LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 09.記憶

 BGMが清々しい曲に変わる。

GM:時間と場所が八年ほど前の聖域へと変わります。季節は秋深い頃ですね。聖域の外れに女の子の姿があります。(プレイヤーDを見て)長らくお待たせしました。

プレイヤーD:(コクリとうなずく)。

GM:今あなたが居るのは、あと少し北上すれば聖域をでて人間たちの住む土地に抜けられるような場所です。しかし、周りの大人たちから「聖域の外に住む人間という種族は、かつて女神クローディア様の恩恵を受けることで平和な生活を営めていたというのに、クローディア様が姿を消すと信仰心を失い、あろうことかクローディア様の聖殿を荒らし、その遺産を奪おうとした恐ろしくも卑しい生き物である」と教えられ、聖域の外にでることを堅く禁じられています。あなたがひとりで佇んでいると、遠くから呼び声が聞こえます。「アンリー! 近くに居るのはわかってるんだ、出て来いアンリ!」。二十代の男性が地面に残された足跡や人の通った形跡を頼りに、徐々に少女の近くに歩いてきます。クローネの民のアルトという男です。「今日の勉強はまだ終わってないぞ!」

プレイヤーD(アンリ):耳を塞いだ。黒に近い深緑の髪を三つ編みに結って冠のように頭に巻いている女の子が、そーっと後ろを振り返る。

GM:レンジャー技能を持たないあなたに対して、優れたレンジャーであるアルトは迷うことなくあなたの方に近づいてきます。あなたがアルトの来る方とは反対の方を見ると、そこにトトロに出てきたような植物の作った小さな穴道があります。

アンリ:しめたと思っていいんですね?

GM:いいです。ただし、その狭い道はイバラによって作られているので、ところどころに棘があります。棘が刺さったらちょっと痛そうです。

アンリ:それには気にも留めずに、膝と手を地面につけて中に入りました。(周りを見ながら)ここに入ったことが気づかれなければ良いな……。

GM:その穴は奥深くまで続いているようですね。あなたが穴の中に入るときの枝を揺らす音に気がついたアルトが「そこか!」といって小走りで近づいてきました。しかし、アルトの身体の大きさではイバラの穴の中には入れないようです。「こらっ! 出て来いっ!」

アンリ:その怒鳴り声に反応して、一瞬のためらいもなく奥へ奥へと進んでいきます。

GM:イバラの穴をしばらく進むと周りが開けてきます。穴から抜け出たところで、レンジャー技能レベル+知力ボーナス+2Dで判定してください。あなたはレンジャー技能がないので知力ボーナスのみの判定ですね。

アンリ:はい。(ころころ)6。

GM:あなたがどこに出たんだろうと周りを確認していると……先に気づかれてしまいましたね。「ちょっとそこの人!」と女性の声が聞こえました。

アンリ:びっくりして背筋を反り返らせ、声のした方を振り向きます。

GM:振り向いた先には、明らかにクローネの衣服とは異なる色鮮やかに染め上げられた華やかなドレスに身を包んだ二十代の女性が立っていました。

アンリ:目をまん丸にして、口をポカンと開けました。

GM:ちなみに女性の使っている言葉は女神クローディアがこの地の人間に教えた共通語で、クローネの民も会話には同じ言葉を使っています。

アンリ:女性のほうをじっと見ています。

GM(ドレスを着た女性):「あの……道に迷っちゃって。助けて欲しいのだけど!」

アンリ:「道?」

GM:ドレスを着た女性はアンリの方に歩み寄ってこようとします。あなたがおびえた様子でなければ、彼女はそのまま近づいてきます。

アンリ:「道って?」

GM(ドレスを着た女性):「この森の外に出たいんだけど、どこに向かったらいいのかわからなくて……。乗っていた馬にも逃げられちゃうし、ほんとついてないわ」

アンリ:あたりをキョロキョロと見渡しました。「あなた誰?」

GM(ドレスを着た女性):「わたし?」(自分を指差して)「わたしはメイ」

アンリ:「あたしはアンリ」(申し訳なさそうに)「ごめんなさい、ここどこですか?」

GM(メイ):「えっ……?」(意外そうな表情をして)「ここはクローディア様の聖域の中なんじゃないかと思うんだけど……まだ外なのかしら?」そういって小首を傾げました。

アンリ:「まだここは聖域の中なのね? よかった!」。そう言って、ホッと胸をなでおろしました。

GM(メイ):(懐疑的な表情を浮かべて)「あのぉー、もしかして……あなたも迷子?」

アンリ:(背後にあるイバラの穴を指差して)「あそこを通ってきたの」

GM:メイはイバラの穴を覗き込みました。

アンリ:「あたし、聖域から出てはいけないと言われていたから。ひょっとして間違って出ちゃったかと思って……。よかった」

GM(メイ):「ここが聖域の中なのか外なのか、わたしにはわからないけど……」

アンリ:「外なの!?」

GM(メイ):「中かも」

シーン外の一同:(ふたりのやり取りにクスクス笑う)。

アンリ:途方にくれます。

GM(メイ):「道に迷ってるのはお互い様らしいわね(笑)」

アンリ:「ごめんなさい……」

GM(メイ):「でも、一人で居るより、誰かが一緒に居てくれたほうが心強いわ。それじゃ、どっちの方角が聖域の中で、どっちが外なのか確認して、お互いの帰るべきところに帰らなくちゃね」

