LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 10.使命

 場面は回想から戻って、再び穏健派の会合。

 力強い作戦会議風のBGM。

GM(カーライル):「そのとき出会ったクローネの少女は、わたくしを拒絶することなく、親切に接してくれました。敵意ではなく、信頼を持って接すれば、彼らも心を開いてくれる……。そうわたくしは信じています。オルコット大公の兵から彼らを救いたいというわたくしたちの誠意が伝われば、きっとクローネの民も話を聞いてくれるのではないでしょうか?」

ウィル:(男泣きしながら)「いい話だな、クラウス。やっぱり人の心ってのは通じるものなんだよ」

ゼオル&クラウス:(苦笑)。

クラウス:「まあ、確かにそれには同意ですね」

GM:「それで?」。有力者の一人が声をあげます。「誰をクローネの民のもとに向かわせる気です?」。そう言われるとカーライル女男爵は目を閉じて考えを巡らせている様子を見せます。

クラウス:(ウィルを見て)まさか、行くなんて言い出さないでしょうね……。

ウィル:クラウスがそんなことを考えた瞬間! その刹那!

一同:(笑)。

ウィル:「カーライル女男爵!」。会合の場にそぐわない若い声が響きます。

GM:有力者たちの顔が一斉にウィルのほうに向けられます。

クラウス:視線が集まった瞬間に顔をそらします(笑)。

ウィル:ガタンッと椅子を倒してしまうほどの勢いで立ち上がって、「その役目、ぜひこの俺――じゃなかった、このわたくしめに!」

GM:はい、それではここでちょっとした交渉の判定をしてみましょう。LOSTシステムで用いる交渉判定です。

 LOSTシステムでは交渉を明確にルール化しています。交渉したときのロールプレイの内容やPCと交渉相手との相性をボーナスに加えて最多で三回の判定を行います。交渉相手の態度は「中立」から始まり、判定値が目標値を上回れば「譲歩」「快諾」と段階的に対応が変化します。逆に判定値が目標値を下回ると「疑念」「決裂」となって相手にしてもらえなくなってしまいます。判定値が目標値と同値だった場合には態度は変わりません。また、ひとりのPCが交渉を「快諾」までもっていけなかったとしても、他のPCが引き続き交渉を行う余地は残されます。

 今回、カーライル女男爵はウィルに対して元から信頼を抱いているので相性は+1とし、カーライル女男爵の話を聞いて感涙し、使者の役目に対して間髪置かずに名乗り出たことからロールプレイボーナスとして+1を加えた値で判定することにしました。

 交渉内容はカーライル女男爵が使命する使者に自分たちを選んで欲しいという申し出であり、カーライル女男爵にとっては願ったりかなったりのはずなので、交渉目標値は低めの7としました。交渉相手との相性とロールプレイで計+2のボーナスがあるので、知力ボーナス+2Dで6以上を出せば成功です。通常であれば判定を省略しても構わない程度のものですが、ルールの説明もかねてここでは判定を行ってもらいました。

クラウス:ここで交渉を決裂させてしまえば、危険な場所に旅立たなくてもいいんですね?

ゼオル&クラウス:任せて(おけ&ください)!(笑)

ウィル:(妄想中)この会合の後、俺は知ったんだ……。人はやっぱりそう簡単には英雄にはなれないって……。

一同:(爆笑)。

シーン外のアンリ:すごいネガティブなキャラクターになってる。どうしたんだ、今までのキャラクターは?(笑)

ウィル:(妄想中)端っこのほうで体育座りしてる。

GM:人生、そう甘くないよね(笑)。はい、それじゃ気を取り直して一回目の交渉を知力ボーナス+2Dの判定でどうぞ。

ウィル:(ころころ)9です。

GM:はい、それでカーライル女男爵の態度は中立から譲歩に変わりました。頼んでみようかな……といった感じです。あと二回判定を続けられます。交渉を打ち切ることもできますが……。

