LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第9話(11)

GM:
 さて、イルヤソールに到着してはじめてとなる食事の席には、当主アブドゥルを除くイルヤソール本家の人々が勢ぞろいしました。テーブルの上には豪勢とは言えないまでも、心づくしの品々が並べられています。

アテーシュ(GM):
 食事の最中、アテーシュがあなたたちに対して、「お口にあいますか?」と言葉をかけてきました。

グン&トプラク(GM):
 それにつられて、グンとトプラクも声を上げ始めます。
「おいしい?」
「おいしい!」

アーチ(GM):
 一方で、アーチはフォークの先に不思議な形に切られた野菜をさした状態で、「これ、ギュリスが切ったの? どおりで形が崩れてると思った」と言って鼻で笑っています。

ギュリス(GM):
 その挑発に、「こらッ! アーチッ!」とギュリスも声を張り上げました。

GM:
 そのような感じで、食事の席はかなりにぎやかな状態となります。

ボレン(GM):
 しばらくして、一向に落ち着く気配をみせないその状況を見かねたボレンは、口元をナプキンで拭いて手を休めると、「あなたたち、お客様の前ですよ」と言って、騒がしくする子供たちのことをたしなめました。

セルダル:
「いやぁ、にぎやかなメシは楽しくっていーな」
 誰にともなくそー言って笑った。

ニルフェル(GM):
「そうですね」
 ニルフェルもまた、微笑ましそうにイルヤソールの人々の様子を眺めています。

セルダル:
「皆で食うと、うまいメシがますますうまくなるってもんだ。……ところで、ニルフェルもこのメシ作るの手伝ったのか?」

ニルフェル(GM):
「ええ。わたしは鶏肉の包み焼きをお手伝いしました。でも、ボレン夫人の手際がよすぎて、あまりお手伝いできることはなかったんですけれどね……」

セルダル:
「んじゃ、頑張って覚えねぇとな。そんで、もしひとりで作れるよーになったら、オレにも食わせてくれよ」

ニルフェル(GM):
「はい」

セルダル:
「よっしゃッ。こりゃ、いまから楽しみだな」

ニルフェル(GM):
 そのようなことを何気なく話していると、不意にニルフェルの目元から雫がこぼれ落ちました。

セルダル:
「えッ? ど、どーした、ニルフェル? オレ、なんかマズイこと言っちまったか!?」
 突然のことで、オレはどーしていーかわからずにあたふたしてる。

ニルフェル(GM):
「え? あれ? どうして……?」
 頬を伝う涙を手で拭いながら、ニルフェル自身も意図せぬ感情の高ぶりに驚いているようです。

セルダル:
「いきなり涙なんか流して、どーしたんだよ……?」

ニルフェル(GM):
「ご……ごめんなさい……」そう言うと、ニルフェルはうろたえた様子で席を立ちました。そして、食堂から出て行きます。

GM:
 食事の席にいるほかの面々は、いったいなにが起こったのかまったく理解できていません。

セルダル:
 ニルフェルはすぐに戻ってくるだろーか? もし長く席を空けるよーなら、あとを追いかけよーと思うが……。

GM:
 しばらく戻ってくる気配はありませんね。

セルダル:
 んじゃ、ニルフェルを追って中座する。

GM:
 了解です。では、ニルフェルのことを見つけることができるかどうかの判定を《ハンター技能レベル+知力ボーナス+2D》で行ってください。達成値が高いほど早く見つかります。

セルダル:
(コロコロ)5……。オレはこのダイスが憎い……(泣)。きっと、慣れない屋敷で迷っちまったんだ……。

GM:
 ならば、ニルフェルのことを追って食堂から出てきたセルダルでしたが、すでに辺りにニルフェルの姿はなく、完全に見失ってしまいました。いくら周囲を捜してみても、ニルフェルは見当たりません。そのかわり、しばらくニルフェルの姿を捜し回ったところで、いつの間にか食堂の外に出てきていたテジーと出くわしました。

テジー(GM):
(コロコロ)14。あなたを見るなり、テジーは湖のほうを指さしてこう言います。
「あの娘を探しているのなら、あちらのほうに行ったようだぞ」

セルダル:
「本当かッ!? ありがとな、テジー!」
 慌てて湖に向かった。


GM:
 では、ヴァハ湖に向かったセルダルは、満月の明かりの下で湖畔に座り込んでいるニルフェルのうしろ姿を発見しました。

セルダル:
 んじゃ、ゆっくりと近くまで歩いて行って、近くまで来たら「隣、座ってもいーか?」って声をかけた。

ニルフェル(GM):
 すると、ニルフェルの背中越しに、彼女が袖口で顔を拭う仕草がみえました。そして、少しの間を置いてから、「いいですよ……」と小さな声が返ってきます。

