でいったい何を考えていたんですか?」

アゼル:
「べつに……。なんでもない」

サイエ(GM):
「どうにも、心ここにあらずといった感じですねぇ……。もう少ししっかりしてくださいよ」

アゼル:
「そうだな……」

サイエ(GM):
「また、『そうだな』ですか……。明日から、私たちも同行人を探さなくてはならないのですよ? ふぬけたままでは、良い人材をあちらにとられてしまいますから、気合いをいれてくださいね」そう言うと、サイエは端の席に座るあの農夫たちのほうへと視線を向けました。

アゼル:
「ああ、わかっている……」

サイエ(GM):
「ならば、明日の朝一番で動き始め、この街の北と南の入り口で、訪れる人たちに声をかけていくとしましょう。私は北側を担当しますので、アゼルさんは南側をお願いします」

アゼル:
「了解だ」

サイエ(GM):
「では、私は明日に備えてもう部屋に戻らせてもらうことにします。お疲れさまでした」

アゼル:
 じゃあ、俺もやることないし、しばらくしたら部屋に戻って休むことにする。


 こうして、翌日からアゼルとサイエは旅の同行者を探しはじめました。しかし、クゼ・リマナからの流通が滞っているこの状態では、隊商もそうそうやってきません。

GM:
 ではここで、何日後に隊商がシリンジェを訪れるかを決めたいと思います。《レーティング10》で判定してください。

アゼル:
(コロコロ)5……。つまり、5日後ってことか?

GM:
 はい。もし、途中で何かすることがないのであれば、5日後まで進めてしまいますが……。

アゼル:
 そうだな。特にやることはないかな……。ああ、でも一応訓練は毎日欠かさずしてたってことで。

GM:
 了解です。あと、宿場町に到着した日以外は野営していたということでいいですね?

アゼル:
 うむ。だが、食費は消費しなくちゃならないのか?

GM:
 そこも節約したいのであれば、サイエが持ってきている保存食を食べていたことにしてもいいですよ。

アゼル:
 だったらそうさせてもらおう。もう金がないからな(苦笑)。

GM:
 ちなみに、アゼルが安宿の部屋を引き払って野営することにすると、それにあわせてサイエも安宿からそれなりの宿屋へと移りました。サイエが移った宿屋にはしっかりとした馬小屋もあるのですが、アゼルが望むのであれば寝床として荷馬車を貸してあげますよ。

アゼル:
 なるほど……。
(少し考えてから)
 あのさぁ……。荷馬車を貸してもらうよりも、いっそのことサイエが泊まった宿屋の馬小屋で俺も休ませてもらうわけにはいかないかな?

GM:
 え? 馬小屋に泊まるんですか? うーん……。それは宿屋の主人が嫌がると思うのですが……。そうですねぇ……。
(少し考えてから)
 いいでしょう。では、サイエがうまく交渉してくれて、馬小屋に泊めてもらえることになったとしておきましょうか。

アゼル:
 やった! これで屋根付きの場所で休めるぞ(笑)。

GM:
 では、5日後に時間を進めます。


GM:
 アゼルとサイエが同行者探しをはじめてから5日目の朝、10人規模の隊商が宿場町シリンジェを訪れました。チルキンジュの農夫たちもやってきた隊商に仕事を依頼しようとするので、どちらが先に声をかけられるかを《2D》で判定しておきましょう。(コロコロ)農夫たちは5です。

