LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第8話(10)

バッツ(GM):
「さてと……」
 アイダの姿が見えなくなったところで、バッツがあなたたちに話しかけてきます。
「オマエたちには、いろいろと聞かせてもらいたいことがある。いま、この場で素直に話してくれるっていうんなら、こっちとしても手間がかからず楽なんだが、どうだ?」バッツはそう言いながら、ポケットの中からクルミを2つ取り出すと、それを手の中で器用に回し始めました。

手下(GM):
 バッツのうしろでは、手下がバッツの手の中で転がるクルミをみてニヤついています。

イーサ&エルド:
「……」

GM:
 ……おや? 黙秘するということは、もしかして拷問がお望みですか?

エルド:
 では、床に突っ伏した格好のままで、「手間をおかけすることもありませんよ。さっきは自衛のためにしかたなく戦いましたが、もともと僕たちは、あなたたちと敵対するつもりなんてこれっぽっちもないんですから。こんな格好のままでいいなら、話せることはいくらでもお話します。それで、なにを聞きたいんですか?」と返します。

バッツ(GM):
 エルドの返答に、バッツは厳つい表情をいくぶんか緩めました。
「いい心がけだ。……じゃあ、まずはオマエたちがなぜここに来たのかってことを聞いておこうか」

エルド:
「ここに来た理由ですか……。これは、まだあなたたちの耳には入っていない情報かもしれませんが、実は先日、クゼ・リマナに潜伏していたバリス教団の信者たちが一斉に姿を消しました。僕たちはその行方を追っているんです。そして、バリス教団の行方を示す手がかりを探しているうちにあなたたちの名前がでてきたので、こうしてここまでやってきたわけなのですが……」

バッツ(GM):
「バリス教団の行方を追っている……ねぇ……。追いかけてどうする? 入信でもするつもりか?」

エルド:
「入信? とんでもない。僕たちはバリス教団が今後なにをしようとしているのかを突き止め、場合によってはそれを阻止しようとしているんです。バリス教団が毒ガスを精製しようとしているという話を聞いたことはありませんか?」

バッツ(GM):
「毒ガス?」そう言って、バッツは首をかしげます。

エルド:
「なんでも、その毒ガスというのは、大量の人間を簡単に殺すことができる代物らしいですよ。そして、なんの因果か、隣の牢屋に閉じ込められている人の父親が、その毒ガスの精製に絡んでいるらしいんです」

バッツ(GM):
「なに? 隣にいる奴は、バリス信者の身内なのか?」そう言って、バッツはイーサのほうへと目を向けました。

エルド:
「まあ、そういうことになりますが、彼自身がバリス信者というわけではありませんので、安心してください。もちろん、僕もバリス信者ではありません」

イーサ:
「バリス教団が作っているのは、“死神の吐息”と呼ばれる無色透明で無味無臭の毒ガスだ。カーティス王国の度重なる弾圧に耐えかねた一部のバリス信者たちがそれを精製し、国家転覆を画策しているらしい……。そんなものを使って無差別に人の命を奪おうとしている奴らの行いを、黙って見過ごすわけにはいかない。おそらく、あんたたちの2番艦も、バリス教団の作った毒ガスでやられたんじゃないか?」

バッツ(GM):
「ふむ……。なるほど、毒ガスか……」そう呟くと、バッツはなにか考え込みます。

イーサ:
「クゼ・リマナに流れ着いたあんたたちの船の様子から、俺たちはバリス教団が毒ガスの効力を確かめるための実験にその船を利用したんじゃないかと推測した。そして、あんたたちの旗艦もバリス教団の手に渡って利用されてるんじゃないかと考えたのさ。もしそうだとすれば、バリス教団の信者たちがクゼ・リマナから姿を消したときも、その移動手段としてあんたたちの旗艦を使った可能性が高くなる」

バッツ(GM):
「ふんッ、そいつはとんだ見当違いだったな。見てのとおり、旗艦はここにある。……しかし、だいたいの経緯はわかった。つまり、オマエたちはバリス教団と対立関係にあるというわけだな?」

イーサ:
「いや、別に対立してるわけじゃない。だが、少なくとも毒ガスを使った無差別殺人など実行させるわけにはいかない」

 互いの立場を明確にして共闘関係を築けるように話を持っていこうとするGMに対して、それを拒否するイーサ。しかたないので、ここはバッツ側から共闘を持ちかけるのではなく、PC側から現状の打開策が示されるのを待つことにしました。
 しかし、このイーサの回答、よもや相手の計画を阻害しようとしている者が対立的な立場にないとでも(苦笑)?

