LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 35.作戦

 力強い作戦会議風のBGM。

GM:翌朝、エルモ長老を前にして今後の作戦会議が開かれます。

クラウス:お祈りだけはさせてください。(ころころ)。一応、お祈りの魔力も控えておこうかな。“ディスペル・マジック”がくるかもしれませんしね。

 GMがエルモ長老カーライル女男爵アルトのカードを提示する。

GM(エルモ長老):「で、今後どうするかじゃが」

GM:……ということで状況を説明します。あなたたちが守護者の試練を受けている間に集められた情報によると、強硬派はクローネの民が元々暮らしていた集落を拠点として聖域の外周近くの遺跡探索を開始し、すでにいくつかの魔法の品を手に入れているようです。このまま遺跡探索がずっと続けば、外界の兵たちは徐々に力をつけ、クローネの戦力では太刀打ちできなくなってしまうだろうということが予想されます。それに加えてアインから新たな情報がもたらされます。

GM(アイン):「新しい情報だ。以前、俺たちが暮らしていた集落に、黒い鎧に身を包んだ数名の兵士に守られて二人の男が入ってきた。ひとりは大剣の使い手のようで剣を背負っていた。なぜだかはわからないが、その男は俺の存在には気づきつつ、あえて気づかぬ振りをしてるようだった。もうひとりは肥え太った男だった」

クラウス:「おそらく黒い鎧に身を包んだ兵というのは大公の守り手として名高いブラック・ナイトでしょうね。四名で構成されていると聞いたことがあります」

GM:(公にしている正規の騎士ではないので名高くはないけど……クラウスらしい物言いではあるか……)。それではブラック・ナイトという単語が出てきたので、外界の三人は知識判定を知力ボーナス+2Dで行ってください。

ウィル:(ころころ)6ゾロ。戦闘以外のこういうところでは良い目がでるな(笑)。

ゼオル:俺だって出目が11だったのに……。

GM:きっとウィルは国内の腕が立つ者のことをチェックしてるんですよ。ブラック・ナイトというのはオルコット大公子飼いの騎士くずれですね。戦闘能力に優れ、その腕前は騎士サディアスに肉薄すると噂されています。しかし、彼らは奴隷上がりなどの生まれの良くない者たちで、全うな教育も受けていないため、オルコット大公は公の場では連れ歩きません。彼らは主に表沙汰にできない仕事を行っているようです。

ウィル:「ブラック・ナイトといえば……という奴らだな」

クラウス:「ウィルの方が詳しそうですね」

ゼオル:「よくそんなことまで知ってたな」。騎士マニアはこれだから(笑)。

ウィル:(ゼオルに対して)「俺はてっきりお前もブラック・ナイトへの声掛けをされていたのかと思っていたんだが……」

ゼオル:「まあ、大公に直接声を掛けられるほどじゃなかったってことさ」

GM:たしかに大公はゼオルには興味を示してなかったようです。

クラウス:オルコット大公はファイターが好みだったみたいですね。

ゼオル:「そうすると、聖域に大公が来てるってことか……」

アンリ:「今のお話で察する限り、本当に滅ぼすべき相手が来ているということですか?」

クラウス:クラウスはいつも持っている本をペラペラと捲って「オルコット大公はあまり良くない噂が絶えませんからね。ギルモア王国が和平条約の締結を求めたとき最初に接触したのがオルコット大公らしいです」

GM:(それは誤解だけど、話しの流れに差し支えない限りはそのまま進めようか)。

クラウス:「もしかすると、ギルモア王国がレイフィールド王国に和平を持ちかけたときの条件は平等条約だったのかもしれません。それをオルコット大公が不平等条約にすりかえた可能性があります。そこはご本人に確認してみなければわかりませんが」

ゼオル:「なるほど、そうかもしれない」

 条約締結を求める御名御璽の刻された書簡は、正式な使者が封をした状態でレイフィールド国王のもとへ届けています。いくらなんでも、そんな重要なものを本国の人間の手から離して相手国の重鎮経由で届けるようなことはしません。クラウスの言っているギルモア王国が最初に接触したのはオルコット大公だという話は条約締結云々よりもっと前の段階の話です。これは、オープニング直後のオルコット大公とベネット伯の密談においても触れられています。

