LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第9話(09)

GM:
 ではここで、イルヤソールについて簡単に解説しておきましょう。
 イルヤソールは、アシャス平原の真っただ中にあるヴァハ湖のほとりに栄える人口1,000人程度の小都市です。主な産業は、軍馬や乗用馬の育成、馬肉生産、および馬革、馬油の加工など、そのほとんどが馬がらみのものとなっています。
 街の中には背の低い土壁の建物が多く見られ、たまに2階建ての建物があるくらいで目立った市壁も存在せず、外周を覆う木の柵と、ところどころに見張りやぐらが点在するだけです。また、現在のところ、この街はほかのどの都市とも街道で結ばれていません。
 もともとマーキ・アシャス地方は遊牧民族が多く暮らす土地であり、大きな都市は存在していませんでした。ヴァハ湖周辺もその例にもれず、遊牧民たちが限られた時期だけ水を求めて集まってくるような土地に過ぎませんでしたが、平定戦争後にほかの地域の文化が流入してきたことで、農作と家畜に頼ってこの土地に定住する者も増え始めています。
 なお、かつてはエクシオウルという氏族がこの周辺の地域を支配していたのですが、平定戦争後にエクシオウル氏族が取り潰しとなったため、それにかわってイルヤソール氏族が周辺地域の管理者の役目を担うことになりました。そのイルヤソールの現氏族長であるアブドゥルは10年前に妻と死別しており、ギュリスの叔母であるボレンは彼の2番目の妻ということになります。

ギズリ(GM):
 イルヤソール周辺の動物除けの柵を過ぎたあたりまでくると、ギズリは馬を止めてその背から降りました。
「到着っと! 日のあるうちにつけて良かったな」

セルダル:
 同じく、馬の背から降りた。
「ギスリさんの判断がなかったら、ここまですんなりとは着けてなかったな。すげぇよ、ギズリさんは」

ギズリ(GM):
「あんまり褒めるなよ。これでもオレは調子に乗って天狗になっちまうほうなんだからよ」そう言って、ギズリは照れくさそうに頭をかきます。

セルダル:
 そんなギズリさんのことを見て、笑ってる。

ギュリス(GM):
 そんなほのぼのとした空気に水を差すように、追いついてきたギュリスが、「あのねぇ……。そんなの言われるまでもなくわかってることなんだから、お世辞を真に受けてまで、あらためて自分で言うな」とギズリのことを冷たくあしらいます。

セルダル:
 その言葉に、おもわず笑顔を固まらせた。
「お、おう……」
 ギュリスはあいかわらず厳しいな……(苦笑)。

ギュリス(GM):
「さてと、すぐに日も暮れるだろうから、真っ直ぐイルヤソールのお屋敷に向わないとね」そう言うと、ギュリスも馬から降りて、街の中央をめざして歩き始めました。

GM:
 イルヤソール市内に敷かれた道は、中央広場を始点として扇状に広がっています。そのうちの1本の道をたどり、一行はまず中央広場に出ました。すでにほとんどの露店が店仕舞いを済ませている時刻だというのに、そこにはまだ多くの往来があります。そして、中央広場を抜けてまっすぐ湖のある西方向へと歩いて行くと、その先の湖畔にイルヤソールのお屋敷が見えてきました。
 イルヤソールのお屋敷は一面真っ白な2階建ての建物で、正面に口を開いたコの字型をしています。この街にあるほかの建物と同様にそこまでの高さはありませんが、そのかわり建屋面積はかなり広そうです。

セルダル:
「こいつが……」
 その建物をポカーンと口を開けて見てる。

GM:
 あなたたちが屋敷に近づいていくと、その敷地の中から子供の声が聞こえてきました。

子供A(GM):
「あれ? もしかして、あれって?」

子供B(GM):
「うそ? ホント!?」

子供A&子供B(GM):
「わーい! ギュリスねーちゃんだー!」
 見たところまだ5歳程度の男の子2人が、あなたたちのほうへと駆け寄ってきます。

セルダル:
 その子供らのことを見てから、ギュリスに目を向けた。

ギュリス(GM):
 ギュリスは少年たちの声に反応して、彼らのほうへと身体を向けました。

子供A&子供B(GM):
 2人の男の子は、そのままギュリスの足元に抱き着きます。
「ギュリスねーちゃんッ!」

ギュリス(GM):
 男の子たちにじゃれ付かれたギュリスは、「くぉらぁぁぁッ! グン! トプラク! まずは挨拶なさい! お客さまも一緒なんだからねッ!」と言って、容赦なく固めた拳を少年たちの頭頂部へと落としていきました。

