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宮国紀行 第9話(24)

 セルダルたちが自警団の詰め所に戻ると、そこにはすでに遺跡探索者たちとのいざこざを治めて戻ってきていたクムルたちの姿がありました。そして、セルダルは廃倉庫であったことをクムルに報告したのでした。

クムル(GM):
「――そうか。ひとり逃がしてしまったのは残念だったが、よくやった」

セルダル:
「まったく、悔しいぜ……。だが、次はうまくやってみせる!」

クムル(GM):
「その意気だ。さあ、今日はもう疲れただろう。あとはこっちで処理しておくから、ほかにやることがなければ帰ってゆっくり休むといい」
 セルダルの働きに対して、クムルはそのような労いの言葉をかけてくれました。

セルダル:
「いや、でもまだ報告書を書く仕事が残ってるだろ? 一通り自分の手でやっておきてぇんだ」

クムル(GM):
「そうか。ならば構わないが、ほどほどにな。明日は夜勤だから、忘れるなよ」

セルダル:
「おう、任せといてくれ!」

GM:
 さて、詰め所に残るのであれば、そこでなにをするかを宣言してください。ちなみに、ブダックは先に帰宅しました。ほかの人たちはそれぞれの仕事を行っています。

セルダル:
 んじゃ、報告書を書き終えてそれを団長に提出するときに、「そういや、このあとスレイマンはどーなるんだ? 結局、恐喝犯じゃなかったわけだし……」って尋ねてみる。

クムル(GM):
 セルダルの質問に、クムルは自分の書類仕事の手を止めると、あごに手を当ててこう答えます。
「たしかに恐喝事件は虚言だったわけだが、スレイマンが遺産をあれだけ所持していたことはまぎれもない事実だ。遺産の扱いについては現場レベルで判断するわけにもいかんから、中央からの回答待ちになる。それまで、奴には牢屋の中で大人しくしていてもらうことになるだろう……」

セルダル:
「そーなのか……」

クムル(GM):
「結論が出る前に姿をくらまされては困るからな。だが、俺の知る限り、現行法では許可なく聖域に侵入することを禁じる以外、遺跡探索者を取り締まる決まりはない。それ以外の場合であれば、警告どまりだ」

セルダル:
 その言葉を聞いて、セルダルの表情が明るくなった。
「ってことは、押収した遺産がスレイマンに戻される可能性もあるってことか!?」

クムル(GM):
「まあ、その望みは薄いと思うが……。どちらにしても中央からの回答次第だ。ちまたで噂されているヤウズ王子に遺産没収の意志があるという話は、俺も耳にしたことがある。実際、すでにそういう命令が下っているかもしれん。そうなれば、例外は認められんだろう」

セルダル:
「なるほど……」
 それだけ聞いたら、今日のところは詰め所をあとにして、イルヤソール邸に帰ることにする。


GM:
 では、セルダルがイルヤソール邸に戻ってみると、すでに2時半を回っているにも関わらず、そこにはギュリスとニルフェルの姿がありました。

セルダル:
「うぉ。まだ起きてたのかよ」

ニルフェル(GM):
「お帰りなさい」

ギュリス(GM):
「結構早かったね」

セルダル:
「ああ。おかげさんで、盗品は無事に取り返すことができたぜ。2人ともありがとな!」

ニルフェル(GM):
「いえ。事件は解決できたんですね。それならよかったです」

セルダル:
 その言葉にニカッと笑って応えた。が、その笑顔がすぐに複雑な表情になる。

ニルフェル(GM):
 その変化に気づいたニルフェルは、心配そうな顔をしてセルダルの顔を覗き込みました。
「あまり浮いた顔ではないようですが、どうかしましたか?」

セルダル:
「あー、それがな。オレがヘタを打ったばかりに、肝心の親玉を逃がしちまって……」

ギュリス(GM):
「うわぁ……。情けなッ」

セルダル:
 そこで盛大にため息をついた。
「まあ、盗品は戻ってきたわけだし、それはしかたねぇって思うことにしたんだよ。でも、もーひとつのほーがなぁ……」

ニルフェル(GM):
「あの……。よかったら、セルダルさんが悩んでいることをわたしにも教えてください。相談に乗りますよ」

セルダル:
「すまねぇ……。んじゃ、知恵を貸してくれ。実はスレイマンのことなんだが、アイツは濡れ衣で捕まっただけなのに、大量に遺産を所持してたってだけで、遺産を取り上げられたあげく、本人はまだ牢屋にぶち込まれたままなんだ。オレがスレイマンをぶっ倒してさえなけりゃ、こんなことにならなかったはずなのに、申し訳ねぇったらありゃしなくてよ……」