ウィル:続けて交渉します。(ころころ)おなじく9です。

GM:それではカーライル女男爵の態度は快諾まで変化しました。もともとカーライル女男爵もあなたたちに任せる気満々だったようですね。

クラウス:ははははは……はぁ(乾いた笑いとため息)。

GM(カーライル):「ウィリバルト。あなたたちが戦うための強い力の持ち主であり、かつ誠実な心の持ち主であることをわたくしは知っています。この度の使いは、あなたたちこそ適任ですね。あらためてわたくしからもお願いします。よろしいですか?」

ウィル:(握りこぶしをつくって)「もちろんです、カーライル女男爵! オルコット大公の兵たちが動き出すのに、もうわずかしか時間がありません。一刻も早く聖域にたどり着くためには少数精鋭が好ましいでしょう。そして、その任務に堪えうるだけの仲間が私にはおります!」。そう言ってゼオルとクラウスの顔をチラチラとみます。

ゼオル&クラウス:(しばし沈黙)。

GM(カーライル):「そのようですね。クローネの民にこの事態を伝え、一刻も早く退避してオルコット大公の兵との戦闘を回避するように話をしてください。わたくしはこれからすぐにでも陛下のもとに向かい、正規兵を派使してもらえるように上申してみます。結果のいかに関わらず後ほどクローネの民のもとへ使者を向かわせます。そこで使者と合流してその後の行動について判断してください」

ウィル:「はい、わかりました!」。普通に聖域に向かうとどれくらいの時間がかかるものなんですか?

GM:(行軍時間を計算したときに決めておいたはずなんだけど、いくつだったっけ?)。距離にすると四百キロメートル……?

ゼオル&クラウス:えっ?

GM:(LOST全体地図を見て)いや、二百キロメートルくらいですかね。だいたい○○から○○までの距離(実際は百キロメートル程度)なんですが。徒歩では明らかに間に合いそうにありませんが、カーライル女男爵が「馬小屋にいる馬は自由に使ってもらって構いません」と言ってくれます。

クラウス:よかった、よかった。……けど、馬術持ってないや。

ウィル&ゼオル:俺は持ってるよ。

GM(カーライル):「確認のためにもう一度言いますね。クローネの民に一時的に聖域の奥へと退避してもらってください。わたくしのほうで国王陛下に進言した後に、その結果をお伝えするために信頼できる者を使いとしてクローネの民のもとへ向かわせます。うまく合流できるといいのですけれど……。その使者と合流した段階でその後の方針について判断してください。」

クラウス:「それなら……」おずおずと声をあげて懐から小さいネズミを一匹だして、「その方にはこの子を渡しておいてもらえますか?」

GM(カーライル):「わかりました。使者の名前は通称ですがラッツといいます」

クラウス:ラッツにネズミを渡すんですね(笑)。ちなみにネズミは私の使い魔で、一キロメートル以内の距離に居れば五感を共有できるので合流しやすくなります。

 GMは想定していなかったのですが、クラウスが使い魔をカーライル女男爵に預けたのはうまく合流するための黒魔法使いらしいスマートな行動でした。もともとGMはクラウスに使い魔と契約するための魔法である“ファミリアー”を取得させるつもりがなく、クラウス自身が追加で取得したものでしたが、早速役に立ったようです。

GM(カーライル):「それと、もしかすると先ほどお話したクローネの少女が、まだわたくしのことを覚えていてくれるかもしれません。彼女の名前はアンリ。今では十五、六歳くらいの年頃になっているかと思います。覚えておいてください」

ウィル:「わかりました。それでは早速行ってまいります」

クラウス:カーライル女男爵のもとを離れる前に。「カーライル女男爵、もしクローネの民のお知り合いの方に手紙のようなものを頂けるのであれば……短いものでも結構なので」

GM(カーライル):「わかりました」。そう言って書状をしたためるとクラウスに渡します。

クラウス:それを預かりました。

 連続してクラウスの気遣いが光ります。この手紙のおかげでアンリに自分たちを信用させるための保険を得たばかりか、アンリとメイの関係をさらに深める演出ができるようになりました。




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