LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第8話(02)

 アゼルと別れてバリス教団の行方を追うことにしたイーサとエルドは、まず貧民街に手がかりとなる情報が残されていないかどうかを調査しはじめました。

イーサ:
 さて、情報収集するとは言ったものの、いったいなにをどうすればいいのかさっぱり見当がつかないな……。いまわかっているのは、バリス教団がアジトを引き払ったタイミングで多くの貧民が姿を消したってことくらいか……。

イーサ&エルド:
 うーん……。
(2人揃って黙ったまま考え込む)

GM:
 あれ? 情報収集の手段について、まったく思いつくことがありませんか? もしかすると、貧民街のイメージがうまく伝わっていないのかもしれませんが、ここにも酒場や雑貨屋くらいはありますからね。

イーサ:
 ふむ。それなら、まずは酒場に行ってみるか……。

エルド:
 いまは正午過ぎですけど、昼間でも酒場は開いているんですかね?

GM:
 ええ。当然、夜間専門のお店もあるでしょうが、どちらかといえば昼から開店しているお店のほうが多いようですよ。

イーサ:
 よし、適当な酒場に入ってみるとしよう。で、カウンターに座って酒を注文する。
「マスター、エールをひとつくれ」

酒場の主人(GM):
 では、貧民街で寂れた酒場を経営する愛想のない主人が、イーサの注文に応えます。
「あいよ」

エルド:
 僕も付き合いで、エールを1杯頼んでおきましょう。

GM:
 ならば、表面に埃の浮かんだ生ぬるいエールが2つ出てきました。

エルド:
 う、うわぁ……。飲むふりだけしておきます(苦笑)。

イーサ:
 酒を飲みながら、世間話っぽい感じで、「ここのところ、だいぶ人が少なくなっているみたいだな」と主人に話しかけてみる。

酒場の主人(GM):
「ああ……。一昨日の朝くらいから、急に人を見かけなくなったな……」

エルド:
「一昨日の朝ですか……。その前の夜はどうだったんですか?」

酒場の主人(GM):
「さあな……。そのときは特に気にしちゃいなかった。しかし、こんだけ人が減ると商売あがったりだ」そう言って、主人は店内を見渡すのですが、あなたたち以外に客の姿は見当たりません。

イーサ:
「まさに閑古鳥が鳴いてるってやつだな……。マスター、なにかつまめるものを2人分頼む」

エルド:
 お、ご馳走してくれるんですか? 太っ腹ですね。僕の所持金はイーサさんの2倍以上あるんですけど(笑)。

イーサ:
 まあ、流れってやつだ(笑)。
「ここ最近、強制的に貧民街からの立ち退きを迫る動きがあったんだろ? アスラン商会がそのための人手を募っていたのは知ってるんだが、人が少なくなったのはそのせいか?」

酒場の主人(GM):
「まあ、そういったことも影響してるのかもな……。いよいよ、ここも住みにくくなってきたし、いいかげんこの店も畳んだほうがいいのかねぇ……」そのようにぼやきつつ、酒場の主人は肩をすくめてみせます。

エルド:
「貧民街から人が減ったのには、それ以外にもバリス教団が関係しているんじゃありませんか?」

酒場の主人(GM):
 エルドがバリス教団の名前を口にすると、酒場の主人は慌てた様子で人差し指を口元にあてて、押し殺した声でこう言いました。
「ちょ、ちょっとお客さんッ。ここでそういう話は止してくれよッ」

エルド:
 では、僕も声を潜めて話しつづけます。
「すみません。マスターにも立場ってものがありますよね。でも、知っていることをほんのちょっと教えてくれるだけでいいんです。たとえば、バリス教団でなにか動きがあったとかいう話を耳にしたことはありませんか?」

酒場の主人(GM):
 主人は一度周囲に目を走らせると、少し困ったような顔をしてから、小さな声で話し始めました。
「……バリス教団といえば、つい先日に総督が亡くなっただろ。噂じゃあ、ありゃ、連中の仕業らしいよ。これまでの弾圧に対する意趣返しって話だ」

エルド:
「なるほど……。ほかになにか変わった話はありませんでしたか?」

酒場の主人(GM):
「変わった話ねぇ……」
(少し考えてから)
「あっ、そういやもうひとつ、変な噂話を耳にしたな……」そこまで言ってから、主人はわざとらしく指でカウンターを叩きます。

