LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 39.交渉

 深い悲しみと謎を感じさせるBGM。

GM:努めて落ち着き払ったベネット伯があなたたちの方を見ました。

GM(ベネット):「さすがとしか言いようがないな」。アンリを見て「久々にその力を見たが、恐ろしくて身震いが止まらん。強硬派の旗手である大公と、その腹心が戦死。大公の私兵団も半ば壊滅か……。この戦いもここまでだろう。これ以上無駄な犠牲は出したくない」

GM:ベネット伯は降伏を示すように両手を上げます。彼はずっと剣は抜かず、背負ったままです。

GM(ベネット):「退却の合図を出したいが構わないか?」

アンリ:「またここに、聖地を奪いに来るのですか、あなたたちは?」

GM(ベネット):「できればそうしたくないが、やむを得ない場合には仕方ないな。それはこれからの話次第だ」

アンリ:「これからの話?」

GM:ベネット伯は首から提げている笛を摘まんで、それを吹いてもいいかといったしぐさをみせました。

ウィル:「逃げる者を討つつもりはない」

アンリ:「わたしもあなたたちの同胞をこれ以上失わせたくはありません。どうぞ」

GM(ベネット):「助かる」

GM:ベネット伯が笛を吹くと、甲高い笛の音が聖域に響き渡りました。

GM(ベネット):「これで兵士たちは各々聖域の外まで撤退するだろう」

ゼオル:「ローレンスさん。あなたがしたかったことは何なんです? そんなに俺を信じていたんですか?」

GM(ベネット):苦笑いして、「信じていたさ。ついさっきまでな。お前がうまく深淵の力を無力化してくれれば、最小限の被害で神の遺産を手に入れることができただろう。だが、お前はその道を拒んだんだな……」

ゼオル:「俺はすべてを捨てたつもりで、あなたの依頼を受けた。だが、俺は、俺の中にある騎士の理想までは捨てられなかった」

GM(ベネット):「それはそれで、お前個人としては良い選択だったんだろう。以前より少しは騎士らしい顔つきになったか?」

ゼオル:「俺を高く買ってくれていたことには感謝しています」

GM(ベネット):「なに、俺は実力通りの評価をしただけだ」

ゼオル:「恩を仇で返すことになってしまい、すみません」

GM(ベネット):「……それは、どうかな?」(しばらく間を置いて)「俺が何をしたがっていたかという話だが……」

ゼオル:「はい」

GM(ベネット):「俺がやろうとしていたことは、ギルモア王国からこのレイフィールド王国を守ること、それだけだ」

アンリ:「そこまでギルモア王国はレイフィールド王国に対して好戦的になっているのですか?」

GM(ベネット):「そうだ。ギルモア王国は内部での権力闘争が絶えんところだ。外敵を作っていなければいつ内戦が起こるかもわからん状態のギルモア王国が目をつけたのがレイフィールド王国だった。特にここには神々の中でも強い力を持っていたと言われるクローディアの聖域がある。奴らは神の遺産を含めたレイフィールド王国全土を欲している。ギルモア王国が神の遺産を手に入れようとするなら、その前に俺たちが遺産を手にして有益に使うべきだ……と俺は考えているんだが」(アンリに対して)「まあ、お前たちクローネの民にとってはギルモア王国だろうが、レイフィールド王国だろうが、どちらでも変わらんのかもしれんな」

ゼオル:「ですが、ローレンスさん、あなたにはギルモア王家の血を引く妻が……」

GM(ベネット):「そのことはあまり関係ないさ。俺は、この大陸の各国を渡り歩いた。故郷っていう贔屓目があるのかもしれんがレイフィールドは良い国だ。一部、富と権力におぼれる屑も居るが、よその国はもっと酷い。人の話に耳を傾ける柔軟さを持ち、かつ慎重な国王と、聖人のような綺麗ごとを本気で実現しようとする爵位持ちが居るだけでも、この国は先が期待できるってもんだ」

 ベネット伯は一息置いて、ウィルたちに視線を向けます。

GM(ベネット):「もともと、ギルモア王国はオルコット大公に接触し、レイフィールド王国を売るように話を持ちかけた。その見返りとしてレイフィールド属国王という餌をぶら下げてな。浅はかなオルコット大公がそれに飛びつきそうになったんで、俺はオルコット大公に『貴方は属国王程度に収まる人ではありません。それよりも神の遺産を手に入れて真のレイフィールド国王になってみてはいかがですか』と誘いをかけた。狙い通りオルコット大公はその策に乗ってきた。そして、俺たちはこの聖域を目指したわけだ。俺は深淵の力がどういうものなのか、身をもって知っている。大陸各地の他の聖域も巡り、深淵の力の本質もある程度は理解しているつもりだ。その力さえ封じることができれば、大した被害を出さずに遺産を手に入れることができると思ったんだが……そうそう計画通りにはいかんものだな」

 ゼオルを見て苦笑いを浮かべるベネット伯。

GM(ベネット):「まあ、すべてが計画通りに進まなくとも、最終的な結果が得られれば俺はそれでいい。ギルモア王国からレイフィールド王国を守るために必要なのは聖域に眠る遺産だ」

 ベネット伯はあらためてアンリを正面に見据えます。

GM(ベネット):「なあ、クローネの御子よ。神の空き家を守り続けて、この先いったいどうなる? 神の遺産を人間が使うことは許されないことなのか? 神はそれを禁じたのか? 月並みな話だが遺産が善行に使われるか悪行に使われるかは使い手次第だろ? それは強大な力を持っているお前自身が一番良くわかっているはずだ。誰を遺産の担い手とするかはお前らクローネの民次第だ。レイフィールド王国を選ぶのか、ギルモア王国を選ぶのか……。もし、お前らがギルモア王国を選ぶというのなら、そのときは……」と言って、背負った剣の柄に手をかける。

アンリ:「あなたは聖域に眠るクローディア様の遺産を持ち出して、ギルモア王国と戦いたいのですね?」

GM(ベネット):「防衛のために……な。俺の妻たちもこの国が気に入ってるんだ」

クラウス:「アンリ、私はこの聖域に神の遺産があることをあまり良いことだとは思っていません。なぜなら、ここに遺産がある限り今回のようなことが繰り返し起こるからです。神の遺産はそれほどに魅力的です。エルモ長老に掛け合って、遺産の扱いについて考えてもらうことはできないでしょうか?」

アンリ:「その気持ちは、ゼオル……あなたたちも同じ?」

ウィル:GM、質問なんですが、ギルモア王国は他の聖域の遺産を戦争に利用したりしてるんですか?