バッツ(GM):
 続いて、バッツはエルドに対してこのように尋ねてきます。
「おい、そっちの黒いの。オマエ、ティルクのことを知っているか?」

エルド:
「ティルク? いったいなんのことです?」

バッツ(GM):
「隠し立てすると、ろくなことはないぞ」

エルド:
 ティルクって言葉に覚えがないんですが、どこかで聞いていましたっけ?

GM:
 いえ。エルドもいま初めて聞いた言葉です。

エルド:
「なんのことだかさっぱりわかりません。ティルクとは物の名前かなにかですか?」

バッツ(GM):
 エルドの反応を確認すると、バッツは腕組みをして考え込みます。そして、しばらく考えたのちに、こう言いました。
「ティルクとの面識はなしか……。ならば、こちらから確認しておきたいことは以上だ。もし、あとになってなにか思い出すようなことがあれば、見張りにそれを伝えろ。……ほかになにかいまのうちに話しておきたいことはあるか?」

エルド:
「そうですね……。そういえば、近くにラバはいませんでしたか?」

バッツ(GM):
「ああ。オマエらが連れていたラバのことか。それだったら、荷物も含めてこちらで預かっている」

エルド:
「あれは、うちの優秀な荷物持ちなんです。彼はなにも悪いことをしていませんので、丁重に扱ってください」

バッツ(GM):
「心配するな。食うものに困らないうちは生かしておいてやる。だが、ただ飯を食わせてやるつもりはない。優秀だというなら、荷物を運ぶのに使わせてもらうことにしよう」

エルド:
「そうですね。荷物持ちとしては、優秀です。きっと役に立つことでしょう」

GM:
 さて、話はそれくらいですかね? ほかになければ、バッツはその場を去っていこうとするのですが……。

エルド:
 イーサさんからは、なにか話しておくことはないんですか?

イーサ:
 うーん……。いまいちなにを話せばいいのか思い浮かばなくてな……。

GM:
 えーと、ここはあらかじめオープンにしておきますが、もしこのままバッツの興味を引けないでいると、牢屋の中で数ヶ月過ごすことになりますからね。

イーサ:
 えっ!?

GM:
 別に驚くようなことでもないでしょう? 海賊たちにとっては、仮にあなたたちが無害な相手だったとしても、特に牢屋から解放する理由がありません。むしろ、アジトの場所を知ってしまったあなたたちを解放するのは危険だと考えるでしょう。それでもなお殺さずにいるのは、あなたたちに敵意がないと判断したことによる温情ですよ。つまり、今後あなたたちが解放される機会が訪れるとすれば、それはなんらかの事件が発生したときということです。

イーサ:
 う……。そうなのか……。うーん。えーと……。
(しばらく考えてから)
「あんたたちの2番艦に乗っていた船員は、全員死んでしまったのか? 生きて帰って来た者は?」

バッツ(GM):
 イーサからそのような質問を投げかけられると、バッツは開いている左目でギロリとイーサを睨み付けてから、「いない」と答えました。
「2番艦がクゼ・リマナで総督府の船に拿捕されたという話は聞いた。だが、その後の乗組員の消息は、誰一人としてわかっていない」

イーサ:
 うー……。どうする? あとはなにを話せばいい……?

バッツ(GM):
「総督府の手に落ちてしまった以上、2番艦は諦めるしかない。オレたちにとっては、かなり大きな損害だ。だが、それ以上に痛手なのは、船と同時に優秀な乗組員までも数多く失ってしまったってことだな……」

 先ほどからイーサがテンパっているようなので、できるかぎり不自然にならないようにと思いつつ、誘導を試みるGMでした(苦笑)。

イーサ:
 ……。

GM:
 ……。

エルド:
 ……。
(無言でイーサのことを見ている)

GM:
 ……さて、これ以上話すことがないようであれば、バッツは手下に見張り番をするように命じて、本人はその場から立ち去ることにしますが?

