ボレン(GM):
挨拶をすませたボレンは、空いた席に座ってあなたたちの話を一通り聞き終えると、「話はわかりました。たいしたおもてなしはできませんが、それでもよろしければわが家でゆっくりしていってください」とあなたたちの滞在を快く受け入れてくれました。しかし、そのあとでこうも続けました。
「ただし……ギュリス。あなたがここへ来たことは、お兄様に報告します」
ギュリス(GM):
「え~。叔母様~」と、ギュリスは不満気な声を漏らします。
ボレン(GM):
「早合点しないで。お兄様にあなたがここに来ていることをお伝えしたあとは、あなたが納得するまで、ここにいて構いません。そのあいだは、たとえ何者があなたを連れ戻しに来たとしても、わたくしがそれを許しません。そのかわり、衣食住は提供してあげるけれど、あなたのことはお客様としては扱わないから、そのつもりでね」
セルダル:
なんつーか、ボレン夫人って男前だな……。
ギュリス(GM):
ボレンの言葉を聞いたギュリスは、先ほどとは一転して目を輝かせると、「ありがとう、叔母様!」と言って、勢いよくボレンの首元に抱き着きました。
ボレン(GM):
「こら、いつまでも子供じゃないのだから、およしなさい」そうたしなめるボレンですが、嫌がっている様子はありません。
セルダル:
へぇ……。ギュリスにとってボレン夫人は頼れる味方ってことか。珍しく、目ぇキラキラさせちまってよ(笑)。
ギュリス(GM):
ひとしきり喜びを表現し終えたギュリスは、一旦ボレンから離れます。
「それで、実は叔母様にもうひとつお願いしたいことがあるんだけれど……」
ボレン(GM):
「あら、なあに?」
ギュリス(GM):
ギュリスはいつになく殊勝な顔つきで、ボレンに次のように願い出ました。
「ニルフェルに宮廷における女子教育を施してもらえないかな? この子、ヤウズ王子の妃候補として王都に向かう途中なの。叔母様は以前、王宮で教育係をやってたことがあるでしょ? 昔取った杵柄ってところで、ここはひとつお願いできない?」
ボレン(GM):
「昔取った杵柄って、あなたねぇ……」
ボレンは少し呆れた顔でギュリスのことを見ます。
ニルフェル(GM):
そこで、ニルフェルも席を立つと、ボレン夫人に対して頭を下げました。
「お願いします、ボレン夫人! わたし、どうしてもヤウズ王子の妃にならなければならないんです!」
ボレン(GM):
「……」
ボレンはニルフェルのことをじっと見つめると、しばらく無言でなにやら思案しているようです。
ギュリス(GM):
そんなボレンに対して、「叔母様、あたしからもお願い! このお願いを聞いてくれたら、なんでもひとつ言うことを聞くから!」と、ギュリスも拝み込みました。
セルダル:
オレもそれに続いて勢いよく頭を下げた。
「オレからも、お願いさせてくれ。ニルフェルに作法を教えてやって欲しい。かわりに……オレにできることならなんでもする。頼む!」
ニルフェル(GM):
「ギュリスさん、セルダルさん……」
ニルフェルは一緒に頭を下げてくれている2人のことを見ました。そして、もう一度、「お願いします」と自分自身でも頭を下げます。
ボレン(GM):
しばらく考え込んでいたボレン夫人でしたが、小さく息をつくと、「……わかったわ。ニルフェルさんへの女子教育の勤め、お引き受けしましょう」と3人の願いを聞き入れました。
セルダル:
ガバッ!っと頭をあげた。
ボレン(GM):
「……ただし、条件があります」
ギュリス(GM):
「条件?」
ギュリスはきょとんとした顔でボレン夫人のことを見ました。
セルダル:
オレもゴクリと唾を飲み込んだ。
ボレン(GM):
「わたくしからの条件は、ニルフェルさんの受ける教育を、ギュリス、あなたにも一緒に受けてもらうということです」
ギュリス(GM):
「えーッ!?」
突然の指名にギュリスはうろたえます。
ボレン(GM):
「あなた、わたくしがイスパルタにいたころは、教育の時間になるたびに逃げだしていたじゃありませんか。あのときに教えそびれたことも含めて、もう一度教育しなおします。もう16歳にもなるのに、いまのようなありさまでは、天国の義姉さんに申し訳がたちません。覚悟なさい」そう言って、ボレン夫人は不敵な笑みを浮かべました。
セルダル:
勉強が嫌で逃げ出してたのかよ……。ギュリスにも可愛いところがあるんだな(笑)。
ボレン(GM):
「……それに、ニルフェルさんにとっても、一緒に学ぶ相手がいるというのは良いことなのですよ。人はひとりでなにかに励むよりも、誰かと共に切磋琢磨したほうが、より早く成長できるものなのですから」
セルダル:
目をつむって、うんうんとうなずく。
GM:
こうして、思わずぼやき声をあげたギュリスではありましたが、さすがにここでその条件を拒否することもできず、結局ニルフェルと共にボレン夫人からの指導を受けることが決定しました。
ギュリス(GM):
しばらくのあいだショックを受けていたギュリスですが、やがてなんとか持ち直します。そして、落ち着きを取り戻すと、周囲の面々に対してこう切り出しました。
「……まあ、あたしたちのことはとりあえずいいとして……。いや、あまり、よくはないんだけど……。それよりも、あなたたちはこれからどうするつもりなの?」
セルダル:
「……」
メルト(GM):
「……」
ギズリ(GM):
「……」
テジー(GM):
「……」
ギュリス(GM):
静まりかえる面々に、ギュリスが返答を促すかのように視線を投げかけていきます。
メルト(GM):
その問いかけに対して、まず口を開いたのはメルトでした。
「自分たちは、手薄になっているデミルコルが心配なので、一晩休んだら急いで来た道を引き返します。近ごろ、なにやら不穏な動きがあるようですからね。きっとユセフ様も、自分たちの帰りを待っていると思います」
セルダル:
「そっか。ありがとな、メルト隊長。ここまで無事に来れたのも自警団の皆のおかげだぜ」
ニルフェル(GM):
「自警団の皆さん。慌ただしいなかでここまで送っていただき、ありがとうございました」そう言って、ニルフェルもメルトたち自警団の面々に対してお礼を述べました。
メルト(GM):
「いえいえ、自分たちはユセフ様の指示に従ったまでです。なんとか無事に役目を果たせたようで、こちらとしても安心しました」そう口にするメルトは、どこか誇らしげです。
セルダル:
「さてと、オレはどーするかな……」と言って、オレも思案しはじめた。
「ギズリさんは、なんかアテでもあんのか?」
ギズリ(GM):
「オレか? オレはお嬢さんから約束の報酬をもらったら、この国を出るつもりだ」
セルダル:
「そーなのか……」
(少し考えてから)
「んじゃ、しばらくはこの街で過ごすことになりそーだし、オレはこの街で仕事でも探してみっかな……。なにができるかはわからねぇが、まぁなんとかなるだろーさ」そう言って、ニカッと笑ってみせた。
ギュリス(GM):
ギュリスはそんなセルダルに対し、「ニルフェルがこの街にいるあいだは、あなたもここに滞在してるつもりなんだよね?」と確認してきます。
セルダル:
「ああ、そーだ。ニルフェルを王都まで送り届けんのがオレの一番の目的だからな!」そー言って胸を叩いてみせた。
ギュリス(GM):
セルダルの返答を聞いたギュリスは、「ねえ、叔母さん。なにかいい仕事ない?」と言って、ボレン夫人へと目を向けます。
ボレン(GM):
「そうですね……。この街は、このところ人が増えてきていて、どこにいっても人手不足なのだけれど……。セルダルさんは、なにか得意なことがあって?」
セルダル:
「そーだな……。剣なら少しは自信がある。まぁ、ギュリスお嬢さんに言わせりゃ、捨て駒程度らしいが……。あとは力仕事なら得意だ」
ボレン(GM):
「それならば、この街の自警団が、警らの人手が足りなくて頭を悩ませているのだけれど、力を貸してもらえるかしら?」
セルダル:
「そーゆーことなら、ぜひやらせてくれ!」
ボレン(GM):
「では、あとで紹介状を用意しますね」
セルダル:
「感謝するぜ。しかし、なんでもするって言ったはずのオレのほーが世話になっちまうみてぇで、なんだかわりぃな」と言って頭を下げた。
ボレン(GM):
「それは構いませんけれど、近ごろの自警団は寝る暇もないくらい忙しいそうなので、覚悟しておいてくださいね」
セルダル:
「忙しいのは大丈夫だ。熊に襲われるのに比べたらマシだろーからな」
メルト(GM):
「……」
テジー(GM):
「……」
冗談にしても、実際に被害者まで出してしまったデミルコルの人間にとってはちょっと笑えません(苦笑)。
