LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第8話(11)

 イーサとエルドがバッツ海賊団に捕らえられてから3日目の早朝。ふたたび牢屋の前にバッツが姿をみせました。

バッツ(GM):
「起きろ。オマエらの提案に乗ってやる。これから船を出して、アッバスの連中の網にかかりに行くぞ」

エルド:
 ナイスな判断です!

バッツ(GM):
「よろこべ。望みどおり、オマエらの役目はダウ船への捨て身の強襲だ。うまく敵戦力を無力化してダウ船を乗っ取ることができたなら、そのときはオマエたちを自由にしてやる」

イーサ:
「なに? それは本当か!?」

バッツ(GM):
「ああ、本当だとも。ユルヤナ神の名においてここに誓おう。このバッツドルフ・ツェーザル・シュトラウス、たとえなにが起ころうとも、神の名にかけて誓った約束をたがえはせん」そう言って、バッツは不敵な笑みを浮かべます。

GM:
 特に記憶してもらう必要はありませんが、バッツの名乗った名前から、彼が元はどこかの豪族であったような印象を受けます。また、彼はユルヤナという名の異国の神を信仰しているようですね。
 さて、ここでバッツは必要最低限の装備をあなたたちに返してくれます。ただし、アルゼに持たせていた魔法書などのアイテムや金品のたぐいは取り上げられたままです。この段階では、まだ完全にあなたたちのことを信じるわけにいきませんからね。

エルド:
 了解です。ところで、生命点はどうなるんでしょうか? まだかなりダメージが残っているのですが……。

GM:
 ああ、そうでしたね。それは、白魔法を使える非戦闘員の女性が魔法で癒してくれます。生命点を全快させてください。ちなみに、この女性はレベル3までの白魔法を唱えられます。

イーサ:
 え? それって、非戦闘員なの? レベル3の実力があるんだったら、一緒に戦ってもらうべきなんじゃ?

GM:
 残念ながら、北の国には「戦いにおもむく船に女性を乗せると船が沈む」という言い伝えがあるんですよ。そのため、今回の戦いに彼女が参戦することはありません。

イーサ:
 なるほど……。

GM:
 さて、戦いの準備を済ませたあなたたちが船に乗り込もうとしていると、その途中で海賊の少年アイダが声をかけてきました。

アイダ(GM):
「やあ。頼んでおいたとおり、拷問されなくても洗いざらい話してくれたみたいだね。そのことについては、一応礼を言っておくよ。ありがとう。おかげで、妹もオイラもここ数日の夜はグッスリさ」

イーサ:
「まあ、こちらとしても、隠すようなことはなかったからな」

アイダ(GM):
「ところで、これからアッバスの奴らを倒しに行くんだってね。もし、アンタたちが船に乗り込むことにならなきゃ、オイラが乗船できてたはずなんだから、オイラのぶんの働きくらいはちゃんとしてくれよな! 本当なら、オイラが大活躍するはずだったんだからさ!」

エルド:
「ええ、善処します(苦笑)」

GM:
 もちろん、このアイダの発言は嘘です。隠れ港に残る海賊のなかには彼より優秀な者がたくさんいるので、仮にあなたたちが乗り込まなくてもアイダが船に乗せてもらえるようなことはないでしょう。まあ、これはアイダなりの発破がけです。
 こうして、居残り組であるアイダやほかの海賊たちに見送られて、あなたたちは旗艦に乗り込むことになりました。


GM:
 さて、そうしてバッツ海賊団の旗艦が隠し港を出港したのは、朝の6時ごろのことです。旗艦は少しでも進路がずれれば衝突しかねないほど狭い岩場を器用にすり抜けて、隠し港から沖へと出ていきました。この日は朝から晴天で、波も穏やかです。
 あなたたちはバッツの目の届くところにいるように指示され、しばらくのあいだは船長室で待機させられることになりました。

バッツ(GM):
「慣れない奴が甲板に出てても邪魔になるだけだからな。アッバス海賊団の縄張り近くに着くまで、オマエらはオレの部屋でおとなしくしてろ。そのあいだに、今回の作戦について詳しく説明してやろう」

イーサ:
 ここは、おとなしくバッツの指示に従っておくとしよう。

バッツ(GM):
 では、バッツは船長室の机の上に広げられた海図を使って説明を始めます。
「これからオールを漕いで、西に向かって船を進めていく。この時季、しばらく沖に出れば、南西の風と同方向に流れる季節流を捕まえることができる。その海流に乗ったら、今度は帆を張ってそのままイーラ・ユヴァ湾の北側のつけ根を目指して船を進めることになる。そのあたりまで行けば、そこはもうアッバス海賊団の縄張りだ。陸地が見えるまでにアッバス海賊団と遭遇するようならそのまま戦闘を開始するが、空振りに終わった場合は帆を畳んでカルマシャ半島沿いに南下し、もう一度沖にでることになる」

