LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 余談:第1章

【06.酒場】より

「クラウスの片眼鏡」

 クラウスが持っていないはずのアイテムを持っていたシリーズ、第一段。

 魔法使いを連想させる小道具としてクラウスが片眼鏡を出したのは良くわかりますが、現実世界での片眼鏡の登場は通常の両レンズ眼鏡より新しく、十九世紀頃の上流階級の流行アイテムだったということです。魔法使いらしらを演出するのであれば、本の上に置いて使う平凸半球型のレンズなどを使って見せたほうが適当だったかもしれません。

 LOSTにおいて聖域の守護者の時代に眼鏡用のレンズを加工する技術があったかというと、人間社会には未だないということになります。では、クラウスが片眼鏡を使っているのはありえないことなのでしょうか? 彼がつけていた片眼鏡が神の遺産であったとすれば、それは存在してもおかしくはありません。ただし、そうであったとすればとんでもない金額で取引される希少品となり、ゲームバランスを破壊する恐れもあるので扱いに注意が必要です。

 この後もセッション中に本来存在しえないだろうアイテムが少なからず登場しますが、それはわたしを含めた参加者全員がキャラクタープレイによる物語構築を主体にTRPGをプレイしており、アイテムや金銭管理を軽視する傾向があるためだと思われます。クラウスが片眼鏡をつけている描写をした時点でこれらのことに気づいていましたが、このセッションではゲームバランス自体に影響しない限りは雰囲気作りの一環として黙認しています。

「機械仕掛けの時計」

 時計に関しては、聖域の守護者の時代では大掛かりな機械仕掛けの時計はあるものの持ち運び可能な時計はないとしています。これはできれば神の遺産としても登場させたくないアイテムです。

 ちなみに技術大国レイフィールドのお城の鐘は水流を動力とした機械仕掛けのものです。

「ウィルは若干華奢?」

 筋力19で生命力22のウィルが若干華奢というのはちょっと相応しくないかもしれません。物語を先まで読んでいくと、ウィルの体躯はベルセルクのガッツとまでは行かなくとも、かなり良いものであるように思えます。

 わたしのイメージだと、ゼオルより少し背は低いものの、肉付きは一回り大きい感じです。大剣を振り回しているので、後背筋は特にたくましいことでしょう。

「借りてきた猫」

 ウィルが拾い猫を連れて登場するシーンには、彼の人間性が上手く表れています。おそらくウィルが登場する直前のGMによる雨の描写を受けて思いついたのだと思いますが、ものの数分の間にここまで的確にキャラクター性を伝える演出を思いつくところなどはウィルのプレイヤーの引き出しの多さを伺わせます。こういったところはぜひ見習いたいものです。

【07.密談】より

「GMの一人芝居」

 文章を見ての通り、GMが一人二役、三役を演じています。声色を変えて演じわけするのですが、それだけではプレイヤーにはわかりにくい部分もあったかと思います。似たようなタイプの登場人物が居ると二役を演じ別けるのも一苦労です。そこをキャラクターカードなどの小道具を使ってフォローしています。

「レイフィールド属国王」

 オルコット大公が実にサラリと「素直にレイフィールド属国王になっておったほうが良かった」などと重要発言をしています。言葉通りの意味であれば、「オルコット大公はギルモア王国から属国王の地位を見返りとしてレイフィールド王国を売るように声をかけられたことがあったが断った。なぜなら属国王より上の地位――レイフィールド王位を狙っているからだ」ということになります。

 あまりにサラリと流したせいか、プレイヤーの意識には残らなかったようで、プレイヤー同士の相談でもこのことに触れることはありませんでした。ゼオルはこの場で話を聞いていたので、強硬派を裏切った後にはこの事実を公にすることもできたはずでしたが……。

「ゼオルとラッツ」

 天井からオルコット大公の屋敷内を盗み見る人影。GMはプレイヤーに対してこの人影をゼオルだと思わせようとミスディレクションを仕掛けていますが、実際はこの人影こそカーライル女男爵の密偵ラッツであり、ベネット伯の裏に控えていた兵士が本物のゼオルです。ラッツはこの後、追いかけてきたサディアスに殺害されてしまいます。