エルド:
 では、マスターに5銀貨握らせます。

酒場の主人(GM):
 ならば、主人はその手をポケットの中に運びつつ、「実は、総督が亡くなった件についちゃあ、死神の呪いのせいだって噂もあるんだ」と口にしました。

イーサ:
「死神の呪い……?」

酒場の主人(GM):
「数日前に港に流れ着いた幽霊船の話は知ってるか?」

エルド:
「ええ。総督府の軍船に拿捕された不審船のことですよね。それが、なにか関係あるんですか?」

酒場の主人(GM):
「なんでも、その幽霊船には死神が乗ってたって話でよ、それを招き入れちまったために、総督は死神の呪いで死んじまったんだそうだ」

イーサ:
「……その死神っていうのはどんな奴なんだ?」

酒場の主人(GM):
「え……? そ、そりゃあ、死神っていったら、黒っぽい布に身を包んで、ゆらゆらと宙に浮いて、大きな鎌を持ってるとか、そんな感じなんじゃねぇか?」

イーサ:
「そんなものが本当に存在するのか……?」

GM:
 ……。

 場末の酒場で聞いたオカルト関係の噂話に対して真面目に返されてしまい、反応に困るGMでした(苦笑)。

エルド:
「……まあ、死神が存在するのか否かはさておき、そのような噂が出回っているということはたしかなんですよね」

酒場の主人(GM):
「ああ。なにせ、総督が亡くなったって話が町中に広がるまでは、幽霊船に関する噂話で持ちきりだったからな。幽霊船のことに関しちゃ、ほかにもいろんな噂が駆け巡ってたぞ」

エルド:
「ほう。それは、どんな噂ですか?」

酒場の主人(GM):
「うーん……。いろいろとありすぎて、細かい話はあんまりよく覚えてないんだが……」
 主人はあきらかに情報を出し渋っている様子です。

イーサ:
「マスター。エールをもう1杯くれ」

酒場の主人(GM):
「はいよ」
 主人は空になったカップにぬるいエールをそそぐと、それをイーサの前に置きます。

イーサ:
「幽霊船に関する噂話について、もう少しよく思い出してもらえないか?」と言って、エールの代金に加えて10銀貨を渡した。

酒場の主人(GM):
 では、受け取った銀貨を懐にしまうと、酒場の主人は次のような話をしました。
「これは街の外からときたま魚を売りにやってくる漁師から聞いた話なんだが、なんでも幽霊船って言われてる船は、バッツ海賊団の2番艦らしい」

エルド:
「へぇ……」

 エルドが、さもいま初めて聞いたような反応を返していますが、このあたりの情報は、第5話の時点でエルドの口から告げられていたものと同じ内容です(苦笑)。

エルド:
「ちなみに、その幽霊船の話をしていた漁師は、どのあたりに住んでいるんですか?」

酒場の主人(GM):
「あいつだったら、街を出て海岸沿いを西に20キロほど行ったところにある小さな漁村で暮らしてるよ」

エルド:
 うーん。ってことは、その漁村はオズディル城のさらに先にあるわけですよね。漁師に詳しい話を聞きに行くためには、街の外に出なくてはならないというわけですか……。

GM:
 まあ、そうなりますね。

イーサ:
「なあ、さっき名前が出てきたバッツ海賊団ってのは、いったいどういった連中なんだ?」

酒場の主人(GM):
「……バッツ海賊団か……。悪いが、さっきもらったくらいの額じゃ、これ以上はちょっとなぁ……」

エルド:
 ならば、追加で10銀貨出します。

酒場の主人(GM):
 エルドの出した金額を見ると、主人は冗談じゃないとばかりに大きく首を振りました。
「おいおい、勘弁してくれよ。噂話を教える程度ならそれでもよかったが、オレも好き好んで海賊を敵に回したいとは思わないんでね」

エルド:
 ならば、マスターに対して指を2本立てて見せました。

酒場の主人(GM):
 再度主人は首を横に振ります。

エルド:
 じゃあ、5本ではどうでしょう?

