LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第8話(12)

 ここで少し時間を巻き戻し、バッツの立てた作戦の説明シーンを挿入しておきます。

イーサ:
「――ってことは、季節流に乗っているときになら、アッバス海賊団の軽ガレー船を引き離せる算段があるってことなのか?」

バッツ(GM):
「まあ、うまくこっちの策がはまればだがな……。そのときの動きは、こうだ――」そう言って、バッツは海図上に駒を置き、想定される動きを説明していきます。
「逆風の中でこちらが逃走を開始すれば、ダウ船はここぞとばかりに追走してくるだろう。縦帆のダウ船は逆風でも船を進めることができるからな。だが、そうはいっても、自分たちの旗艦との距離が大きく離れそうになったなら、さすがにそれ以上の追走はあきらめるはずだ。むこうだって、ダウ船だけで戦えば勝ち目がないことくらいは理解してるだろうからな」

イーサ:
「その旗艦と離れられる距離っていうのは、だいたいどれくらいなんだ?」

バッツ(GM):
「オレの見立てでは、その限界距離はせいぜい1キロってところだ。だから、その距離をギリギリいっぱいまで稼いだところで、ダウ船への攻撃を開始する。そこからアッバス海賊団の旗艦が追いついてくるまでが、オレたちに許された時間ってわけだ」

エルド:
「なるほど……。それで、アッバス海賊団の旗艦がその距離をつめてくるまでには、具体的にどれくらいの時間がかかるものなんですか?」

バッツ(GM):
「そりゃ、こっちとの相対速度によるさ。互いに同じ海流に乗ってオールを漕いでいる限り距離は変わらない。だが、ダウ船との戦いが始まれば、さすがにこっちはオールを漕ぐわけにもいかなくなる……」

イーサ:
「そうすると、戦闘開始後は一方的に距離をつめられるってことか……」
 これまで10キロの航行時間が1時間くらいだったってことは、1キロだとおおよそ6分。常識的に考えて、それくらいで決着をつけられるもんなのか?

GM:
 まあ、そんな短時間で海戦の決着をつけるなんてことはまず無理ですよ。

イーサ:
「その程度の距離じゃ、アッバス海賊団の旗艦が追いつくまでせいぜい5、6分ってところだろ? そのあいだにかたをつけるっていうのは、ちょっと難しいんじゃないか?」

バッツ(GM):
 イーサの言葉を聞いたバッツは、にんまりと笑みを浮かべます。
「いいや。それが、そうでもないのさ」

エルド:
「なにかいい方法でも?」

バッツ(GM):
「海流を利用するんだよ」そう言うと、バッツは海図に描かれたカルマシャ半島の海岸線をなぞってみせました。

海図3

バッツ(GM):
「南西から北東に向かう季節流はイーラ・ユヴァ湾に流れ込んでいくわけだが、そのすべてが湾内に入り込めるわけじゃあない。あぶれた分は、南北の海岸線沿いに押し出されていくことになる。そうすると、カルマシャ半島沿いには風向きとは逆方向に流れる海流ができるわけだ。この流れに乗ることができりゃ、オールを漕がなくてもある程度の船速が維持できるってわけさ。逆にアッバス海賊団の旗艦は、その海流に乗るまでのあいだ、向い風で逆向きの海流のなかをせっせとオールを漕いで進んでこなくちゃならないはめになる」

イーサ&エルド:
「おおッ!」

バッツ(GM):
「つまり、限界距離をギリギリ保った状態で、カルマシャ半島沿いの海流に乗った直後にアッバス海賊団のダウ船との交戦を開始できれば――」

イーサ:
「最大限に時間を稼げるってことか!」


 ふたたび、追走してくるダウ船をにらみ付けるバッツのシーンへと戻ります。

GM:
 バッツの視線の先には、乗組員の顔が見えるほどに近づいたダウ船と、その後方にさきほどよりも小さくなった軽ガレー船が見えています。

バッツ(GM):
「さあて……。あとは、海流に乗るタイミング次第だが……」

GM:
 ここらへんで、そろそろ戦闘マップを展開していきましょうか。これが、あなたたちが乗っているバッツ海賊団の旗艦です(と言って、軽ガレー船が描かれた戦闘マップを提示する)。

