LOST ウェイトターン制TRPG


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宮国紀行 第9話(22)

GM:
 では、セルダルは24時ごろに自警団の詰め所へと戻ってきました。詰め所では、まだ多くの者が書類仕事にいそしんでいます。

クムル(GM):
「おう、戻ったか」と、戻ってきたセルダルのことをクムルが迎えました。

セルダル:
「団長……」

クムル(GM):
「どうした? ずいぶんとくたびれた様子だな」

セルダル:
「そー見えちまいましたか……」そー言いつつ、重い足取りで詰め所の中に入った。

クムル(GM):
「まあ、そのうち徹夜も慣れてくる。励め」

セルダル:
「たいした仕事もできてねぇのに、疲れたなんて言ってらんねぇよ」

クムル(GM):
 そう口にするセルダルへと目を向けていたクムルは、ふと思い出したように自分の机の中からなにやら取り出すと、それを手に持ってセルダルのところまでやってきます。
「先に別任務についてしまったから、お前には渡し損ねていたな。これは今日の分の日当だ」そう言って、クムルはセルダルの目の前に100枚の銀貨が入った小銭袋を置きました。

セルダル:
「あ、ありがとう……ございます」
 その小銭袋を見て、しばらく考え込んだ。
「あの……団長……」

クムル(GM):
「俺はハッキリせんのは好かん。言いたいことがあるなら、一度でハッキリと言えよ」

セルダル:
「はい! お願いがあります。日当を前借りできないでしょーか!」

クムル(GM):
「それはできない。自警団の給金は、都市運営費で賄われている。それを貸し借りに使うなど、もってのほかだ。だが、金が入用なんだな? なにに使う?」

セルダル:
「……いや、実はさ、いまオレが追っかけてる奴らのことで、なんとかそいつらの潜伏先を知ってるって占い師を見つけることはできたんだが、その情報提供料として600銀貨を要求されちまったんだよ……。で、持ちあわせがなくて戻ってきたってわけなんだ……」

クムル(GM):
「なるほど。ソイランテの婆さんか……」

セルダル:
「知ってんのか?」

クムル(GM):
「ああ。貧民街一の情報通だ。しかし、それではなおさら経費扱いにはならんな……」

セルダル:
「やっぱ、そーだよな……」そー言って、力なくうつむいた。

クムル(GM):
「たしかに自警団として貸せる金はないが、ここはオレが個人的に立て替えておこう」そう言うと、クムルは自分の財布の中から、銀貨600枚に相当する金貨24枚を取り出しました。

セルダル:
 うつむいていた顔を上げて団長のことを見た。
「団長……」

クムル(GM):
「いいから、早く持って行け」

セルダル:
「ありがとうございます!」

クムル(GM):
「その金は返さなくていい。だが、男としてそれくらい自分で払えるくらいの財力は備えておくべきだな」そう言って、クムルは自分の席に戻ります。そして、書類仕事に取り掛かろうとするのですが、その手を一旦止めると、「容疑者の居場所を突き止めたら、オレたちも出動する。そのときは知らせに来い」と続けました。

セルダル:
「わかりました!」
 団長に一礼してから詰め所を出た。貧民街に向かって走り出す。

 上司が部下のために、さらりとポケットマネーとして6万円を出したというこのシーン。クムルが薄給の地方公務員であることを考えると、結構重い金額だったはずです。ちなみに、刑事が情報屋に支払う費用、昔は自腹だったそうですが、いまは捜査費という名目で予算が組まれているそうです。まあ、自腹で処理していると、情報屋とのあいだに不健全な関係ができあがってしまうでしょうからね。


GM:
 セルダルが貧民街にあるソイランテ婆さんの占いの店に戻ったころには、上空にうっすらと雲が張りだしてきています。占いの店の中では、相変わらずソイランテ婆さんがあの格好のまま座っていました。

ソイランテ婆さん(GM):
「ハンッ! また来たのかい。ってことは、持ってきたんだろうね!?」と言って、ソイランテ婆さんはセルダルに向けて手を出しました。

セルダル:
「ああ。もちろんだ」
 24枚の金貨をソイランテ婆さんに渡した。

ソイランテ婆さん(GM):
 では、金貨を受け取ったソイランテ婆さん、それをすばやく数え始めました。そして、数え終えると、「まいどあり」と言って前歯の欠けた口を開けて笑います。
「じゃあ、これから、あんたが言ってた奴らの隠れ家について教えるから、よーく耳の穴をかっぽじってお聞きよ」

