LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第9話(21)

GM:
 さて、自称行商人の行方を捜してセルダルがイルヤソール貧民街へと足を踏み入れたのは、23時半になろうかというころのことです。
 真夜中の貧民街には月明かり以外に周囲を照らすものがなく、ランタンの照らす範囲の外は真っ暗ですが、あちらこちらから人の気配は感じられます。ちなみに、自警団の腕章は付けていますか?

セルダル:
 いや、貧民街に入る前に外しておく。

 賢明な判断です。もし、腕章をつけたまま権威をかざすようであれば、それをトラブルの引き金とするつもりでした。

セルダル:
 奴らも旅の前に身体を休めておきてぇはずだ。となりゃ、宿みてぇなところにいるんじゃねぇかな……。あたりをうかがいながら、飲み食いできるよーな場所か、宿のよーな場所がないか探してみる。

GM:
 ならば、セルダルは通りに面した建物の扉の隙間から明かりが漏れ、人の声が聞こえるのを発見しました。どうやら、中では酒宴が行われているようで、粗野な男たちのがなり声が響いています。

セルダル:
 酒宴か……。そっと近付いて、中がうかがえるよーならのぞいてみる。

GM:
 明かりの漏れる扉から中を除くと、男4人が馬鹿話をしながら酒を酌み交わしているのがみえました。外観からはわかりませんでしたが、どうやらそこは酒場のようです。

セルダル:
 その男たちの中に見覚えのある顔はあるか?

GM:
 いえ、特に見覚えのある顔はありません。

セルダル:
「そんなに都合よくみつかるわけねぇよな……」そー呟いて苦笑した。で、扉を開けて、中に入ってく。カウンターがあんなら、そこに向かうが……。

GM:
 立て付けの悪い扉を押し開けて中に入って行くと、男たちの視線がセルダルに集まりました。奥には小さなカウンターらしきものもありますが、そこに人の姿はありません。

酒宴の男A(GM):
「なにか用か?」と、4人の男のうちのひとりが声を掛けてきました。
「金を払うなら、酒くらい出してやるぞ」

セルダル:
「ああ、酒を飲みに来たんだ。もちろん、金は払う」

酒宴の男B(GM):
 別の男が、「ここの酒は馬の小便よりまずいぞ」と言って、大声で笑います。

酒宴の男A(GM):
 すると、一番最初に声を掛けてきた男が、「馬鹿言うな。れっきとしたエール酒しかおいてねぇよ」と言って、カウンターの奥へ歩いて行き、そこでカップに1杯酒を注いでくれました。どうやら、彼がこの酒場の主人のようです。
「1銀貨だ」

セルダル:
 1銀貨を支払いながら、「ほっとしたぜ。ちょっと待ってろとか言って、空のカップを持って裏手に行くんじゃねえかと思ってヒヤヒヤしちまった」と言って笑ってみせる。

場末の酒場の主人(GM):
「金を払うなら、作ってやらねぇこともねぇ。ちょうどもよおしてきたしな」

セルダル:
「やめてくれ。次も同じので頼むぜ」そー言って、カップの中身を一気に飲み干すと、銀貨をもー1枚出しておかわりを求めた。

場末の酒場の主人(GM):
 では、酒場の主人は空いたカップにさらに酒を注ぐと、ほかの男たちの座るテーブルへと戻って行きます。

GM:
 そして、男たちはふたたび雑談を再開しました。

酒宴の男B(GM):
「で、さっきの話の続きなんだけどよぉ……」

セルダル:
 酒を飲みながら男たちの話に耳を傾けてるんだが、窃盗犯に関係するよーな話は出てこねぇか?

GM:
 その事件に関係するような話はまったく出てきませんね。男たちの話は、このあいだナンパした女がどうだったとか、どこそこの商売女の具合がよかったとか、そういった下世話なものばかりです。

セルダル:
 だよなぁ……。となりゃ、「なぁ、この辺りに寝泊りできる宿はねぇか?」って、聞いてみる。

場末の酒場の主人(GM):
 では、酒場の主人が、「女を抱きたいなら、もっと湖沿いに行くんだな。そうじゃなけりゃ、北のほうに宿がある」と答えてくれます。

セルダル:
「ありがとよ。女を抱けるほど財布に余裕はねぇけどな」そー言って、店を出た。

GM:
 セルダルの背後では、男たちの馬鹿話が延々と続いています。場末の酒場をでると、ちょうど真上にまん丸い月が出ているのが見えます。どこか遠くのほうで、猫の鳴き声と陶器が割れる音が聞こえました。

