LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 17.拒絶

 穏やかな曲が流れる。

GM:聖域の外周では小規模な戦闘が始まりましたが、聖域の中へ入りクローネの民の集落までたどり着くとそこにはまだ穏やかな空気が漂っています。ただ、戦いの準備をした男たちが走っている姿もちらりと目に入りました。そんな集落にあなたたちが足を踏み入れると、「アンリ姉ちゃーん!」と言って駆け寄ってくる男の子がいます。

 GMがアルヴィのカードをテーブルに置く。

GM:アルヴィがアンリに向かってタッタッタッタッと走ってきて、その脚に向かって――

アンリ&GM:ぐわしっ! 合体!(笑)

GM(アルヴィ):「よかった無事で!」

アンリ:「大丈夫だった?」

GM(アルヴィ):「それはこっちの台詞だよ。なんだかたいへんなことになっちゃってるらしいね……。オイラたちこれからどうなっちゃうの?」

アンリ:「心配しないでいいわ。ほら、見て」と言って後ろを振り返る。

GM(アルヴィ):「姉ちゃん、こいつら誰?」

アンリ:「外界の人たち」

GM(アルヴィ):「えっ!? 外界人なの?」と言ってアンリの足元に隠れるようにして、チラッチラッとウィルたちの方を見る。

ゼオル:「こんにちは、可愛いお嬢さん」。これまで保ってきた自分のイメージを崩してでも友好的に接しようとした……らしい。

アンリ&クラウス:地雷踏んだ(笑)。

GM:(初対面の男の子に対して言う台詞がそれか(笑))。アルヴィはゼオルに対してあっかんべーをしました。お前らとなんか言葉も交わしたくないといった態度です。

ゼオル:あれぇ?

GM(アルヴィ):アンリの服を引っ張り、顔を見上げて「それより、今朝クロリスを探しに行ってね、前にアルトに教えてもらった通りオニグルミの食べかすを辿って行ったら、クロリスの巣を見つけたよ! 東の小道の先にある崖の手前を南に入ったところね。でも、今日は留守だったみたい」

アンリ:「残念。じゃあ、捕まらなかったんだ」

GM(アルヴィ):「うん。でも、また近いうちに行くから」

アンリ:「そのときは忘れずにわたしにも声をかけてね。絶対だよ!」

GM(アルヴィ):「今度は一緒ね」と言って指きりげんまんの約束をする。

GM:そんなアンリたちの様子を集落の大人たちは遠巻きに見ています。よそ者が居ることで警戒しているようです。

クラウス:「これは……。昨日の穏健派の会合のときよりも痛い視線ですね」

ゼオル:「まあ、わかっていたことさ」

ウィル:「できれば違う形で来たかったよな」

クラウス:「それは、親善の使者か何かでということですか?」

ウィル:「こんなところを見る機会なんて滅多にないもんな。あっ、あれはなんだろうな?」

GM:クローネの民たちの文明レベルは明らかに低く、集落にある建屋はすべて一階建ての木造建築です。彼らの身にまとっている服もひとつなぎのものを腰で縛っているだけで、染料もないのか素材のままの色です。

ウィル:(GMの説明ひとつひとつに、うん、うん、とうなずいている)。

GM:アンリが髪につけている金の髪飾りはこの集落の中ではとても異質です。この集落にある唯一の装飾品といった感じです。

ウィル:なるほど。

クラウス:「ウィルは研究者向きですね」

ゼオル:「いや、研究する気はないんじゃないか? ただの興味本位だろ?」

クラウス:「まあ、意見の分かれるところですが……それはさておき、いまは長老のところへ急ぎましょうか」

 クローネの民の暮らしに興味津々のウィルたちを引き連れて、アルトはエルモ長老の家の中に入っていきます。

GM:それではシーンを移します。クローネの長老と話す機会を得たあなたたちは、エルモ長老の屋敷の中でクローネの民の有力者たちを前にして話し合いを行っています。その場にはエルモ長老、アンリ、アルトを含めてクローネの有力者が十一人います。彼らに対して聖域の奥へと一時退避してくださいと伝えたところからスタートします。

 力強い作戦会議風のBGMがかかる。

 GMがエルモ長老のカードをテーブルに置く。

GM(エルモ長老):「退避……か」そう言ってエルモ長老が周りを見渡します。

ウィル:他の有力者たちの様子はどんな感じでしょうか? ふざけるな、そんなことできるわけないだろう!といった感じですか?

GM:そうですね。「外界人の話を信用できるか!」とかいう言葉が聞こえます。その中でアインという男が立ち上がりました。クローネの民の中で一番腕の立つ戦士です。ちなみにレンジャーとしてはアルトが一番の腕利きです。

GM(アイン):(ウィルたちを見て)「こんな奴らの言葉に踊らされる必要などない! 今日の様子じゃ敵の戦力もたいしたことはない。いざとなれば深淵の力もある! なあ、そうだろ?」と言って周りの者たちに同意を求めます。

