LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第8話(07)

 バッツ海賊団のアジトとおぼしき隠し港を目の前にして、潜入方法について考え込むイーサでしたが、なかなかこれといった妙案は浮かんできませんでした。しばらくその様子を眺めていたエルドでしたが、やがてしびれを切らしたのか、単独での行動を開始します。

エルド:
「……まあ、イーサさんは良案が思いつくまで、そこで考えていてください。そのあいだ、僕はできる範囲で中の様子を伺ってみます」
 それじゃ、もう一度さきほどの曲がり角の手前まで“忍び足”で行ってみます。(コロコロ)達成値は11です。あ、もちろん“聞き耳”も立てておきます。(コロコロ)こちらの達成値は10です。

GM:
 了解です。それでは、エルドは特に物音を耳にすることなく、曲がり角の手前までやってきました。

エルド:
 そこまで来たら、角から頭を出して中をのぞいてみます。

GM:
 中をのぞくということは、逆に向こう側から見られるリスクもあるわけですが、よろしいですか?

イーサ:
 おいおい、流石にそれはやばいだろ。せめて手鏡とか持ってないのかよ?

エルド:
 年頃の娘じゃあるまいし、手鏡なんぞ持ちあわせていません! しかし、なにかを得るためには、それ相応のリスクが必要なんです! イーサさんみたいにリスクを回避することばかり考えていたのでは、なにもできなくなってしまいますよ。ばれたらばれたで、全力で逃げればいいんです。向こうから見られることになるかもしれませんが、それで構いません。頭を出して洞窟の中をのぞきます!

 慎重すぎるイーサと行動的すぎるエルド。実に対照的な2人です。キャラクターの配置としては悪くないので、あとはお互いにもっと話し合って、バランスのとれた判断をしてくれるようになると良いのですが……(苦笑)。

GM:
 では、エルドは頭を出して洞窟の中をのぞき込みました。そうすると、まずエルドの目に飛び込んできたのは、とてつもなく巨大な洞窟の空間そのものと、その壁沿いに並ぶ無数の松明の明かりです。それらいくつもの明かりが、小さな集落であればすっぽりと収まってしまいそうなほど大きな洞窟の内部を、まばゆく照らしています。また、洞窟の手前半分には海水が入り込んでおり、そこに1隻の軽ガレー船が停泊していました(と言って、隠れ港の構造を絵に描く)。

バッツ海賊団の隠れ港

GM:
 ちなみに、軽ガレー船とは言っても、ガレー船と比べれば軽量だというだけで、最大50人程度の船員が乗り込めるだけの大きさがある、れっきとした軍用船ですからね。

エルド:
 視界に人の姿は確認できますか?

GM:
 ええ。あたりまえのように洞窟の中で生活を営む人々の姿が確認できます。

エルド:
 海賊の姿ではなく、生活を営む人々の姿ですか?

GM:
 はい。もちろん、いかにも海賊風の格好をした男たちの姿もあるのですが、それ以外に女子供の姿もあります。ぱっと目につくだけでも数十人の人の姿が確認できますね。

イーサ:
 洞窟の中で暮らす者たち……。つまり、これが噂のドワーフって奴か……。

GM:
 違います(苦笑)。
 さて、それでは、中の人たちがエルドの存在に気がついたかどうかの対抗判定を行います。エルドは潜伏判定を行ってください。(コロコロ)こちらの達成値はシークレットです。

エルド:
(コロコロ)うーん、9です。この値はちょっとまずいですかね……。とりあえず、それだけ確認できたのであれば、イーサさんのところまで戻ります。
「イーサさん。いま洞窟の中を少しだけのぞいてみたんですが、かなり広い空間になっていますよ。ちょっとした規模の集落が丸々中に入っていました。あと、軽ガレー船が1隻停泊しています」

イーサ:
「なるほど。バッツ海賊団っていうのは、俺が想像していたのよりもずいぶんと巨大な組織だったんだな……」

エルド:
「まともにやりあうなら、ちょっとした軍隊が必要でしょうね……。さて、これからどうします? 海賊が出払うのを待ってから中に潜入しましょうか?」

イーサ:
「うーん……。どうしたもんかな……」

エルド:
 そういえば、洞窟の中にあった軽ガレー船がバッツ海賊団の旗艦なんですよね? だとすると、バリス教団は王都までの移動手段にバッツ海賊団の旗艦を使ったわけではなかったということになりますが……。

イーサ:
 そうだな……。ってことは、バリス教団は陸路で王都を目指したわけか……。それなら、急いでクゼ・リマナまで戻ってあとを追いかけないとな……。

GM:
 えっ? ちょっと待ってください。いま、イーサはどういったロジックで、バリス教団が陸路で王都を目指しているのだと判断したんですか? いま明らかになったことは、バリス教団がバッツ海賊団の旗艦を使って移動しているわけではないということだけで、それが船で移動していないことに直結するわけではないはずですが……。

イーサ:
 だったら、いったいどこの船で移動してるっていうんだ?

