LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 11.出発

GM:こうしてウィルたちは馬を借りて雨の中、聖域へと向かうこととなります……が、その前に全員、知識判定を知力ボーナス+2Dで行ってください。

ウィル:(ころころ)6ゾロ。

GM:それでは判るんですが、王都から聖域に向かうルートはふたつあります。ひとつは最短のルートで、オーティス山の山道を通るルートです。もうひとつは山を迂回して南に広がるグレアムの森に入るルートです。

 GMがレイフィールド王国周辺の地図をテーブルに置く。

GM:馬に無理をさせて死なせても構わないつもりで山道を進めば、日が昇る前には聖域の入り口までたどり着けます。森を進んだ場合には、どんなに頑張っても日の出過ぎに聖域に入ることになるでしょう。会合が始まったのが九つの鐘が鳴ったころで現実世界で言うと二十一時。会合を終えた今現在が二十二時頃で、これから準備を整えて二十三時までに王都を出発して山道を進めば、翌日の七時前には聖域に入れるといったところですね。あと、馬に無理をさせるつもりであれば予備の馬も一緒に連れて行くべきだということも判ります。

ウィル:今、大雨が降ってるんですよね? 山道が崩れている可能性は高くないんですか?

GM:(そのとおり!)。そうですね、地質や天候に関する知識を持っている技能で判定しましょうか。技能レベル+知力ボーナス+2Dで判定してください。目標値は12以上で。

一同:俺たちレンジャー部隊に任せろ!(ころころ)

GM:(うわっ、余った経験点で全員レンジャー技能取得してる(苦笑))。

ゼオル&クラウス:(互いに目標値に届かず)ぐわぁー!

ウィル:13です。

ゼオル&クラウス:(ウィルを見て)レンジャー様~!

GM:それではウィルには判りますが、これまでも大雨のときには山道で土砂崩れが起きて道が通れなくなったことがありました。今回もその可能性はありそうです。

クラウス:一番気づきそうにないウィルが気づくなんて……。

ウィル:俺の最後の輝きかもしれない(笑)。

クラウス:もしかして、その山道をかよい慣れているんじゃないですか?

GM:山道を通るルートは北東の領地に向かうときに使う道なので、もしかするとウィルの父親の治める領地はそっちの方なのかもしれませんね。

ウィル:なるほど、普段かよいなれた道なんだ。(考えて)山道を進んだとして、途中で迂回することになるとかなり時間が掛かることになるんですよね?

GM:そうですね、土砂崩れが頻繁におきる場所は山道を中ほどまで進んだところなので(地図を指差して)、こう戻ることになりますね。山では馬は山道以外の場所を進めないものと考えてください。馬を捨てて進むのであれば山道以外を進むこともできますが、どちらにしても最初から森側のルートを通るより到着時刻が遅くなるのは間違いありません。

ゼオル:「できる限り早く聖域に到着するのが望ましいが、リスクは避けるべきかな。ウィル、どうする?」

ウィル:(悩みながら)森を通ると夜明け前に間に合わないわけですよね?

GM:はい。それに聖域に入ったからといってすぐにクローネの民にあえる保証はありません。聖域に入って数時間かけてクローネの民を探すことが予想されます。そのうえでオルコット大公の兵よりも早くクローネの民と接触しようというわけです。オルコット大公の兵は明日の朝進軍するらしいですが……。

ウィル:朝と言ってもどの程度の朝なのかにもよるからなぁ。

クラウス:朝といっても幅広いですから。(お役所的に)九時五十九分までは朝ですからね。たぶん。

 ここでGMから「朝というのは遅めの時刻だよ」という意味のフォローを入れるのですが、まさかこの発言がプレイヤーに疑念を抱かせてしまうことになろうとは……。

GM:ゼオル。そういえばオルコット大公とベネット伯の話では、今回の作戦の指揮は騎士サディアスがとることになると言ってましたよね。サディアスはその話をしていたとき、オルコット大公の屋敷に居ましたよ。