セルダル:
「おう」

ソイランテ婆さん(GM):
「ここから南に10分ほど歩いてくと、“月夜見通り”って呼ばれてる道にぶつかるからね。その通りを左手に折れて東に向ってずーっと歩いていきな。そうすると、街の外にでるよりもほんのちょっと手前に、数年前まで使われてた廃倉庫が見つかるはずだよ。で、そのあたりを、あんたが言ったような男たちが数日前からうろついてるって話さ」
 そこまで言い終えると、話は終わりだとばかりにソイランテ婆さんは閉じた口をもぐもぐさせます。

セルダル:
「ありがとよ。さすが貧民街一の情報通なだけはあるな」

ソイランテ婆さん(GM):
「ハンッ! また聞きたいことがあったら、金を持って来な。ここいらのことなら、なんだって教えてやるよ」

セルダル:
「わかった。そんときは頼むぜ」

ソイランテ婆さん(GM):
「でもね、絶対に金を忘れるんじゃないよ! 地獄じゃ金が必要なんだからね!」

セルダル:
「地獄に行く予定なのかよ……(苦笑)」
 そんじゃ、立ち上がってその場をあとにする。で、もう一回、自警団の詰め所に戻る。
「さてと……。連中の居場所もわかったし、報告に戻らねぇとな」


GM:
 では、場面を詰め所へと移します。

クムル(GM):
「戻ったか。早かったな。それで、容疑者の居場所はつきとめられたのか?」

セルダル:
「ああ。月夜見通りを東に進み、街の外にでる少し手前の数年前まで使われてた廃倉庫に、オレの追ってる奴らがいるらしい」

クムル(GM):
「ということは、まだ容疑者を見つけたわけじゃないのか……」そう漏らすと、クムルは渋い顔をしました。

 セルダルがソイランテ婆さんから入手した情報が嘘でなかったとしても、当然、現在の状況と異なる可能性もあるわけです。クムルとしては、容疑者の居場所と、できればその人数まで確認したうえでセルダルが戻ってくることを期待しており、その内容によって出動する人員を決定するつもりだったのですが、セルダルは情報屋への往復だけで戻ってきてしまいました。

セルダル:
 こっから廃倉庫まで移動するのに、時間はどれくらいかかるんだ?

GM:
 片道15分。往復30分ってところですかね。ちなみに、現在の時刻は午前1時です。

セルダル:
「オレはこれから現場に向かう。暗くて相手がよく確認できねぇ場合は、そのまま廃倉庫に踏み込む。1時間経ってもオレが戻らなかった場合には、さっき言った廃倉庫に人を出してくれ。んじゃ!」そー言って廃倉庫に向かって走り出した。

クムル(GM):
「まあ、待て、セルダル。いまからひとりで向うというのもなんだろう」そう言って、クムルは急いで出て行こうとしたセルダルのことを呼び止めると、詰め所をぐるりと見渡し、「これからあがる者はいるか?」と自警団員全員に声を掛けました。

ブダック(GM):
 すると、ブダックが、「あ、自分、そろそろ終わります」と手をあげます。

クムル(GM):
「ならば、俺と一緒にセルダルについていき、窃盗の容疑者を捕縛するぞ」そう言うと、クムルはクォータースタッフを手に出動の準備を整えました。

ブダック(GM):
 ブダックも同じく装備を整えます。

GM:
 そして、あらためていざ出動しようかというタイミングで、血まみれになったエニスが詰め所に転がり込んできました。

セルダル:
 おおお!?

エニス(GM):
「た、大変です、団長! 市街区で遺跡探索者たちが暴れています! 自分たちだけでは、とても鎮圧できませんッ!」

クムル(GM):
「な、なんだとッ!? クソッ……」
 クムルは難しい顔をして、エニスとセルダルの顔を交互に見ました。

 このあとの展開をある程度知っているGMとしては、セルダルよりも強いクムルを最終戦闘に参加させるわけにはいきません(苦笑)。そうせざるを得ない状況をつくり、クムルには退場してもらいます。

セルダル:
「市街区の暴動のほうが大ごとなんだろ? オレだったらひとりでも大丈夫だ。団長とブダック先輩は遺跡探索者たちの鎮圧に向かってくれ。もし、オレが帰ってこなかったときだけ、あとのことは頼んだぜ」

クムル(GM):
「いや、俺としてもせっかく600銀貨分出資したんだ。ここまできて容疑者を捕まえられませんでした――では困る。月夜見通り沿いの廃倉庫だったな? あそこは正面口と裏口があるから、ひとりでは容疑者を逃がす可能性が高い。2人で行くんだ。ブダック。お前はセルダルと共に廃倉庫へ向かえ」