ギュリス(GM):
「それは別にあなたのせいってわけでもないんじゃない? むしろ、スレイマンを好きにさせてたら、今回の件で死人がでてたかもよ? そしたら、スレイマンは完全な罪人だったわけだしさ」

セルダル:
「いや、スレイマンは奴なりにもめねぇよーにしてたんだと思う。そんな気がするんだよ」

 無関係な一般人に対してはセルダルの言うとおりです。しかし、スレイマンが殺害しかねない相手というのは盗人たちのことでした。もともとのGMの想定では、スレイマンが盗人たちを手にかける前に事件を解決するというのが今回のミッションとなるはずだったのです。ところが、予想に反して酒場でスレイマンを捕縛することに成功してしまったため、予定は大幅に狂ってしまいました(苦笑)。

ギュリス(GM):
「どのみち、スレイマンが遺産を大量に持ってたことには変わりないんだから、遅かれ早かれ、同じようなことにはなってたと思うけどね」

セルダル:
「でもよ、結果的にオレがそれを決定づけちまったわけじゃねぇか。だから、お詫びにっていったらおかしいかもしんねぇけど、オレはなんとかアイツに遺産を返してやりてぇんだ……」

ギュリス(GM):
「ふうん……。だったら、王都まで行ってヤウズ王子に直談判でもなんでもしてきたら?」

セルダル:
「直談判!?」

ギュリス(GM):
「それができないっていうなら、中央の判断が下るのを待つしかないでしょうが」

セルダル:
(しばらく沈黙してから)
「……そーだな」

ニルフェル(GM):
 そんなふたりのやり取りを見ていたニルフェルも、「ごめんなさい。相談に乗るだなんて言っておきながら、その件については、わたしもよい考えが浮かびません」と言って、しゅんとしています。

セルダル:
「いや、気にしねぇでくれ。オレがわりぃだけなんだしな」

ギュリス(GM):
「……まあ、あなたひとりに限らず、遺産所有者の扱いについては、自警団としても頭が痛いところでしょ」

セルダル:
「そーなのか?」

ギュリス(GM):
「遺産没収の話ってさ、このところ結構耳にするようになったけど、実際のところ正式なおふれがでてるのかどうかもわからないんだよね。ヤウズ王子が遺跡探索者を毛嫌いしてるって話は以前からよく知られていたけど……。だから、自警団……というより、地方総督や名主としては、明確な判断材料がないながらもヤウズ王子ににらまれるようなことはできる限り避けたいわけ」

セルダル:
「なるほど。そーゆーことか。んじゃ、やっぱ中央の沙汰を待つしかねーのかなぁ……」

ギュリス(GM):
 どうしてもスッキリできないといった感じのセルダルの様子を見たギュリスは、少し考える素振りをしてからこう口にしました。
「……まあ、それはそれとしてさ。セルダル。あなた、明日の昼間は暇?」

セルダル:
「ん? まあ、仕事は夜になってからの予定だから、昼なら空いてるが……」

ギュリス(GM):
「だったら、ちょっと調べごとをお願いしたいんだけど」

セルダル:
「オレにできるよーなことなら任せてくれ」

ギュリス(GM):
「よし。それじゃ、スレイマンがこの街に来てからなにをしていたのか、その足取りを調べてあたしに報告しなさい」

セルダル:
「お、おう……」

ギュリス(GM):
 それだけ言うと、ギュリスはニルフェルに「さ、それじゃ休もう」と声を掛けて自分たちの部屋のほうへと歩いて行こうとします。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルはセルダルに「では、おやすみなさい」とあいさつすると、ギュリスに引っ張られるようにその場を去っていきました。

セルダル:
「おやすみ、2人とも」
(しばらくしてから)
「……あれ? ひょっとして、オレが帰るのを待ってた……とか? ハハ、んなわけねぇか……」そー言って頭をかいてから部屋に戻った。