GM:
 いや、そのあたりのことを調査していくのが今回のミッションなわけで、そうハッキリ尋ねられましても、GMとして答えるわけにはいきませんよ(苦笑)。

イーサ:
 うーん……。
(しばらく考え込んでから)
 だからといって、ここでほかにやることがあるとも思えないしな……。
「まあ、バッツ海賊団の旗艦がバリス教団に使われていないってことは確認できたわけだし、クゼ・リマナに帰るとするか……」

エルド:
 イーサさんがそう言うのであれば従いますが、そうします?

イーサ:
 ああ。ほかにここで確認しておくようなこともないだろ?
 それじゃ、来た道を引き返す。

GM:
 ……。

 せっかく時間を費やしてここまで来たというのに、あっさり引き返そうとするイーサの判断にGMは絶句しました。ここに来るまでのあいだに、クゼ・リマナに流れついたバッツ海賊団の2番艦の件で、バリス教団とバッツ海賊団になんらかの関係があったであろうことは推察されていたため、GMとしてはその真相を確認してくれるのではないかと予想していたのです。

 まあ、いまさら引き返そうとしてもすでに手遅れなので、ここでの判断自体はどちらでも構わなかったのですが……(苦笑)。

野太い男の声(GM):
 では、きびすを返したイーサの少し前方から、野太い男の声が響きました。
「ほう、もうお帰りかい? せっかくここまで来たんだ。もう少しじっくりと見学していったらどうなんだ?」

イーサ:
 げッ、すでに気づかれてたのか。しかも、背後に回られてるとか……。

GM:
 さすがに、警戒がおざなりでしたね。それに、隠し港の出入り口がひとつだけだと思いましたか(苦笑)?

 最初に海賊たちがイーサたちの存在に気づいたのは、ランタンの明かりをつけて隠し港を探していたとき。その後、海賊たちがイーサたちのことを逃がすまいとして包囲していく過程で、そのことに気がつけるかの判定を2度行いましたが、どちらにも失敗していました。

イーサ:
 声のするほうに目を凝らしてみるが……。

野太い声の男(GM):
 ならば、目を凝らしたイーサは、暗がりの中に大きな身体つきのシルエットを目にすることになります。月明かりすらない闇夜の中でも、その手元に鈍く光る刃物が握られていることはわかりました。
「おっと、変な気は起こすなよ。命を無駄にしたくなけりゃ、おとなしく降参しな。こっちとしても、いろいろ聞きたいことがあるんでな……」

GM:
 相手の言葉に従っておとなしく降参するのであれば、戦闘マップは準備しません。しかし、抵抗するつもりであれば、戦闘マップを用意します。さあ、どうしますか?

イーサ&エルド:
 ……。

エルド:
 ……僕はイーサさんの判断に従います。

イーサ:
 ……じゃあ、ダガーを捨てて、抵抗するつもりがないことを示しておこう。

エルド:
 イーサさんがそうしたのであれば、僕も両手を広げて、なにも持っていませんよとアピールします。

GM:
 では、そのタイミングで、今度はエルドのいる隠れ港のほうから、バタバタと数人の足音が近づいてきます。そして、彼らが手に持った松明によって周囲が明るく照らし出されました。
 イーサに声をかけてきた男は、眼帯で片目を隠しており、金髪に白い肌で、口ひげをたくわえています。その格好から、おそらくは彼こそが“片目のオーガ”とあだ名される海賊バッツその人だということがわかりました。あと、そのバッツのうしろに、手下らしき男がひとりいることも確認できます。

手下(GM):
「おかしらッ! お待たせしましたッ!」と、隠れ港側から駆けつけた者たちが声をあげます。

バッツ(GM):
 それに対してバッツは、「おう、いいタイミングだ。どうやら、こいつらは無駄な抵抗をするつもりはないらしい。そのままロープでふんじばって、牢屋にぶち込んでおけ」と指示を出しました。

イーサ:
 くぅ……。まさか、こんなところでバットエンドを迎えることになるのか?