酒場の主人(GM):
 粘るエルドに対して、主人は自分の指を1本立てました。

エルド:
 うーん、せめて7本で。

酒場の主人(GM):
 それ以上エルドが渋るのであれば、主人はこれ見よがしに、普段ろくに洗うこともないであろう食器類を洗い始めます。

エルド:
 くっそー(笑)。わかりました。マスターの望みどおり100銀貨払いましょう! ここで渋ってたらせっかくの糸口を失ってしまうかもしれませんからね。

GM:
 いや、別に無理してここで情報を得なくてもいいんですけどね……(苦笑)。

エルド:
 え~(笑)。

 特別な情報屋でもない貧民街の酒場の主人から得られる情報は、ほかの場所でも得られるものでした。むしろ、ほかの場所で聞いたほうが、詳しい情報を得られる予定だったり……(苦笑)。

酒場の主人(GM):
 では、エルドから100銀貨を受け取った主人は、ホクホク顔で流ちょうに話し始めます。
「バッツ海賊団といったら、10年ほど前に北方の国から流れてきた白い肌の連中さ。オレが直接見たわけじゃねぇが、中には金色の髪をした奴もいるって話だ。そんで、団長のバッツって奴は、ほかの海賊どもから“ひとつ目のオーガ”って呼ばれて恐れられてるんだとよ。その名のとおり大柄な隻眼の男で、めっぽう剣の腕が立つらしい」

 “騎士狩り”のアブドラに続き、またもやふたつ名を持つキャラクターが登場してきました。レベルが上がってくると、そういったNPCと遭遇する機会も増えてきます。もともとアゼルと決闘させるつもりで登場させたアブドラは、バランス調整の意味合いもあり戦闘レベル3に過ぎませんでしたが、ふたつ名を持っているということは、それだけでそれなりの実力者であることがうかがい知れます。ちなみに、カダの“鼻曲り”というのはただの蔑称なので、この例からは除外されます(笑)。

エルド:
「北の国から来た海賊ですか……。で、それが100銀貨の情報なんですか?」

酒場の主人(GM):
「早合点すんなよ。話はまだ終わりじゃない。……そのバッツ海賊団ってのはこの付近の海域を縄張りにしてるわけなんだが、これまでどこをアジトにしてるの一切知られてなかったんだ。それが、最近になって徐々に信頼性の高い情報が流れだしたのさ」

エルド:
「そのアジトの場所とは、いったいどこなんです?」

酒場の主人(GM):
「……それがな、どうやらバッツ海賊団のアジトは、ここから南西の方角にあるカルマシャ半島の西海岸あたりにあるらしい。だが、沖から見たって、アジトの場所はわからねぇぞ。あの辺りの地形は複雑に入り組んでるからな。いわゆる隠れ港ってやつだ」

ビューク・リマナ地方西部地図01

エルド:
「なるほど……」

酒場の主人(GM):
「あとな、バッツ海賊団は、昔からこのあたりの海域を縄張りにしてるアッバス海賊団と対立関係にあるんだが、アジトの場所が特定されつつあることで、アッバス海賊団の連中が長年の対立に決着をつけるべく動き出してるんだとさ……。まあ、オレの知ってることはそれくらいだな」

エルド:
「ふむ……。バッツ海賊団にアッバス海賊団ですか……」
 思ってた以上にいい話が聞けましたね。

イーサ:
 そうだな。さて、ここでの情報収集はもう十分そうだ。酒場を出てほかの場所に向かうとしよう。

 こうして、イーサとエルドは貧民街の酒場をあとにしました。


エルド:
「幽霊船関係については、なかなか面白い話が聞けましたね」

イーサ:
「ああ。だが、俺たちが知りたいのは、バリス教団の行方に関する情報だ。いまの手持ちの情報だけじゃ、まだこの先どうしていいかわからないな……」

エルド:
「ふむ……。ならばイーサさん、ここでこれまでに得た情報についてもう一度よく考えてみましょう。まず、バリス教団の信者たちは一昨日の夜にこつ然と姿を消したわけですが、それは何のためだと思いますか?」

イーサ:
「それはもちろん、徒党を組んでなにか企てようとしているんじゃないか? たとえば国家転覆とか……」

エルド:
「それについては僕も同意見です。では次に、ムバーシェの殺害は誰の手によるものだと思いますか? タルカン様の話によれば、ムバーシェの遺体に外傷はなかったそうですが」

イーサ:
「それは……やはりバリス信者による毒殺なんじゃないか……?」
(少し考えてから)
「……いや、まてよ……。いまさらの疑問なんだが、ムバーシェの遺体に外傷がなかったというだけなら、病死の可能性もあったんじゃないか? なんで毒殺だと断定されたんだろう?」

エルド:
「……言われてみればそうですね……」

イーサ&エルド:
(しばらく互いに悩み続ける)

