LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第7話(14)

ゴロツキたち(GM):
 ゴロツキたちは、宿の外に出るなり大声で「オイッ! 皆集まれッ! これから決闘が始まるってよッ! “騎士狩り”のアブドラさんとアゼルとかいう野郎が決闘するってよッ!」と叫びながらあたりを練り歩き始めます。

アゼル:
 なぬぅ。余計なことしやがって。ギャラリーが多いと緊張するじゃないか。

GM:
 ですが、ギャラリーが多いということは、決闘に勝利したときそれだけ多くの人が証言者となってアゼルの名声を高めてくれるってことですよ(笑)。ここは気合をいれて頑張ってください。
 さて、ゴロツキたちの呼びかけもあり、以前よりも多くの野次馬たちがアゼルとアブドラの周囲に集まってきました。アゼルとアブドラとの距離は決闘っぽく少し離しておきましょうか(と言って戦闘マップを提示する)。

安宿前の路上

アブドラ(GM):
 アブドラはゆっくりと道の中央まで進むと、余裕のある笑みをアゼルに向けます。
「殺しちまうかもしれねぇから、いまのうちに聞いておく。なにか言い残しておくことはあるか?」

アゼル:
「その言葉、そっくりそのままお前に返してやる」……って言ったものの、なんでアゼルはこんなに強気なんだろうな?

GM:
 プレイヤー本人になんでと聞かれましても……(苦笑)。

アゼル:
 自暴自棄に陥ってて、もうどうとでもなれって感じなのか?

GM:
 どうとでもなれと思っていたのなら、チルキンジュの村人を助けてあげてもよかったのに……。

アゼル:
 ……いや、むしろ逆に給仕の娘を助けてやらなければよかったのかもしれん……。

GM:
 ……どちらでも構いませんが、第三者でも共感できるように筋を通してもらえると助かります(苦笑)。
 さて、それではアブドラとの決闘を開始するとしましょう。まず、アブドラの装備ですが、彼はラメラー・メイルを身に付け、右手にフレイル、左手にラージ・シールドという格好です。

アゼル:
 ラージ・シールドを装備してるのか。やっかいだな。俺の装備は父親の形見のバスタード・ソードにラージ・シールド、チェイン・メイル。あと、耐魔の外套もつけてる。

GM:
 アゼルのほうが若干高性能な鎧を装備していますね。どちらもダメージ減少値は同じですが、チェイン・メイルのほうが動きやすくなっています。

アゼル:
 イニシアチブ判定は……(コロコロ)2か。いまいちだな。

アブドラ(GM):
 では、アブドラから先に行動します。“迎撃移動”でアゼルとの間合いを3マスつめておきます。
「どうした? かかってこいよ」そう言って、アブドラは挑発するようにフレイルの先端部をクルクルと回し始めました。

アゼル:
 じゃあ、“迎撃移動”でアブドラに接敵。1対1だから、小細工はいらないだろ。

GM:
 あっさり相手の間合いに入って先手を譲るだなんて、随分と余裕ですね。

アブドラ(GM):
「いい度胸だ。ぶっ潰してやる!」
 続いて、アブドラがアゼルに対して攻撃します。アブドラの命中値は固定で11です。

アゼル:
 命中値11か。なんだ、たいしたことないな。ゴロツキたちといい勝負じゃないか……。その攻撃は盾で“ディフレクト”する。ディフレクト値は(コロコロ)16でその攻撃を弾いた。

アブドラ(GM):
「ほう……。これを防ぐか。なるほど、アイツらがかなわねぇはずだ……」

アゼル:
 フッ(と鼻で笑って)。じゃあ、反撃。

アブドラ(GM):
 アブドラはラージ・シールドでそれを防ぎます。こちらのディフレクト値は固定で13です。

アゼル:
 ふむ。ラージ・シールドを装備してるだけあって、防御性能のほうが高いのか。(コロコロ)命中値は13で同値。命中せず。チッ。

アブドラ(GM):
 次はアブドラの攻撃です。

アゼル:
 盾で防ぐ。(コロコロ)ありゃ……。1ゾロで食らった。

アブドラ(GM):
 では、(コロコロ)9点の物理ダメージをどうぞ。

アゼル:
 痛ッてー。2点通った。
「結構やるな」
 こっちの攻撃は(コロコロ)9で命中せず。なかなかあたらないなぁ……。

アブドラ(GM):
 続いてアブドラの攻撃です。

アゼル:
 盾で“ディフレクト”。(コロコロ)よし、12で防いだ!