手下(GM):
 バッツの指示に従い、手下たちはイーサとエルドのことをロープで縛りあげて無力化しようとします。
「おらッ! さっさと両腕を背中に回しやがれッ! はやくしねぇと、力尽くで従わせることになるぞッ!」

エルド:
 縛られるのは嫌ですねぇ……。どうしようかなぁ……。

GM:
 そうは言っても、イーサはすでに武器を手放したんですよね? 抵抗するには、すでに時遅しといった感じですが……。

イーサ:
 ん? すでに時遅しってことは、実は武器さえあれば戦えるレベルの相手だったのか? てっきり、30人くらいに囲まれて抵抗の余地がないのかと思っていたが……。

GM:
 いやいや、30人くらいに囲まれてって……。そんな描写は一切していませんし、仮に30人で囲んでいたとしても、この狭い通路ではその人数にあまり意味はありませんよ。

エルド:
 その場合、30人と一斉に戦うわけでなく、1対1の戦闘を30回続けて行う感じですかね。

イーサ:
 それだってきついことには変わりないだろ(笑)。

GM:
 いや、だからたとえ話として言っただけで、そもそも30人なんていませんからね(汗)。実際のところは、イーサの前方にバッツを含めて2人、隠れ港側から来た手下たちが3人の合計5人が、狭い通路の途中であなたたちのことを挟み打ちにしている状況です。ちなみに海賊たちの装備は、バッツの鎧がクロース、手下たちの鎧がハード・レザー・アーマー。武器は全員カトラスです。ただし、この時点で抜刀しているのはバッツだけですが……。

イーサ:
 なるほど……。それくらいの人数だったら倒せるかもな。だったら、足元に落としたダガーを拾って戦うことにするか?

エルド:
 あ、やっぱりやるんですか?

イーサ:
 エルドはどっちがいいと思う?

エルド:
 そうですねぇ……。組織立った勢力と戦う場合、頭を潰してしまうのが一番だってことくらいはイーサさんもわかっていますよね? そして、いまだったらちょうどバッツに直接攻撃を仕掛けられそうな配置なわけですよ。

イーサ:
 そう簡単にバッツを倒せると思うか……?

エルド:
 倒せるかどうかはわかりませんが、ここで捕まった場合、武具一式を奪われてしまい、その後に反撃する機会は失われてしまうと思います。

イーサ:
 だが、ここで捕まったとしても、そのあとで仲間になって、武具を返してもらえるパターンかもしれないぞ?

エルド:
 仮にあとで仲間になるにしても、その前に僕たちの実力を認めさせておく必要があるんじゃないですか? そういうわけで、イーサさんが止めないのであれば、僕はひと暴れしてみようと思います。この手の輩には力を示すのが手っ取り早いですから。

イーサ:
 うーん……。よし、わかった。それなら俺も戦おう! ここで死んでも本望だ!

GM:
 あのぉ……。「ここで死んでも本望だ」って、本気で言ってますか? あなたたちがなんのために戦おうとしているのか、ちょっと理解に苦しむのですが……(苦笑)。別に、戦うこと自体を止めるつもりはありませんが、せめて戦いの目的や理由くらいはしっかりと決めておきましょうよ……。

イーサ:
 ホント、いったい俺たちはなんのために戦おうとしてるんだろうな。俺自身にも見当がつかないよ(笑)。

エルド:
 迷う必要など、どこにもありません! そもそも、戦いに理由など必要ないのですッ!

GM:
 ……あ、そうですか(苦笑)。では、戦闘マップを用意しますね(と言って、戦闘マップを提示する)。

カルマシャ半島の隠れ港入り口

 こうして、なんとも煮え切らない状態で、なし崩し的に海賊バッツとの戦いが開始されることになったのでした。自分がいったいなにをしようとしているのかわからないという趣旨のイーサの発言に、アゼルの影が重なります。やはり、これも役割効果の影響なのでしょうか(苦笑)?

 ちなみに、当初のGMの想定では、ここは交渉判定で進めていくシーンになるはずでした。しかし、リプレイを書き起こすために音声を聴き直してみれば、GMの予想に反して、戦闘開始前にイーサとエルドからバッツに対して話しかけるようなことは、一度としてなかったのでした。これでは交渉の余地などありません(苦笑)。




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