LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 06.酒場

 のんびりした陽気なBGM。

GM:季節は夏が終わり、秋の初め。これから寒さを深めていこうという時期です。場所はレイフィールド王国のメインストリートから少し入ったところにある木造の古びた酒場。時刻はお昼が過ぎたころでお店の中は閑散としています。ゼオルとクラウスは、ウィルから今日のお昼過ぎにこの酒場に集まるように呼び出しを受けています。さて、三人の中で最初に酒場に顔を出しているのは誰でしょうか? お店の入り口にはウエスタン風の扉があるものと思ってください。

プレイヤーA(クラウス):クラウスは最初に来てるかな。すでに店に入ってます。

GM:了解です。いまお店は主人とあなたのふたりだけです。主人は痩せ型の中年男で黒を基調とした服を着ています。まるで、夜の酒場のマスターといった見た目で、手に持ったカップについた水滴を布で拭きとっています。その主人の居るカウンターから離れた、店の奥まったところにある円卓にクラウスが腰掛けています。

クラウス:アルコール度数の低そうな果実酒だけがおかれた席で、白い肌に金髪の青年が魔術書に目を通しています。ブカブカのローブを羽織っていて、彼の席の近くの壁にはスタッフが立てかけられています。

プレイヤーC(ゼオル):ゼオルは集合予定時刻のちょっと前に酒場に入ってきます。この土地の人間ではないのか、褐色の肌にくすんだ砂色の髪の長身の男です。(奥の席にいるクラウスを見つけて)「クラウス、やっぱりもう来てたのか」

クラウス:ゼオルが来たことに気づくと顔を上げます。クラウスは若い顔に似合わない片眼鏡をつけているんですが、それを外すと「ああ、ゼオル。あなたも呼ばれたんですか?」と返します。

ゼオル:「ああ、いつものことだ」。そういっていつものようにクラウスの隣の席に腰を下ろしました。

クラウス:GM、この世界に時計とかはあるんですか? 懐中時計とか。

GM:とりあえず持ち運びできる機械仕掛けの時計はないものとします。ただ、お城の鐘が定期的に鳴らされるので、それでだいたいの時間を知ることはできます。そろそろ集合予定の時間のはずです。店の主人がゼオルに注文をとって、それを持ってきました。

クラウス:「集合の時間にはまだ早いですかね?」

ゼオル:「いや、もう時間だろ」

GM:あなたたちが時間を気にしていると店の入り口からキーッと扉が開く音が聞こえて、フードを深くまでかぶった男が入ってきました。彼は店に入るとフードを下ろし、外套についた水滴を払い始めます。「畜生、降ってきやがった」と愚痴をこぼした男は見たところ三十代半ばといったところですね。頬に切り傷があっていかにも傭兵といった感じです。もしかすると彼はあなたたちの知り合いかもしれません。知力ボーナス+2Dで判定してください。

クラウス:(ころころ)8。

ゼオル:(ころころ)6ゾロだ。知ってました。

GM:では、男はゼオルのほうを見て、「おう、ゼオル!」と声をかけてきます。彼はトガリという名の傭兵です。先日、良い仕事が見つかったから別の街に移動すると言っていたはずなんですが、なぜかここに居ますね。

ゼオル:「あれ、トガリさん? 仕事はどうしたんです?」

GM(トガリ):「これから向かおうとしてたところだったんだが、外の雲行きがなぁ……。西の空は真っ黒さ。こりゃぁ、久々に大雨がくるぞ」

ゼオル:「それじゃ、仕事は中止ですか」

GM(トガリ):「まぁ、これじゃ今回はあきらめるしかねぇな。良い金になる仕事にようやくありつけたと思ってたのによ」

GM:そんな話を聞いていた店の主人が「お生憎様。まだお前さんが使ってた部屋が空いてるぞ。どうする?」とトガリに声をかけてきます。

GM(トガリ):「くそったれ。とりあえず一晩だけな」。そう言ってトガリは店の主人に銀貨を数枚渡すと、あなたたちのテーブルのそばの席に腰を下ろします。「で、お前らここで何してんだ? お前らも雨宿りか?」

ゼオル:(誰にともなく)「ほんと、なんでこんなところにいるのかねぇ……」

クラウス:「まぁ、いつもどおりの待ち合わせってやつなんですが」

GM:「いつもどおりの?」と言ってトガリは何のことだろうと小首を傾げます。そうこうしていると店の入り口の扉が開いて、数人の客が入ってきます。みんな、雨だ雨だと言っていて、どうやら雨宿りのために店に駆け込んできたようですね。そんな頃合に……(プレイヤーBに目で促す)。