ゼオル:おっと、そうでした。

ウィル:となると、そんなに朝早いわけでは――

クラウス:サディアスが馬を死なせてしまうつもりで早馬を走らせる可能性は……。

一同:ないない(笑)。

クラウス:徹夜で馬を飛ばしてそのまま指揮ってことはないでしょう(笑)。

シーン外のアンリ:(ぼそりと)馬車だな。

ゼオル:「サディアスが現場の指揮をとるだろうが、先ほどまでは王都に居たんだ。日の出直後に侵攻ということはないだろ。そういう意味では山を迂回して進むだけの時間的余裕はあると思うが」

クラウス:「すでにウィルが受けてしまった任務なので聖域に向かわないという選択肢はないでしょうから……」

ウィル:「あたりまえだろ!? 大勢の命がかかってるんだ!」。……あれ? ところでクローネの民は俺たちとおなじ人間?

GM:いえ、クローネ人です。

ウィル:それは人種の違いですか? それともまったく違う種族ということですか?

GM:まったく違う種族ですね。エルフ族と思ってもらうと近いです。エルフ族どころかゴブリン族と思ってもらっていいです。意識としてはそれくらい違います。

ウィル:なんと。

一同:(アンリを見て)ゴブリンだったのか……。

シーン外のアンリ:ゴブリン……。

GM:(クローネ=ゴブリンというわけではないけど(苦笑))。クローネは人間に姿形は良く似ているんですが生物学的にはまったく異なる種族です。……と、プレイヤーには教えてしまいましたが、PCとしては不確定情報です。

ウィル:それじゃ、考え方は各PC毎で構わないですね。なに言ってるんだ相手は人間じゃないだろ!?って言われたらどうしようかと思った(笑)。

クラウス:まあ、とりあえず急がなくてはならないようなので準備を進めて、道中がてらウィルに確認したいことがあるんですが……。その前に、私が馬に乗るためには何の判定を行えばいいんでしょうか?

GM:馬を操るためには一般技能の馬術技能が必要となります。普通に馬に乗るだけならばあなたにもできますが、早馬となると難しいですね。

クラウス:ヒーラー技能と吟遊詩人技能は持ってますが……。ゼオルは? たしか一般技能をいっぱい持っていたはず。

ゼオル:俺の力の一端を見せて欲しいか? (キャラクター情報を皆の前にだして内容を確認して)あれ? 良く見たらさっきの天候予測の判定、レンジャー技能じゃなくて水夫技能でもできた。

クラウス:おいっ!(怒)

ゼオル:いや、だって、普段は一般技能なんて取らないから……(汗)。

GM:言っておくけど、ゼオル。君はその一般技能で活躍する人だから。

ゼオル:(あらためてキャラクター情報を見て)すげーっ、こんなにいっぱい一般技能がある(笑)。これから気をつけないと……。馬術技能は3レベル取得してます。

GM:本当に気をつけてね。

 ゼオルのキャラクター性を出すためにも、そして彼の目的を達成させるためにも、普段のセッションではあまりお目にかかれない一般技能を大量に取得させていたのですが、プレイヤーにはスルーされてしまったようです。

クラウス:そうなると馬に乗れないのは私だけですか。誰かに乗せてもらえばいいんですかね?

GM:そうだね。

クラウス:ウィルは金属鎧で重いから、ゼオルに乗せてもらうのが正解ですかね。それでどちらの馬も同じくらいの疲労になるでしょう。

GM:それでは、強行軍で馬が倒れることを想定して予備の馬も連れて四頭で行きますか? それともカーライルに気を使って二頭だけで行きますか?