ゼオル:「深淵の力?」

クラウス:「おそらく黒魔法のことかと。前回の聖域侵攻のときにもその深淵の力が行使されたと聞いています」

ゼオル:「なるほど。クローネの民には隠しだまがあるってことか」

GM:アインは周りの者たちを扇動してウィルたちを追い出そうとするのですが、その極端な物言いに誰も積極的に同調しようとはしません。

GM(エルモ長老):「よせ、アイン。このたびの戦闘で六人の戦士がすでに帰らぬ者となった。敵もまだ全勢力を仕向けてきてはいないじゃろう。総力戦となれば深淵の力を解放したとしても被害は大きくなる。それに、深淵の力を使わずにすむのであれば、それに越したことはない」

GM(アイン):「なんだよ……。なんだよお前ら! 俺たちが本気で力を出せば、聖域を守るどころか外界の奴らをいくらでも叩き潰すことができるんだぜ?」

ゼオル:怖えぇ。

GM(アイン):「それが、こんな訳のわからねぇ奴らの言葉を真に受けて、集落捨てて逃げ出せって言うのか!? やってらんねぇぜ!」と言うと、ダンッと荒々しく床を踏みつけてその場から退席します。

クラウス:止めるすべもない。

GM(エルモ長老):「失礼した」

ウィル:「いえ、元はと言えば我が国のいさかいのためにあなたたちにたいへんなご迷惑をおかけしてしまい、こちらこそ申し訳ありません。たしかに先ほど出て行かれた方が仰っていたように我々の言葉だけを信じろというのも無茶な話。しかし、強硬派は以前の戦いでのクローネの民の力を十分理解したうえで再びこの聖域に足を踏み入れています。何か奥の手があるのかもしれません。それにこの集落には女性やまだ年端の行かない子供も多く居る様子。戦士の方たちだけならばまだしも、女性や子供たちを守りながら戦うのは、どう考えても不利というもの。どうか我々の言葉を信じ、一時聖域の奥に退避していただきたい。重ねてお願いします」

GM:すばらしい。

GM(エルモ長老):「たしかにお主の言っていることは的を射ておる。しかし、お主の言葉にもあった十数年前の戦いで受けた傷、そのときの想い……それがお主たちの言葉を聞き入れるうえで邪魔となっておるのじゃ。アインも先の戦いで両親を失っておる。それが奴にあそこまで言わせるゆえんとなっておるのじゃろう……」

GM:それではここで交渉判定を行います。知力ボーナス+2Dを振ってください。

 ウィルからあまりに淀みなく理路整然とした長台詞がでてきたため、GMはつい感嘆の言葉を漏らしてしまいました。これを受けてGMは交渉判定のロールプレイボーナスに+2を与えることにしたのですが、サイコロの神様は無情でした。

ウィル:(ころころ)うわっ、低い! 6です。クローネの民の古傷を抉ってしまっただけかも……(しょんぼり)。

GM:相手の態度が「中立」から「疑念」に変わります。エルモ長老の態度が変わったわけではないのですが、周りから「ですが、長老。我々の使命はこの聖域を守ること。この地を離れるわけにはいきません」という声があがります。ウィルにはあと二回交渉判定を行うチャンスがあります。もしくは、ここで他の人にバトン・タッチしてもいいですよ。

クラウス:とは言っても、先ほどのウィルの説得が完璧だったので、それを上回る説得をする自信がありません。

GM:たしかに先ほどの説得は見事だったのでロールプレイボーナスは加えていたんですが、ダイスの目が悪かったので仕方ないですね。(それに、ウィルは外界の戦士の格好をしているから相性が悪いんだよね……。何を言うかではなく、誰が言うかが重要だというのはここでも真理か)。

クラウス:一応、ウィルより私の方が知力ボーナスが高いので、私が振っておくという案もありますが。

ウィル:そうか! その手があったか!

クラウス:でも私は個人的にウィルに振って欲しい。

ゼオル:流れですね。流れを折っちゃいけない。

ウィル:うーん。……では、振らせていただきます。(ころころ)……また6です(泣)。

ゼオル&クラウス:これは決裂か!?(笑)

GM:(任せておいて笑っちゃ可哀相でしょう(苦笑))。クローネの民の態度が「疑念」から「決裂」になりました。あと一回の判定で成功して回復させられなければ交渉決裂となってしまいます。最後の判定を行うか、もしくは誰か助け舟を出してあげてください。

ウィル:間が悪かったらしい……。

GM:十年前の戦いのことに触れてしまったことが悪かったんでしょうかね(苦笑)。

アンリ:そこはさりげなくスルーしておけばよかったんだね。

ゼオル:代わってやろうにも俺はウィルと知力ボーナスが同じだしなぁ。

ウィル&ゼオル:(クラウスを見る)。

クラウス:えっ? いや、申し訳ないんですがウィル以上に見事に説得しろと言われても……。それに、どちらかと言えば私はこの作戦自体に否定的ですから。

一同:(しばらく沈黙)。

クラウス:だいたい、なんて言ったらクローネの民たちは納得するんでしょうか? 思いつくところはウィルが言ってくれたので、何を言っても二番煎じになってしまうんですよね。

一同:(頭を抱えて悩む)。

 ウィルの口上が見事だったにも関わらず交渉判定が失敗してしまったことで、外界トリオで一番交渉を有利に進められるはずのクラウスもおよび腰になってしまい、交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。手詰まり感が場を包みます。でも、GM的には偶発ですが、カーライン女男爵はこうなることを予想していたようですよ(笑)。だから、あの手紙にはしっかりと……。




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