LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第7話(16)

GM:
 では、武器を買い終えたあなたたちは、再び宿屋へと戻ってきました。

サイエ(GM):
「……ところで、アゼルさんは今晩も馬小屋で休むつもりですか? アブドラ一味の目に留まるとまた厄介なことになるかもしれませんし、今日のところは部屋をとって休まれては? 一晩の部屋代くらいでしたら、貸しではなくこちらで支払いますが……」

アゼル:
 おお、なんていい人なんだ。
「……すみません。ではお言葉に甘えさせていただきます」

GM:
 そのような経緯でアゼルとサイエが宿屋の中に入って行くと、いつのまにやら1階の飲食スペースでは飲めや歌えの酒宴が催されています。あなたたちが出て行くときにはなかった光景です。

アゼル:
 ん? なんだろう?

GM:
 そちらに目を向けてみると、それはどうやら今朝アゼルが声をかけた隊商の一団のようです。明日の出発を前に、早めの宴会を楽しんでいるといったところでしょうか。その場には商売女もよばれているようで、女たちをはべらせた商人たちの陽気な声があたりに響いています。

アゼル:
 いまはその陽気さが胸に痛いな。

商人(GM):
 すると、隊商に参加する商人のひとりが、大きな声でこんなことを話しているのが聞こえてきました。
「そういえば、聞いたか? 昼過ぎにそこの通りで決闘があって、あの“騎士狩り”のアブドラが、粋がってた若造をコテンパンにしちまったんだってさ!」

アゼル:
 むむ……。俺の容姿まで伝わっているんだろうか?

商人(GM):
「そんで、なんでもそのやられちまったほうが、明日からオレたちのあとを付いて来るんだってよ! オレ、そいつの顔を見て思わず笑っちまわねぇか心配だぜ! ギャハハハハッ!」

アゼル:
 ぬはッ(失笑)!

商人(GM):
 笑い話に花を咲かせていたその男は、そこまで口にしたところで宿屋に入ってきたアゼルの存在に気がつき、あわてて口を塞ぎました。

サイエ(GM):
 サイエは、そんな噂話をする商人たちの視界を遮るようにアゼルと商人たちのあいだに立つと、「さ、早く部屋をとって休みましょう。一晩寝ればスッキリしますよ……」とアゼルに声をかけてきます。

アゼル:
 ぐすッ(泣)。ヤバイ……。だんだん、サイエさんの優しさに泣けてきた……。

サイエ(GM):
 サイエはアゼルのかわりに宿屋の主人と言葉を交わし、部屋をひとつとってくれました。そして、その部屋の鍵をアゼルに手渡します。
「ちょうど私の部屋の隣が空いていました。2階です。さあ、行きましょうか」

アゼル:
 じゃあ、促されるままに部屋に向かおう。

GM:
 では、アゼルとサイエが2階への階段を上がって行こうとしたとき、隊商の一団の中からアゼルに向けて声が発せられました。

若い男の声(GM):
「ちょっと待ちなよ」
 その声は比較的若い男性のものです。20代半ばといったところでしょうか。

アゼル:
 無言でその声がするほうを振り返った。

GM:
 そうすると、だらしなく衣服を着崩した男性がアゼルへと視線を向けていました。その男は、両脇に女性をはべらせており、肌けた首元にはいくつもキスマークをつけています(といってキャラクターイラストを提示する)。

衣服を着崩した男(GM):
「キミ、“騎士狩り”のアブドラと決闘したって噂のアゼルくんだろ?」

アゼル:
 濁った眼でその男を見た。
「なにか用か?」

衣服を着崩した男(GM):
「いまこの街では、キミの噂でもちきりみたいだね」そう口にした男は、からかうでも悪びれるでもなく、ただ穏やかな笑みをその顔に浮かべています。