ゼオル:「だが、オルコット大公も実際にはたきつけられただけとも考えられる。大公は元々穏健派にくみしようとしていたらしい」

GM(カーライル):「えっ? では、なぜオルコット大公は強硬派に鞍替えしたのですか?」

ゼオル:(カーライルに対して)「ベネット伯がオルコット大公に接触して強硬派に鞍替えするようにそそのかしたんです」

GM(カーライル):「ベネット伯が? わたくしはてっきりベネット伯はオルコット大公に弱みを握られて強硬派に属しているのかと思っていましたが……」

ゼオル:「実際に裏で糸を引いていたのはオルコット大公じゃなかったということですよ」

クラウス:「たしかベネット伯は以前の聖域侵攻作戦に参加してますからね。そのときに重症を負ったことでこの地に何らかの恨みを抱いていたとしても不思議ではありません。なおかつ、情報収集には優れた手腕を発揮する方ですからね」

ゼオル:「そういう意味では、元凶を叩くならオルコット大公よりも優先すべき人物が居る」

クラウス:「ベネット伯ということですか……」

ゼオル:「今回の俺への指示も、裏で糸を引いていたのはベネット伯だ」

GM:……(吹き出しそうなのを必死で堪える)。

クラウス:「ベネット伯は聖域の力を手にしてギルモア王国と戦うつもりなのでしょうか?」

ゼオル:「どうだろう?」

クラウス:「聖域についてはかなりお詳しいようですし……」

ゼオル:「何かまだ引っかかることがあるのか?」

クラウス:「ベネット伯の関係者に聖域出身者がいる可能性は高いのではないでしょうか? あなたにアンリというカギを押さえろという指示を出すのはそういったことがなければできないことでしょう」

ゼオル:(キャラクターの個別情報が書かれた紙を読み直して)「すまない、ひとつ言い忘れていたことがある」

クラウス:吐け! さあ、吐け!(笑)

ゼオル:そんな大したことじゃないんだよ。「ベネット伯は深淵の力を持った者は肌に大きな魔方陣のような痣ができるとだけ言っていた」。まさか痣を見つけるより先に本人が告白してくるとは思わなかった(笑)。だから、痣の情報はもういいやって……。

 十分大した情報です。危うく、聖域出身の裏切り者がでっちあげられるところでした。また、ゼオルの持っている情報はそれだけではないはずなのですが、完全に失念しているようです。GM側から記憶術判定を行わせて軌道修正を図ってもよかったのですが、物語も終盤なので、プレイヤーの自由にしてもらうことにしました。

クラウス:「ということは、アンリ個人を特定していたわけではないと……。では前回の聖域侵攻で深淵の力を目撃したから、あの力はやばいということになったのでしょうか?」

ゼオル:「だが、死んだら次の御子に力が移るということを知っていたのはおかしくないか?」

クラウス:「それは、たしかにそうかもしれないですが……。これもベネット伯に直接聞いてみなければわかりませんね」。(深淵の御子の存在で強硬派の士気を落とそうと考えていたらしく……)そうすると痣を見せただけでは引いてくれないか。

アンリ:逆に捕獲するためによってくると思う。

ゼオル:たしかに、チャンス!って捕まえにくる可能性はある(笑)。

クラウス:よし、こうなったらダミーでクローネの女性全員の肌に痣を刻むんだ。これでわかるまい!(笑)

 クラウスが女性全員と言ったところで、彼が「御子」を「巫女」と勘違いしていることが判明しました。確かに「ミコ」と口頭で言われると「巫女」を想像してしまうかもしれません。しかし、「御子」と「巫女」では意味合いがかなり変わってきます。アンリのポジションが男性になる可能性を残しておいたことから察してもらえるとよかったのですが。

GM(カーライル):「彼らの真意はわかりませんが、どちらにしてもあの二人を止めることができれば今回の聖域侵攻はそこで終息させることができそうですね」

クラウス:「強硬派の中でも特に活発な動きを見せている彼らが沈黙すれば、他の強硬派の者たちも活動できなくなるでしょう」

ゼオル:「ならばこちらから打って出るか?」

クラウス:「難しいところですね」

アンリ:「戦い方は守護者であるあなたたちに決めてもらったほうが間違いないと思います……。ただ、ひとつだけ確認したいのですが、この一度の戦いだけであなたたちの国の中のわたしたちに対して敵対関係を取ろうとする者は一掃されるのですね? そして、あなたたちはあなたたちの国をまとめてわたしたちと仲良く暮らしていくことができるのですね?」