セルダル:
「まずは足で捜すか……」そー言って、陶器の割れる音がしたほーへ向かった。

GM:
 貧民街の通りをさらに歩いて行くと、ところどころにうずくまっている人の姿が見うけられます。寝ているのでしょうか? 中には、子供の姿もあります。そんな景色を横目に進んで行くと、唐突にセルダルの後方から「アハハハッ。ウヒッ、ウヒッ。アーハッハッ!」と笑う男の声が響き渡りました。

セルダル:
 驚いて声のするほーを振り向いた。

GM:
 笑い声の主は、路上に寝ころぶ男でした。ひとりでなにかブツブツ言っては、突然奇声を上げたりしています。さらに遠くから、微かにお経を唱えるような声も聞こえます。

セルダル:
「なんつーか、すげぇ場所だなここは……」って誰にゆーでもなく、ボソっと呟いた。

 貧民街に入ってからのGMの描写は、サウンドノベル『リングオブサイアス』を思い出してつい入れてしまったものです。普段、TRPGにおけるGMの描写に無駄な情報などないと豪語しているわたしですが、この描写に関しては貧民街の雰囲気を出す以上の意図はありません(苦笑)。

セルダル:
「しゃあねぇ。落ち着いて話が聞けそーな場所は、やっぱあの酒場くれぇか」
 さっきの酒場に戻ることにする。

GM:
 では、セルダルは貧民街を歩き回り、ふたたび先ほど入った酒場を訪れました。

場末の酒場の主人(GM):
「いらっしゃい。なんだか、今日はやけに客が多い――」そう言いかけた酒場の主人はセルダルの顔をみると、またかといった表情をしました。
「小便だったら、さっきすましちまったよ」

セルダル:
「小便は頼まねーよ!」そー言って笑った。

酒宴の男たち(GM):
 そのやり取りに、テーブルで男たちが爆笑しています。
「オレのでよけりゃ、すぐに出せるぞ! 2銀貨でどうだ!?」

セルダル:
「勘弁してくれ! エールを頼む」そー言って、困り顔でおどけてみせながら、銀貨を1枚カウンターに置いた。

場末の酒場の主人(GM):
「はいよ」
 主人はカウンターの奥へと移動すると、1銀貨を受け取ってエールをだし、すぐにテーブルへと戻りました。

セルダル:
「あー、ありがとよ。助かったぜ」

酒宴の男たち(GM):
 そんなところで、テーブルを囲う男たちは顔を寄せ合って、なにやら小声で話し始めます。
「なあ。もしかして……じゃねぇのか?」
「……やっぱり……オレも……だと思ってたんだぜ」
「うそだろ? 勘弁してくれよ……」
 微かにそんな言葉を漏らしながら、男たちはチラチラとセルダルのことを見ています。

セルダル:
 なんだか嫌な雰囲気だな……。
「な、なんだよ。さっきから、オレのほーをチラチラと見やがって」

酒宴の男たち(GM):
 セルダルがそう発言すると、男たちは一斉に視線をそらしました。
「さあて、それじゃ、オレはそろそろ引き上げるとすっかな……」
「あ、俺も女と約束があったんだ! 急いで行かねぇと」
「バカ、お前さっきフラれたって言ってたじゃねぇか!」
 この店に客として来ていた3人は、不自然なほど急いで帰り支度を始めます。

セルダル:
「なんなんだよ。オレが悪いんならオレが出てくぜ?」

酒宴の男たち(GM):
「いやいや、お客さんはゆっくりしていってくれよな。それじゃ、ごちそうさん」そう言うと、男たちは酒場を出て行きました。

場末の酒場の主人(GM):
「あ、おい!」
 酒場の主人が発した声が、閉められた扉に遮られます。
「あいつら……」

セルダル:
「わりぃな、マスター。オレのせいで、楽しい時間を邪魔しちまってよ……。もしかして、オレ、なんかまずいことをしちまったか?」

場末の酒場の主人(GM):
 酒場の主人は数度瞬きすると、「さ、さあ……。オレにはいったいなんのことやら……」とはぐらかしました。しかし、酒場の主人の視線はたびたびセルダルの両手剣へと向けられ、そのたびに息が荒くなり、額にも冷や汗が浮かびだします。

