LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第9話(20)

GM:
 では、22時半のイルヤソール邸へと場面を移します。
 イルヤソール邸内に入ったセルダルは、まずアテーシュを見かけることになります。アテーシュは大きなトレーに2人分の料理を乗せて運んでいるところでした。

アテーシュ(GM):
「あ、お帰りなさい、セルダルさん。遅くまで大変ですね」

セルダル:
「いやいや、別にどーってことねぇよ。それより、この時間にメシを運んでるってことは、よーやく2人の勉強も終わったんだな」

アテーシュ(GM):
「はい。先ほどお母様が、書斎まで食事を運ぶようにと」

セルダル:
「よかったら、オレもメシを運ぶの手伝っていーか?」

アテーシュ(GM):
「あ、ありがとうございます」
 アテーシュは申し訳なさそうにしながらも、セルダルの好意に甘えることにしました。

GM:
 こうして、セルダルはアテーシュと一緒に書斎へと向かうことになります。
 書斎の前まで行くと、扉は薄く開かれており、そこから部屋の中の明かりが漏れていました。明かりのほかに、なにやら淀んだ空気があふれ出しているような気さえします。

セルダル:
 気のせい……じゃないだろ(苦笑)。そっと中の様子をうかがった。

ギュリス(GM):
「……も……もう、限界……」

ニルフェル(GM):
「し、しっかりしてください、ギュリスさん! ここで眠ってしまったら、大変なことに! 起きて! 起きてください!」

セルダル:
 ニルフェルがギュリスを励ましてる……だと……?
「大丈夫か!?」そー言って、書斎に入っていった。

GM:
 では、書斎の中にはぐったりとした2人の姿がありました。2人ともウエストを細く絞ったドレスを着用しており、げっそりとしています。

ニルフェル(GM):
「……あ、セルダルさん……」
 目をしばたたかせながら、ニルフェルがセルダルのことを見ました。

ギュリス(GM):
「げ、幻覚……?」

セルダル:
「ずいぶんと頑張ってるみてぇだな……(汗)。と、とにかく、しっかりしろ! メシだぞ!」

アテーシュ(GM):
「ギュリスお姉様。とりあえず、お夕食を」

GM:
 こうして、あなたたちの助けを得たニルフェルとギュリスは、なんとか食事を口に運んでいきました。食事を口にした2人は、やがて落ち着きを取り戻します。

セルダル:
「よーやく死地から戻ったって感じだな」

ニルフェル(GM):
「ありがとうございます。おかげで生き返りました」

ギュリス(GM):
 ギュリスはドレスの紐をほどくと、その締め付けを少し緩めました。
「ふぅ……。まったく、拷問かって話だよ」

ニルフェル(GM):
「ボレン先生は、習うよりも慣れろとおっしゃっていましたが、まさかここまで徹底的だとは……」そう口にしたニルフェルは、少し冷や汗を垂らしています。
「でも、結構面白いですよね。まさか、宮廷の女子教育に馬術や狩りや戦争の勉強が含まれているとは思いませんでした」

ギュリス(GM):
「……ニルフェル、あんた、結構タフだよね……」
 ギュリスは呆れ顔でニルフェルのことを見ました。

セルダル:
「徹底的なのは、ニルフェルやギュリスお嬢さんの本気が伝わったからだろーさ」って言って笑った。

ニルフェル(GM):
「……ところで、セルダルさんのほうは、もうお仕事終わったのですか?」

セルダル:
「いや、それがな。なんつーか――」って感じで切り出して、これまでの経緯を2人に話した。
「――ってな状況で、その行商人と、おそらくグルだと思われる奴のことを捜しだしてぇところなんだが、肝心のスレイマンは覚えがねぇってゆーしよ……。でもさ、オレの考えだと、窃盗ヤロウは最初からスレイマンに目をつけてて、そのあとをつけて酒場に入ってきたよーに思えるんだよな」そー言って、腕を組んだ。

ニルフェル(GM):
「スレイマンさん……ですか。わたしはその方の名前は初めて耳にします」

ギュリス(GM):
「そうなの? 結構な有名人だよ。通称、“砂塵の死神”。たしか、今年で34歳。宮国暦23年末のオズディル攻略戦のときにはすでに戦場に出てたって話だから、10歳ちょっとのときにはすでに命のやり取りを経験してたってことだね」

セルダル:
「そんなにすげぇ奴なのか?」

ギュリス(GM):
「混じりっ気のない生粋の戦士だよ。いわゆる、戦局を変えることができる駒ってやつ。彼を手駒に加えられるんだったら、200万金貨積んでも惜しくないね」