ギュリス(GM):
「……まあ、セルダルのことはそれでいいとして、あと、あなたはどうするの?」そう言って、ギュリスはテジーに目を向けます。
テジー(GM):
「ワタシは王都に向かう」
ギズリ(GM):
「ふーん……。王都に行くのか。だったら、そこまではオレと一緒に行くか? オレは王都経由でホルム王国を目指すつもりだからな。どうせオマエ、デミルコル以外の土地にはどこにも行ったことがねぇんだろ?」
テジーの行先を聞いたギズリはそのように提案しました。
テジー(GM):
ギズリからそのような話を持ちかけられると、テジーは「え? あ……。いや、ワタシは……」と口ごもります。
ギズリ(GM):
そんなテジーを見て、ギズリは頭を掻きました。
「っていうか、オマエの交渉能力じゃ、隊商に参加させてもらうこともままらなねぇぞ? まあ、とって食いはしねぇから、とにかくついてきな」
ギュリス(GM):
「たしかに、ギズリが優秀な水先案内人だってことは、あたしが保証するよ。そこそこ信頼もできるし、いいんじゃない?」
テジー(GM):
「……」
テジーはしばらく考え込んだあとで、「わかった。頼む」と言ってギズリに頭を下げました。
ギズリ(GM):
「よし、心得た。旅のことなら任せておけよ。誰にでもひとつくらいは秀でた分野ってやつがあるもんだ」そう言ってギズリは自分の胸を叩きます。
セルダル:
「さすがはギズリさん。頼りになるぜ」
ギズリ(GM):
「んで、ギュリスお嬢さん。今後の予定が確認できたところで、忘れないうちに約束の報酬のほうを受け取っておきたいんだが……」
ギュリス(GM):
「そうだね。すったもんだはあったけど、こうやって無事にイルヤソールまで辿りつけたんだから、約束どおり望みのものは全部あげるよ」そう言うと、ギュリスは荷物袋の中からいくつかの宝石と持ち手部分に見事な飾り細工の施されたろう石を取り出し、それをギズリに手渡しました。
ギズリ(GM):
「よっしゃッ! これで心置きなく限界ギリギリまで旅ができるってもんだ」
ろう石を受け取ったギズリは飛び跳ねて喜びます。
ギュリス(GM):
ギュリスは子供みたいにはしゃぐギズリを呆れた目で見たあとで、その視線をセルダルへと向けました。
「ついでに、あなたにも護衛の報酬をあげる」
セルダル:
「オレにか?」
驚いた顔でギュリスを見た。
「オレにしてみりゃ、世話になったことのほーが多すぎて報酬だなんて受け取れねぇよ」
ギュリス(GM):
「正当な報酬なんだから、そう言わずに受け取っておきなって。どうせ、懐もあまり温かくないんでしょ? 貧すれば鈍するってね」
セルダル:
「う……。まぁ……たしかにそーなんだが……。だがなぁ……」
(少し考えてから)
「……いや、ダメだ。やっぱり受け取れねぇ。仕事の世話までしてもらったわけだし、それで十分さ」
ギュリス(GM):
「そっか……。まあ、いやいや人に押し付けるのはあたしの性にあわないし、それならそれでいいけどさ……。じゃあ、今回はあなたの満足のために、報酬はなしってことで……」
セルダル:
「ああ、それで頼む。すまねえ」
ギュリス(GM):
そこでギュリスはセルダルに近づくと、ほかの人に聞こえないくらいの小声でこう言いました。
「ちなみに、一応アゼルたちの分の報酬も用意してあるんだ。それはあいつらがここまで来たときに渡すつもり。だから、もし自分だけ報酬を受け取るのが申し訳ないとか考えてたりするなら、遠慮するのはよしたほうがいいよ」
セルダル:
「それはギュリスお嬢さんの気持ちだからな。受け取るかどーかは本人次第さ」と小声で返した。
ギュリス(GM):
「なら、よし」
ボレン(GM):
そうやって、全員の今後の予定を確認し終えると、ボレン夫人が手を鳴らします。
「さて、どうやら話はまとまったみたいね。それじゃ、そろそろ夕食にしましょう。アテーシュ、ギュリス、それと、ニルフェルさん。準備を手伝ってちょうだい」
出会いがあれば別れもある。それぞれの進む道を確認してひとつの区切りをつけたところで、ここからイルヤソールでの新たな物語が始まります。
なお、ギュリスがセルダルに支払おうとしていた報酬金額は2万銀貨。使い道はいろいろあったはずなのですが、本当に断ってしまってよかったのでしょうか?