 シナリオ制作時にはゼオル対ラッツのシーンを見せる構想もありましたが、ゼオルがラッツを殺害しているとなると、中盤以降の身の振り方が縛られてしまうのではないかと考え、手は汚していないこととしました。

【08.報告】より

「ゼオルの傷とクラウスの白魔法」

 ゼオルが肩口に傷を負っていたのは、カーライル女男爵に情報をリークするときに真実味が増すようにとサディアスが斬りつけたという設定ですが、どちらかと言えばカーライル女男爵へのカモフラージュというよりはプレイヤーに対してのカモフラージュの意味合いが強いです。ゼオルの傷が浅くて済んだのはサディアスの攻撃だったからで、ベネット伯の投げたナイフの傷であったのなら最低でも9点のダメージとなります。長剣よりもナイフの方が痛いのはソード・ワールドRPGの冒険者レベル至上主義ルールのご愛嬌です(笑)。

 ウィルのプレイヤーはミスディレクションの可能性を疑っていたのか、その傷口が切り傷なのか刺し傷なのかを知りたがっていましたが、クラウスが先にそれを拒んでしまったため、傷口を鑑定するには至りませんでした。このときヒーラー技能を用いた傷口鑑定の判定に成功すれば、長剣で付けられた傷であることを伝える予定でした。

 また、クラウスが“キュア・ウーンズ”を唱えてゼオルの傷を癒しましたが、GMが事前に用意していたデータでは、クラウスは白魔法を使えないはずであり、クラウスのヒーラー技能によって応急手当を行ってもらい、その後、カーライル女男爵に白魔法で完全に癒してもらう予定でした。ゼオルを優しく介護することでカーライル女男爵の母性をアピールするつもりでしたが、そのシーンはあえなく消滅してしまいました。

「シーフの記憶術乱発」

 このセッションの中盤くらいまで、GMの指示で頻繁にシーフの記憶術が利用されています。これはプレイヤーの失念により物語の展開が左右されることをGMが嫌ったからです。意思決定の結果で展開が変化するのは大歓迎ですが、物語序盤での失念による迷走は避けたいところです。

 中盤以降は自由度を高くしても物語として破綻せずに収束させられる見通しがついていたことと、勘違いで進めても面白いかなとGMが判断したため記憶術判定を行っていません。

 ちなみに、今回のセッションではプレイヤーの失念による勘違いが多発していましたが、プレイのコツとして、自分のPCが得た情報とそれ以外のプレイヤーが知った情報を分けて簡潔に箇条書きしておくと円滑にプレイできることを紹介しておきます。これは簡単なわりに効果的なのですが、あまり実践している人を見かけません。たとえあなたがキャラクタープレイ重視のプレイヤーであり、知力が低くいPCを演じていたのだとしても、プレイヤーが最大限の知的努力をすることでプレイに支障がでることはありません。

「カーライル女男爵は清廉潔白?」

 強硬派の動きを探るべく、オルコット大公とベネット伯の元へ密偵ラッツを出していたカーライル女男爵。世間では清廉潔白と言われている彼女ですが、それなりの手段は講じているようです。そして、彼女のもとへラッツの代わりに情報を持ってきたゼオル。すぐには疑わないにしても、数日が経過してラッツが行方不明になってしまったことが明らかになれば、カーライル女男爵がゼオルに対して疑念を抱くようになったとしても不思議ではないでしょう。ゼオルが裏切りルートを突っ走ったときには彼女の手腕が発揮されるシーンも予定されていたのですが、このセッションでは見られませんでした。

「オルコット大公が率いているのは傭兵? それとも正規兵?」

 穏健派の有力者たちの台詞のひとつである「オルコット大公が聖域に兵を向かわせる」というのを「オルコット大公が正規兵を向かわせる」と聞き間違えたウィルが疑問に思って確認しています。セッション中、GMには何のことを言っているのかわかりませんでしたが、クラウスにも同様に聞こえていたようです。

 録音を聞きなおす限りは「聖域に兵を向かわせる」と聞き取れるのですが、たしかに流れで耳にすると勘違いするかもしれません。

「GMが想定していたPC発言」

 聖域に侵攻しようとする強硬派に対して穏健派はどのような対応をするべきかという問いかけがでたときに、ゼオルからクローネの民への接触案がでることをGMは期待していました。何せ、ゼオルに与えられた役目は「穏健派の一員としてクローネの民と接触し、信頼を得たうえで御子を特定して無力化しろ」ということなのですから。