セルダル:
「……ああ、コイツのことだったら気にしねぇでくれ。コイツは悪人にしか使わねぇからな」と言って、両手剣の柄を叩いてみせた。
「ところで、聞きてぇんだが、飾り帯が網目模様の奴に見覚えはねぇか?」

場末の酒場の主人(GM):
「さ、さあ……? そいつが、なんかしたのかい?」

セルダル:
「悪人だよ。よその街から来た2人組みの片割れで、もう一方は行商人っぽい格好をした奴なんだ。なんか心当たりでもあんなら教えて欲しいんだが」そー言って銀貨を10枚差し出した。

場末の酒場の主人(GM):
悪人という言葉に反応して、酒場の主人は再びセルダルの両手剣へと視線を走らせました。
「あ、ああ……。なるほど……」

セルダル:
「おいたが過ぎるんで、こーして追いかけてるってわけさ。なぁ、思い当たることはねぇか?」

場末の酒場の主人(GM):
「……いや、オレに心当たりはないが、そういう話だったらソイランテ婆さんのところに聞きに行ったほうがいいだろうな……。ソイランテ婆さんは、この貧民街で一番の情報通だ。ここから少し西に行って、娼館通りに出るひとつ前の黒猫通りを左手に曲がったところで占いの店をやってるよ」と、酒場の主人はソイランテ婆さんの占いの店の場所を教えてくれました。

セルダル:
「ありがとうよ、マスター」そー言って店をあとにした。そのままソイランテ婆さんの店に向かう。

 この場面で酒宴の男たちが挙動不審だったのは、セルダルのことを悪名高いスレイマンなのではないかと勘繰ったためです。貧民街の描写とあわせてそれらしい雰囲気は出せたものの、テンポを悪くするだけなのでここらへんのくだりはカットしたほうが良かったかもしれません(苦笑)。

GM:
 では、薄暗い貧民街の通りを、手に持ったランタンの明かりだけを頼りにセルダルが進んでいきます。酒場の主人から教えられたとおり入り組んだ道を進んでいくと、歓楽区にでる少し手前に小さな占いの店を見つけることができました。ただし、店の前掲げられた看板は魔導語で書いてあり、それを読めないセルダルにはそこが本当に占いの店なのかどうかの判断がつきません。

セルダル:
「……ここか?」そー呟いてから店の扉を開けた。

GM:
 セルダルが入り口の扉を開けると、ロウソクが数本たてられているだけの薄暗い小さな空間が見えます。奥には、黒いローブを羽織った人物が座っていました。開けられた扉の隙間から黒猫が店の中へと入り込み、黒いローブの人物の膝の上に登ります。

セルダル:
「ここはソイランテさんの店でいーのかい?」

ソイランテ婆さん(GM):
「そうだよ。わかったら、さっさと中にお入り。用がないなら、さっさと出て行きな」

セルダル:
「ああ。んじゃ、入らせてもらうぜ」そー言って、中に入った。

GM:
 店の中は2メートル四方ほどのかなり狭い空間で、ソイランテ婆さんはその空間の端に胡坐をかいて座っています。

セルダル:
 んじゃ、ソイランテ婆さんの目の前にオレも腰を下ろす。

ソイランテ婆さん(GM):
 すると、「10銀貨だよ」と言って、ソイランテ婆さんがセルダルに向けて手を出しました。骨と皮だけの腕があらわになります。

セルダル:
「んじゃ、頼む」
 10銀貨を渡した。

ソイランテ婆さん(GM):
「健康、仕事、恋愛……。いったい、なにを占ってほしいんだい?」

セルダル:
「実はオレ、よその街から流れてきた網目模様の飾り帯をつけてる奴を捜してんだよ。この近くにある酒場のマスターに、あんたに聞くのがいーって言われてここにきたんだ」

ソイランテ婆さん(GM):
「なんだい、占いのほうじゃないのかい。だったら、これは一旦返しとくよ」そう言うと、ソイランテ婆さんは手にとった10銀貨をあなたの前に戻しました。
「人を捜してるだなんて、おまえさん何者だい?」

