LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 余談:第4章

【27.再開】より

「カーライル女男爵本人が来た理由」

 いくら、密偵ラッツが行方不明になっているからといって、別の使者を立てられないわけはありません。よっぽどのことがなければカーライル女男爵自ら聖域に足を運ぶのは不自然です。

 余談ではすでに触れていますが、カーライル女男爵はゼオルに対して疑念を抱いています。そのため、自分の目で状況を見極め、必要とあらば采配を振ろうしていたわけです。王都での経過報告をしているなかで、ゼオルの反応に注視しているカーライル女男爵。その心中は穏やかなものではなかったことでしょう。このセッションでのゼオルはステルス潜伏を貫いていたので難を免れましたが、ゼオルが能動的であったのであれば、カーライル女男爵による誘導尋問が予定されていました。

「アルトが辛そうにうなだれて」

 死ぬ決心を固めたアンリを前にして耐えるアルト。彼の目にはアンリの姿にかつて愛した人の姿が重なって見えたことでしょう。かつて愛した人のためにもアンリには幸せな人生を全うして欲しかったのに。いっそ、一生守護者を決めずに済めば良かったのに……。

 そんな訳で、このときのアルトの動作は決して「なんだってーッ! 俺ほどの実力者が守護者に選ばれないだとーッ!」という反応ではありません。このシーンでプレイヤーたちがどれだけアルトを小物として見ていたかが透けて見えました(笑)。だから三十路相手にタメ口だったのか……。

「クッキーの作り方」

 商家に嫁いだカーライル女男爵がクッキーの作り方を知らないとは考えにくいです。むしろ、きっとアンリが作るのより美味しいクッキーをつくれるはずです。カーライル女男爵がアンリに宛てた手紙にクッキーの作り方を教えてくださいと書いたのは、書いたのが本人であることを証明するためと、アンリと友好的に接しようとする人間性によるものでしょう。

 それに対してアンリがクッキーの作り方を教えると言ったのは、単にカーライル女男爵からの手紙に書いてあったお願いに応えるためだけでなく、わずかな時間だとしても女の子らしい当たり前の時間をメイと一緒に過ごしたいという思いがあったからではないでしょうか。

 カーライル女男爵も、こんな状況下ですぐにでもそれを行おうとするアンリの様子から彼女の運命と決意をそれとなく感じ取ってアンリの思いに応えようとしているわけです。そんな二人の心の内を想像すると、じんわり感動します。そう考えると実に味わい深いクッキーだったと思います。

【28.試練】より

「セッション二日目」

 どうせだったらじっくりプレイしようという話になって、一日目のセッションは早めに切り上げており、ここのシーンから二日目に持ち越しています。そのため、このシーンはGMによる一日目のあらすじ説明から始まっています。

 あらかじめ立てたタイムテーブルでは、ルール説明やキャラクターメイクの時間を含めてプレイ時間九時間で終える予定でしたが、アドリブシーンなどを追加しつつ、結局トータルでかかった時間は十四時間でした。

「プレイヤー間での作戦会議」

 パーティー内での意思疎通が図れなかったために序盤で悪手を重ねてしまうウィルたち。先の二回の戦闘では敵の勝利条件がウィルたちを倒すことではなかったため問題はおこりませんでしたが、今度の戦闘ではデーモンたちが本気でウィルたちを倒しにかかってきています。組織力を発揮しないと容易には勝てません。

 セッション開始前や各戦闘開始時にGMから「プレイヤー同士で作戦会議を行って良いですから、むしろ推奨です」と伝えていたにも関わらず、プレイヤーたちはプレイヤーとしての作戦会議を行いませんでした。おそらく、PC同士の意思疎通以外のところでPCの行動方針を決めることを良しとしなかったのだと思います。それは物語に不自然さを紛れ込ませないという意味では良いと思いますが、LOSTの戦闘はシミュレーション色が強いですから皆で作戦を練ってマップを攻略するというベクトルで楽しんでもらいたいと思います。