軽ガレー船

GM:
 そして、今回は戦闘マップをもう1枚。こちらが、アッバス海賊団のダウ船になります(と言って、ダウ船が描かれた戦闘マップを提示する)。

ダウ船

GM:
 今回は互いに動いているので、2つの戦闘マップを動かしつつ処理していきます。

イーサ:
(ダウ船の描かれた戦闘マップを見て)
 ダウ船って結構小さいんだな……。

GM:
 思っていたよりも小さかったですか? この戦闘マップだと、ダウ船だって全長30メートルはあるわけですが。

イーサ:
 でかいなッ!

GM:
 どっちだよッ(笑)!
 いや、実のところ、戦闘マップの縮尺の関係でこのサイズになっているのですが、最大乗員数40人クラスの軽ガレー船や最大乗員数20人クラスのダウ船って、本来それぞれこの半分くらいのサイズのはずなんですよ……(汗)。まあ、今回のところはそこらへんのことには目をつむってください。

 LOSTは戦闘マップのスケールが1マス3メートルであることを前提に設計されているため、狭い場所で大勢が入り乱れるような戦闘を再現しにくいのが悩みどころです。しかたないので、わたしがGMを務めるときには割り切って、スケールはそのままに戦闘マップのほうを大きくするようにしています。スケールのほうを変更すると、“範囲支配”などの扱いが難しくなるので……。

GM:
 さて、ダウ船がさらに接近し、斜め後方50メートルほどまで距離を詰めてきたところで、バッツの手下のひとりが叫びました。

バッツの手下(GM):
「おかしらッ! 海流に乗りましたッ!」

バッツ(GM):
 それを受け、バッツは後方に豆粒ほどの大きさとなったアッバス海賊団の旗艦船影を確認したのちに、次のような指示を出します。
「よしッ! もう十分だッ! オールをしまって、クロスボウを用意しろッ!」

GM:
 バッツの指示に応じて、船内の漕ぎ手座にいた乗組員たちも、手にクロスボウを携えて甲板に上がってきます。それにあわせるように、ダウ船側の帆が畳まれていきました。もはや、両船の距離は射撃武器の有効射程内です。
 ここで、現時点での波の大きさを決定しておきたいと思います。イーサかエルドのどちらか、代表して《10レーティング、クリティカル値10》の判定を行ってください。波に揺られる船の影響で、その値分、実質敏捷度と器用度にペナルティが発生します。なお、海賊たちはセイラー技能レベル3を所有しており、このペナルティをセイラー技能レベル+2点まで軽減できます。

イーサ:
 さすがは海賊。優秀だな。

エルド:
 では、ここは僕が振っておきましょう。(コロコロ)3です。

GM:
 ならば、海賊たちは一切ペナルティを受けることなく行動できます。

バッツ(GM):
「おあつらえ向きに、今日の海は穏やかだな……」とバッツは呟きました。

イーサ:
 これで穏やかなのか。俺は揺れの影響で回避力が1点落ちたぞ。畜生(苦笑)。

エルド:
 僕は揺れが大きかろうが、特に気になりません。実質敏捷度と器用度にいくらペナルティがかかっても、魔法には影響しませんからね。

GM:
 あ、ちなみに、いまの揺れ程度では魔法の行使に影響はありませんが、強い衝撃を受けるなどして船体が大きく揺れたときには、吹き飛ばしに対する筋力判定や転倒判定が必要となり、それに失敗した場合、“瞑想”や“弓矢装填”などの維持するのに精神集中が必要となる行動はキャンセルされてしまいますからね。海賊たちが飛距離の長いボウを用いずに、クロスボウを装備しているのにはそういった理由もあります。