セルダル:
「オレは自警団員でね。この街で盗みを働いた奴がこのあたりに逃げ込んだらしいんで、行方を探してんだよ」

ソイランテ婆さん(GM):
「つまり、お上の犬ってわけかい。まったく、いやんなっちゃうねぇ」

セルダル:
「そー言ってくれるなよ。わざわざ腕章外してたのに、こーして正直に話してんだからさ」

ソイランテ婆さん(GM):
(早口で)「ハンッ! まあ、その正直さに免じて話くらいは聞いてやるよ。で、網目模様の飾り帯をつけている奴の情報が知りたいって? そんなの、数えきれないくらい知ってるよ。そんな有象無象をひとりひとり挙げ連ねろって言うのかい?」
(より早口で)「まあ、あんたがそうしろって言うなら、こっちは構わないよ。だけどね、全員の話をし終えるころには、お天道様は数えきれないほど巡っちまって、そんときゃ、あたしはきっと骨になってるよ。なんだい? 骨を拾ってくれるっていうのかい? そしたら、拾った骨をどうするつもりさ? まさか、肌身離さず持ってるつもりじゃないだろうね? ハンッ! よしとくれ。あたしには、操をささげた亭主がいるんだよ。もうしばらく前におっちんじまったけど、若いころには、そりゃもう溜息がでるほどの美男子でねぇ――」

セルダル:
「お、おい、ちょっと……」

ソイランテ婆さん(GM):
(さらに早口で)「ハンッ! あの人とあたしは、家が隣同士で幼馴染だったんだよ。家って言っても、移動式のテントだったから、あたしは引っ越しのたびに、彼の家の隣にテントを張るよう父親にお願いしてたのさ。まったく、甘酸っぱい話だろ?」

セルダル:
「ああ。涙が出るくれぇ甘酸っぱい話だな」

ソイランテ婆さん(GM):
(もっと早口で)「それで、色を覚えるころになると周りの女どもがハエみたいに群がってくるもんだから、あたしはそいつらのことを千切っては投げ、千切っては投げしたもんさ。ついでに、あの人のことも抑え込んで、そのまま一本勝ちしてみせたけどねぇ。ヒッヒッヒッ。それから、2人で月日を重ねて幾余年。あの人がこの世を去ったのは、いまから32年……いや、33年? ひょっとしたら、34年だったかね?」

セルダル:
「もー、そのへんは、1年でも2年でもたいしてかわんねぇだろ」

ソイランテ婆さん(GM):
(いっそう早口で)「ハンッ! まあ、たしかに、数年の誤差くらいあたしくらいの歳になったら関係ないもんさ。とにかく、あたしはそれくらいのあいだ、ずーっとあの人一筋で過ごしてるんだよ。だから、ぽっと出のあんたに骨を拾うと言われたくらいで、心が揺らぐほどやわじゃないのさ。そりゃ、たしかに、あんたにはどことなくあの人の面影があるかもしれないけど。たとえば、その黒い髪と、黒い瞳と、肌色の肌と、目と耳が2つついてて、鼻と口はひとつしかついてないところとか――」

セルダル:
「いや、別にオレはアンタの心を揺らそうなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇが……」

ソイランテ婆さん(GM):
「ああ、嫌だ、嫌だ。気のないふりをするのはよしとくれ。でも、あんたがいくらイエスと言ってくれってさえずったとしても、あたしの答えはいつだって決まってるんだよ! ノーッ!」

セルダル:
「……そろそろ話しの続きをしてもいーか?」

ソイランテ婆さん(GM):
「ん……? で、なんの話だったかねぇ?」

セルダル:
「……オレが捜してる奴の話だよ」

ソイランテ婆さん(GM):
(ふたたび早口で)「ん? そんな話だったかい? まあ、あんたがそういうなら、そうなんだろうさ。ハンッ! だったら、あたしが一刻も早くあんたから解放されるように、そのよそ者についてできるだけ詳しい情報をよこしなさいな。まったく、いまの若いもんは時は金なりって言葉をしならいのかい? それとも、あたしが骨になるのを待ってるんじゃないだろうね?」

セルダル:
「わかった! わかった! オレが悪かったから、もー許してくれ!」

ソイランテ婆さん(GM):
 そのセルダルの発言に、ソイランテ婆さんは口をもぐもぐさせつつも、無限にあふれ出そうな言葉を押しとどめました。そして、じっと次なるセルダルの発言を待っています。