 ちなみに、今回のセッションのようにゼオルが積極的に動かないこともGMの想定範囲内でした。本来慎重な性格であるはずのゼオルが率先して行動していたら、周りから疑われてしまいますから、極力ウィルの影に隠れて潜伏するのは正攻法のひとつです。物語上の演出をとるか、キャラクターとしての勝利をとるか、ゼオルのプレイヤーの腕の見せ所です。

【09.記憶】より

「カットするはずだったシーン」

 カーライル女男爵の回想シーンでアンリとメイの過去の話が語られますが、シナリオ制作時にはアンリのキャラクター設定に「外界の女性であるメイと友好関係にある」とだけ付け加えて、このシーンはカットするつもりでした。しかし、今回のセッションではプレイ時間の制約が比較的ゆるかったことと、このシーンを逃すとアンリの初登場がかなり後になってしまうことから実際にプレイすることになりました。

 TRPGのセッションは水物ですから、実際にプレイすることによってアンリとメイの関係が希薄になってしまったり、後々矛盾するできごとが発生してしまったりすることもあるのですが、今回のプレイではGMの予想を超えて姉妹のような関係が築けたようで、その後のアンリがときどき垣間見せるメイに対する信頼感などはうれしい誤算でした。

「アンリはのだめ」

 アンリの初登場シーン。聖域の中でアンリと出会ったメイ(のちのカーライル女男爵)は彼女と友好的に会話していますが、それを演じるGMはアンリに奇妙な印象を抱いていました。

 二人の会話を読むとわかるかもしれませんが、GMにとってこのシーンのアンリとの会話はとても困難なものだったのです。こちらの質問に対して、なかなか欲しい答えを返してくれず、その代わりにアンリは自分が言いたいことだけを口にしてきます。

 これは聖域の中で暮らしていたアンリは無知であるという演出の意味もあったのでしょうが、それに加えてプレイヤーがアンリを演じる上で意識していたのが、のだめカンタービレののだめだったのです。

 アンリは「ぎゃぼー」などとは言わないので変態的なところはありませんが、なるほどイノセントを感じさせるという意味では納得です。

「クッキーから始まった連携」

 このセッションでは各プレイヤー毎に目を見張る素晴らしいプレイを披露してくれましたが、それらの中でも特に高く評価したいのが、アンリが取り出したクッキーから始まった一連の流れです。

 まず、クッキーというアイテムを取り出したことでアンリの女の子らしさが演出され、その次にクラウスが手紙というつなぎを提供し、カーライル女男爵がその手紙の中で再びクッキーのことを持ち出し、最後にアンリがクッキーの作り方を教えることで自分の本心を垣間見せます。

 この連携がすべてアドリブでつくられたという事実は奇跡に近いです。今後、何度このシナリオをプレイしても同じ流れが再現されることは二度とないことでしょう。

【10.使命】より

「交渉判定の採用」

 このセッションの参加者はキャラクタープレイを重視するため、何か解決しなくてはならない物事があったときにアビリティプレイを軽視して言葉で説き伏せがちです。あまり好きな表現ではありませんが、いわゆる口プロレスです。

 言葉で他者が納得できるように説明をすることはとても大切なことですが、それ一辺倒になってしまうとTRPGのゲームの部分が抜け落ち、PC間における役割分担の円滑な運用を妨げかねません。

 このような問題を緩和するため、LOSTではキャラクタープレイなどに対してはボーナスを与えた上でPCのアビリティを用いた判定を行う方式を採用しています。このセッションの後半ではそのことを忘れがちで交渉判定を行わずに済ませてしまったシーンもありますが(汗)。

【11.出発】より

「サディアスの移動」

 サディアスはオルコット大公とベネット伯の密会の後に王都を発ちました。密会では夕食をとる描写がありましたのでこのときの時刻は十七時過ぎ、十八時頃と考えられます。一応、中世の中期から後期を時代設定のベースにしているので現代に比べると夕食の時刻は早めです。密会後のラッツとの戦闘が終われば、サディアスが王都に居続ける理由はないので穏健派の会合が開始される二十一時前にはすでに王都を発っていることになります。