海図1

エルド:
「ふむ……。季節流に乗っているあいだにアッバス海賊団と遭遇した場合のみ、戦闘を開始するわけですね? それ以外のときにアッバス海賊団と遭遇したらどうするのですか?」

バッツ(GM):
「まあ、そのときの状況にもよるが、基本的に全力で逃げることになる。そのまま戦闘を開始したとしても、アッバス側の軽ガレー船を引き離せずに、2隻を相手に戦うことになっちまうだろうからな」

イーサ:
「ってことは、季節流に乗っているときになら、アッバス海賊団の軽ガレー船を引き離せる算段があるってことなのか?」

バッツ(GM):
「まんまと、奴らがこっちの策にはまってくれればの話だがな……。ちなみに、そのときの動きはこうだ――」

 こうして、バッツはこれから行う作戦をイーサとエルドに説明しました。しかし、今後の内容と重複してしまう部分が多いため、この部分はのちほど回想シーンとして掲載します。

バッツ(GM):
「――というわけだ。わかったか?」

イーサ:
「なるほどな」

エルド:
「うまくいくといいですね」

バッツ(GM):
「まあ、すべてがこっちの思惑どおりに進むとは考えにくいが、いまのオレたちにとっちゃこれがもっとも分のいい賭けだからな」

イーサ:
「ふむ……。ところで、俺たちの役割はダウ船に乗り込んで船を制圧するってことなんだよな? そのとき、アッバス海賊団の奴らを全員倒す必要はあるのか?」

バッツ(GM):
「いや、連中の海賊旗を降ろし、操舵系を奪って邪魔されずに操船できるようにすれば、それで十分だ。まあ、それができるようにするってことは、実質的には連中を全滅させるか、完全に戦意をくじくかしないとならないだろうがな。……それと、いまのうちに教えておくが、アッバス海賊団のダウ船の船長を務めているのは、おそらくメルテムって野郎だ」

イーサ:
「メルテム?」

バッツ(GM):
「ああ。オマエと同じくらいすばしっこくて、剣を交えるにはなにかと面倒な奴さ」

エルド:
 なるほど。ってことは、今回のボスもライト・ウォリアーってわけですね……。

 第5話に登場したライト・ウォリアーのレヴェントに後塵を拝した苦い記憶がよみがえります。まあ、あの戦闘のボスはあくまでもメフメトであって、レヴェントとの戦闘はおまけイベントのようなものだったのですが……。

GM:
 さて、そうして隠し港を出航してから3時間もすると、バッツ海賊団の旗艦はAE地点を通過する季節流を捕えることに成功しました。
 流れに乗って船首が北東を向くと、船乗りたちはそれまで漕いでいたオールを引き上げ、今度は帆を張り始めます。身軽な格好をした男たちが、器用にマストを登って行き、折りたたまれていた3つの帆をあっという間に広げていきました。四角形の帆が南西の風をはらんで大きく膨らむと共に、みるみる船速が増していきます。
 そして、さらに2時間半後、太陽が頂点に上る少し前に、船はXG地点へと進んでいったのでした。

海図2

イーサ:
 おお。やっぱり、船での移動は凄く速いんだな。

GM:
 数ある船種の中でも軽ガレー船の船足は遅いほうですが、それでも順風だと最大船速でおおよそ7ノットくらいはでますね。それも、昼夜問わずに進めるところが陸路との決定的な差です。アクシデントがなければ、ものの数日で王都まで行けますよ。

エルド:
 そういったことを考えると、やはりバリス教団は船で移動したと思うんですけれどね……。バッツ海賊団の旗艦を使っていなかったってことは、アッバス海賊団が船を提供したということなのでしょうか?

イーサ&エルド:
 ……。
(無言で考え始める)

GM:
 さあ、どうでしょうね? もう少し話が進めば、そのあたりもわかってくるかもしれませんよ。
 ……では、話を本筋に戻します。

バッツ(GM):
 船がアッバス海賊団の縄張りと思われる海域に入ったところで、バッツはあなたたちに対して、「オマエら、目はいいか? 遠目が利くようなら、見張りについてもらうが」と聞いてきました。

イーサ:
 目のよさか。そうだな……。俺は森育ちだから、きっと海賊に比べれば視力は悪いほうだろう。

 海賊の生活と森の中での生活を視力への影響という観点で考えた場合、むしろ薄暗く狭い船室で過ごすことも多く、栄養に偏りのある食事をとらざるを得ない海賊生活のほうが、森の中での生活よりも視力に悪影響をおよぼしそうです。

エルド:
 視力が良いとか悪いとかは抜きにして、僕も遠慮しておきます。見張り台に登っていたら、敵陣に斬り込むのが一手遅くなってしまいそうですからね。

GM:
 いやいやいや。よほど奇跡的な偶然が重なりでもしない限り、敵の船を発見した直後に戦闘がはじまるなんてことはまずありませんよ(笑)。海戦だと、発見から実際の戦闘に移るまでに1時間以上経過することもざらです。