エルド:
(ふと何かに気が付いて)
「……あ、もしかして……。総督府は、毒死した遺体の状態について、事前に知っていたんじゃないですかね? たとえば、激しく嘔吐していたとか、泡を吹いていたとか、喉元をかきむしっていたとか……」

イーサ:
「ムバーシェ暗殺以前に、毒死した遺体を目にしたことがあったってことか……?」

エルド:
「ええ。そして、それこそが例の幽霊船、つまりバッツ海賊団の2番艦なんじゃないでしょうか? 以前、バリス教団が“死神の吐息”の効果を試すために海賊船を利用したんじゃないかって話をしたことがあったじゃないですか。きっと、あのときの僕たちの推測はあたっていたんですよ」

 第5話のシーン19でエルドがこだわっていた不審船の話が、ここでようやく実を結びました。

エルド:
「おそらく、総督府はあのとき船を拿捕するとともに、毒死していた海賊たちの遺体も収容していたんです。だから、ムバーシェの遺体を発見したときに、それが同じ毒によるものだとすぐにわかった。そこにタルカン様からバリス教団が毒ガスを精製しているらしいという情報のリークがあったことで、総督府としても一連の話を結びつけられたんだと思います」

イーサ:
「ふむ……。それなら、つじつまもあいそうだな。ということは、バリス教団がバッツ海賊団の2番艦を襲撃したってことはほぼ確定か……」

エルド:
「ええ。そして、幽霊船と称されたのが2番艦だということは、そのほかに旗艦もあるってことです。では、旗艦はいまどうなってると思います?」

イーサ:
「いまだにバッツ海賊団が使っているか、もしくは旗艦もバリス教団の手によってどうにかされてしまったか……」

エルド:
「後者だとすると、すでにバッツ海賊団はバリス教団の手によって壊滅させられているかもしれませんね。そして、旗艦はバリス信者たちの移動に利用されていると……」

イーサ:
「なるほど……。以前、ここから片道で5日はかかるはずのグネ・リマナまで行くつもりだと話していたファルザードたちが、なぜあの晩オズディル城にいることができたのかと不思議に思っていたんだが、グネ・リマナからここまで船で移動していたんだとすれば、短時間で移動できていたことにも合点がいく」

エルド:
「この推測が正しければ、バッツ海賊団の旗艦の痕跡を追うことで、バリス教団の行方を突き止めることができるはずです。あとは、この推測を裏付けられるようななにかをみつけられるといいんですが……。うーん……」
(少し悩んだあとで)
「思いきって、バッツ海賊団のアジトに直接乗り込んでみませんか? その途中で、例の漁師から幽霊船を目撃したときの詳しい話を聞けるかもしれませんし」

イーサ:
「そうだな。そうなると、一旦タルカンさんのところに行って、総督府に対して街の外に出られるよう話をとおしてもらわないとな……。だが、今日はすでに街の外に隊商を出したあとだ。タルカンさんのところに行くのは明日の朝にして、もう少しここで情報を集めることにしよう」

エルド:
「わかりました」

 かなり突っ込んだところまで推理してきたイーサとエルド。特に、イーサがファルザードの移動の件までつなげて考えてみたところなどは、良い着眼点だと思います。一見、矛盾しているように思える部分には、なんらかの理由が隠されているものなのです。さて、はたして彼らの推理はどこまであたっているのでしょうか?

 なお、その後も日が暮れるまで第2市壁内で情報収集を続けた2人でしたが、それ以上の情報を得ることはできませんでした。なぜなら、イーサとエルドが貧民街の酒場で予想以上に粘ったため、GMがここで出しておきたかった情報はそこでほとんど出し尽くしてしまったからです(苦笑)。

イーサ:
 畜生、半日潰したっていうのに進展なしかよ……。
「それじゃ、日も暮れてきたし、そろそろ宿をとって寝るとするか」

エルド:
「そうですね。イーサさんはまだ先日の疲れが残っているようですし、今日は早めに休むとしましょう」

イーサ:
「ああ。今後のためにもゆっくり休んでおかないとな」
 それじゃ、宿をとって休む。

エルド:
 イーサさんは精神点の回復もありますから、すぐに寝てしまいますよね?

イーサ:
 ああ、そうだな。

エルド:
 ならば、僕はイーサさんが寝静まったのを確認してから、こっそりと宿の外に出て行きます。

GM:
 了解しました。では、エルドのソロシーンを進めるので、そのあいだイーサはセッションルームの外に出ていてください。

 次回、1シーン飛ばします。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。