 この揺れは、船上という特殊な環境での戦いを演出するためのものです。これによって、波の高い日には一流の戦士も形無しになってしまいます。

GM:
 さて、バッツ海賊団がクロスボウの準備を終えたころ、ちょうどアッバス海賊団のほうでも同じく準備を終えたらしく、双方からほぼ同時に矢が放たれ始めました。さすがに、この処理を実際にひとつずつ処理していくのは面倒なので、《10レーティング》の結果で、相手の戦力に損害を与えたことにします。イーサかエルドのどちらか、代表してバッツ海賊団側の射撃判定を行ってください。

エルド:
(コロコロ)4です。

GM:
(コロコロ)こちらは3です。

バッツの手下たち(GM):
 では、クロスボウを手に応戦していたバッツの手下のうち2人が敵の矢を受け、苦悶の声をあげてその場に倒れます。
「うッ!」
「ぎゃーッ!」
 そして、もうひとりは、矢を受けて体勢を崩した拍子に船側を乗り越え、そのまま海に落水してしまいました。
「うわぁぁぁぁ!」
 ドボーンッ!

イーサ:
 あー。あるある(笑)。

GM:
 というわけで、バッツ海賊団には3人の戦闘不能者がでて、残り戦闘員数は37人。対するアッバス海賊団には4人の戦闘不能者がでて、残り戦闘員数は16人となりました。互いに何度か斉射を繰り返したところで、両船の距離は20メートルのところまで近づいてきました。

イーサ:
 ここらへんで“プレアー”を唱えておく。(コロコロ)発動。

GM:
 ちょうどそのころ、アッバス海賊団のダウ船の甲板上では、クレインクインクロスボウの射撃準備が完了しようとしていました。LOSTの武器の分類上はクレインクインクロスボウという扱いですが、船体に備え付けられている個人で扱える大きさを超えたものですので、バリスタと呼称したほうがイメージしやすいかもしれませんね。そのバリスタには、太いロープが結わいつけられた大きな銛のような矢弾が装填されています。
 そして、その矢がバッツ海賊団の船の横っ腹に向けて、勢いよく放たれました。ズドンッ! ズドンッ! 重々しい音を立てて、2本の大きな矢が船側部に深くに刺さり込みます。
 さて、ここで吹き飛ばしに対する筋力判定を行ってもらいましょう。

イーサ:
 バリスタの矢の衝撃って、船が揺れるほど大きいのか!?

GM:
 あ、いえ、これはバリスタの矢が命中したことによる直接的な衝撃に対する判定ではありません。ロープで繋がれたバッツ海賊団の船とアッバス海賊団の船が互いに引っ張りあうことで、本来とは異なる方向に船体が大きく揺れたことによるものです。
 では、あらためて《筋力値ボーナス+2D》で目標値8の判定を行ってください。今回は周りにあるものにつかまっていられれば、吹き飛ばされずにすむということにします。

イーサ:
 了解。とっさに船べりにつかまった。(コロコロ)11。

エルド:
(コロコロ)僕は6で失敗です。

バッツ(GM):
(コロコロ)おおっとッ! バッツも吹き飛ばされてしまいました。

GM:
 吹き飛んだ人は、左舷側に3メートル吹き飛びます。……エルド、危なかったですね。立ち位置次第では、いまので海に放り出されていましたよ。

イーサ&エルド:
(笑)

GM:
 続いて、吹き飛んだ人は転倒判定を行ってください。《実質敏捷度ボーナス+2D》の判定で、目標値は9です。

エルド:
(コロコロ)あー、よかった。10で成功しました。

GM:
 ならば、エルドは一瞬足が甲板から離れてバランスを崩したのですが、なんとか転倒せずに着地することができました。

バッツ(GM):
(コロコロ)バッツも転倒判定には成功です。マストのところまで吹き飛ばされたのですが、うまくマストをつかんでこらえたようです。

GM:
 こうして、アッバス海賊団の船とロープで繋がったことにより、バッツ海賊団の船速は明らかに鈍くなりました。

軽ガレー船とダウ船1

GM:
 そのタイミングで、ダウ船の船首に立つひとりの男が大声を響かせます。ダウ船の船首は、あなたたちのいる船尾楼甲板の横まで並んできているため、その男の顔がはっきりと確認できました。