セルダル:
 そーそー。姉ってやつはどこの世界でも暴力を振るうもんだよな(笑)。

グン&トプラク(GM):
 げん骨を食らった男の子たちは、目に涙を浮かべながら頭を押さえてギュリスの前に整列します。

グン(GM):
 そして、一方の男の子が、「はじめまして。ぼくはグンです! いらっしゃい!」とあなたたちに名乗って頭を下げると――

トプラク(GM):
 そのあとに続いて、もう一方の男の子も、「はじめまして。ぼくはトプラクです! いらっしゃい!」と名乗って頭を下げました。

GM:
 グンとトプラクは瓜二つで、クセの付いた巻き毛にクリクリとした藍色の瞳をしており、見た目だけではどちらがどちらか区別がつきません。

セルダル:
「おう! オレはセルダルだ。よろしくな」

グン(GM):
「セルダル?」

トプラク(GM):
「セルダル!」

ギュリス(GM):
「この子たちはあたしの甥っ子で、見てのとおり双子なんだ。今年で5歳になったんだけど、まだまだお子ちゃまでね」

セルダル:
「そーなのか。元気でいーな」

ニルフェル(GM):
 セルダルに続きニルフェルも、腰を落として彼らと目線にあわせると、「はじめまして、グンくん、トプラクくん。わたしはニルフェル。ギュリスお姉ちゃんの友達なんだ。よろしくね」と男の子たちにあいさつしました。

グン(GM):
「ニルフェル?」

トプラク(GM):
「ニルフェル!」

セルダル:
 さっきから、このオウム返しはなんなんだ?

ギュリス(GM):
 セルダルの心を読んだのか、「なんかね、この子たち、人が言ったことを繰り返すのが好きなんだよ」と、ギュリスがそのような解説を加えました。

セルダル:
 なるほどね。
「いーじゃねぇか。オレは好きだぜ、そーゆーの」

ギュリス(GM):
「さてと……それじゃ家の中に入ろうか。あなたたち、ママはおうちの中にいるんだよね?」と言って、ギュリスはグンとトプラクをまとわりつかせたまま、屋敷へと向かって行きます。

グン&トプラク(GM):
「「いるよ!」」

ギュリス(GM):
「よかった。今回は連絡なしで来たから、もし出かけてたらどうしようかって心配してたんだよね」

GM:
 そうやってギュリスが屋敷の目の前まで近づいて行くと、今度は屋敷2階のバルコニーから少年の声が聞こえてきました。

セルダル:
 なんだ?

少年(GM):
「わが氏族は、男は男らしく、女は女らしくがモットーです! どっちつかずのオトコオンナは立ち入りをご遠慮ください!」

セルダル:
 ぶっ(失笑)!

GM:
 バルコニーに目を向けると、そこにはグンたちより少し年上の男の子がいました。短く刈り込んだ髪と、真っ黒に日焼けした顔が、彼が活発な少年であることを如実に物語っています。

ギュリス(GM):
 ギュリスはそんな少年を呆れ顔で見ると、「コラーッ! アーチ! あなた、そんなこと言ってて、自分が男らしいとでも思ってんの? レディに対してそんな口聞いてるようじゃ、いつまでたっても女の子にモテないよー!?」と返しました。

アーチ(GM):
 すると、アーチと呼ばれた少年は、ギュリスの言葉に一度ギクリとしたあとで、両手の人差し指で口の端を引っ張り、「イーだッ!」と言って部屋の中に入ってしまいました。

セルダル:
 オレはギュリスに悟られないように、必死に笑いを噛み殺そーとしてる。

ギュリス(GM):
「ふんッ、お子ちゃまめ……」そう呟いたあとで、ギュリスはセルダルたちに対して、「えーと、いまのがアーチ。一応、ここの長男なんだ。いずれは氏族長の座を継ぐことになるんだから、もっとしっかりして欲しいところなんだけどね」と紹介します。