 ギュリスの個人的な評価ではありますが、スレイマンは現実換算で生涯収入50億円の男ということです。超一流のプロ野球選手をイメージすると近いと思います。ちなみに、MLBで安定した活躍をみせた松井秀喜さんは100億円超。さすがにスレイマンでもその領域までは届かない様子。

セルダル:
「おー。そーなのか……。やっぱ、あんときは手を抜かれてたよな……。うん」

ギュリス(GM):
「これまでにも、スレイマンを囲い込もうとした人は多くいたみたいだけど、いまだに誰かに仕えたことはないみたい。以前、うちのニハト兄さんが、遺跡探索をしてみないかって声をかけたことがあったらしいんだけど、それもフラれちゃったって。戦うのは好きらしいんだけど、迷宮だとか罠だとか、そういった面倒なだけで血が湧き立たないことは嫌いらしいよ」

セルダル:
「そーなのか?」

ギュリス(GM):
「こんなところで嘘ついてどうすんのさ」

セルダル:
「……そりゃそーだよな。あー、こりゃ本当に早くなんとかしねぇと……」

ギュリス(GM):
「まあ、それだけの有名人なんだから、窃盗の犯人だって、スレイマンのことを見かけたなら、彼が何者かってことくらいはわかったんじゃない? それ自体は別に不思議なことでもないよ」

セルダル:
「なるほど! だからスレイマンのほーは知らねぇのに、向こーは知ってったわけか。となりゃ、オレの記憶に焼きついた行商人と、飾り帯が網目模様だって奴を、足で捜すしかねぇか」

ニルフェル(GM):
 そこで、しばらく2人の会話を聞いていたニルフェルが口を開きました。
「セルダルさんの話から推測すると、犯人たちはスリの技術にさほど自信が無いようですね。それと、おそらくこの街の住人ではないと思います」

セルダル:
「ん? どーしてそー思うんだ、ニルフェル?」
 わからねぇ。オレにはわからねぇよ。

ニルフェル(GM):
「いえ、今回の手口はたいして技術は要しませんが、ひとつの街で何度も使えるものではありませんから」
 ニルフェルは人差指を立てて、そう説明しました。

セルダル:
「あー、そーだよな」

ニルフェル(GM):
「ですので、すでにほかの街でも同じような手口で窃盗を働いている可能性が高いと思います。その場合、盗品の売却は盗みを働いた街では行わず、次以降の街で行うことになるでしょう。そうすれば売却時に盗品だと露見する可能性が減りますし、心理的にも窃盗を働いたらすぐにその街から離れたくなるでしょうからね」

セルダル:
「なるほど、なるほど。ってことは、この街での仕事を終えた犯人たちは、すでに次の街に向かおーとしてるってことか?」

ニルフェル(GM):
「その可能性は高いと思います。ただ、犯行時刻が夕食時であったことを考えると、犯人たちはまだ街の中にいるのではないでしょうか? この街の周囲には街道もなく、夜間移動するのは危険でしょうから。そして、明日の早朝、明るくなってから街をでることにすると思います……」

セルダル:
「おおッ! ありがとな、ニルフェルッ! よしッ! んじゃ、さっそく宿屋をまわって探してみるぜッ!」と言って、立ち上がった。

ニルフェル(GM):
「あ……。多分、犯人たちはそういった足が付くところは利用していないと思います」

セルダル:
「そーだよなー!」
 もう一度腰を下ろした。

GM:
(笑)

ニルフェル(GM):
「今回の事件だと、自警団とスレイマンという方を争わせて、その隙に盗みを働いていますよね? そうなると、自警団に顔を覚えられてしまう可能性があるので……。もしあらかじめ街の施設を利用するつもりでいたなら、自警団を巻き込むようなことはしなかったと思うんです」

ギュリス(GM):
「……ほんと、ニルフェルってこういう謎解きっぽいこと好きだよね……」
 ギュリスは半分感心、半分呆れた様子でそう口にしました。
「で、肝心のその連中がいる場所だけれど……。こういうときは、犯人になったつもりでどこに隠れるべきなのか考えてみるってのが鉄則だよね」

セルダル:
「なるほど……」
(イルヤソール市街地図を確認してから)
「金目のもんも手に入ったが、このあとは旅で面倒だ。せめて出発前に楽しい思いをしておきてぇなぁ……。ってなると、いまごろは……しょう――」

ギュリス(GM):
「アタシだったら、人目につかないようなところで夜を明かすかな」

ニルフェル(GM):
「やっぱり、木の葉を隠すなら森の中でしょうか?」

セルダル:
「ゴホン、ゴホン……。しょう……がねぇ。どこだろーなぁ……」

ギュリス(GM):
「セルダル。あなた、いま娼館って言おうとしなかった?」

セルダル:
「嫌だなギュリスお嬢さん。オレがいつそんなこと言いました(汗)? オレは、きっと貧民街なんじゃねぇかって思ってたぜ。あのあたりなら身を隠すのにはうってつけだろ。よーし、それじゃ、いまから貧民街行って頑張っちゃおーかなー」
 ごまかすように言葉を続けた(笑)。

