LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 32.懺悔

ゼオル:皆のところからゆっくりと一歩離れた。「アンリ、すまないが今まで話していなかったことがある」

アンリ:「なんです……?」

ゼオル:「俺は今から深淵の力を持つお前を連れ去り、ベネット伯のもとへ連れて行かなければならない」

ウィル:「何を言ってるんだゼオル?」

ゼオル:「ウィル、知っているか? 解放奴隷の子はそれ以外の何者にもなれないんだ。お前は騎士になれる身分にありながら、それでも騎士にならなかった。一方で俺はいくら騎士になろうとしても、騎士にはなれなかった。この違いがわかるか?」

 ウィルを凝視するゼオル。

ゼオル:「俺はベネット伯から、ひとつの仕事を持ちかけられた。それは今回の強硬派の作戦を成功させるために深淵の力を持つ御子……アンリ、お前を無力化することだ」

アンリ:「わたしを?」

ゼオル:「と言ってもお前を殺すわけじゃない。お前を殺せば深淵の力は別の者に宿る。そう聞かされている」

GM:アンリにとって、外界の者がそこまで知っているという話は驚くべきことです。

アンリ:それはもちろん。

ゼオル:「だから、こいつで――」何かを塗りつけてある小さなダガーを取り出し「こいつで、隙を見てお前を眠らせて、そのまま連れ去るつもりだったのさ」

アンリ:「どうして外界の者がそこまでのことを……」

ゼオル:「それはわからない。ベネット伯は過去に深淵の力により傷を負った者。その戦いの中で何かを知ったのかもしれない」

クラウス:「ベネット伯は前回の聖域侵攻作戦の折に胸に大きな火傷を負っています。作戦後、しばらく諸国を渡り歩いていたという噂があり、魔法についてもたいへん詳しいようですよ。私の師である大魔法使いチカとも親交を持っているようですからね」

アンリ:「それで、わたしを眠らせて連れ出して――」

ゼオル:「そうすれば俺は騎士になれる。そういう約束をした」

ウィル:(ゼオルを睨みつけて)「本気なのか、ゼオルッ!」

ゼオル:「ああ……」

ウィル:「お前、そんなことで本当に騎士になれるとでも思っているのかッ!?」

ゼオル:「そうだな。これは本当の騎士の道ではないのだろう」

ウィル:「ああ、そうだ。お前が言ったように俺は騎士になる資格を持ちながら騎士になるのをやめた。それはお前からすれば許しがたい行為だったのかもしれない。しかし、それは俺たちの通ったあの学び舎に俺の求める騎士の姿がなかったからだ。だが、俺は自分の求める真の騎士への道を諦めたことは一度としてない。俺は常に騎士道を求めている。なのにお前はどうだ? 名ばかりの騎士の位にすがって本当の騎士道を忘れようとしてしまっているんじゃないのか? それは他人から騎士と見られることがあっても、お前の中の騎士を見失うことにはならないのか?」

ゼオル:「何がわかるッ!」

ウィル:「ああ、俺にはわからない! しかし、友がこのまま身も心も奴隷になってしまうことを俺は見過ごせないッ!」

 熱を帯びた言葉の応酬の後、静寂。

ゼオル:「なら、止めてみろよ」。ゼオルは剣を抜いた。「一度決断したことは曲げないんだろ? いかなる犠牲を払っても、守護者として!」

ウィル:「本気か?」

ゼオル:「余裕を見せていると死ぬぞ」

ウィル:では、ウィルもゆっくりとグレート・ソードの柄に手をかけますが、まだ抜きません。

アンリ:「やめて! やめてください! ゼオルさん、すべて嘘だったの?」

ゼオル:沈黙した。

アンリ:「だって、あなたは助けてくれたじゃない! 初めて会ったときも、ここでも。どうして今頃になって……。そんなことなら、どうしてもっと早くわたしをその刃で眠らせて連れ去ってくださらなかったの? わたしが決断する前に……あなたならと思う前に……」

ゼオル:「それは……」

アンリ:アンリは両手で顔を覆い、首をうなだれました。「あれも? 岩棚に落ちたあの子を助けてくれたのも、あれも嘘だったんですか?」

GM:(アルヴィの声色で)「あの兄ちゃんの手、大きくて温かかった」とカットインが。

クラウス:温かかった……温かかった……温かかった……(リフレイン)。

一同:(笑)。

ゼオル:「そうだ! 全部嘘だッ!」。ゼオルは憤りをぶつけるように叫び声を上げた。「いくぞ」

ウィル:「本気……なのか?」

ゼオル:まだそう言うのであれば、ゼオルはウィルに斬りかかる。模擬試合などで剣を交えてきたときには見せなかった確実に殺すための一撃を放った。(ころころ)攻撃力は16。