セルダル:
「いーじゃねぇか。姉ちゃんにあんな口きけるんだ。たいしたもんさ」

ギュリス(GM):
「いいや、あれはダメだね。今度、きっちりと教育してやらないと!」そう言って、ギュリスは息巻きました。

GM:
 そんなところで、さらに屋敷正面の扉が小さく開き、そこから13~14歳くらいの女の子が姿をみせます。

ギュリス(GM):
 その姿をみたギュリスは、「あ! アテーシュじゃない! 久しぶり!」と今度は朗らかな声を発しました。

アテーシュ(GM):
 アテーシュと呼ばれた少女は、ゆっくりとした口調で「ギュリスお姉様、お久しぶりです」と言って微笑んで見せたあとで、セルダルたちに対してもうやうやしく頭を下げます。
「ようこそお越しくださいました。わたくしはアブドゥル・イルヤソールの娘、アテーシュです」

セルダル:
 慌てて、こっちもぎこちなく一礼した。
「セルダルだ。はじめまして……」

アテーシュ(GM):
 アテーシュは控えめに微笑みます。彼女は茶色がかった艶やかな髪をした少女で、やや下がり気味の薄い眉が、どことなく穏やかな印象を与えます。

セルダル:
「すまねぇ。どーも、オレはこーゆーのになれてなくってな……」

ギュリス(GM):
「なに緊張してんのさ」と、固くなっているセルダルにギュリスが突っ込みを入れました。
「ちなみに、アテーシュはアブドゥル伯父さんの連れ子。直接血のつながりがあるわけじゃないんだけど、あたしにとっては心の妹だから。もし、この子になにかしたら、あたしが許さないからね!」

セルダル:
「な、なにもしねぇよ!」

ギュリス(GM):
「どうだかねぇ……」そう言いながら、ギュリスは疑うような視線をセルダルに向けます。

ニルフェル(GM):
 そんなやり取りを見て、ニルフェルもクスクスと笑っています。

セルダル:
「ニルフェルまで……。ひでぇな、もう……」
 ちょっとしょぼくれてみせるが、顔は笑ってる。

アテーシュ(GM):
 そのような感じで一通りの挨拶を済ませると、アテーシュはギュリスに対してこう尋ねてきました。
「それでお姉様。今回は前もってご連絡いただいていなかったようですが、どのようなご用件でいらしたのですか?」

ギュリス(GM):
 アテーシュの問いかけに、ギュリスはざっくばらんにこれまでの経緯を話しました。自分の意思を無視してヤウズ王子の妃候補の募集に応じさせようとした父親に反発して家を飛び出してきたこと。そんなギュリスを連れ戻そうと、イスメトがカルカヴァンまで追いかけてきたこと。イスメトの手から逃れるにあたり、あなたたちが協力してくれたこと。そして、追跡をかく乱するために、デミルコルを経由してイルヤソールまできたこと。
「――ってわけで、ほとぼりが冷めるまでのあいだ、ここでかくまってもらいたいんだよね……」

アテーシュ(GM):
「そうだったのですか」
 アテーシュはギュリスを気遣うように心配そうな視線を送ります。
「そういうことでしたら、どうぞごゆっくりしていってください。あいにくとお父様はしばらく不在なのですが……。そうだ、いまお母様を呼んでまいりますね」

ギュリス(GM):
「あ、いいって、いいって。ボレン叔母さまは、スーの面倒を見てるんでしょ?」

アテーシュ(GM):
「ええ、ちょうど先ほどまでミルクをあげていたところなので、そろそろスーもお休みする時間だと思うのですけれど……。では、お母様がいらっしゃるまで、お茶でもいかがですか? 中央からお送りいただいた美味しい紅茶があるのですよ」そう言って、アテーシュはあなたたちを客室へと案内していきます。

セルダル:
 まだ子供がいるのか……。

GM:
 ここで、イルヤソール本家の家族構成についておさらいしておきましょう。
 まず、大黒柱である当主アブドゥルはこの街を管理する名主的な立場にあります。あくまでも一都市を管理するための官職であり、自治権はありません。次に、当主夫人ボレンはアブドゥルの2番目の妻で、イスパルタ本家当主ジェラル・イスパルタの妹です。そして、長女アテーシュ13歳、長男アーチ7歳、次男グン5歳、三男トプラク5歳、二女スー1歳の5人の子供たちをあわせて、イルヤソール本家は現在7人家族です。
 それを踏まえたうえで本編に戻ります。