ブダック(GM):
「わかりました」

セルダル:
「んじゃ、こっちを手早く片付けて、そっちの応援に行くからな!」

クムル(GM):
「ああ、わかった。じゃあ、セルダル。そっちは頼んだぞ!」そう言うと、クムルは急いで詰め所から出て行きました。

エニス(GM):
「頑張れよ!」
 エニスはセルダルに対してサムズアップしてみせると、クムルのあとを追って走っていきます。

セルダル:
「任しといてくれ!」
 オレもエニスにサムズアップを返した。
 さぁ、それじゃこっちも廃倉庫に向かうとすっか!


GM:
 そうして、セルダルがブダックを伴って貧民街に入ったのは、午前1時半のことです。あなたたちが月夜見通りを進んでいると、空に浮かぶ雲の切れ目からまん丸い月がチラリと顔を出しました。

ブダック(GM):
「たしか、廃倉庫って言ってたよな?」
 早足で歩きながら、ブダックがそう声を掛けてきます。

セルダル:
「ああ、ソイランテ婆さんはそー言ってたぜ。オレは初めて行くんだが、どんな場所なんだ?」

ブダック(GM):
「あのあたりは、貧民街の中でもあまり人が寄りつかないところだよ。すでに原形を保ってない建物も多くてな。たまに、ヤバイ取引が行われてたりするって話を聞いたことがある……」

セルダル:
「へー。悪党共のお決まりの場所ってワケか」

GM:
 そんな話をしているうちに、遠目に大きな倉庫が見えてきました。昔はこのあたり一帯にいくつもの建物が並んでいたのでしょうが、すでに周辺の建物は瓦解しており、廃倉庫だけが単独で建っています。

セルダル:
「あれか?」

ブダック(GM):
「ああ、そうだ」そう答えつつ、ブダックはあたりをキョロキョロと見まわします。

セルダル:
「なんだ? どーしたよ?」

ブダック(GM):
「周囲を警戒してんだよ。お前も気を抜くなよ」

セルダル:
「お、そーか」
 オレもブダックを倣って辺りを警戒しておく。

GM:
 では、《ハンター技能レベル+知力ボーナス+2D》で警戒判定をどうぞ。目標値はシークレットです。

セルダル:
(コロコロ)11だ。

GM:
 ならば、周囲に人の気配は感じられませんでした。
 廃倉庫はそこそこの大きさがある建物で、通りからは正面入り口が確認できます。入口は馬車がすれ違って出入りすることができるほど大きな木製の両引き戸のようです。

セルダル:
 声を潜めて、「……でっけぇ入り口だな。ここ以外に出入り口はあんのか?」ってブダックに確認した。

ブダック(GM):
「ああ。団長が裏口もあるって言ってただろ」

セルダル:
「んじゃ、正面と裏口で二手にわかれるか?」

ブダック(GM):
「その前に、倉庫の周りを確認しておかなくても大丈夫か?」

セルダル:
「お。そーいやそーゆーのも必要だな。さすが、ブダックさんだぜ」

ブダック(GM):
「突入する前に周囲を十分に確認しておくのは鉄則だ。覚えておけ!」

セルダル:
「わかったぜ!」

ブダック(GM):
「……って、団長が言ってた」

セルダル:
「……ああ。そんな気はしてた」

 こういう小芝居をちょこちょこやってるから、毎度毎度セッション時間が長くなるのですよね(苦笑)。通常のセッションであればごく短い時間で行われるこんなやり取りも、チャットセッションでは5分近く掛かってしまいます。

ブダック(GM):
「思わぬ敵が潜んでたり、意外な抜け道があったりするんだとさ」

セルダル:
「なるほど……。それじゃ、周囲を探っておこーぜ!」

ブダック(GM):
「そうだな。じゃあ、静かに行こうぜ」そう言って、ブダックは荒々しい音を立てて、足を踏み出します。本人は“忍び足”のつもりです。

セルダル:
「ブダックさん……。足音、もーちょっと気をつけたほーがいーぜ?」

ブダック(GM):
「ん? 十分静かだろ?」
 ブダックはそう言うものの、足運びがなっていません。

セルダル:
「いや、結構でかいって……。こーよ。こー」
 先に進まずに、その場で“忍び足”をやってみせる。

ブダック(GM):
「だから、こうだろ?」
 “忍び足”のつもり。(コロコロ)達成値は7です。

GM:
 セルダルの脳裏に、ムーンベア戦の記憶が思い起こされるかもしれません(笑)。そのまま廃倉庫に近づいて行きますか?