GM:(これは狙って言ってるよなぁ(笑))。

クラウス:「一度の戦いで一掃するのは難しいかもしれません。新たな思想を持った者が権力の座につけば覆ってしまうこともあります。しかし、しばらくの間であれば保証できると思います」

アンリ:(しばらく考えて)「長老。戦いの後、わたくしはこの聖域を離れてもよろしいでしょうか?」

GM(エルモ長老):「どういうことじゃ?」

アンリ:「この戦いの後に本当に外界の者たちがわたしたちとより良い関係を結べるのか、それをこの目で確認したいのです」

GM(エルモ長老):「時間が許すのであれば……」

アンリ:うなずいた。「わたしの準備はいつでも大丈夫です。もし今が好機というのであれば、すぐにでも向かいます」

ウィル:「現在の強硬派の他の動きというのは把握できているのか?」と言ってアインを見るのですが。

GM(アイン):「小部隊にわかれて遺跡を探索しているのが半分、残り半分は集落に常駐している。全部で二百人というところだな」

GM:これは以前の聖域侵攻のときの情報から考えると、深淵の力に対抗する戦力としては少ないですね。二百人程度で深淵の力に対抗しようとしているとは考えられません。つまり、彼らは深淵の力に対してはゼオルの働きに期待しているわけです。

ゼオル:一発逆転の作戦に期待しているのにたいへん申し訳ない!(笑)

ウィル:馬鹿めー! 深淵の力はこちらにあるのだー!

ゼオル:とは言っても深淵の力を使わなければちょっと二百人にはかなわないかな。

GM:さすがに深淵の力なしで二百人殲滅しろと言われても無理でしょうね。(殲滅しろ……ならね)。

アンリ:「いま思いついたんですが、ゼオルさんは未だに相手にとっては間者であると思われているわけですよね?」

クラウス:「それは! アンリ、あなたをたいへん危険な目にあわせることになる」クラウスは何かわかっているような目をして訴えるようにアンリに言いました。「たしかに私はその作戦は有効であるとは思います。ただ……」

アンリ:「いえ、わたしは今ここに来ている戦士たちが倒すべき相手のすべてであるかが知りたいだけです。なので、もしそれを知る機会がゼオルさんにあるのであれば……。それがわかればわたしも安心できるのです」

 アンリを囮にして強硬派の頭を討つ作戦を想像してアンリの身を案じるクラウスと、とりあえずゼオルに強硬派の戦力調査に行ってきて欲しいと考えていた堅実なアンリとのギャップがちょっと面白いです。

クラウス:私兵の数はどれくらいなんですかね?

GM:具体的にはわかりませんが、これまでの話の中で私兵はあまり動かさず大半を傭兵で賄っているという会話がありましたね。全体で二百人ということなんで、それを指揮するのに最低でも全体の十分の一くらいの私兵は必要になると予想できます。となると二十人以上ですね。ちなみにこれまで登場した敵の中で金属鎧を装備していたのが私兵で、革鎧を装備していたのが傭兵になります。

クラウス:「敵の二百人のうち百八十人程は金で雇われた傭兵です。彼ら自身にこの聖域に侵攻する意志はないでしょう。実質頭の二十人、特にベネット伯とオルコット大公、それと部下のブラック・ナイトと騎士サディアスを潰せれば散り散りになることは間違いありません」

GM:さすがに私兵だけで統率を取って聖域侵攻を続行することはないでしょうからね。

クラウス:「倒さなくてはならない一番の相手はベネット伯ですね。ベネット伯を倒すことができれば、オルコット大公は降伏させられるでしょう」ゼオルの方を見て「で、どうなんですか?」

ゼオル:「どうというと? 情報を集めてきて欲しいなら集めてくるが」

クラウス:一時期ゼオルを放つ。

アンリ:逆スパイ作戦。

ゼオル:「だが、逆スパイもこのタイミングだと向こうの警戒的にリスクが高いかもしれん」。この終盤になって御子を連れて行かなかったら、お前なんで戻ってきたの?って言われちゃうかもしれない。

クラウス:「なら、やはりアンリも連れて行きますか?」。実は餌じゃないよ作戦!

アンリ:「お任せします」。プレイヤー的にはちょっと危険かも知れないと思う。深淵の力は準備時間があれば強い、けど、準備できないと弱い(笑)。

クラウス:キャラクター的には囮作戦が結構良いのかなと思ってるんですけど、プレイヤー的には“メテオ・ストライク”とかを周りから打ち込んでいったほうが強いと思います。

ゼオル:絨毯爆撃したほうが強いよね。

GM:(この場合は強さは比較対象にならないんじゃないかな?)。GMとしてはどちらでも構わないよ。

ウィル:“メテオ・ストライク”は深淵の力なんですか?