GM:
 12ですか……。
(ニヤリと笑ってから)
 ならば、防げませんね。

アゼル:
 え? だって、さっきアブドラの命中値は11で固定だって……。

GM:
 ええ、もちろんそれはそうなんですが、アブドラの武器はフレイルなんです。そして、フレイルには相手のディフレクト値を-2する効果があるんですよ。

フレイル
 柄の先に鎖などで打撃部を接合した連接棍です。遠心力がくわえられた打撃部による一撃は、金属鎧すら叩き潰す威力を誇ります。また、打撃部が柄と異なる動きをするため、盾などで柄の部分を防いでも打撃部が盾を回り込んでくるなど、防御しにくい特性があります。しかし、その分扱いも難しく、命中力に-1のペナルティがかかってしまいます。

 LOSTでは回避手段として“ディフレクト”を実装しているため、ソード・ワールドRPGでは再現されていないこのような武器の特性も発揮されます。

アゼル:
 あ、そうか! なるほど。そりゃ、食らったわ……。

アブドラ(GM):
 アブドラの振り下ろしたフレイルの打撃部が、アゼルのかざした盾を回り込んで、その身体をしたたかに打ちつけました。物理ダメージは(コロコロ)9点です。

アゼル:
「くッ!」
 やっべぇー。このままだと削り殺される。うーん、困った。“回避”しようにも、それじゃ、ペナルティ込みの“ディフレクト”と変わらんしなぁ……。かといって、“防御重視”してたらますますこっちの攻撃があたらなくなる。このまま続行だ。
 こちらの攻撃は(コロコロ)13……って、また同値で命中せずか! 全然あたらねぇよ!

アブドラ(GM):
 続いて、アブドラの攻撃です。

アゼル:
 盾で防ぐ。(コロコロ)12は……また失敗だ。

アブドラ(GM):
 ダメージは……。(コロコロ)おっと、ここでクリティカルが発生しました!

アゼル:
 げげッ!

GM:
 “可能性”を使って、このクリティカルの追加威力ロールを抑止しておきますか?

アゼル:
 うーん……。どうしようかな……。
(しばらく考えてから)
 そうだな。ここは抑止しておこう。“可能性”を1点消費。

アブドラ(GM):
 では、アブドラの攻撃によるダメージは13点です。

アゼル:
 痛ッてーッ! それで生命点が半分以下になった。こりゃ、勝てねぇ……。(コロコロ)士気判定も失敗……。もうダメだ。

GM:
 精神点を6点消費すれば戦意を喪失せずに済みますが、どうしますか? ただし、なんとか踏み止まっても、萎縮状態によるダイス目の-1ペナルティは避けられませんが。

アゼル:
 うーん……。ここは精神点を消費して踏み止まる。しかし、どうやっても勝てそうにねぇな……。

アブドラ(GM):
「どうだ? フレイルの棘が鎧越しに食い込んで、気持ちがいいだろう?」そう言ってアブドラはニンマリと笑みを浮かべました。

アゼル:
 くそッ。こっちの攻撃。(コロコロ)ダメだ。12で命中せず。

アブドラ(GM):
 では、アブドラのフレイル攻撃!

アゼル:
 盾で防御。(コロコロ)12でまた食らった(泣)。

アブドラ(GM):
「いい加減、そんな盾さばきじゃ防げねぇってことくらい理解しやがれッ!」
(コロコロ)ダメージは10点です。

アゼル:
 くぅおーッ! ダメだ。こりゃ、ヤバイ。士気判定は(コロコロ)13でなんとか成功したが、もう勝ち目がねぇ。

アブドラ(GM):
 ここでアブドラの連続行動です。

アゼル:
 えッ、なんで!?