セルダル:
 いや、足を止めた。で、左手で顔を抑えた。
「……ちと、ここはオレに任せといてくんねぇか? オレが調べに行ってるあいだ、ブダックさんはここで正面の出入り口を見張っててくれ」

ブダック(GM):
「ん? そうか? だったら、俺はここで見張ってるとするが……。お前は新人なんだから、あまり無理はするなよ?」

セルダル:
「心配してくれてありがとよ、ブダックさん。だが、ここが頑張りどころだからよ」そー言ってニカッと笑った。
「んじゃ、行ってくるぜ」
 “忍び足”で裏口に回る。途中、窓があるならその位置も確認する。

GM:
 裏口と窓を確認するだけであれば、廃倉庫から10メートル以上距離をあけて周囲をまわれば大丈夫です。では、“忍び足”の判定をどうぞ。

セルダル:
(コロコロ)13。

GM:
(コロコロ……シークレット判定)そうすると、セルダルは廃倉庫の周囲を遠巻きにぐるりと1周し、側面の壁の高いところに明かり取りと換気を兼ねた小さな窓がいくつもつけられていることと、裏手に人が出入りするための扉があることを確認しました。換気用の窓は、とても人間が通り抜けられる大きさではありません。廃倉庫自体は、奥行きが40メートル弱、幅が25メートルほどの大きさでした。

セルダル:
 んじゃ、次は“忍び足”で裏手の扉に近付いてみる。(コロコロ)8。

GM:
(コロコロ……シークレット判定)では、セルダルは裏手の扉の真ん前まで来ました。

セルダル:
 そこで、周囲に人の気配がないか“索敵”する。(コロコロ)13。

GM:
 建物の周囲に人の姿は確認できませんでした。どうやら、このあたりにはあまり人が寄りつかないという話は本当のようです。

セルダル:
 よし。扉に耳をあてて“聞き耳”を行う。(コロコロ)8。

GM:
 廃倉庫の中からは、特になにも聞こえませんでした。
 ここで、GMからフォローしておきます。ソード・ワールドRPGでは、PCは自分で行った判定のダイス目を手ごたえとして感じ取ったうえで行動できることになっています。そして、“聞き耳”は初回が10秒の行動であり、再判定をしても1分で済むわけですが、再判定はしませんか?

セルダル:
 うーむ。ちなみに、“祝福の指輪”を使った場合、周りにバレる心配はあるのか?

GM:
 “祝福の指輪”を発動させるためには、本人に聞き取れる音量でコマンドワードを発声する必要があります。その声が周囲の者に気づかれるかどうかは状況によりますね。

セルダル:
 わかった。んじゃ、このまま“聞き耳”の再判定をしておく。(コロコロ)7。

GM:
 ちょっと、耳に垢が詰まっているような気がしました(苦笑)。

セルダル:
 そっとその場を離れて、ブダックさんのところに戻った。“忍び足”の達成値は、(コロコロ)10。

GM:
(コロコロ……シークレット判定)では、セルダルはブダックの待つ廃倉庫の正面へと戻ってきました。

ブダック(GM):
「おう、周りの様子はどうだった?」

セルダル:
「なーんもなし。裏口の扉のとこから中の様子がわかんねぇかと思って聞き耳してみたんだが、静かなもんだった」

ブダック(GM):
「まさか、ガセネタつかまされたんじゃないだろうな?」
 ブダックはいぶかしげな顔をしました。

セルダル:
「それはねぇと思うぜ。まぁ、なんとなくそー思うだけなんだけどな。……んで、このまま中に踏みこんじまおーかって思ってるんだが、ブダックさんはどー思う?」

ブダック(GM):
「ああ。俺はもとからそのつもりだ」そう言って、ブダックは両手杖を握りしめました。

セルダル:
「やっぱそーだよな! で、ブダックさんはどっちから行く? 正面か、裏口か」

ブダック(GM):
「このヤマはお前のヤマだからな。お前に選ばせてやるよ」

セルダル:
「なら、オレは裏口から行く。正面はブダックさんに任せたぜ。オレが先に踏み込んで合図を送るから、ブダックさんはそのあとで突入するってことでいーか?」

ブダック(GM):
「ああ、任せとけ!」
 ブダックは鼻の頭を親指の腹でこすると、自信満々に答えました。

セルダル:
「そんじゃ、作戦開始だ!」




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