GM:はい。ギルモア王国とカーティス王国はすでに遺産を軍事利用しています。他の神の配下にあった力の弱い神々の聖域を制圧することはさほど難しくないですから。レイフィールド王国内にも女神クローディア以外の力の弱い神々の聖域があるんですよ。

ウィル:なるほど……。

クラウス:「私は他の国の盗掘された聖域を見たことがありますが、人と聖域の守り手が交渉して遺産を譲り渡したという話は聞いたことがありません。この地でそれが行われたのであれば、それは素晴らしいことだと思います。もちろん、聖域からの一方的な提供ではなく、レイフィールド王国からも何か提供して……そういった交易ができれば理想的なのですが。正直、聖域に来るまではそんなことは夢物語だと思っていましたが……」

アンリ:「守護者たちよ、もしあなたたちの考えがそうであるのなら、わたしはエルモ長老にお話してみるつもりです。今のわたしの言葉であれば、長老やその他の民たちも耳を傾けてくれるはずです」(ベネットに対して)「それだけの時間はいただけるでしょうか?」

GM(ベネット):「あまりにも長い時間は掛けられないが……それ以外に道もない」

アンリ:「もしあなたが誠意を持っていらっしゃるなら、わたしが長老に話をして説得を試みる代わりに、今までに遺跡から奪った遺産をすべて返してくれませんか?」

GM(ベネット):頭をかいて「誠意……と言われると弱いんだが。しかし、遺産を貸し出してくれるというのであれば、これまでに手に入れた遺産はすべて返そう」

アンリ:「そうしてもらってからでないと、長老たちは話を聞き入れてくれないと思います」

クラウス:「それには賛成です」

アンリ:それが可能であれば、遺産を持って長老の下へ帰ります。そのうえで長老と話をしたいと思います。

ゼオル:「聖域を守ることが使命だった民たちにこういうまねをするのは忍びないがな……」

GM(ベネット):「ここに盗掘したものはすべて集めてあるはずだ。運ぶにしても兵士たちは撤退させてしまった。人手を貸して欲しい」

アンリ:クローネの戦士を呼んで物品を回収して……。

GM:では、クローネの戦士たちの手を借りて、聖域奥の神殿に盗掘された遺産を運んでいきます。

 ベネット伯との交渉により、大陸初の聖域と外界との公な交流が始まろうとしていました。そして、そんな大きな交渉に隠れて、もうひとつの交渉が行われていたのでした。

GM:聖域奥の神殿に移動する途中で、ベネット伯がゼオルに対して尋ねてきます。

GM(ベネット):「おい、ゼオル。お前、どうして自分が騎士叙勲から漏れたかわかるか?」

ゼオル:「解放奴隷の子だからじゃないんですか?」

GM(ベネット):(ため息をついてから)「その言葉がすべてを物語っているな……。はっきり言っておくが、お前が騎士に成れなかったのは、お前が騎士としては使い物にならんからだ。お前の剣は鋭く速いが、いかんせん軽すぎる」

ゼオル:だって、剣闘士は薄い鎧ばかり装備するしさぁ。

GM(ベネット):「お前の戦い方は甲冑に身を包んだ者との戦いには向かん。そして、お前自身も騎士として甲冑に身を包んでしまっては、その長所である身のこなしが発揮できなくなってしまう。お前は剣闘士としては一流かもしれんが、騎士としては三流以下だ」

ゼオル:「たしかに……そうでしょうね……」

GM(ベネット):「そんなお前を騎士として召抱えようというやつがいると思うか? そして、何より……」(あらためてゼオルの目を見て)「解放奴隷の子だから騎士にしてもらえなかった、なんて考える奴は騎士失格だ!」

ゼオル:(がーん!)

GM(ベネット):「しかしな、ゼオル。お前は密偵としては優秀だ。もし今後その力を活かす気があるなら、俺の腕になれ」

ゼオル:「ローレンスさん……」

GM(ベネット):「騎士程度の地位や報酬はくれてやる。お前にはそれだけの価値がある。この聖域を離れる前に答えを考えておいてくれ」

 数刻前に行われた作戦会議でゼオルがベネット伯のことを何と言っていたのか、ベネット伯に教えてあげたい(笑)。結局、セッション中にゼオルがベネット伯に対して返答するシーンはありませんでしたが、セッション後の参加者同士での雑談によれば、ゼオルはベネット伯の密偵となったようです。腕の立つベネット伯に仕えていれば剣の修行をつけてもらえることもあるでしょうし、ゼオルが騎士の道を諦めないのであれば、彼のファイター技能1レベルも少しは向上することでしょう。

GM:こうして皆で一度神殿に移動しようとするのですが、その前に、アンリは精神抵抗判定をしてください。

アンリ:(ころころ……出目は3)ワン・ツー!

GM:それでは、ドクンッと自分の中で何かが脈打つ感覚を味わいました。

アンリ:はい。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。