「神聖文字が書かれているから白魔法を使う」

 身体に神聖文字が書かれているから白魔法を使うだろうというのは英単語の書かれたシャツを着ている人は英会話できるだろうというくらい乱暴な話です。ファイター、シーフ、レンジャーなどの身体系技能はその身のこなしから力量を推測したのだと想像できますが、ソーサラーやプリーストなどの魔法系技能に関してはそうもいかないので、一度魔法を使った後に初めて静観によって技能レベルを推測できるようにルールを改定したほうが良いかもしれません。

【29.悪夢】より

「ずるい」

 実際のセッションでは「そりゃないぜとっつぁん」といった感じの言い方でしたが、これまで長年GMをしてきたなかでプレイヤーからずるいと言われた記憶はなく、このときは少し驚きました。GMにとっては、プレイヤーに対してずるしても得なことなど何一つありません。GMがずるをするケースがあるとすれば、あらかじめ自分で決めていたことをPCのためにゆがめるといったプレイヤーにとって好都合なことくらいです。

 このシーンでは「ずるい」と受け取るより「手ごわい」と受け取った方が、モチベーション的にもプレイ的にもプラスでしょう。そうすれば「まさか、魔法を複数対象に唱えられられるなんてッ! 皆、気をつけてください! この敵は一筋縄ではいかないようですよ!」などの気の利いた台詞が言えたのではないでしょうか。

「“サイレンス”は抵抗されても……」

 抵抗に成功されてもその空間では魔法を唱えられないようにするのはダンジョンズ&ドラゴンズのサイレンス系魔法です。

「習得していないはずの“ホーリー・ウェポン”」

 なまじっかソード・ワールドRPGに慣れていたばかりに、戦闘行動カードとして所持していない魔法まで使ってしまうアンリ。この後も覚えていないはずの“サニティ”を唱えるシーンがあります。

 LOSTでは、「聖域の遺跡に入って遺跡内に眠っている呪文書を含む魔法の物品を手に入れる」というのがメインの楽しみ方になりまので、呪文は自動習得ではなく、個別習得となります。

【30.激闘】より

「ダイスの目が悪かったならともかく」

 LOSTの戦闘はパワーよりタクティクスに比重がおかれたゲームです。二体のデーモンに接敵されて、さらに破壊力の強いファット・デーモンに側面をとられた時点でゼオルという駒はすでに詰んでいました。その死から逃れるためには無理やりパワーゲームに持ち込むか、運を味方にするしかありません。

 とは言っても、作戦会議をせずに個人の考えで都度行動している状況で戦術勝負しろというのは酷な話ですが……。ですので、ぜひ皆で作戦を練りながら戦ってください。それ自体、きっと楽しいですよ。

【32.懺悔】より

「ベネット伯の間者であったゼオル」

 聖域の守護者のセッション中、ゼオルの告白はトップランクで熱かったシーンであり、その内容によってもともと予定していたシーンがカットされてしまうほどでした。

 まっすぐに突き進むウィルと苦悩するゼオル。互いに騎士を目指して衝突する二人を見守るクラウス。彼らの関係はまさにGMが思い描いていた理想の形になってくれました。

 それは良いのですが、ゼオルはここまですんなりネタばらしをして改心するのであれば、物語の展開上もっと前のシーンでベネット伯の間者としての行動を示していても良かったのではないかと思います。つまり、聖域に入った後に一人伝書鳩を飛ばすとか、森の中でベネット伯の使いと密談するとか、サディアスとの戦闘中に目で合図するとか、クローネの民との退避の途中で木の枝を折るとか、ウィルたちが寝静まったあとに毒薬を見つめて苦悩するとか……。そのようなまえふり行動が殆ど行われていなかったので、せっかく良いタイミングで告白したのにも関わらず唐突な印象を受けてしまいます。ゼオルが告白し始めたときにウィルの漏らした「何を言い出すの?」というプレイヤー発言が「ついに来たか!」となるくらいだと拍手ものだと思います。