GM:アンリがこれまで使っていなかった黒魔法は深淵の力です。

ゼオル:まあ、いずれにしてもブラック・ナイトと騎士サディアスとオルコット大公とベネット伯を一気に一網打尽にするには深淵の力を借りるほかないな。つまり、深淵の力を使うことは大前提!

GM:(あらら。深淵の力を使わずに済ませる方法を提示できるはずのゼオルがこう言うんじゃ、進むルートはほぼ決定かな? ここでGMからフォロー入れると強制的にルートを選んだ感じになりかねないしなぁ……)。

クラウス:カーライル女男爵に確認しておきますが、やっちゃって良いんですよね?

GM(カーライル):「ここで彼らを止める以外に手はないでしょう」

クラウス:それじゃ、これでやっちゃった後にカーライル女男爵から、あなたたち何をしてるんですか!?とは言われないですね。

GM:むしろ、カーライル女男爵はあなたたちをそんな危険な目にあわせてしまい申し訳ないといった感じです。

クラウス:じゃあ、実力行使でいきますか!

ウィル:いくしかない……のかなぁ?

GM:(おっ? さすがにウィルは深淵の力を使うことに抵抗があるみたいだな)。

ゼオル:爆撃、爆撃。正面から。

ウィル:深淵の力を使っても……なんだか……うーん。

アンリ:いいよー。

ウィル:……!(当事者であるアンリの言葉に何かが切れた)

クラウス:正面から絨毯爆撃していきますか。ラスボス的なノリで(笑)。

ウィル:(ラスボスっぽいドスの効いた声で)馬鹿めー!(笑)

ゼオル:ラスボスは奇襲しちゃいけないと思う。

ウィル:ラスボスが奇襲しておいて、残った奴らに、どうやらこの私と戦う資格があるのはお前とお前とお前とお前と……結構いるな?みたいな(笑)。

GM:(ウィルが壊れた(笑))。

クラウス:「正直、深淵の力を使わずに解決する策は私には思いつきません。もうここまできたら深淵の力をつかって事態の解決を図るしか……力及ばず申し訳ないのですが。深淵の力を一度見せるだけでも威嚇行為になるでしょう。そこで虚をついてから敵軍の中枢を叩くような感じで行ければと思うのですが……」

ゼオル:「傭兵は深淵の力を見せられたら逃げる可能性は高い。俺でも逃げる」

クラウス:「私も逃げますね」。キャラクターは囮作戦でも良いのかなと思ってるんですけど、囮作戦は危ない臭いしかしないんですよね。そこが嫌です。

ゼオル:囮作戦をするためには綿密な作戦を立てる必要があるからなぁ。

GM:では、深淵の力を使って集落への絨毯爆撃を行う……でいいですか?

クラウス:もう、ここまできたらラスボスのノリ(笑)。

GM:攻め入る時刻はどれくらいにしますか?

クラウス:燃え上がってるのが見えるから昼間の方がいいのかな? 昼間で。

ゼオル:燃え上がってるのは夜のほうが良く見えるんじゃ?

クラウス:我々はこんなに完璧に準備していたのに、やられた!っていう心理的効果を狙って昼間にしましょう。夜襲よりも精神的ショックが大きいと思います。

ゼオル:力で上からねじ伏せる(笑)。

GM:では他に何もなければ、このまますぐに集落に攻め入るということで。

 作戦を立てるために必要な材料はこれまでに色々だしてきたはずなんですが、緻密な作戦を立てること自体を避けようとするのであれば、自ずと難易度の低いルートを進むことになります。ちなみに、深淵の力を使う難易度の低いルートこそ、GMが想定していた本流で、深淵の力を使わない難易度の高い方がエクストラ・ルートです。

 最後まで深淵の力に頼ることを迷っていたウィルも、結局はゼオルとクラウスに押し負けてしまいました。このシーンでのウィルはこれまでに比べて極端に口数が減っていました。おそらく前のシーンでのアルトとの会話が心に引っかかり、そのことを考えていたのでゼオルとクラウスの話に乗れなかったのでしょう。このシーンの主導権をウィルが握っていたら、もしかすると運命は変わっていたかもしれません。




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