穏やかな曲が流れる。
GM:場面は聖域にあるクローネの民の集落に移ります。雨は止み、洗われた空に眩い太陽が昇っています。昨日はすごい嵐だったのですが、それが嘘のように風ひとつない日和となっています。聖域には背の高い木々がうっそうと茂っているんですが、その一部を切り開いて、そこに木造の小さな小屋を建ててクローネの民が静かに暮らしています。文明レベルはかなり低いものと思ってください。そんなクローネの民の集落を歩くふたりの姿が見えます。
GMがまじめで融通のきかなそうな男性の描かれたカードを提示する。
GM:集落の中央にある長老の家に向かいながらアルトがアンリに小言を言います。「だからあれほど聖域の外れには行くなと言ったんだ」。ふたりはクローネの長老であるエルモに呼び出しを受けています。
アンリ:左側のほっぺただけを膨らませて、むくれながらアルトの後ろをついていきます。
GM:そんなアンリの目には正面から駆け寄ってくる少年の姿が見えました。大きな目をした可愛らしい男の子で、その造形から女の子に見えなくもないんですが肌は日の光で浅黒く焼け、さらに肌のいたるところに引っかき傷がついています。それは昔アンリがイバラの棘の道を進んだときについたような傷です。彼の名はアルヴィといいます。
GMが中性的な少年が描かれたカードを提示する。
GM(アルヴィ):「アンリ姉ちゃん!」。パタパタとアンリに駆け寄ります。
アンリ:ムッとしていた顔が一気に笑顔に変わって、「アルヴィ!」と言って腕を広げました。
GM:アルヴィはそのままアンリの脚に向かって――。
アンリ&GM:ぐわしっ!
GM(アルヴィ):「おっはよー!」。下からアンリの顔を見上げて笑顔を浮かべます。
アンリ:「おはよ!」
GM(アルヴィ):「これからみんなとクロリスを探しに行くんだけど、姉ちゃんも一緒に行かない?」
アンリ:「行く、行く!」
GM:クロリスというのはこのあたりに生息するリスの一種なんですが、生後間もないときに捕まえると、鳥のように刷り込みさせて懐かせることができるため、よくペットとして飼われていたりします。ナウシカに登場するキツネリスのようなものだと考えてください。
アンリ:アンリの表情がうっとりとしてきました。
GM(アルト):「おい、アンリ」
アンリ:「なに?」
GM(アルト):「これからどこに行くつもりだ?」
アンリ:「どこってクロリスを探しに」
GM(アルト):「違うだろ? エルモ長老のところに行くんだろ?」
アンリ:「えっ、でも」
GM(アルト):「でもじゃない」
アンリ:「今日は天気も良いし、クロリスを探すには――」
GM(アルト):「理由になってない!」
アンリ:(しょんぼりした目でアルトを見て)「明日じゃダメ?」
GM:アルトに無言でにらみつけられました。
アンリ:しばらくした後で、「ごめんアルヴィ……。ちょっと今日はダメみたい」
GM(アルヴィ):「えー? 残念。それじゃ、姉ちゃん抜きで行ってくるね」
アンリ:「ごめんね……。今度、天気の良い日にわたしも一緒に連れて行って」
GM(アルヴィ):「もちろん! 約束だよ!」。そうすると集落の外れで待っている少年たちのほうに走っていって、「じゃあ、アンリ姉ちゃん、行ってくるね!」と言ってアンリに元気いっぱいに手を振って森の中に入っていきます。
アンリ:「いってらっしゃーい」。両手を大きくバタバタさせて見送ります。
GM:そんな感じで、アンリがアルヴィたちはクロリス狩りに行けていいなーなどと頭の中でぽわぽわと考えていると、目の前で「聞いておるのかっ!」とエルモ長老の怒鳴り声が聞こえます。
アンリ:ハッとして顔を上げました。
GM:エルモ長老の説教がはじまってからすでに小一時間が経過しています。もう足も痺れてきたとろですね。長老は帽子をかぶっているので普段は見えませんが、頭が禿げ上がっていて横のほうに白髪が残っているだけになっています。きれいな口ひげを生やしていて、それをいじって毛並みを整えるのが癖になっているようです。かつてはクローネ一の戦士だったらしく、骨格のつくりは大きそうなんですが、すでに筋力は衰え骨と皮ばかりになっており、そのうえ背中は丸まっています。
GMが老賢者風の男が描かれたカードを提示する。
GM(エルモ長老):「また聖域の外れまで行っておったそうじゃな! いい加減に自分の立場というものを考えたらどうじゃ」
アンリ:(不満気に)「わかってます……」
GM(エルモ長老):「もし外界の民と出会ってしまったらどうするつもりじゃ?」
アンリ:「どうするかな?」。腕を組んで考え始めます。
GM(エルモ長老):「外界の民が襲ってきたら力を使わざるをえん状況になるやもしれん」
アンリ:「またその話ですか?」
GM(エルモ長老):「おぬしは外の奴らの恐ろしさを知らんのじゃ」
アンリ:「わかってます! わかってますったら」
GM(エルモ長老):「わしらはできることならあの力は眠らせたままにしておきたいのじゃ」
アンリ:「でも、そうなってしまったときのために常に準備をしろ。だからお前も早く……でしょ? わかってます」。指で耳を塞ぎました。
GM(エルモ長老):(その仕草をみて眉をひそめると大声で)「本当にわかっておるのかっ! その態度はなんじゃ! そもそも、おぬしはっ――ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
アンリ:「え? あのっ、大丈夫?」
GM:エルモ長老はのどに痰が絡んでしまったようで、ゴホゴホと咳きこんでいます。そのタイミングでエルモ長老の横に控えていた世話役であるサンディという女性が、エルモ長老の目の前におかれたお椀に水を注ぎました。そして、アンリの前におかれたお椀にも水を注ごうとして、ちょうどエルモ長老とアンリの視線の間に割って入ります。そこで、サンディはアンリに向けてウィンクして見せます。
アンリ:それは、この機に席を離れてもいいっていう合図でしょうか?
GM:そのようですね。
アンリ:では、新たに注がれた水をくいっと飲み干して、「じゃ、お話はこれで。長老、お大事にっ!」そう言って席を立って急いで長老の前から姿を消そうとします。
GM:アンリが部屋をでようとしたところで、ちょうど外から部屋に入ってこようとした男に身体がぶつかりました。
アンリ:尻餅をついてその場に倒れました。
GM:「すまんっ!」と若い男が謝ります。クローネの戦士のひとりでアインという名の男です。革鎧を身につけ、弓と矢を持っています。アインは倒れたアンリに手を貸すこともなく、急いで長老に報告します。「たいへんだ長老! 外界の奴らが武器を手にして聖域に入ってきやがった!」
BGMが急に不穏な曲に変わる。
GM(アイン):「外界の奴らは多方面から入ってきて、すでに確認できただけでも二十人は居る」
GM:アルトが「たいへんだ!」と言って立ち上がります。アンリを見て、「準備をして俺達もいくぞ!」と声をかけます。
アンリ:うなずきました。