ニルフェル(GM):
「あの……。すこしはお役に立てたでしょうか?」

セルダル:
「おう! ものすごく助かったぜ、ニルフェル! オレの頭じゃ思いつきもしなかった。ありがとな!」そー言って、ニカッと笑った。

ニルフェル(GM):
「いえ、わたしも楽しかったです。また、なにか相談したいことがあったら、声をかけてくださいね」
 ニルフェルも屈託のない笑顔を浮かべています。

セルダル:
「ああ、そのときはよろしく頼むぜ! それじゃ、奴らが逃げ出す前にとっ捕まえてくるとすっか! ギュリスお嬢さんもありがとな。おかげでスレイマンが悪い奴じゃねぇって確信が持てたぜ!」

ギュリス(GM):
 セルダルにそう声をかけられたギュリスは、ふとなにかを思いついたような顔をしました。
「そうだ。スレイマンって自警団詰め所の牢屋の中にいるんだよね?」

セルダル:
「ああ。そうだぜ」

ギュリス(GM):
 その答えを聞くと、ギュリスは「そう。ありがと」と言って、少しにんまりとしました。

セルダル:
「お、おう……」
 なんか、嫌な予感がするが……(苦笑)。
「んじゃ、行ってくるぜ!」そー言って、貧民街へと向かうことにする。

ギュリス(GM):
「いってらっしゃい」

ニルフェル(GM):
「気を付けてくださいね」


GM:
 では、時間は23時になろうかというころ、セルダルは窃盗犯を捕まえるべく、イルヤソール邸から街へと出て行こうとしました。しかし、セルダルは屋敷を出る前に、ある人物から声を掛けられることになります。

セルダル:
 誰だろう? 立ち止まった。

GM:
 声の主は、先に書斎から戻っていたアテーシュでした。

アテーシュ(GM):
「先ほどはありがとうございました。おかげで助かりました」そう言ってアテーシュは微笑みながら軽く頭を下げます。

セルダル:
「あれくらいのこと、世話になってんだからあたりめぇさ」そー言ってニカッと笑った。
「むしろ、寝床だけでなくメシまで出してもらえてるんだから、ありがてぇぜ。だから、オレにできることはなんでも言ってくれよな」

アテーシュ(GM):
「あ……。はい……」
 セルダルの態度に、アテーシュは少し戸惑うような顔をしました。

セルダル:
 ん? なんだ? ……ま、いーか……。
「んじゃ、オレはまだ仕事が残ってるからよ。おやすみ、アテーシュ」

アテーシュ(GM):
「このような時間におひとりで外出なさるのですか? 夜間の外出は危険ですよ?」

セルダル:
「あー。まあ、そーかもしんねぇが、とっ捕まえねぇいけねぇ悪い奴らがいやがるからな。それに、オレにはコイツがあるから大丈夫さ」そー言って、両手剣をポンポンと叩いた。

アテーシュ(GM):
 アテーシュは、あなたの格好をじっと見つめました。

セルダル:
 目線を感じて自分の格好を見るが……。なんかあんのか?

アテーシュ(GM):
「あの……明かりは持って行かれないのですか? もしかして、夜目が聞くとか……」
 アテーシュの視線には、どこか別の世界の人間を見るような雰囲気があります。

セルダル:
「あー。……そーいや相手も隠れてんだ。貧民街はろくに明かりもねぇだろーし、明かりがなくちゃ見えねぇよな……」
 腕を組んで、どーしたもんか考え始める。

アテーシュ(GM):
「あ……。やっぱり、明かりは必要ですか?」

セルダル:
「ああ。あるのとねぇのとじゃ大違いだ」

アテーシュ(GM):
「では、こちらで少しお待ちください」アテーシュはそう言って、一旦隣の部屋へと姿を消しました。少しして戻ってきたアテーシュの手には、シャッター付きランタンと、火口箱が握られています。「どうぞ、こちらをお使いください」

セルダル:
「いーのか!?」

アテーシュ(GM):
 アテーシュは不思議な様子で少し小首を傾げ、「ええ、もちろん構いませんよ」と答えました。

セルダル:
「すまねぇ。なんだか気をつかわせちまってばっかりだな。ありがとな、アテーシュ!」
 ニカッと笑って、ランタンと火口箱を受け取った。
「んじゃ、いってくるぜ!」

アテーシュ(GM):
「お気をつけて」そう言って、アテーシュも少しぎこちなくはにかみました。

GM:
 では、セルダルはランタン片手に、イルヤソール邸からひとりで出ていきました。




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