 今回は公にできない任務であり、兵士はすでに現地で待機しているため、騎兵を率いて移動するようなことはありません。オルコット大公もサディアス自身も上流階級の生まれですので、多頭立ての箱馬車での移動となります。雨が降っていてもいくらかは快適に移動できていたわけです。

 そしてサディアスの通ったルートは聖域までの最短ルートとなる山道です。ウィルたちに先行すること二時間以上。この段階では崖崩れは発生していません。予定ではサディアスの通った後に崖崩れが起こり、PCたちは山道ルートを進めずサディアスに遅れをとるという流れでした。

 こうやって情報を整理してみれば特におかしいところは見つからないはずですが、なぜかプレイヤーたちの間ではサディアスが徹夜で馬を飛ばして指揮という話になってしまいました(汗)。

 しかし、このことがきっかけでプレイヤーたちが何かにつけてサディアスをネタにして、ある意味愛されたキャラクターになったことは幸いでしたが。たぶん、守護者の試練の遺跡の中でサディアスが待ち構えていたとしても、彼だったら許されそうな気がします(笑)。

「クローネ族はエルフ族どころかゴブリン族」

 GMがプレイヤーに対してクローネ族はエルフ族どころかゴブリン族と説明したのは、人間との間に子供はできないという意味です。エルフ族にたとえてしまうと人間と異種交配可能と勘違いされてしまうかと思ったので、ゴブリン族をたとえとしています。

 アンリのプレイヤーは、ヒロインポジションのつもりでいたのにゴブリンにたとえられてしまい、がっかりしたそうです(笑)。本人曰く、他のプレイヤーのアンリを見る目が変わったとのこと。

「ゼオルの一般技能」

 あらためてゼオルのキャラクターシートを見ると、その一般技能の数の多さに驚かされます。馬術に始まり、商人、鍛冶、調理、水夫、狩人。馬術以外はすべて2レベルで、これは職人としてギルドに加盟しない程度の技量を意識しています。

 解放奴隷の子であるゼオルを正式な弟子として迎える職人はいなかったでしょうし、仮にギルドに加盟してその分野の専門知識を得てしまった場合、その土地からの移動に制約がついてしまい、ゲームしづらくなってしまいます。

 これら技能はゼオルの個性を出す役目とともに、それ以上にクローネの民に取り入るために使って欲しいというGMの思惑がありました。GMが用意した登場人物や世界、アイテム、気候、時間……セッションに登場するあらゆるものはGMが演出上必要だと考えて配置したものなのです。

「かつてウィルの暮らしていた王国」

 ウィルが自分の暮らしていた王国が属国となったというような感じで話していますが、正確に言えばこれは誤りです。属国どころか国としては滅亡し、レイフィールド王国の一地方として吸収されています。

 かつてウィルの暮らしていた王国の上の立場の者たちは自尊心云々の前に、まず自分たちの命を含めた利権を守るためにレイフィールド王国と戦ったのです。その戦いの後にウィルの父親がレイフィールド王国の貴族として迎え入れられたということは、彼がよほどの人物だったということでしょう。

 ウィルの説明を聞く限り、よもやウィルの父親が国を売ったなどということは……。そんなことを考え始めたら、シナリオ一本できちゃいますよ?

「パーティー内での対立要素」

 とにかく聖域侵攻は止めるべきと考えるウィル、それに対して聖域侵攻は自国防衛のための必要悪の側面もあると考えるクラウス。そして、その必要悪の実行者であるゼオル。これは、右向け右のパーティーよりも、対立構造のあるパーティーの方が話しに厚みがでて面白いだろうと考えてGM側からキャラクター設定として課したものです。

 クラウスはリベラルな立場で自分の身の振り方を考えつつ、物語を楽しめるようになっています。つまり、彼の身の振り方で物語の方向性が大きく決まるというわけです。序盤でクラウスがウィルとの考えの違いをアピールしていたので、この段階でわたしはウィル&アンリ対ゼオル&クラウスの構図になるのかと思っていました。




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