セルダル:
「よっと」
 ニルフェルの隣に腰を下ろした。そんで、暗い湖の水面を眺めながら、「静かだな」って呟いた。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは無言のまま首を縦に動かしました。

セルダル:
 ひとつ息を吐いたあと、自分の上着を脱いでニルフェルの肩にかけた。

 たしかに、心情的に肌寒さを感じさせるシーンではあります。しかし、実際のところ、作中ではいままさに夏の盛りを迎えようかという時季なのでした……という突っ込みは無粋でしょうか(笑)。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは、ただじっと湖を見つめています。

セルダル:
「明日から、また楽しみだぜ。どんな連中と一緒に仕事することになるんだろーってな……。ここにくるまで、いろんな連中と知り合えた。これもニルフェルと一緒にここまで来れたおかげだな」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは黙ったままセルダルの話を聞いています。

セルダル:
「よく知りもしねぇ連中と上手くやってくのは面倒なことも多いだろーが、いままで知りもしなかったことを覚えることができたり、驚くよーなことがあったりで、きっといーことも沢山あるよな……。ただ、やっぱりつれぇときもあるからさ……。ボレン夫人の教育を受けるので忙しいかも知んねぇが……たまには顔を見せてくれよ」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは両腕で抱きかかえた膝に顔をうずめて、小さくうなずきました。

セルダル:
「ありがとな」
(しばらく待ってから)
「……気持ち、落ち着いたか? まだなら、落ち着くまでつきあうぜ」

ニルフェル(GM):
 そう声を掛けられたニルフェルは、とても小さな声でこう呟きます。
「……まで……」

セルダル:
「ん?」

ニルフェル(GM):
「……あの月が沈むまで……」

セルダル:
 月を見上げて、「ああ」と答えた。んじゃ、月が沈むまで一緒にいることにする。

GM:
 まあ、そうは言っても、満月が沈むのは明け方になってからなんですけれどね(苦笑)。

ニルフェル(GM):
「冗談です……。あの満月が沈むより先に夜が明けてしまいますから」

セルダル:
「ハハ。冗談が言えるなら、もー大丈夫だな。安心したぜ。まぁ、オレは朝まで月が沈まねぇとは知らなかったけどな」そー言って笑ってみせた。

ニルフェル(GM):
「……」

セルダル:
「……」

ニルフェル(GM):
 長い沈黙を破って、ニルフェルがボソリと呟きます。
「……あの日も、鶏肉の包み焼きだったんですよね。覚えていますか?」

セルダル:
「ああ。オレがクルトのお屋敷で晩メシをご馳走になった日のことだよな?」

ニルフェル(GM):
「あれからまだひと月くらいしか経っていないはずなのに、もうずっと昔のことのように思えます……」

セルダル:
「あれからずいぶんと色んなことがあったからな……」

ニルフェル(GM):
「そうやって、いずれ多くのことを忘れていってしまうのでしょうね……」

セルダル:
「……たとえそーだとしても、そのかわりもっと多くのことを覚えていくさ。それに、本当に大切なことは忘れたりなんかしねぇよ。きっとな……。ほら、現にあの日のことだって覚えてたじゃねぇか」

ニルフェル(GM):
「はい。いまはまだ、覚えています……」

セルダル:
「オレもハッキリ覚えてるぜ。なんせ、ニルフェルの口からクルト氏族の復権なんて言葉が出てきてビックリしたからな。あんときは無理して背伸びしよーとしてるんじゃねぇかと思って心配だった。でも、そーじゃなかったんだよな」

ニルフェル(GM):
「……」

セルダル:
「あの日の気持ちは、いまも変わってねぇんだろ?」

ニルフェル(GM):
(しばらく沈黙してから)
「変わりました……」

セルダル:
 その言葉に、湖面に向けていた視線をニルフェルのほーへ向けた。

ニルフェル(GM):
「セルダルさん。あなたが変えたんですよ?」そう言って、ニルフェルもセルダルのことを見ました。

セルダル:
「俺が?」
 じっとニルフェルのことを見つめてる。

ニルフェル(GM):
「あのときのわたしは……いいえ、つい先日まで、わたしは覚悟を決めきれていなかった。なんとなくそうしたほうがいいんじゃないかと、ただ漠然と考えていただけなんです……。いずれなんとかなるだろうだなんて、他人事みたいに感じていただけで……。でも、セルダルさんはそんなんじゃいけないって言ったじゃないですか。そんなことじゃ、ボロがでるって」