セルダル:
「で、オレの探している連中っていうのは、きっとよそ者で、この辺じゃ見かけない奴らだと思う。盗みを働いては街から街へと渡り歩く連中みてぇなんだ。2人組で行動してるよーでよ。片方が網目模様の飾り帯をつけてる奴で、もー片方が行商人っぽい感じの奴で――」と思いつく限りの情報を婆さんに伝えた。

GM:
 では、現在提示された情報は、「網目模様の飾り帯をつけている」「2人組みの人物」「片方は行商人風」。それと、まともな似顔絵がないので効果は半減しますが、「偽行商人の風貌」もソイランテ婆さんに伝えられました。なお、メタ的な説明をしてしまいますが、ソイランテ婆さんから請求される情報料は、提示された情報の量に従って変動します。

セルダル:
「あと、今日悪さをして、明日にはこの街を出よーとしてる。いまはこのあたりに潜んでると思う」

ソイランテ婆さん(GM):
「……そんだけかい?」

セルダル:
「うーん……。待ってくれよ、思い出すから……。あとは……。酒場で騒ぎに乗じて窃盗を働いたばかりだから、金は持ってるだろーな」

ソイランテ婆さん(GM):
「そ・ん・だ・け・か・い?」

セルダル:
「……いまんところ、そんだけだな……」

ソイランテ婆さん(GM):
「そうかい……」そう言ってソイランテ婆さんは目を閉じました。
「なるほどねぇ……。まあ、その連中の居場所だったら心当たりがないでもないよ」

セルダル:
「本当か!?」

ソイランテ婆さん(GM):
「ああ、もちろんさ。でもね、ただで教えるわけにはいかないよ。そいつらの居場所が知りたきゃ600銀貨よこしな」と言って、ソイランテ婆さんはセルダルに向けて手を出してきます。

セルダル:
「ろ……600銀貨!?」

ソイランテ婆さん(GM):
(まくし立てるような早口で)「ハンッ! そうだよ。まさか、あんた難聴じゃないだろうね? 耳のアカかっぽじってよく聞きな。600銀貨よこすんだよッ! まさか、ろくに情報料を払う気もなしに、あたしのところに来たっていうのかいッ!? こっちは、これでメシ食ってんだよッ! あんた、あたしにおまんま食いあげて飢え死にしろとでも言うつもりかい? まったく、血も涙もないってのはこのことだ。いつだって世の中は年寄に厳しいね。あたしら年寄が若いころに頑張ったおかげで、いまの世の中があるってことを、そのポンコツ頭はちゃーんと理解してるのかい? いいや、たとえ口でなんと言おうが、心の中では笑ってるんだろ? あたしにはわかるんだよッ! でもね、あんただってあと数十年すれば、あたしとおんなじ年寄側になっちまうのさ。そんときになって後悔したとしても、あたしは決して許しやしないよッ! なにせ、そんときゃ、あたしはとっくに骨になってるだろうからねッ!」

セルダル:
「そんなこと言われたって、オレの持ち金全部あわせても58銀貨しかねぇんだよ……」

ソイランテ婆さん(GM):
「ハンッ! 金がないなら、さっさと消えちまいなッ! いつまで、そこにいるつもりだいッ! まったく、金の切れ目が縁の切れ目って言葉を知らないのかねぇ……」

セルダル:
「頼むよ。足りねぇけど、持ち合わせはこれしかねぇんだ」

ソイランテ婆さん(GM):
「ビタ一文まける気はないよッ!」

セルダル:
「そこをなんとか! いま、捕まえねぇと、奴ら明日にはこの街を出ていっちまうんだ。足りねぇ分はあとで必ず払う。だから頼む、教えてくれねぇか?」そー言って、ソイランテ婆さんを見つめた。

ソイランテ婆さん(GM):
「ハンッ! いま対価が支払えないようなものを求めるな。卑しい奴め。去ね! 去ね!」

GM:
 どうにも、貧民街の人間には善意とかはないようです。まさに貧すれば鈍するという状態です。

セルダル:
「わかった……。無理を言っちまったな。すまねぇ」そう言って背を向けて店を出て行く。で、自警団の詰め所に戻ることにする。

 ここにきて、ギュリスからの報酬を受け取らなかったことによる弊害が発生してしまいます。世の中、金がすべてではないものの、持たざる者にはできないことが数多くあるのでした。なお、GMとしては、この場面でセルダルは遺産を担保にするのではないかと予想していました。




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