アンリ:「それなら!」後ろを振り返って小さなイバラの穴を指差して「あたしはここから出て来たから……」今度は反対側を指差して「向こう側が外のはず!」

GM(メイ):「確かにそうかもね」。そう言ってメイはアンリの出てきた穴を覗き込み、周りに生えた棘を指で触りました。そしてアンリの顔をチラリと見ると、一歩よってきて神への祈りの言葉を囁きました。“キュア・ウーンズ”の魔法でアンリの身体についたイバラの棘の傷を癒します。「こんな棘だらけのところを通ったら、せっかくの可愛い顔が台無しよ」と優しげな声を発しました。

アンリ:キョトンとした顔をします。「メイ、あなたはなぜ神様の力を使えるの? 外の人は神様への信仰を捨てたんじゃないの?」

GM(メイ):「確かに数年前にクローディア様の遺産を得ようとしてこの聖域にわたしの国の人が攻め入ったこともあったわ。けれど、それは決して神様への信仰心を失ったからというわけではないのよ。現にわたしはクローディア様のことを信奉しているし……。いつか再びわたしたちの前にクローディア様がお戻りになられることを日々お待ちしているの」

アンリ:「知らなかった……」

GM(メイ):「ただ――」と言って彼女は天を仰ぎます。「今日の女神様はわたくしたちのことを見てくださってはいないようね」

アンリ:言葉の意味がはじめは判らなかったんですが、少ししてその意味が判ると苦笑します。「ほんとう。ほんとうね(笑)。でも、あたしは――」(イバラの穴を見て)「また引っかき傷を作っちゃうけど。それと、口うるさいアルトが待ち構えているだろうけど。とりあえず、帰るのは大丈夫」(しばらく考えた後に)「メイはどっちから来たの? 向こうから?」(イバラの穴の反対方向を指差す)

GM(メイ):「んー。どっちからだったかしら。たぶん……こっちかな?」(ため息をついて)「乗っていた馬が暴走しちゃって、こっちに飛び込んで来ちゃったんだけど。馬をなだめて湧き水を飲ませていたら、今度は逃げられちゃって……」

アンリ:「かわいそうなメイ」と言ってメイの持ち物を確認します。

GM:何も持っていないです。身にまとっているドレス……あと、彼女は長い黒髪をアップにしてまとめているんですが、その髪留めとして金色の髪飾りをつけているだけです。

アンリ:(ハッと気がついて)「ちょっとまって!」。自分の腰に下げている小袋を開けて、中に入っている自分用のおやつのクッキーを取り出しました。紙に包まれたそれを両手に持って、メイにそっと差し出しました。「これ!」

GM(メイ):「いいの?」

アンリ:「あたしは帰れば食べ物あるし。でも、メイは馬も逃げちゃって何もないんでしょ? これっぽっちじゃメイのお腹はいっぱいにはならないかもしれないけど……どうぞ」

GM(メイ):「ありがとう。助かったわ。ちょうどね、お腹減ってたの。殿方がいる前ではお腹いっぱいご飯を食べられないでしょう?(苦笑)」

アンリ:意味が判らずきょとんとして首をかしげた。

GM(メイ):(愚痴っぽく)「まったくうちの旦那ときたら、体裁ばっかり気にしちゃって」。そう言って笑いながらもらったものを口に運びました。

アンリ:アルトはまだ追ってこないですか?

GM:その気配はないですね。

アンリ:それじゃ、メイが食べ終わった頃を見計らって、「ねぇ、メイ。聞いてもいい?」

GM(メイ):「どうぞ」

アンリ:「あのね……。あたしがこれまでに聞いていた外の人たちの話と、メイの言っている外の人たちの話が、とてもとてもすごく違うの。もし、まだ帰らなくていいなら少しあたしとお話してもらってもいい?」

GM(メイ):メイは少し考えてから、あたりを見渡して木の根っこがあらわになっているところを見つけると、そこに腰を下ろして、「わたしもあなたたちに興味があるわ。お互いに知っていることを教えあいましょう?」と言います。

アンリ:「うん!」。メイの横に座って日が暮れる頃まで話を続けようと思います。

GM:了解です。では時間を進めて、ふたりが話をはじめてからしばらく時間が経ち日が暮れてきた頃に、遠くから「メイ! メーイ!」という男性の声が聞こえてきました。メイはハッと顔を上げると「うちの旦那が助けに来てくれたみたい」(周りが暗くなってきていることに気がついて)「それに、もうこんな時間」と言います。

アンリ:「お迎えが来たのね。よかった」

GM(メイ):「こんな時間まで一緒に居てくれてありがとうね」

アンリ:「こっちこそ、ありがとう。たくさん教えてもらって、たくさん考えることができた」

GM(メイ):優しくほほえんで「わたしはあなたの話を聞かせてもらっただけじゃなくて、食べ物までもらったから、何かお礼をしないとね」と言うと、髪を止めていた金の髪飾りを外して、アンリの髪につけます。

アンリ:「いいの?」。とてもお菓子に見合わない高価なものをもらってしまったことに戸惑っています。

GM:そうですね。聖域にはきらびやかな装飾品はなく、あなたははじめてみました。メイは「わたしの感謝の気持ちだから」と言っています。

アンリ:「きれい……。ありがとう、メイ!」

GM(メイ):「いいえ。こちらこそありがとう、アンリ」(胸の前で聖印をきる仕草をして)「女神クローディアよ。今日の導きに感謝します」(アンリを見つめて)「またいずれあえるといいわね」

アンリ:「うん!」。強くうなずきました。

GM:そのような出会いがあり、メイは聖域から無事に外界に戻ることができたのでした。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。