プレイヤーB(ウィル):はい、それくらいのころに、バンッと扉を開けてウィルが店に入ってきます。走ってきたのか息を切らせています。白い肌に黒い髪の男です。身だしなみにあまり関心がないのか、バッサリと切られた髪が雨に濡れて肌に張り付いている状態で、「いやぁ、ひどい目にあった。おっ! ふたりとも、もう来てたのか!」と声を発します。ウィルは若干華奢な身体つきをしているようにも見えるんですが、その身体つきに似つかわしくない両手剣を背負っています。その彼の腕には濡れた猫が抱えられていて、「いやぁ、こいつが鳴いてたもんだから、つい遅くなっちまった」と言います。

ゼオル:(非難の目を向けながら)「ああ、そうか……」

ウィル:「マスター、いつもの! あとミルクを頼むよ」

GM:貴族出身で羽振りの良いウィルはお店にとって上客なので主人は「はいよっ!」とニコニコしながら対応してくれます。ウィルの注文したお酒とミルクだけでなく、サービスでおつまみも持ってきてくれました。

ゼオル:俺の安酒とは対応が違うな……。

ウィル:(笑)。猫にミルクを飲ませます。

クラウス:「また飼い猫を増やすつもりですか?」

ウィル:「だって放っておけないだろ? こんな雨の日にさぁ――」

ゼオル:「わかった。わかった。わかった。あー、で、なんだ。今日はお前の新しいペットの紹介か?」

ウィル:「まさか、なにいってるんだよ(笑)」(少し間をおいてから、身を乗り出して)「大事な話があるのさ」

クラウス:「その話というのは?」

ウィル:「実は今夜、カーライル女男爵の屋敷で穏健派の会合があるんだ」

ゼオル:「今夜?」

ウィル:「ああ。この間、俺も行ってきたんだが、今度はぜひお前たちも誘いたいと思ってさ」

ゼオル:「お前なぁ」(呆れ顔で)「今夜って急すぎるだろ?」

ウィル:「え? 何か用事でもあったのか? そんなのキャンセルしちゃえよ。穏健派の有力者たちが一堂に会するんだぞ?」

クラウス:「あの……すでに一度参加してきたんですか?」

ウィル:「ああ、この間参加してきた」

クラウス:「私たちに何の相談もなく?」

ウィル:「まぁ……だから今日、こうやって相談して会合に連れて行こうと思ってるんじゃないか。なんていったって騎士養成学校ではナンバーワンの腕前を誇ったゼオルに、この国一番の黒魔法の使い手である大魔法使いチカの一番弟子クラウス。このふたりを会合に連れて行かないとあっては申し訳がたたないだろ? 大丈夫、きっと穏健派の有力者の人たちも――」

クラウス:(言葉をさえぎって)「ウィル。あなたのような貴族階級の方が穏健派の会合に参加するということがどういう意味を持っているのかわかっているのですか?」

ウィル:「そんな身分なんて堅苦しいこと言うなよ」

GM:補足しておきますが、いくら貴族階級の出であるとはいっても若輩の次男坊に過ぎないウィルは、爵位持ちの有力者が集まる会合では他の参加者から冷ややかな視線を向けられていました。もしかすると今回ウィルがふたりを会合に誘ったのは心細かったからかもしれませんね(笑)。

ウィル:ナンバーワンの剣士とナンバーツーの魔法使いを連れて行けば、今度こそ舐められないぞ! っというのはおくびにも出さずに(笑)。「身分になんてこだわっていちゃいけないよ。なんていったって、今後のレイフィールド王国の行く末を考える会なんだからな」

クラウス:GMに質問なんですが、ウィルの父親は他界してます?