GM:
 アゼルの装備しているバスタード・ソードと比べると、アブドラのフレイルのほうが小型ですからね。一撃の威力を落としてでも、攻撃速度を速めるチョイスです。

アゼル:
 畜生~ッ! 盾の“ディフレクト”が回復してないから普通に避けるしかない。(コロコロ)11で回避失敗。

アブドラ(GM):
「遅いんだよッ! このウスノロがッ!」
(コロコロ)ダメージは11点です。

アゼル:
 くぅ……。ついに残り生命点が1点になった。士気判定は(コロコロ)……15で成功したが、マズイ。このままだと殺される……。

アブドラ(GM):
 では、アブドラはその一撃を加えたあとで、「どうだ! いまならまだ、土下座して詫びをいれれば許してやらないこともないぜ? オレは紳士だからよ」と勝利を確信したかのように言い放ちました。

アゼル:
「ふざけるなッ! 俺は何も間違ったことなんかしちゃいない! 土下座なんぞできるかッ!」って言っても、ヤバイよなぁ……。俺、ここで死ぬのかな?
 くそッ、もう知ったことか。最後までやってやるぜ! アブドラに攻撃。(コロコロ)12で攻撃失敗。くぅ……。まさか、一撃入れることすらできないのか(泣)?

アブドラ(GM):
 ならば、ここでアブドラは“防御重視”します。そして大きな声で、アゼルに対してというよりは周囲に向かって、次ような言葉を発しました。
「オレにも慈悲の心ってやつがある。それに、こんな聴衆の面前で人をあやめるってのも、あまり気持ちのいいもんじゃねぇしな。……ってわけで、いいかげん、己の力量をわきまえずに無駄な抵抗を続けるのはやめたらどうだ?」

アゼル:
 くそーッ。なんと言われようが攻撃だッ! クリティカルを出せば一発逆転できるッ! (コロコロ)ダメだ。命中値11で攻撃失敗。

アブドラ(GM):
 アブドラは大きく腕を広げ、さらに聴衆にアピールします。
「見ろッ! この身の程知らずのあがきをッ! 慈悲の心を受け入れようとしない、矮小なやからの哀れな姿をッ!」そこまで言い終えると、アブドラは“防御重視”を解きました。
「もう一度……。もう一度だけチャンスをやろう。ひざまづいて己の過ちを認め、懺悔しろッ!」

アゼル:
「くどいッ!」
 “防御重視”を解いた今がチャンスだ! 攻撃する。(コロコロ)あああ……。ダメだぁ……。また命中値11で失敗。

アブドラ(GM):
「無様だな……。ならば仕方ねぇ……」
 では、いよいよアブドラがアゼルにとどめを刺しにきます。アブドラは、クルクルと回したフレイルの先端部を、アゼルに向かって思い切り振り下ろしました。

アゼル:
 盾で“ディフレクト”。(コロコロ)うッ、12ってことは……。

アブドラ(GM):
 アブドラが振り下ろしたフレイルの打撃部は、アゼルのかざした盾を回り込み、その身体に食い込みます。(コロコロ)ダメージは10点です。

アゼル:
 終わった……。生命点-2で倒れた。

ゴロツキたち(GM):
 アゼルが倒れると同時に、「やったーッ! アブドラさんの完全勝利だーッ!」と、ゴロツキたちの歓声が響き渡ります。

野次馬たち(GM):
 その圧倒的な戦いぶりに、「すげぇ! やっぱり、“騎士狩り”の二つ名は伊達じゃないな。そこいらの腕自慢とは雲泥の差だ」と、野次馬たちからも思わず感嘆の声が漏れました。

GM:
 そのような中でアゼルは意識を失っていきます……。
 ところで、アゼルは生きていますか?