GM:
 ここで、記憶術判定をしてもらいましょう。目標値は8です。

アゼル:
(コロコロ)ブフッ! 6で失敗。

GM:
 では、アゼルはその男の顔に見覚えがありませんでした。

アゼル:
「冷やかしなら間に合っている。用がないのであれば、俺はもう行くぞ……」

衣服を着崩した男(GM):
「別に冷やかしではないよ。ただ、このままやられっぱなしにしておく気なのかい? ねぇ、アゼルくん」

アゼル:
 そう言われたのであれば、こう反応してしまうな……。
「悔しいが、いまの俺の実力ではアブドラにはかなわない」

衣服を着崩した男(GM):
「へぇ、そうなんだ? まあ、本人がそう言うんであれば、そうなんだろうね……。しかし、キミがアブドラ程度のヤツにかなわないのだとすると、ほかのお仲間が強いってことなのかな?」

アゼル:
「仲間?」
 俺には仲間なんていないぞ(笑)。

衣服を着崩した男(GM):
「だってキミ、南アルダ街道に出没した野盗を追い払い、カルカヴァンではイスパルタ私兵を出し抜いたっていう、あのアゼルくんなんだろう?」

アゼル:
 あらためてその男をにらみ付けた。
「アンタ、何者だ? なぜそれを知っている?」

衣服を着崩した男(GM):
 そう聞かれると、男は寄り添う女性たちの腕をほどいて立ち上がり、両腕をオーバーに広げてその名を口にしました。
「何者かと尋ねられたのであれば答えてあげないとね。ボクの名前はニハト。この名前に聞き覚えはないかな?」

アゼル:
 知らない名前だな。

GM:
 すでに出てきている名前ですよ。

アゼル:
 あれ? そうだっけ?
(しばらく自分がこれまでに書いたメモに目を通し始める)

GM:
 すぐにみつからないようなのでこちらから言ってしまいますが、ニハトとはイスパルタ本家の次男の名前です。第3話でその名前が登場していました。放蕩息子として有名だそうですよ。

アゼル:
 あ~。それ、メモに取ったはずなんだけどなぁ……。
(さらにメモを調べて)
 あ、あった! なるほど、あのイスメトの兄貴ね。
「イスパルタ家の次男か……」

ニハト(GM):
「そうだよ。なんでも、うちの弟たちがずいぶんと世話になったみたいだね」

アゼル:
 そう言われたら苦い顔をしよう。
「世話をしたつもりはないんだがな」

GM:
 これでイスパルタ5兄弟のうち、ニハト、イスメト、ギュリスの3人が登場しましたね。

アゼル:
 顔つきはあまり似てないみたいだけどな(笑)。
 じゃあ、ちょっと皮肉っぽく、「どうやら、アブドラとのことを焚きつけようとしてるみたいだが、だったらアンタが手を貸してくれるっていうのか?」と言ってみる。それで、ニハトの身体つきを見てみるんだが、強そうには見えないよな?

GM:
 そうですね。ニハトは線の細いほうで、少なくともイスメトよりは身体的に劣っていそうです。

アゼル:
 そうだ、“技量推測”してみよう。(コロコロ)

GM:
(ダイスの目を確認して)
 ……この値だと、ヘヴィ・ウォリアーとしては格下であると判断できます。しかし、戦闘レベルについては判断できませんでした。

ニハト(GM):
「そう聞いてくるってことは、助太刀さえあればアブドラと戦う意志があるってことなのかな? つまり、負け戦は嫌だけれど、勝てる見込みがあるのであれば、お礼参りくらいはしたいと思ってるわけだ」

アゼル:
「……お礼参りなんてどうでもいいが、奪われた両親の形見を取り戻したいとは思っている……」

ニハト(GM):
「え……?」
 そのアゼルの言葉に、ニハトは少し驚いた顔をしました。
「……もしかして、アゼルくんは両親の形見を奪われたというのに、アブドラに恐れをなして、なにもせずにここから逃げ去ろうとしていたのかい?」