アゼル:
(コロコロ)よっしゃッ! 6で勝利!
 隊商に近づいて行って、偉そうな人と交渉しよう。
「すまない。ちょっといいか?」

隊商長(GM):
 そうすると、声をかけたのは隊商長を務める30代半ばの商人になりますね。声をかけられた商人は、馬車の御者台から「なんだい?」と答えます。

アゼル:
「俺は旅の者なんだが、あんたらはどこまで向かうんだ?」

GM:
 もう一度、《2D》で判定してください。5以上であれば北上、それ以外であれば周辺の村に物資を売りに行く予定です。

アゼル:
(コロコロ)おおうッ! 4しかない(笑)。

GM:
 残念ですねぇ(笑)。

隊商長(GM):
 では、隊商長は、「私たちはここから西に向かう予定だが、それが何か?」と返してきました。

アゼル:
 西かよぉ……。
「いや、俺は北に向かいたいんだが、方向が同じだったら護衛に雇ってもらえないかと思ってな」

隊商長(GM):
「北っていうと、マーキ・アシャス地方まで行くつもりなのか? だったらほかをあたってくれ」

アゼル:
「そうか……。残念だ。呼び止めて悪かった」
 仕方ない。次だ、次を探そう。

 このような判定を繰り返し、アゼルとサイエは同行できる隊商を探していったのでした。


 そして、さらに5日後……。

GM:
 さて、また日が過ぎて、次の隊商が来ました。農夫たちとどちらが先に声をかけられるか勝負しましょう。(コロコロ)農夫たちは7です。

アゼル:
 (コロコロ)10でまたもや勝利! そして……(コロコロ)よし、今度こそ北上する隊商を見つけたぞ。
 隊商に近づいていって、「あんたたち、どこまで行くんだ?」と話しかける。

隊商長(GM):
 ならば、40代らしき隊商長がアゼルの問いかけに答えます。
「ラカレットだが、それがどうした?」

アゼル:
 ラカレット?
(地図を確認して)
 イルヤソールからは結構離れてるな……。

GM:
 この宿場町に到着したときにサイエも話していたことですが、イルヤソールに向かうなら、未開地を進むのでない限りラカレットを経由することになりますからね。いったんメーメット街道をラカレットまで北上してから、東に延びる街道を進み、途中で南下するのがもっとも安全なルートです。

ビューク・リマナ地方北部地図03

アゼル:
 なるほど。だったら、ラカレット行きは悪くないのか……。
「すまないが、護衛として雇ってくれないか?」

隊商長(GM):
「護衛? 護衛だったらもう十分に足りてる。よそをあたってくれ」

アゼル:
「そうなのか……」
 護衛が足りてると言われたら、どうしたらいいんだ?

GM:
 あのですね……。こんなところまで足を運んでいる隊商なんですから、十分な護衛を伴っているのは当然のことなんですよ? 好きこのんでこんな宿場町で離脱しようとする護衛も滅多にいないでしょうしね。

アゼル:
 あ、そうか……。

GM:
 ちなみに、護衛として雇ってもらえなくても、金を払って隊商に加えてもらったり、ただ単に隊商のうしろから一緒について行くことくらいならできますよ。まあ、隊商にくわわらない場合、途中でアクシデントが発生したとしても積極的な支援はうけられないでしょうが……。

アゼル:
 そうか。それならそれでいいか。一緒について行くだけでも、敵との遭遇は減るだろうしな。
「ならば、うしろからついて行かせてもらう」

隊商長(GM):
「ああ、それくらいなら別に構わんけどな」

アゼル:
 よし、これでやっと北上できるぞ。さっそく、サイエに報告しに行こう。


アゼル:
「サイエ。ようやく北に向かう隊商を見つけたぞ。護衛は不要だが、うしろをついてくるだけであれば構わないそうだ」

サイエ(GM):
「おお! それはよかったですね。それで、彼らはいつ出発する予定なのですか?」

アゼル:
 あ、そういえば聞いてなかったな……。じゃあ、もう一度聞いてこよう。

GM:
 子供の使いじゃあるまいし、そこは聞いていたことにしてしまって構いませんよ(苦笑)。彼らは明日の朝に出発する予定だそうです。

アゼル:
 そうか。
「明日の朝、出発するらしい」
 そうすると、今日中に出発の準備を整えておかないとな。ここに滞在しているあいだに保存食を結構食べちまったから、買い足すために雑貨屋に行くとしよう。

農夫たち(GM):
 では、そうやって旅の準備を整えるために雑貨屋へ向かおうとするアゼルのうしろ姿を、チルキンジュ村の農夫たちは恨めしそうに見つめていたのでした……。

アゼル:
 ぷっ(失笑)。

GM:
 いやぁ……。これは、やってしまいましたねぇ……。チルキンジュ村が滅びるだけで済めばよいのですが……。

アゼル:
 え? そうなの(苦笑)? でも、そんなに危険な内容だったなら、どのみち俺ひとりじゃどうしようもなかっただろうしな。

GM:
 農夫たちが話していた化け物がいったいなんであるかの確認もしなかったアゼルにはわからないところですが、大ごとになってしまうのは早期解決できなかったからですよ……。チルキンジュ村にとって、十日の遅れは致命的ですね……。

 本来、チルキンジュ村の事件はアゼル救済のイベントとして用意したものだったのですが、こうしてものの見事に避けられてしまいました。そして、物語はもうひとつのルートへと進み始めます。




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