アゼル:
 あ、そうだな。生死判定は……(コロコロ)危ねぇ! ジャスト成功。生きてる。生きてはいるが……完全にやられた……。結果をみると圧倒的だったな。

GM:
 そうですね。数値上ではアゼルのほうが強いはずなんですけど、さすがは“騎士狩り”のアブドラといったところです。フレイルの強みを活かしきりました。

 アゼルよりもやや弱いスペックで登場させたはずのアブドラでしたが、ご覧のとおりのワンサイドゲームをやってのけてくれました。しかし、一方的な結果となったこの決闘でしたが、各判定は際どい内容でした。もし、アゼルがフレイルの特性を見抜き、早々にラージ・シールドを手放して武器を両手持ちにして戦っていたのであれば、また違った結果になっていたかもしれません。その場合、アゼルは命中力+1、追加ダメージ値+1の恩恵を得られていたはずでした。

GM:
 娯楽の少ない宿場町で唐突に始まった決闘――それも、アブドラのこれ以上ないほど鮮やかな勝利に野次馬たちが酔いしれるなか、安宿の主人と給仕の娘は身を震わせています。

安宿の主人(GM):
「そ……そんな……。アゼルさんがやられちまうなんて……」

給仕の娘(GM):
「アゼルさん……」

アブドラ(GM):
 倒れたアゼルのことをしばらく見下ろしていたアブドラは、やがて取り巻きたちに対して「迷惑料として、こいつの持ち物を奪っておけ」と命じます。

アゼル:
 うわッ……身ぐるみ剥がれるのかよ。

GM:
 当然ですよ。ですが、せめてもの情けとして鎧と衣服だけは勘弁してあげましょう。簡単に脱がせられるものではありませんし、それにくわえて、アブドラさんは紳士ですからね(笑)。剣と盾とマント、それに所持金は奪われるとして、あとは何を持ってきていますか?

アゼル:
 うーん……。あとは母親の形見の聖印を首から提げてるくらいかな。

GM:
 ああ、いいですね。では、それももらっておきましょう。

ゴロツキ(GM):
 アゼルの身ぐるみを剥いでいたゴロツキは、スカスカの小銭袋を手に、「チッ! しけてやがるぜ。これっぽっちしか持ってねぇ。まったく貧乏くせぇ奴だ。ほかに金目になりそうなもんは持ってねぇのかよ」とぼやきます。そして、アゼルの首から提げられている聖印に気がつくと、「おっと、これも売れば金になりそうだな」と言って、アゼルの首から無理やり聖印を引きちぎりました。

アゼル:
 なんてこったい……。父親の形見と母親の形見を同時に奪われてしまった……。

アブドラ(GM):
 そのようにして取り巻きたちがアゼルから金目の物を奪い終わったことを確認すると、アブドラは安宿の主人の近くまで歩み寄り、「あーあ、動いたらのどが渇いちまった。酒が飲みてぇなぁ」とわざとらしく口にしました。

安宿の主人(GM):
 それを耳にした安宿の主人は、怯えた声で、「は、はい。今すぐにご用意いたします!」と言って宿の中に入って行こうとします。

アブドラ(GM):
 すると、アブドラは、「こんな安宿で飲んでやろうっていうんだ。もちろん、酌くらいしてもらえるんだろうな」と言って、給仕の娘のほうへと視線を向けました。

給仕の娘(GM):
 アブドラの視線に、給仕の娘はその小さな身体を震わせるだけで、一言も言葉を発することができないでいます。

安宿の主人(GM):
 アブドラの言葉の意味を察した主人は、顔を青ざめさせ、少しためらったのちに、悲壮感を押し殺し、無理に明るい声でこう言いました。
「もちろんですとも! おい、オマエ。すぐにご用意しろ!」

給仕の娘(GM):
 その言葉に給仕の娘は一瞬耳を疑い、大きく目を見開いて主人の顔をまじまじと見つめます。しかし、だからといって彼女にはもはやあがなうすべもなく、その視線を力なく足元に落とすと、ゆっくりと安宿の中に姿を消していったのでした……。

GM:
 恥をかかされたゴロツキたちの溜飲が、娘に酒の酌をさせる程度のことで収まるはずもありません。この後、安宿の主人と給仕の娘は、本来であれば被ることもなかったであろう手ひどい仕打ちを受けることになるでしょう。アブドラ一味にしてみれば、いっときの溜飲を下げるだけでなく今後この宿場町で幅を利かせるためにも、住人たちに対して見せしめを示す必要がありますしね。

 アゼルがこの話の序盤で口にした「復讐は憎しみしか生まない」という言葉が真理であるかどうかはわかりませんが、「中途半端に振りかざされた正義は大きな報復を招く」ということはここに体現されました。




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