ウィル:うーん。これから戦がはじまってしまうと多くの人の命が危険にさらされるかもしれないというときなので、人の命には代えられないということで馬には悪いけど……四頭連れて行きます。

GM:はい。それではあなたたちは馬小屋から馬を四頭借りると、ウィルがその一頭に、もう一頭にゼオルとクラウスが乗り、残り二頭を引き連れて、南のグレアムの森を抜けるルートで聖域を目指すのでした。

 BGMが強い雨の音に変わる。

クラウス:道中でウィルに話したいことがあるんですが。

ウィル:なんだろう?

クラウス:「ウィルは今回の強硬派の聖域への侵攻を止めたいと考えているんですよね?」

ウィル:「ああ、もちろんだ!」

クラウス:「それはクローネの民と仲良くしたいということですか? それとも、聖域を汚すことは良くないと考えてのことですか?」

ウィル:「んー、それは難しい質問だな」。GM、この世界にはゴブリンは居るんでしょうか?

GM:神から聖域を守る役目を与えられた生物として存在します。

ウィル:(ちょっと意外そうに)ゴブリンも聖域の守り手なんですか?

GM:はい。各神が自分たちの住居を守るためにつくり出したのが、ソード・ワールドRPGで言うところの妖魔であったり幻獣であったり妖精なのだと考えてください。クローネの民もその中のひとつの種族なので、さっきの説明でクローネの民をゴブリンのようなものだと説明したわけです。

一同:なるほど。

ウィル:それじゃ、この世界にはいわゆる魔物というのは存在しないわけですか?

GM:そうですね。ただ、敵対する神の聖域の守り手を魔物と呼ぶことはあるかもしれません。

ウィル:(少し考えてから)「ろくに知りもしないクローネの民を救うために必死になることを、馬鹿げたことだと言う人もいるかもしれない。しかし、クローネの民もまた、女神クローディアが創造した我らが同胞だ。ならば、俺はその同胞同士が争うのを止めたい」

クラウス:「わかりました」(少し間をおいて)「ですが、オルコット大公もレイフィールド王国がギルモア王国と渡り合えるだけの軍事力を有していたのであれば、今回のような行動にはおよばなかったのではないでしょうか? それだけの力を欲しているからこそ、聖域への侵攻を推し進めたわけで……」(ウィルの目を見て)「今回の侵攻を止めれば、その先にはギルモア王国とのいざこざが待っているのだということは判っていますか?」

 比較的近い場所で雷鳴がとどろく。

ウィル:(かなり悩んでから)「しかし、ギルモア王国は現在、我がレイフィールド王国に対して和平条約の締結を求めている。わざわざ差し伸べられたその手を振り払い、聖域に侵攻して自国内で血を流そうなどということは得策ではないと俺は思う」

GM:(和平条約とはいっても不平等条約ですけどね……)。

クラウス:「それでは、いずれレイフィールド王国がギルモア王国の属国になってしまっても構わないと言うのですか?」

ウィル:属国と言われて、かつて自分の暮らしていた王国が同様の道をたどったことを思い出して、寂しさを感じはするのですが、「属国になるというのは、上の立場に居る者にとっては受け入れがたいことなのかもしれない。しかし、上に立つ者はその下にいる者たちの命を守る責任がある。つまらない自尊心で民の命を危険にさらすようなことがあるのであれば、そんなものはいらない」

クラウス:「今回の聖域への侵攻を止めることがレイフィールド王国の国益になるのかどうか、私には判断がつきません。しかし、少なくとも身内で争っているときではないとは私も思います。その点については賛成なので、とりあえずクローネの民に退避してもらえるように働きかけましょう……」

 傍観者的視点で広く物事をとらえるクラウスの目には今回の事件の先にある大きな流れが映っているようです。また、それに対してウィルは和平条約を単なる不可侵協定のようにとらえていたり、属国になることを権力者のプライドの問題だけで考えていたりと、主観的な視野しか持っていないことをうかがわせる発言が目立ちます。だからこそ疑いを持たずに物事に全力でぶつかっていけるのがウィルの強さであり魅力でもありますが。

 今回の事件に対するふたりのとらえ方の違いがおぼろげに見え隠れしつつ物語は進みます。




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