ウィル:回避。(ころころ)13。残念、命中しました。

ゼオル:これはやったな。(ころころ)あっ……。

クラウス:(出目をみて爆笑)台無しじゃないか。

ゼオル:その一撃は……鎧にあたって弾かれた。

ウィル:落ち着いた表情でゼオルを見つめて「無理だよゼオル。この状況でお前に勝ち目はない」

ゼオル:「どうした、斬ってこいッ!」

ウィル:「ゼオル、お前は素晴らしい剣士だ。養成学校時代、俺はお前に一太刀浴びせることすらできずにいつも打ち負かされていた。だから俺は考えた。お前に勝つためにはどうしたらいいか。俺はお前みたいに鋭い一撃を放つだけの技は持ち合わせていない。ただ、俺はその一撃に耐え、そして生まれた隙に不器用な俺でも与えられるだけの最大限の力を叩き込む……その一点だけを磨いてきた。いまは鎧をまとわぬ兵装での戦いじゃない。俺には身を守るこの鎧がある。お前の技でもそう簡単にこの鎧を貫けやしない。たのむゼオル、俺はできるならばお前を斬りたくはない。まだ間に合うんじゃないのか? 本当にそれでいいのか? 今後のお前の人生、ベネット伯の奴隷として生きるのか?」

ゼオル:「なんでお前は……」。(苦悶の表情を浮かべる)。「お前はどこまでいっても変わらないな。もし俺がここでクラウスやアンリを斬りつければお前は本気になるのか? 犠牲を顧みず俺を斬るか?」

ウィル:チラッとアンリの方を見て、そのあと女神クローディア像に視線を向けた。「今はまだお前を友であると信じ、こうして話をしている。だが、もしお前がアンリに危害を加えようとするのであれば、俺は全力を持ってそれは排除せねばならない。それが女神クローディアに認められた守護者としての務めだからな」

 言葉をためるウィル。

ウィル:「そこまで堕ちるのか、ゼオル?」

 沈黙。

アンリ:「ゼオル……あなたはすべてを話してくれた。これは懺悔なのでしょう? クローディア様の前であなたが行う懺悔なのでしょう? あなたは自分の中に抱えていた闇が誤りであると気づいたから今わたしたちに告げてくれた。そうでしょう!? わたしはあなたを恨んだりしない。あなたが騙したことを憎んだりしない。だからお願い。聖域に来たときの、あのゼオルに戻ってください」

ゼオル:「くそっ!」脱力したように腕を下げ、剣を落すと、うなだれて床に膝を突いた。そして、一度、二度、拳で床を叩いた。「俺は弱い男だ!」

クラウス:そこにゆっくりと近寄っていって、ゼオルの肩をトントンと叩くと「それは私も認めるところですが、私よりはとても強いですよ。立ち上がってくださいゼオル。気は済みましたか?」

GM:(認めるんだ!?(笑))

ゼオル:「すまん」

クラウス:「いいえ」

ゼオル:「できれば、ウィル……お前の一撃で……俺はお前の一撃で何かを打ち破って欲しかったのかも知れん」

ウィル:ゼオルが落したレイピアを拾って柄の方をゼオルに差し出しながら「そいつはすまなかったな、ゼオル。だが、もしお前に一撃を加えることがあるとすれば、それはお互いに騎士として叙勲を受け、騎士試合に出場したときだ。そのときには、これまでお前に与えられなかった分の一撃を加えさせてもらうさ。俺たちが雌雄を決するのはこんなところじゃない」

ゼオル:「そうだな。お互い騎士になったとき、決着をつけよう」

ウィル:「もちろんだ」

ゼオル:「お前に刃を向けるのは、それまでとっておくことにするか」

ウィル:「ありがとう、ゼオル」。(アンリの方を向き)「すまなかったアンリ。恐ろしい思いをさせてしまってこんなことを言うのも虫のいい話かもしれないが、ゼオルの気持ちを汲んで許してやって欲しい」

アンリ:「もちろんです。ゼオルさんはいつでもわたしを連れ去れたのです。でも、それをせずにわたしの言葉を信じてここまで来てくれたのですから……。あなたの騎士への道を閉ざしてしまってごめんなさい」

クラウス:「それはわかりませんよ」。(にこりとほほえむ)。

アンリ:(ゼオルに対して)「でも、今の話を聞く限りでは、きっとあなたの魂は……今のゼオルさんを喜んでいらっしゃると思います」

ゼオル:「湿っぽい話しになっちまったな」

アンリ:「本当によろしいのですね? 守護者として――」

ゼオル:「いまさら何を言ってるんだ。それともここで辞めると言えば守護者を辞められるもんなのか?」

アンリ:「お辞めになることは自由なはずです。決してこの守護者の試練があなたたちを束縛することはないと思います。これはあなたたちの心の決断。わたしはそう思っています」

クラウス:「まあ、ちょっと派手な兄弟喧嘩みたいなものですね。とりあえず帰って飲みませんか? 私は少々疲れてしまいました……」

アンリ:「長老に報告しにいかないと。それに本当にこれで試練が終わったのかはわたしにもわかりませんので。長老にお話ししたときに違うと言われたらどうしたらいいのか、わたしにもわかりません」

GM:(アンリのプレイヤーに)今ので(心の試練をクリアしたとして)よろしいのではないかと思うんですけど、(本来予定していた心の試練は)跳ばして良いですかね?