アッバス海賊団の男(GM):
「ハッハッハッ! この逆風の中で逃げ切れるとでも思っていたかッ! ついに捕まえたぞ、バッツ! これでキサマたちも年貢の納め時だなッ!」

バッツ(GM):
 バッツは、その男の顔をにらみつけてこう返します。
「威勢がいいな、メルテム! だが、捕まったのははたしてどっちかなッ!」

GM:
 メルテムはまだ気がついていないようですが、帆を畳み、オールを漕いでいない状態でありながら、2つの船は海流の影響を受けて南下を続けています。

バッツ(GM):
 バッツはメルテムをにらみつけたまま、満を持してこう叫びます。
「野郎ども、準備はいいなッ! お返しに、こっちからもぶち込んでやれッ!」

バッツの手下(GM):
「了解です、おかしらッ!」バッツの手下たちは威勢よくそう答えると、準備していた3台のバリスタから、ロープ付きの矢をダウ船めがけて射出しました。

GM:
 勢いよく放たれたバリスタの矢が、狙い違わずダウ船の横っ腹に刺さり込みます。これで双方からロープ付きの矢が相手の船に撃ち込まれたわけですが、バッツたちの放った矢に結わいつけられたロープは、錨や積み荷を持ち上げるための巻き上げ機につなげられています。

バッツ(GM):
「よーしッ、かかったなッ! 巻き上げ開始だッ! 全力で回せッ!」

GM:
 バッツの号令に従って、手下たちが一斉にロープの巻き上げ作業に取り掛かりました。ロープが巻き上げられていくと、両船の距離はさらに狭まっていきます。もちろん、アッバス海賊団もただそれを見ているわけではありません。巻き上げ作業で無防備になっているバッツの手下たちに向けて、再装填したクロスボウの矢を撃ち込んできます。

エルド:
 GM。僕がよろけてから、ロープの巻き上げが行われるまでにそれなりの時間がありましたよね? 可能であれば、“瞑想”して“ファイア・ボルト”を撃とうと思いますが、狙いやすそうな相手っていますか?

GM:
 そうですね……。狙いやすそうな相手ということであれば、やはりメインマスト上にいる見張り役でしょう。甲板上にいるクロスボウを撃ってきている者たちは、船側に半分身を隠しながら撃ってきているのですが、メインマストの上にいる者は、全身丸見えです。まあ、“ファイア・ボルト”はある程度誘導できるので、甲板にいる敵にもあてられますけどね。
 ちなみに、敵を狙える位置で“瞑想”するということであれば、あなたも敵からの攻撃対象となります。そして、有効射程の勝る相手の射撃のほうが先に行われます。ここは、アッバス海賊団側の判定で、《2D》で10以上がでたらエルドに対して矢を放ったということにしましょう。

エルド:
 了解です。

GM:
 まずはアッバス海賊団側のターゲットの決定です。(コロコロ)彼らの矢は、すべてエルド以外に向って放たれました。(コロコロ)それによって、バッツの手下が3人倒れます。バッツ海賊団の残り戦力数は34人です。

エルド:
 では、こちらからはメインマスト上にいる見張りに対して“ファイア・ボルト”を撃ち込みます。(コロコロ)あらら。抵抗されてしまいました。ダメージは物理で6点と魔法で4点です。

GM:
 ならば、その攻撃を受けた見張りは、身の危険を感じてマストから甲板に降りて行きました。
 そのような攻防が行われたあとで、ふたたびバッツの声が響き渡ります。

バッツ(GM):
「よしッ、もう十分だッ! 橋をかけて連中の船に乗り込めッ!」そう号令を発すると、バッツはイーサとエルドのほうへと顔を向けました。
「さあて、お膳立ては整ったぜ。ここからがオマエらの出番だ。切り込み隊として、しっかりと働いてもらうぞ。自由になりたければ、連中の船を奪ってみせろッ!」

エルド:
 任せてくださいバッツさん! 僕は魔法使いなので後方にいますが、イーサさんが先陣切って敵船に乗り込んでくれますよ(笑)!

イーサ:
 おいッ(苦笑)!




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