イーサ:
 へぇ……。ずいぶんと時間がかかるもんなんだな。じゃあ、補助魔法を唱えるのも、敵船を発見してからでいいのか。

 海抜10メートルの高さがあるマスト上からの目視距離は最大12キロ程度。船の大きさや天候にも左右されるでしょうが、仮に10キロ離れたところにある船を発見できたとして、互いに距離を詰める方向に進んでいたとしても、接触まで30分程度かかることになります。実際には追走劇となる場合が多く、そうなれば接触するまでに数日が経過するということもあるでしょう。ゲーム的には「敵船が現れた!」「さあ戦闘だ!」と、時間経過を無視して処理されることが多いわけですが(苦笑)。

GM:
 では、イーサとエルドが見張りを辞退したので、索敵判定はNPC側で行います。(コロコロ)……ふむ。この結果からすると、アッバス海賊団のほうが先にこちらの船影をとらえたようですね。

エルド:
 じゃあ、接近する前に甲板にでて、“瞑想”を開始しておきましょう。マナをためにためて、最大火力の魔法を撃ちこんでやりますよ。船を奪い取る計画でなければ、遠慮なく船を沈めておくところなんですけどね(笑)。

GM:
 えー、残念ながら敵側が先に発見したわけなので、この段階ではまだあなたたちが準備を開始することはできません。それと、マナをいくら貯めても使う魔法の威力はあがりませんし、いまのあなたたちに船を沈められるほど破壊力のある攻撃手段はなかったと思いますが(汗)。

イーサ:
 “ファイア・ボルト”で船を焼くとかは?

GM:
 “ファイア・ボルト”は火矢や火壺などと違って持続性がないので、まわりのものを延焼させる効果には期待できません。うまくいけば帆くらいは焼けるかもしれませんが、直接船体を焼くのはまず無理ですね。帆が炎上したときに、それがよほどうまくほかの可燃物に飛び火すれば、あるいは……って感じでしょうか。まあ、どちらにせよ、心配が必要となるほどの確率では発生しません。なので、遠慮せずに“ファイア・ボルト”を撃ってもらって構いませんよ。
 さて、話を戻します。あなたたちがバッツと共に船長室で待機していると、甲板から乗組員の声が響きました。

手下(GM):
「敵船影確認! 軽ガレー船とダウ船がそれぞれ1隻ずつ、こちらに向かってきているようです!」

バッツ(GM):
「来たかッ!」そう言って、バッツは席から立ち上がると、甲板へと出ていきました。

イーサ:
 俺たちもバッツについて行こう。

バッツ(GM):
 甲板に出たバッツは、メインマストの下まで行き、マスト上の乗組員に向かって、「距離は!?」と叫びます。

手下(GM):
「先行するダウ船までの距離は……おおよそ4キロです!」

バッツ(GM):
「チッ。思っていたよりも近いか……。帆を畳んでオールを出せッ! 回頭して南東へ進路を取るぞッ!」

GM:
 バッツからの命令が下るや否や、マスト上にいた乗組員たちは、帆を素早く畳んでいきます。一方で、ほかの乗組員たちも、オールを海面につけると、ドン、ドン、ドンと鳴り響く太鼓の音にあわせてオールを漕ぎ始めました。
 乗組員たちのてきぱきとした行動により、船体は小さく右旋回していきます。しかし、回頭が完了するまでの短いあいだにも、敵のダウ船はその距離をさらに詰めてきました。

バッツ(GM):
「そうら、やっこさんがおいでなさったぞッ! 野郎ども、全力でオールを漕げッ!」

GM:
 バッツの声にあわせるように、オールの音頭をとる太鼓の音の間隔が短くなります。
 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!
 海流に逆らい、必死にオールを漕いで逃げるバッツの旗艦。それに対し、アッバスのダウ船は横風を三角形の縦帆に受けて、滑るように海原を進んできます。目視する限りでは、2つの船の距離が徐々に狭まってきているように思えます。

イーサ:
 速い……。これは、追いつかれるな……。

バッツ(GM):
 バッツは船尾楼甲板まで走って行くと腕を伸ばして指をL字型にし、猛追してくるダウ船とその後方に見えるアッバスの軽ガレー船をにらみつけました。

イーサ:
 バッツのあとについて、船尾楼甲板に上がった。

エルド:
 僕も一緒についていきます。
 ……ところで、望遠鏡とかはないんですか?

GM:
 ええ。望遠鏡があったほうがそれっぽい雰囲気はでるのですが、残念ながらこの時代にはまだありません。望遠鏡が登場するのは、船に大砲が登載されるようになるのとほぼ同時期のことですね。

バッツ(GM):
 バッツは後方に目を凝らしてある程度の目測を終えると、「よーし、いい子だ。そのままついてこい……」と呟きました。




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