アンリ:ええ、これでスパーンと。

GM:そうすると、再び女性の声が聞こえます。「汝、守護者の力を欲するか? 人は心弱きもの。己が器を超える力を得れば闇に堕ちる。汝、闇を討ち払う強き心を持つ者か?」。その言葉と共にゼオルの姿が映し出されたと思ってください。「人は意志の弱きもの。犠牲を前にその歩みを止める。汝、犠牲を乗り越え、尚も歩みを止めずに進む意志を持つ者か?」。そして、ウィルの姿がカットインされる。「汝らの心の力、たしかに見届けた。あらためて守護者たる力を与えよう」という声が響きました。ウィルとゼオルとクラウスは自分たちの中から力が湧き出してくるのがわかります。

 守護者の力とは変則的な“ジハド”の効果です。御子の近くにいるときだけ一般技能を除く全技能レベルが1つ上昇します。この能力は御子の半径百メートル以内にいれば発動するというものです。また、それに加えて守護者には深淵の力の影響を一切受けないという特殊能力も与えられました。

 そして、ここでこれまで伏せてきた深淵の力も明らかになりました。アンリの宿す深淵の力とは10レベルソーサラーとしての能力でした。さらに瞑想に必要となる消費精神点1が免除されます。

 深淵の力と守護者の力の内容を聞いたプレイヤーたちはにわかに盛り上がります。

クラウス:ということは、もしかして?(笑)

ゼオル:敵を囲んで……よし、アンリ、範囲魔法を撃ちこめ!(笑)

GM:その通り。範囲魔法撃ち放題です。

アンリ:非常にわかりやすい説明をありがとうございました。

クラウス&ゼオル:うはははは(笑)。

GM:あと、もうひとつ補足しておきます。守護者を得たことでいつでも深淵の力を解放する準備が整いましたが、まだアンリは深淵の力を解放したわけではありません。深淵の力はアンリが解放すると宣言したタイミングで発動します。

 守護者と深淵の力について一通り説明を終えた後に、再びシーンに戻ります。

GM:頭の中に直接響いてくるような女性の声が聞こえなくなったところで、ウィルたちはハッと目覚め、自分たちが地面に倒れていたことに気がつきます。倒れている場所は黒い光が放たれたときに立っていたところですね。

クラウス:「これは?」

ウィル:「夢……だったのか?」

ゼオル:「野郎、全部お見通しだったのか」

GM:アンリには三人が目覚めていく様子が見えます。

ウィル:「アンリ、今のは?」

アンリ:「無事、試練を乗り越えましたね」

ゼオル:なんか恥ずかしいな……(笑)。

GM:見事に心の強さを見せてくれたじゃないか(笑)。

アンリ:「やはり間違ってなかった。あなたたちで……あなたたちで本当に良かった。あなたたちを使わせてくれたメイに感謝します」

クラウス:「なんか、少々照れくさいですね」

ウィル:お互いに強くなったことは見てわかるんですか?

GM:見たところ変化はないですね。

アンリ:「あなたたちはわたしの力からも守られる存在――守護者として認められました。これでわたしの力はいつでも使えます。あの者たちから聖域を守る力を。では、長老のところに報告に戻りましょう」

クラウス:「そうしましょう」

ウィル:では、あらためて俺はゼオルの方に向き直って、手を差し出しました。「ゼオル、お互いまだまだ未熟な人間だ。場合によっては女神クローディアが言ったように、技に、力に、そして欲に溺れてしまうことがあるかもしれない。もし俺がそのようなことになってしまったときには、お前が俺を照らしてくれ。お前が光をかざしてくれるなら、俺は道を失わずに済むはずなんだ。もちろん、お前がもし闇に堕ちそうになったときには俺が全力で引き上げてみせる」

ゼオル:ゼオルは身体を斜めにしてウィルに半身を見せる格好でそっぽを向きながら手を出した。

クラウス:流行のツンなんとかって奴ですか?(笑)

ゼオル:素直に握手なんて照れくさくてやってらんねぇよ!(照)

 こうして無事に守護者の試練を乗り越えたウィルたちは遺跡を後にして、神殿に戻るのでした。

 闇の光に包まれた後にアンリに別室で伝えた情報とは、これから起こることが幻覚で守護者になるための心の試練だということでした。本当は別の形で心の試練を用意していたのですが、ゼオルが自分の弱さを露土してまで仲間や自分の心を売ることにあがなった強さと、ウィルが寛容さを見せつつも、それでも手向かうなら切り捨てると覚悟を決めた強さを見せられて、心の試練で推し量ろうとしていたものは十分見せてもらったと判断し、用意していたイベントは省くことにしました。

クラウス:えーと、私は特に何もしませんでしたが、守護者として認められてよかったんでしょうか?

GM:えー、あー、まあ、見守ったということで(笑)。




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