アゼル:
 なんだかイラッとする奴だな……。
「自分の実力を思い知らされたからな。わきまえることが大切だと学んだ」

ニハト(GM):
「なるほど……。つまり、キミは臆病者なんだね」

アゼル:
「くッ……」

ニハト(GM):
「別に卑下することじゃないさ。野生動物だって、臆病者ほど長生きするのだからね。それは、生きるすべに長けているってことだよ」

アゼル:
「じゃあ、せいぜいよぼよぼの爺さんになるまで生きてやるさ」

ニハト(GM):
「それも悪い生き方じゃない」そう言うと、ニハトは妙に納得したような顔をしてうなずきました。
「……そうそう、まだ、キミからの質問に答えていなかったね……。ボクがキミの手助けをするかどうかは、キミ次第だ。キミは援助を求める代わりに、ボクになにか見返りをくれるのかい? 助太刀して欲しいのであれば、それ相応の対価を支払ってもらわないとね。なんの対価もなしに協力を仰ぐなんて虫の良すぎる話だろ?」

アゼル:
「そりゃそうだ……」と言って薄くほほえんだ。
「だが、俺はこれまでいろいろなところに大きな借りを作りすぎた。これ以上借りを作れるほどの余裕がない。……だから、アンタが善意で助けてくれるというのでなければ、諦めるしかないな」

GM:
 なにげにずうずうしいこと言ってますよね(苦笑)。

アゼル:
 いや、むしろ、そこなんじゃないかと思う。アゼルは、これまで自分が見返りを求めず善意でやってきたことの代償として今の状況があるんだと思っている。そんな馬鹿なことをする奴は自分以外にいないって冷めた気持ちがあったから、薄く笑ったんだ。

ニハト(GM):
 ニハトは苦笑しながら頭をかきました。
「あのさぁ……。実はボク、ギュリスのことを探してここまで来たんだよね。どこかのだれかさんのおかげで、イスメトがすごすごとイスパルタに戻ってくるはめになってさ……」

アゼル:
「ギュリスとはもう別れた。俺には関係のない話だ」

ニハト(GM):
「まあ、少し話してみて、ギュリスと一緒でないってことはなんとなくわかったんだけどね。いまはその隣にいる彼と2人で旅をしてるってところかな?」そういって、ニハトはサイエのことをチラリと見ます。

アゼル:
「そうだ」

ニハト(GM):
「でもさ、ギュリスが向かった先の心当たりくらいはあるんじゃないの?」

アゼル:
 うむ。いま俺もそう思った。その情報を売ってしまえと(笑)。だが、ここは知らないふりをしよう。
「いや、知らないな」

ニハト(GM):
「そう……。じゃあ、ボクがキミから得られるものはなにもないってことか……。残念だけれど、それなら仕方ない」そう言うと、ニハトはくるりと背を向け、ことの成り行きを見ていた女たちの肩を抱きました。
「待たせちゃって悪かったね。さあ、飲み直すことにしようか」

アゼル:
 じゃあ、俺もあらためて部屋に向かう。


サイエ(GM):
 では、2階に上がってニハトの顔が見えなくなったところで、サイエがアゼルに声をかけてきました。
「アゼルさんは、ニハト様となにやら関わりがあるようですね……」

アゼル:
「ええ。直接の知り合いというわけではないんですが、以前アイツの弟と少しもめたことがありまして……」

サイエ(GM):
「アイツ……」
 イスパルタ本家の人間をアイツ呼ばわりするアゼルに対して、サイエは一瞬言葉を失います。しかし、気を取り直してこう続けました。
「ギュリス様の名前もでていましたが……。なんでも、ニハト様がギュリス様の行方を探しているとかなんとか……。もしよかったら、これから私の部屋にきて、その話を詳しく聞かせてもらえませんか?」