イーサ:
 うーん……。

エルド:
 あの……。イーサさんは、さっきからなにを悩んでいるんですか?

イーサ:
 いや、ここで長期間拘束されるわけにはいかないから、なんとか牢屋から出してもらえるような方法はないものかと考えているんだが……。

エルド:
 え? この状況で、まだどうすればいいのか思いついていないんですか? 僕はてっきりもっとほかのことで悩んでいるのかと思っていたのですが……。

イーサ:
 本当にわからないんだ。ここはエルドのほうでなんとかしてくれ……。

エルド:
 ……了解です。ならば、ここは僕のほうで話を進めるとしましょう。
「そういえば、おかしらさん。先ほど見張り番をしてた少年から聞いたのですが、あなたたちはアッバス海賊団と揉めているらしいですね」

バッツ(GM):
 バッツは舌打ちして渋い表情をしました。
「チッ。アイダの奴め。また無駄口を叩いていたのか……」

エルド:
「あの少年、普段はあまり話し相手がいないんですかね? ずいぶんと楽しそうに話してくれましたよ。それで、なんでもそのアッバス海賊団とやらは、バリス教団と関わりがあるそうですね? 信仰者もいるとか」

バッツ(GM):
 バッツはエルドの言葉を肯定も否定もせず、黙って耳を傾けています。

エルド:
「おかしらは、アッバス海賊団を潰したいと思いませんか?」

バッツ(GM):
 しばらくの沈黙ののちに、バッツは首を縦に振りました。
「ああ。できることなら、そうしておきたいものだな。だが、そう簡単に潰せる相手じゃない。まして、2番艦を失ったいまとなっては、逆にこっちがやられかねない状態だ」

エルド:
「2番艦の代わりになるような船はないんですか?」

バッツ(GM):
 そう聞かれると、バッツは下の階の一角に目を向けてこう答えます。
「いま、新しい船を建造させているところだが、そう簡単にできるものではない」

GM:
 バッツの視線の先には、大量に積み上げられた木材が見えます。おそらくはそれが新造船の材料なのでしょう。しかし、まだ骨組みもできあがっておらず、それが組みあがるのはかなり先のことになりそうです。

エルド:
「……なるほど。さすがに、一朝一夕で船の数を増やそうというのは難しいですか……。では、僕たちがアッバス海賊団との戦いに協力するとしたらどうです? 失った2番艦を補う戦力になりませんか?」

GM:
 これまた唐突に切り出しましたね(苦笑)。

エルド:
 それらしくなるように会話の流れを考えてはみたんですが、うまく組み立てられませんでした(笑)。

バッツ(GM):
「なんだ、オマエら。アッバスの連中と戦おうっていうのか? だが、奴らが船を2隻持っているのに対して、こっちは軽ガレー船が1隻だけだ。この船の数の差を覆すのは相当厳しいぞ」

イーサ:
「アッバス海賊団との戦力差はそこまで大きいのか?」

バッツ(GM):
「船員の数だけでいえば、こちらの旗艦の最大乗員数40人に対して、アッバスの連中は旗艦の軽ガレー船に40人、2番艦のダウ船に20人ほど乗船させられる。だが、乗組員の数の差以上に問題なのが、船の数とその速度だ。足の速いダウ船で哨戒活動や標的の足止めを行い、その後、軽ガレー船で衝角突撃や移乗攻撃に持ち込むのが、ここいらの海賊のオーソドックスなやり方なんだが、もし連中にそれをやられて挟み撃ちにでもされようものなら、ろくに反撃もできず一方的にやられちまう可能性だってある」