アテーシュ(GM):
 アテーシュはあなたたちを客室へと案内すると、自ら紅茶をいれてくれました。
「お口にあうと良いのですが……」

セルダル:
「ありがてぇ。遠慮なくいただくぜ」

GM:
 それは、微かにオレンジの香りのする紅茶でした。

セルダル:
「なんだ……? オレンジみてぇな匂いがするぞ」そー言って、カップの中をまじまじと見た。

GM:
 目で見ても、普通の紅茶との違いはわかりませんよ(笑)。

アテーシュ(GM):
「ここの敷地内で育てているオレンジの皮を干したものを香りづけに少し含ませてみたのですが、もしかしてお口にあいませんでしたか?」と、アテーシュは説明してくれます。

セルダル:
「いや、はじめて飲んだ味だったんで驚いただけさ。スッキリしててうまいぜ」

ギュリス(GM):
「そりゃ、庭の手入れは、アテーシュと叔母さんが丹精込めてやってるんだもんね。そこらへんのやつとは愛情の入れ方が違うわけよ」

セルダル:
「へー。そんなにすげぇ庭なのか……」

アテーシュ(GM):
「そ、そんなことありませんよ……」
 アテーシュは恥ずかしそうに下をうつむきました。

GM:
 そう言われてみれば、この屋敷に入ってからというもの、まだ使用人の姿を見かけていないような気がします。

セルダル:
「……そういや、こんなこと聞くと失礼なのかもしれねぇが、こんなにでけぇお屋敷なのに使用人とかはあんまりいねぇみてぇだな」

アテーシュ(GM):
「ええ。人手は足りていますので……」

ギュリス(GM):
「できることは自分たちでやるってのが、叔母さんの方針なんだよ」

セルダル:
「ってことは、庭の手入れだけじゃなくて、家の中のことも全部自分たちでやってんのかよ? なんつーか、思ってたよりも普通の家庭なんだな。もっとこー、いかにもそれっぽい感じのやつをイメージしてたんだが……。いや、オレはこーゆーほーがいーとは思うんだけどな」

ギュリス(GM):
「だよね! 入れ替わり立ち代わりに、見たこともない人が出入りするより、こっちのほうが断然いいよ!」と、珍しくギュリスもセルダルの意見に同調してきました。
「うーん! やっぱりここは落ち着くなぁ」そう言って、ギュリスは腕を大きく広げると、座っていた椅子の背もたれに身体をあずけて伸びをしてみせます。ギュリスがあまりにも大きくのけぞるめ、椅子の前脚が宙に浮いています。

セルダル:
 まさか、ひっくり返ったりはしねぇよな(苦笑)?

女性の声(GM):
 そこで突然、ギュリスの背後から落ち着いた女性の声が発せられました。
「こらッ、ギュリス。不作法ですよ」

ギュリス(GM):
「うわわわッ。ボレン叔母様!」
 慌ててバランスを崩しそうになったギュリスでしたが、ワタワタと手で宙をかき、なんとかひっくり返らずに堪えることができました。

セルダル:
 声のほーを見て、席を立った。

ボレン(GM):
 声の主であるボレン夫人は、人の心の中まで見透かすかのような垂れ目が特徴的な、40歳くらいの女性でした。また、ギュリスの叔母さんというだけあり、彼女の髪の色もギュリスと同じ濡れ羽色です。
 ボレンは部屋に入ると、「お待たせしてしまったようでごめんなさい。わたくしがアブドゥルの妻、ボレンです。あらためて、ようこそいらっしゃいました」と述べて、軽く会釈しました。

 次々と登場したイルヤソール本家の人々。GMとしては、労力を軽減するためにできるかぎり登場するNPCの人数を減らしたいところではあるのですが、ボレン夫人を含むイスパルタ本家が多産の家系であるということを示すために頑張りました。お世継ぎ問題を解消したいカーティス王宮にとって、イスパルタ本家の女子であるギュリスは、妃候補として高く期待されるうちのひとりだと言えるでしょう。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。