GM:
 ニルフェルたちとの会話を終えてセルダルが部屋に戻ってみると、さすがにギズリは熟睡していました。そして、そのまま寝台に入ったセルダルは、泥のように眠り、翌朝を迎えることとなります。


GM:
 翌日、9時ごろにセルダルが目を覚ますと、すでにギズリの姿は部屋からなくなっていました。ただ、テーブルの上に紙切れが1枚置いてあり、そこにはギズリの筆跡で「よく寝てるようだから、起こさずに出発する。あまり無茶するなよ。アゼルたちによろしく」と書かれていました。

セルダル:
 うおッ。
「なんだよギズリさん……。そりゃねぇぜ……」メモ書きを読んでそー呟くと、急いで部屋の外に出た。イルヤソールの人には挨拶していっただろーから、何時くらいにどこの商隊で出発するとかの情報が聞けるといーんだけどな。

GM:
 では、部屋から出てきたセルダルは、ボレンの姿をみつけました。

ボレン(GM):
「あら、ようやく目が覚めたようね。おはようございます、セルダルさん」

セルダル:
「おはようございます、ボレン夫人。……ところで、ギズリさんは?」

ボレン(GM):
「彼だったらテジーさんと一緒に、朝の4時ごろにはここをたちましたよ」

セルダル:
「ゲッ、そんなに早くに出たのか……」
 さすがにいまから追いかけても遅いよな……。背を丸めて、とぼとぼと外にでた。

GM:
 屋敷の外に出てみると、上空を厚い雲が覆っていました。今日の天気はどんよりとした曇りです。

セルダル:
「さてと……。過ぎちまったことはしかたねぇ。気を取り直して、やることをやっちまおう。たしか、ギュリスお嬢さんが調べろって言ってたのは、スレイマンがこの街でなにをしていたのか……ってことだったな。まさか、本人に聞いても答えてくれねぇだろーし、とりあえずアイツが立ち寄ってそーなところに行って聞き込みしてみるとすっか」
 ――ってわけで、まず武器屋に向かって、そこでスレイマンのことを聞いてみる。

GM:
 了解です。スレイマンは結構な有名人であり、そのいかにもな外見も手伝って悪目立ちするのか、街の人に話を聞いてみると結構多くの目撃情報が集まりました。せっかくなので、武器屋の主人の話だけ実際にやってみましょう。

武器屋の主人(GM):
「ああ、スレイマンね。たしかにうちにも来たよ。でも、買い物はしていかなかったな……。え? だったら、なにをしに来てたんだって? それが、どうやら人を探してたみたいなんだ。『ビルジ』と『ネルミン』と『ジェレン』って人を知らないかって聞かれたよ。ビルジは知った名前だったから、住んでるところを教えておいたけど、それがどうかしたのかい?」

セルダル:
「そのビルジってゆーのはどんな人なんだ?」

武器屋の主人(GM):
「俺より一回り年上の爺さんさ。まあ、本人の前で爺さんだなんて言ったら怒られちまうけどさ」

セルダル:
「その人の住んでる場所を教えてもらえねぇか? 聞かなきゃならねぇことがあるんだ」

武器屋の主人(GM):
「ああ、構わないよ」そう言って、武器屋の主人はビルジ爺さんの家の場所を教えてくれました。

セルダル:
 武器屋の主人に礼を言ってその場をあとにしたら、教えてもらった家を訪ねてみる。

GM:
 では、街の北東の端にある小さな家に、そのビルジという人物は暮らしていました。セルダルが彼を訪ねて行くと、ビルジ爺さんが家からでてきます。

セルダル:
「おはよう。あんたが、ビルジさんか?」

ビルジ(GM):
「ああ、そうだが、なんか用かね?」
 ビルジ爺さんは、その風貌から60歳くらいに見えます。

セルダル:
 腕章を見せて、「オレは自警団員のセルダルだ」と名乗った。
「実は、スレイマンのことで聞きてぇことがあるんだ」

ビルジ(GM):
「スレイマン? いったい誰だい、そいつは?」
 どうやら、ビルジはスレイマンのことを知らないようでした。その様子からはとても嘘をついているようにはみえません。