イーサ:
「なるほど……」

GM:
 ここで、今回登場する船についての基本的な情報を共有しておきましょう。

ダウ船
 ダウとは大きな三角形の縦帆を持つ低喫水線の船の総称です。ひとくちにダウ船と言っても、マスト数から船体のサイズや形まで、用途によってさまざまなものが存在しますが、総じて逆風であってもジグザグに航行することで前進できるという特長を持ちます。今回海賊たちが利用しているのは小型の船体に2本のマストを立てた高機動偵察艇で、この高機動タイプのダウ船は、順風かつ人力でオールを漕いでいるような限定的な状態を除き、軽ガレー船に勝る船速を誇ります。
軽ガレー船
 ガレー船の特長は、両舷に備えつけらたオールを用いることで、風向きに関係なく航行することが可能だということです。オールによる航行は人力を必要とするため、長時間は維持できませんが、加速・減速・回頭を自由に行えるガレー船は、海戦性能において他の船を圧倒します。また、戦闘時以外の長距離航行手段として横帆も装備していますが、喫水が浅く、舷側も低く設計されていることから、外洋航行には適しません。なお、本作中では最大乗員数が100人未満のガレー船を軽ガレー船と称しています。

 ちなみに、海賊が用いる高機動偵察艇としては、ダウ船より適した船がほかにいくつもあったのですが、近東風のイメージを優先してダウ船をチョイスしています。ダウ船のシルエットって、どことなくノスタルジックで異国情緒あふれる雰囲気がありますよね。

エルド:
(しばらく考えてから)
 よし、わかりました!
「おかしら、僕たちをあなたの船に乗せてください! アッバス海賊団の船が襲ってきたら、返り討ちにしてやりますよ!」

バッツ(GM):
「……はッ、なにを言うかと思えば」そう言って、バッツは苦笑します。

エルド:
「問題なのは、2隻の船を相手にすることなんですよね? だったら、ダウ船が足止めを仕掛けてきてから敵の軽ガレー船が接近してくるまでのあいだに、ダウ船を無力化できれば問題ないんじゃありませんか?」

バッツ(GM):
「馬鹿な、そんなことできるはずが――」

エルド:
「僕たちがやってみせます。僕たちの実力は、先ほどの戦いでそれなりにわかっていただけたかと思いますが」

バッツ(GM):
 そう強く言われると、しばらく苦笑していたバッツも、イーサに刺された腹部に手を当てて神妙な顔つきをしました。

GM:
 さて、良い感じに前振りができたところで、ここからは交渉判定で解決することにしましょう。目標値は9ですが、バッツはあなたたちの実力に興味を示しているので、達成値に+2のボーナスを差し上げます。

 無意味に思えたバッツとの戦いも、こうして無駄にはならずにすみました。まあ、実力を示すにしても、もっと別のやり方があったような気はしますが(苦笑)。

エルド:
(コロコロ)9、10、15! 交渉成立です。
「冗談で言ってるわけではありません。ここから出してもらえるのなら、なんだってやりますよ」

バッツ(GM):
 では、バッツはしばらく押し黙ったのちに、「なるほど……。考えておこう」という言葉だけを残して、その場をあとにしました。

GM:
 演出上、バッツはこの場で即快諾の返事をしたりはしませんが、交渉判定に成功しているので、その路線で話が進むことは確定です。


手下(GM):
 バッツが牢屋をあとにして少し離れたところまで歩いていったところで、そのあとにつき従っていた手下が、「アイツらのことを使うんですか? 信用するのは少し危険な気もしますが……」と怪訝そうな顔をしてバッツに進言しました。

バッツ(GM):
 その手下の言葉に、バッツはこう返します。
「なあに。アイツらの荷物の中にあった魔法書をこっちで握っていれば、下手な真似はできんだろうさ。さっきの戦いでは使ってこなかったが、どうやら奴らは黒魔法が使えるらしい。それに、斬り込み役として最前線に投入しておけば、たとえ裏切ったとしても最小の被害で済ませられる。捨て駒とするには十分すぎる戦力だ」

イーサ:
 捨て駒かよ(苦笑)。

エルド:
 まあ、捨て駒としての投入は、こちらとしても想定内のことですけどね(苦笑)。

 こうして、バッツ海賊団に捕らわれたイーサとエルドは、その後、丸2日を牢屋の中で過ごすことになります。しかし、知っていることを素直に話したおかげで、アイダ少年が危惧していた拷問を受けることはありませんでした。




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