 逆にウィルたちを出し抜いてアンリを連れ去ろうとするのであれば、今回のような潜伏が活きて来ると思います。ゼオルがあまりに間者らしさを臭わせないので、わたしはてっきりそうするものかと思っていました。とは言っても、わたしがゼオルだったらこちらの場合でも潜伏するのではなく、むしろクローネの民の好感度を積極的に高めるように行動したでしょうが。そしてクラウスあたりに「あの石橋を叩いて渡るがモットーのゼオルが、ちょっと不自然じゃないですか?」と思わせれば狙い通りです。ただ、このルートを進んだときのゼオルの末路は碌なものにならないことが予想されますが(笑)。

「秘密兵器、ブラッディ・アップル」

 ゼオルの所有していた毒薬は、その名もブラッディ・アップル。効果はソード・ワールドRPGの精霊魔法“スリープ”と同じようなもので、白雪姫の毒リンゴといえばわかりやすいでしょうか。毒性値20の猛毒です。

 この毒を有効に使う作戦を立てれば、深淵の力を解放しなくても強硬派を止めることができるはずでした。また、別の使い方として、暴走したアンリをその解除方法を見つけるまで眠りにつかせるといった眠り姫エンディングも想定していたのですが、最後まで利用されることはありませんでした。

「ウィルの説得」

 見事ですね。さすが熱血漢のウィルです。このシーンには彼の仲間に対する想いと寛容さ、覚悟の強さが表れています。

 ところで、このときのウィルの台詞のなかで実に心くすぐられる言葉がいくつかありました。それは「友がこのまま身も心も奴隷になってしまうことを俺は見過ごせないッ!」と「今後のお前の人生、ベネット伯の奴隷として生きるのか?」です。どちらも奴隷という言葉を使って意図的にゼオルの自尊心を刺激しているあたり、ウィル自身も自尊心を傷つけられることを酷く恐れていることがうかがい知れます。

 そこで思い出されるのが、王都を出発したばかりのところで交わされたウィルとクラウスの会話です。ウィルは「つまらない自尊心で民の命を危険にさらすようなことがあるのであれば、そんなものはいらない」と言っています。一見、自尊心をつまらないものと切捨て軽視しているようにも聞こえますが、これは自尊心は大切だが民の命を守るためならそれすらも捨てる強い覚悟があるのだとも読みとれます。そして、突き詰めれば自分を捨ててでも守るべき人を守り続けること自体がウィルの自尊心の根幹をなすものなのでしょう。

「心の試練」

 ゼオルの告白が行われたことで、急遽予定していたシーンがカットされた心の試練でしたが、当初はブラック・カーライルの登場を予定していました。

 守護者の試練を終えたと思って遺跡を出たところに正規兵を従えたカーライル女男爵が待ち構えていて、アンリを拘束して戦争の道具として使おうとするというものです。試練をクリアするためにはウィルたち三人がたとえパトロンであるカーライル女男爵であろうとも悪行に手を染めるのであれば断罪する覚悟を決める必要がありました。

 これは、後にアンリが暴走し始めたときの効果を狙ってのことでしたが、ブラック・カーライルを登場させなくてもそれと同じことが果たされました。濁った目をして満面の笑みを浮かべる妖艶なカーライル女男爵は個人的にツボだったんですが(笑)。

 ついででなんですが、セッション中、カーライル女男爵の髪の色が栗色と黒で統一されていませんでした。シナリオノート上では栗色の設定でしたが、セッション中の描写では黒髪の方が多く使われていました。リプレイでは黒髪に統一しています。キャラクターカードの絵を見る限り黒髪ですし。

【34.休息】より

「アルトの過去と願い」

 なんと、アルトはかつての御子の守護者だった! 驚きの事実……って誰も驚いていませんが。

 アルトは重要な情報は自分の口からは言えないと言ってはいますが、直接は言ってないものの、間接的に全部話しているようなものです(笑)。これで深淵の力を使ったら現世にいられなくなることが明らかになりました。普通に考えれば死ぬという意味でしょうね……。これでこれまでのアンリを含むクローネの民の発言や行動の意味が明らかになったわけです。

 GMはこのあと、ウィルたちがアンリと対話するシーンを欲しがるかと思いましたが、特にそういったことはありませんでした。この段階にいたっても、ウィルたちとアンリの間につめきれない距離があることがわかります。




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