セルダル:
「……ああ。たしかに言ったな」

ニルフェル(GM):
「いまはわたしもそう思います。カーティス王国の王妃になるということは、中途半端な覚悟で叶えられるようなことではないんです」

セルダル:
「……そーだな。本当にそー願うなら……。本気で叶えたいことならな」

ニルフェル(GM):
「……」

セルダル:
「んじゃ、オレも負けてらんねぇな」

ニルフェル(GM):
「セルダルさんは、王直属兵になるのが目標なんですよね?」

セルダル:
「ああ。絶対になる!」そう言って、もう一度湖面に目を向けた。
「そしたら、またニルフェルのことを守ってやれるな……」

ニルフェル(GM):
「そのときは、よろしくお願いします」

セルダル:
「ああ。まかせろよ、未来の王妃様」

ニルフェル(GM):
「……セルダルさんになら安心してお任せできますね。だって、野党を退治して、モノケロースを狩って、ムーンベアも討伐して……。もう、立派な英雄ですもの。メルトさんたちが、そういう目でセルダルさんのことを見てる気持ちもよくわかります」

セルダル:
「さーて、そいつはどーだかな。それくらいのことで威張ってるよーじゃ、王直属兵としては笑われちまいそーだぜ。もっと、もっと、強くならねぇとな」

ニルフェル(GM):
「そんなに謙遜しなくても大丈夫ですよ。ギュリスさんも、ギズリさんも、テジーさんも、みんなセルダルさんのことを認めていますから」

セルダル:
「そーか? オレからすりゃ、ギュリスの戦闘指揮も、ギズリさんの旅の経験や知識も、テジーの警戒力も、オレなんかと比べたらかなりすげぇと思うけどな。剣の腕前だけじゃなく、そーゆーもんも必要なんだって、この旅でわかったよ」

ニルフェル(GM):
 セルダルの言葉に、ニルフェルはゆっくりと首を横に振りました。
「うまく言えないんですけれど、別にセルダルさんがそうある必要はないと思いますよ」

セルダル:
 その言葉の意味をしばらく考えてから、「ああ……。たしか、ギズリさんもそんなこと言ってたっけな」って呟いた。頭の中を、“誰にでもひとつくらいは秀でた分野ってやつがあるもんだ”ってギズリさんの言葉がよぎってる。
「そっか……。オレはオレのやれることをすりゃいーんだな……。よし、決めた! オレはこいつで、こいつひとつで認められるよーな男になってみせるぜ!」そう言って剣をポンと叩いた。

ニルフェル(GM):
「お互いに頑張りましょうね」そう口にしたニルフェルの顔には、普段通りの朗らかな笑顔が浮かんでいます。

セルダル:
「ああ。頑張ろーぜ!」

ニルフェル(GM):
 ――と、そんな言葉を掛け合ったところで、ニルフェルのお腹が鳴りました。ニルフェルは目を丸くすると、顔を真っ赤に染めます。

セルダル:
 ニルフェルを見て、プッと頬を膨らませつつも笑いをこらえた。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは少し憮然とした表情で、「こういうときには、無理せずに笑ってください……」と漏らしました。

セルダル:
「ははは、わりぃわりぃ。そーいやメシの途中だったもんな。さてと、それじゃそろそろ戻ろーぜ」そー言って、立ち上がった。

ニルフェル(GM):
「はい」
 ニルフェルも立ち上がると、服についた土を丁寧に払い落とします。

セルダル:
「オレ、今日のこともきっと忘れねぇよ」

ニルフェル(GM):
「……じゃあ、その言葉が本当かどうか、10年くらい経ったら確認してみますね」

セルダル:
「オッケー。んじゃ、お互い10年後に……な」そー言って、ニカッと笑った。

 こうして、セルダルはニルフェルを別の場所へと連れ出すのではなく、彼女が王妃になるための後押しをする道を選択したのでした。それは、ニルフェルひとりの力ではまず成し得ることができない険しい道ですが、セルダルを含む多くの者が支えになるのであれば、あるいは実現させられるかもしれません。まあ、現時点の構想では、妃選考の結果はダイスの神様に委ねるつもりなのですが(笑)。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。