アゼル:
 うーん……。そうだな。サイエさんにだったら話してもいいか。じゃあ、サイエさんの部屋にいってこれまでの経緯を説明しておくことにしよう。

 こうして、アゼルはサイエの部屋に行くと、これまでの経緯について包み隠さず説明したのでした。

サイエ(GM):
 アゼルの説明を聞いたサイエは、思わずうなるような声を漏らしました。
「なるほど……。そのようなことがあったのですか。アゼルさんは、イスパルタを出発してからここに来るまでのあいだに、ずいぶんと面白い経験をしてきたみたいですね」

アゼル:
「そうかもしれませんね。俺にとっては初めての旅なので、これが普通なのかと思っていましたが……」

サイエ(GM):
「いやいや、とんでもない。めったなことではそこまでの経験はできませんよ」そう言って、サイエは苦笑しました。
「しかし、なぜニハト様と取り引きしなかったのですか? ギュリス様はイルヤソールにいらっしゃるのでしょう?」

アゼル:
「まあ、それはそうなんですが……。それをアイツに教えてしまったら、ギュリスが家に連れ戻されてしまうかもしれませんから……」

サイエ(GM):
「ふむ……」
(少し考える素振りを見せてから)
「……ところで、ニハト様は明日私たちがついて行こうとしている隊商に参加なさっているのですよね?」

アゼル:
「ええ、そうみたいですね」

サイエ(GM):
「しかし、見たところ、隊商の護衛についているのはイスパルタの私兵というわけではなさそうですが……」

アゼル:
「なるほど。言われてみれば……。ということはイスパルタ家として動いているというわけではないのでしょうか?」

サイエ(GM):
「さあ、どうでしょうか。ニハト様は、イスメト様の尻拭いをすることになったような言い方をしていましたが……。イスメト様が戻ってきたから、自分が探しに来たとかなんとか……」

アゼル:
 あれ? もしかして、ニハトってギュリスを探しに来ただけで、連れ戻しに来たわけじゃないのか?

GM:
 疑問に思ったのであれば、ニハト本人に直接確認してみたらどうですか?

アゼル:
 ……いや、どちらにしても、俺はニハトに協力するつもりはない。だいたい、いまさらニハトのところに戻って話をするのもおかしいしな。気にはなりはするが……。まあ……。
「……アイツがなにをするつもりだろうが、俺たちには関係のない話です。さあ、明日も早いですし、そろそろ休むとしましょう」

サイエ(GM):
「……わかりました。では、また明日」

GM:
 そのようなやり取りを終えて、アゼルとサイエはそれぞれ自分の部屋で休むこととなります。それからしばらくのあいだ、階下からは宴の声が響きわたっていましたが、夜が更けていくにしたがい、やがてその騒々しい声は聞こえなくなっていきました。


GM:
 そして、翌日、いよいよアゼルとサイエは宿場町シリンジェを離れることになります。

アゼル:
 よし、出発だ! 当然、不景気な顔をしながらなんだけどな……。

GM:
 了解です。では、あなたはサイエと共に、ニハトの参加する隊商のあとを追ってメーメット街道を北上していくということでよろしいですね?

アゼル:
 オッケー。

GM:
 ……ということであれば、今回の話はこれにて終了です。

アゼル:
 えッ……? これで終わり?

GM:
 ええ。今回はチルキンジュ村を救う話と、アブドラ一味を倒す話の2つのミッションを用意していたのですが、どちらも果たされませんでしたからね。

アゼル:
 ってことは、ミッションは失敗?

GM:
 はい。アゼルが宿場町を離れたいま、もはやどちらの事件も収拾がつきません。早期解決できなかったチルキンジュ村は多大なる被害を被るでしょうし、アブドラ一味に目をつけられた安宿の主人とその娘は酷い目にあわされることでしょう。

アゼル:
 うははは(笑)。なるほど、なるほど……。

GM:
 ……。

アゼル:
(しばらく沈黙してから)
 ……だって、アブドラに勝てる気がしなかったんだもん……。

GM:
 はい、おつかれさまでした(苦笑)。

アゼル:
 おつかれさまでした。




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