セルダル:
「オレはそのスレイマンって男の足取りについて追ってるんだが、どーやらスレイマンはこの街で、アンタと『ネルミン』と『ジェレン』って人のことを捜してたみてぇなんだ」

ビルジ(GM):
「ネルミンとジェレンか……。まあ、その2人のことなら知っとるが……」

セルダル:
「だったら、その2人のことを教えてくれねぇか?」

ビルジ(GM):
「それは構わんが、歩きながらでいいかい? そろそろ農場にいかねばならん時間なんだ」

セルダル:
「ああ。仕事の邪魔をしちまって、すまねぇな」

ビルジ(GM):
「働かなくちゃ、食って行かれないからなぁ」そう言うと、ビルジは畑仕事の道具をもって農場へと向かい始めました。その途中、ビルジはセルダルに次のようなことを教えてくれます。ネルミンとジェレンは、それぞれビルジと同じ年代の女性であること。そして、自分を含めたその3人には、それぞれの息子・娘が遺跡探索者となり、家を飛び出していってしまったという共通点があるということ。
「――といったところだが、それでそのスレイマンというのは何者なんだ? まさか、あの悪タレたちの仕事仲間とかそういった輩なのか? だったら、ワシには関係のない話だ。アイツとはとうの昔に縁を切っているんだからな」

セルダル:
「縁を切った? 実の息子とか?」

ビルジ(GM):
「ああ、そうさ。ハルヴァ様の聖域を荒らして一儲けしようなんて奴を息子に持った覚えはないからな。おまけに、新しく王様になるお人は、遺跡探索を禁じるおふれをだしてるそうじゃないか。ついこのあいだも、遺跡探索者は財産を没収されるって話を耳にしたぞ」

セルダル:
「いや、それはまだ噂話にすぎねぇんだけどな……」

ビルジ(GM):
「そうなのか? まあ、どちらにせよ、とにかく遺跡探索なんてしてる輩は、どいつもこいつもろくでもない奴らばかりだよ」

セルダル:
「なるほどね……。いろいろと話を聞かせてくれてサンキューな。あと、最後にネルミンさんとジェレンさんの家の場所についても教えてもらえねぇか? その2人にも話を聞いておきてぇんだ」

ビルジ(GM):
「ああ、それだったらな――」と言って、ビルジは2人の家の場所を教えてくれました。

セルダル:
 んじゃ、ほかの2人にも話を聞きに行くんだが、傾向としてはビルジさんと同じよーな反応だと思っていーのか?

GM:
 そうですね。この時間帯だと、ネルミンは家を留守にしているため会えませんでしたが、ジェレンのほうはビルジと同じような反応でした。

セルダル:
 了解。それじゃ、イルヤソール邸に戻って、このことをギュリスに報告する。


GM:
 セルダルが調査報告のためにギュリスのもとへと戻ってきたのは、昼を少し過ぎたころあいとなります。ニルフェルもその場にいて、ちょうど2人は昼食をとっていました。

ギュリス(GM):
「……で、首尾はどうだったの?」

セルダル:
「ああ、そのことなんだが、どーも、スレイマンはこの街で3人の人物を捜してるみてぇだった。そのうち2人とは直接会うことができたんだが、どちらのところにもまだスレイマンは訪ねてきてなかったそーだ。きっと、その前に酒場の一件があったんだな。んで、会えた2人からちょいと気になる話が聞けたんだが、どうもその3人には自分らの子供たちが遺跡探索者になったって共通点があるみてぇなんだ。それが原因で、親子の縁は切ったって話してたよ……。このことは、スレイマンにも伝えたほーがいーんだろーか……?」

ギュリス(GM):
「セルダル。その話を聞いたうえで、あなたはスレイマンがなにをしにこの街に来たんだと思ってるの?」

セルダル:
「……そーだな。たぶん、スレイマンは遺跡探索仲間の形見をその親に届けに来たんじゃねぇかな?」

ギュリス(GM):
「ふむ。じゃあ、確認しに行ってみようか?」

セルダル:
「確認しにって……。いったいどこへ?」

ギュリス(GM):
「そんなのひとつしかないじゃない。スレイマン本人のところに確認しに行くんだよ」




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