GM:それはウィルが自由に設定していいですよ。

ウィル:それじゃ、父親は存命で。できればクリーフ家はレイフィールド王国が周辺諸国を併合していったなかで吸収された小国の王に仕えてきた貴族ということにしてください。父親は、侵略してきたレイフィールド王国に対して自分の仕えていた国王が降伏したのでそれには従いましたが、自分の領地内での略奪行為は絶対に許さないといった態度を示して領民を守りました。そのため、領民からはとても好かれています。また父親は身分に関係なく、個人の知識や技術に対して相応の敬意を払う人物でもあり、そんな父親をみてウィルは騎士とは斯くあるべきだと学びました。その影響でウィルも出自に関わらず優れた剣の技術を持っている人のことは尊敬するし、教会からは禁忌とされている黒魔術も優れた技術としてみています。

GM:なるほど。そのうえで、ウィルは父親の統治している地方から「俺は立派な騎士になる!」と言って王都まで上京してきたにも関わらず、「イメージしてた騎士と違うから辞めるぜ!」と騎士養成学校を中退して、そのまま実家に帰らず王都で放蕩生活を続けているわけですね(笑)。

一同:(笑)。

GM:まあ、次男坊なのである程度許されているところがあるんでしょうかね。

ゼオル:さすが次男坊。フリーダムだなぁ(笑)。

GM:話を戻しますが、そんな感じでゼオルとクラウスはウィルから穏健派の会合への参加を誘われました。

ゼオル&クラウス:はい。

ゼオル:「ところで、ウィル。お前の情熱はわかったが、俺たちの行く意味は何かあるのか?」

ウィル:「なにを言ってるんだ。今後の王国の行く末を左右する会合なんだぞ? ふたりとも聞きたくないのか?」

ゼオル:「いや、まぁ。うーん」。なんだか頭が痛くなってきた。

GM:会合では話を聞くどころか、発言できるかもしれませんよ? 暗黙の了解として有力者しか来ないというだけで、主催者であるカーライル女男爵があなたたちのような若手の参加を禁止しているわけではありません。まあ、まともに話を聞いてもらえるかどうかは別ですが。

クラウス:暗黙の了解で集まった有力者たちの中に少数の分からず屋が混じっているわけですね(苦笑)。

ウィル:分からず屋って俺のことか? 空気読めない枠(笑)。

クラウス:われわれが会合にでたら明らかに空気読めない枠ですからね(笑)。「まあ、ウィルが行きたくて私にもついて来いと言うなら行かなくはないですが……行っても役に立てないかも……」

ウィル:「謙遜するなよ。クラウスが役にたたないわけないだろ?」

ゼオル:超ポジティブだな(笑)。

GM:(そろそろ頃合だと判断して)。ゼオル、あなたは今日の夕方から仕事が入っていることを思い出します。仕事の終わりは夜なので会合の開始時刻に間に合うかは微妙なところですね。

ゼオル:「ウィル、会合は何時くらいからだ?」

GM:今夜、九つの鐘が鳴らされる頃としましょう。

ゼオル:それくらいの時間だと……。「これから用があるから少し遅れるかもしれない」

ウィル:「なんだよ、国の行く末を左右する会合より大事な用があるのか?」

ゼオル:「必ず後から行くから、それでいいだろ?」

ウィル:ゼオルをじっと見つめてから、「ゼオルの約束には千金の重みがあるからな。わかった、俺とクラウスで先に行ってるよ。いいよな、クラウス?」

クラウス:「私はあなたが参加するというなら、それに付き合うのはやぶさかではありません」

ゼオル:「それじゃ、俺はそろそろ時間だから。とりあえずここはこれで失礼させてもらう。また後でな」

GM:ゼオルが席を立ったところで近くのテーブルに座っていたトガリが近づいてきて、「話が終わったなら俺とカードでもしねぇか?」と声をかけてきました。

クラウス:「ご一緒したいのはやまやまですが……」(ウィルのほうを見る)

ウィル:会合まではあとどれくらい時間があります?

GM:あと六時間以上ありますね。

ウィル:それじゃ、「おっ、いいね! 外は雨だし、こんな日は家の中で。な、クラウス?」

クラウス:(ため息をついて)「やりすぎないでくださいよ?」

GM:トガリは小声で「仕事がなくなっちまった分、稼がねぇとな」と言って、慣れた手つきでカードを切り始めました。

クラウス:うわっ、終わった(笑)。

GM:一方ゼオルがお店の外にでると、トガリが話していたとおり雨足がとても強くなってきています。空を見上げると真っ黒で、まるで夜のようです。

ゼオル:「今日はろくなことが起こりそうにないな……」

 BGMが雨音となにやら不穏な曲に変わる。

GM:まるでゼオルの言葉が現実となるのを暗示するかのように、建国以来の急激な成長により築年数の新しい大きな建物が並ぶおごそかなレイフィールド城下町は、一段と厚い雲の落す影に覆われていくのでした……。ということで、シナリオ「聖域の守護者」のセッションを開始します。よろしくお願いします。

一同:よろしくお願いします。




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